4・812

『もう友奈への好意を隠さない』
その言葉に嘘は無く、まさに有言実行というに相応しい姿だった。
旧世紀の言葉に『ツンデレ』という単語があるといい、意味を調べてみると、それは夏凜ちゃんのために出来た言葉ではないか、なんて真剣に思ったほどだ。
以前の、と注釈をつけなければならないけどね。もしくは『デレ期』というやつだろうか。

「友奈。次、移動教室だって。一緒にいきましょう」
「あ、うん」

音楽の授業のため、音楽室へと移動。これだって以前の夏凜ちゃんなら、さっさと1人で行ってしまう。
それを私が追いかけて東郷さんと3人で歩いていく、というのがお約束の形だった。なのに今では、

「友奈!手、繋ごっ」

これである。ちなみに許可を求めているていだけど、もう繋いでいる。もちろん恋人繋ぎ。

「えへへ。友奈の手、温かくて柔らかい」

もうキャラ崩壊なんのその、という有様のとろけるような笑顔の夏凜ちゃん。えへへって・・・。
勿論、私と手を繋いだだけでこんなに喜んでくれるなら悪い気はしない。しないんだけど・・・。

「ふふふふ」

夏凜ちゃんと逆隣を歩く東郷さんの威圧するような笑顔が本当に怖い。
ちなみに東郷さんもいつの間にか手を繋いでいるので、通行の邪魔にならないかな、と少し心配している。
いや、この状況で離して、なんて言えないけどね。勇者だって時には逃げるのだ。

「あ、でもごめんなさい。私の方は汚い手よね・・・」

笑顔から一転、シュンと俯いてしまう夏凜ちゃん。
確かに中学生の女の子にしては決して綺麗とは言えない、傷跡やまめが潰れて固くなっている手。でも、そんなのは。

「そんなことないよ!だってこの手は夏凜ちゃんの努力の証だもん。私やみんなを支えてくれる強くて優しいこの手、私は大好きだよ!」

心からそう言って、ニコッと笑いかける。

「友奈・・・」

俯いていた顔を上げ、少し潤んだ瞳で私を見つめる夏凜ちゃんに少し胸が高鳴った。

「友奈のそういう優しいところ、大好き!」

そういって今度は私の腕に抱き付いてきた。
スリスリと愛おしそうに頬ずりまでして私への好意を示す彼女は年相応の女の子みたいで、とても可愛らしくて、こちらとしても微笑ましいやら照れくさいやらで、リアクションに困っている。

「私も友奈ちゃんの細くて綺麗だけど、たくましいこの手が大好きよ」
「う、うん。ありがとう。私も東郷さんのちっちゃくて可愛い手が好きだよ」

あと、張り合うように逆の腕へ抱き付いてくる東郷さんへのリアクションにも困っている。
女の子二人を両腕に侍らせて歩いている私の世間体みたいなものは、なるべく考えたくない事柄だった。

おまけ。友奈の誕生日間近。

「友奈!誕生日は何がほしい?」
あ、私の誕生日、覚えててくれたんだ。それだけでも嬉しい。
「なんでもいいよ。夏凜ちゃんの気持ちだけで、すごく嬉しいもん」
本心からそう言ったら、夏凜ちゃんが困ったみたいな顔をして、
「・・・気持ちなんて、もう全部あげちゃってるのに」
動揺のあまり、持っていたジュースを靴にだばー。
最終更新:2015年02月08日 22:44