SIDE:東郷美森
「東郷さん、明日買い物に行こうよ!」
「勿論いいわ。何か欲しい物があるの?」
「えへへ、ちょっとね」
友奈ちゃんと連れだってお出かけ出来る、流石に初めての時ほど感動はないけど楽しいイベントに違いない
私たちがそれぞれ足に不自由を抱えていた時は、流石に気楽に外出とはいかなかった
それはそれで密な時間ではあったけれど、並んで歩ける喜びはそれに勝るとも劣らない
「おおー、いいわねー。それじゃ勇者部一同で明日は女子力向上ショッピングでも…」
部室で話していた関係もあって、風先輩がすぐに話に反応する
2人で出掛ける特別感が失われてしまうのは残念だけど、これは当然の反応だから…
「―――」
友奈ちゃんがついと風先輩の方に顔を向けると、先輩の笑顔が固まった
いや、夏凛ちゃんも樹ちゃんもどこかひきつった表情をしている
私の方からは調度よく見えないのだけど、変顔でもしているんだろうか?
「…あー、明日は友奈隊員、東郷隊員で威力偵察よろしく!」
用事を思い出したのか、結局お出かけは2人に戻った
もしかして気を使わせてしまったかも知れない、流石は風先輩だ
…そう言えば、明日は彼女に会いに行く日だった
視界の端に映ったリボンを見詰めながら予定を確認する
“勇者・鷲尾須美”としての記憶が戻り、彼女もまた私にとって親友に戻った
お出かけ前に会いに行こう、少しだけ友奈ちゃんについて惚気てしまってもいいかも知れない
『友東は私のジャスティスだよ~』とか言ってくれていたし…
―――この時私は、友奈ちゃんが私の方をどんな目で見つめているか気付かなかった
SIDE:結城友奈
西暦の時代の古い歌が時々発掘されることがあるけど、そこにこんな一節があった
『10を奪えば100、100を奪えば1000、恋情の炎は決して消えない』
自分の中で燃えている底無しの炎を自覚しつつ、私は昼間のことを猛反省していた
普通に口で言えば良かったのに部室の空気を変にしてしまった…明後日には謝らないといけない
みんなが楽しく過ごしている時間が好き、仲良く過ごせるひと時が好き、それを守れるなら何も惜しくない
その気持ちは今も変わらないのに、東郷さんが絡むと私の心は狂い出す、みんなじゃない2人になりたくなる
勇者部の皆は特別だからまだギリギリ大丈夫だけど、他の人はもう駄目だ
東郷さんと誰かが話しているだけで割り込みたくなる、幸い私は空気の読み方だけは上手いので自然に入り込むことができた
私は東郷さんを独占したいんだと思う
彼女の車椅子を押していた頃、彼女が車椅子を押していた頃、あの頃の密さをもう一度取り戻したい
思えば検査入院を終えて看護師さんに車椅子を押されていた時、奪うようにその位置に納まった頃には私は東郷さんが欲しかった
机の引き出しを開けると、中にはピンク色のシュシュが入っている
明日これとお揃いの青いシュシュを買いに行く、そしてこれをプレゼントして―――その場で私は青い方を付ける
そうすれば、東郷さんはあのリボンを外してこれを付けてくれるだろう
…我ながら計算高いやり口に自己嫌悪する、私はこんなに嫌な子だっただろうか
園子ちゃんの事は嫌いじゃない、むしろ好きだ、私と東郷さんを応援してくれている節さえある
けれど、やっぱり勇者部のみんなと比べるとほんの少し遠い人で、東郷さんの特別で居ることに心の炎は猛っている
「東郷さん好きだよ…ずっと一緒だよ…」
あれだけ力強く口にした約束が、1人きりの部屋だと何て弱弱しいんだろう
明日は1日笑顔でいなくちゃいけない、絶対に東郷さんに変に思われたくない
もっと強くなれますように…それこそ勇者の様に、そう祈って机の引き出しを閉めた
最終更新:2015年02月08日 22:38