「ポッキーゲーム?」
「そう、西暦の時代に流行っていた遊びみたい」
そう言って東郷さんは園子ちゃんから借りたという旧世紀の漫画を開いて見せてくれた
2人の女の子がチョコ菓子を口で咥えて、そのまま左右から齧って…え、ちょっ、何と!?
「む、昔の人は過激だね///」
「まあ遊びだから気安いというのもあるんじゃないかしら」
真っ赤になる私に対して、東郷さんは平気な顔してページを読み進めている
東郷さんは恥ずかしくないんだろうか…あれ、絶対次でキ、キスしちゃってるよね?
女の子同士のキスは遊びの範疇、もしかしたら東郷さんはそう思っているのかも知れない
それは何だかとっても寂しいことだけど、同時にチャンスじゃないかなとも思った
風先輩は樹ちゃんのオーディションの件で付き添い、夏凛ちゃんは剣道部の助っ人
今部室に居るのは私と東郷さんの2人だけだ…そしてポッキーはないけれどお菓子なら、ある
「ねえ東郷さん」
「なあに、友奈ちゃん?」
「漫画もいいけど、私とちょっと遊ばない?」
全身全霊を以て平静を装い、私は東郷さんが作ってくれたぼた餅を口に咥える
東郷さんのぼた餅はやっぱり甘くてふかふかでとっても美味しい、味覚が戻って良かったと食べる度に思う
「ん…」
普段ならそのまま半分くらい一口で齧ってしまうけれど、柔らかいぼた餅が崩れないように気を付けて、
東郷さんの方にゆっくり顔を向ける…神樹様、食べ物で遊んでごめんなさい、でも私は真剣なんです
「…///」
「むふん?」
東郷さんの反応は予想外のものだった…顔が真っ赤だ、さっきまでの平静さは欠片もない
私も釣られて顔が赤くなる、というか冷静になると私は何をしてるんだろう、勢いって恐い!
「ゆ、友奈ちゃん、あの、あのね」
「もふ…」
冗談だよ!と慌てて言おうとするけど、ぼた餅が落ちてしまうのでそれも出来ない
いや手を使って受け止めればいい、そんな当たり前のことにもすぐには気付けない
「…遊びじゃ無くなるけど、いい?」
東郷さんがそう言った瞬間、目の前が白く爆発した様な気がした―――
※
「荷物を部室に忘れるとは…犬吠埼風、一生の不覚」
樹をあまり待たせる訳にもいかないので急いで部室に戻る
遅くなってしまったのもあって友奈と東郷は先に帰ったようだけど、珍しく忘れ物をしていた
1つは東郷がぼた餅を入れている箱、結構な数が入っていたようだけど綺麗に空っぽになっている
2人だけで食べきったのだとしたら、なかなかの女子力だと思う
後は漫画本…西暦時代の復刻ものようだから結構貴重なんじゃなかろうか
ペラペラと何の気なしに数ページ捲ると女の子同士が思いっきりキスしていた
親友と一歩先に進みたい主人公が友人からのアドバイスを受けて、ポッキーゲームを扱った漫画を見せる
そして自分たちもそれを「遊び」と言い訳して実行して晴れて恋人に…という少々強引な展開だった
友奈の横でこういう本を読むとは、東郷も結構やるというか、いじらしいというか
「ま、流石に現実ではこんなに上手くいかないわよね」
樹に見せてからかおうかとも思ったけど勝手に持ち出すのも悪い、そのまま部室を出て鍵を閉めた
最終更新:2015年02月08日 22:47