5・54

「いらっしゃい、友奈ちゃん。今日はのんびりしていってね?」
「そうさせてもらいます!」
友奈ちゃんのご両親が法事で家を空けるということで、私の家にお泊りすることになった
「あれ、東郷さん1人?お世話になるからお土産持って来たんだけど」
「今日はウチも私だけなの。後で2人でいただきましょうね」

笑顔で友奈ちゃんの気遣いに応えながら、私の頭の中では激論が始まっている
『友奈ちゃんがお泊まりに来ていて両親は不在!最高のシチュエーションです!襲ってしまいなさい!』
背中に蝙蝠の様な羽、頭には角が生えた勇者の衣装を着た私が、そんなことを囁く
『無理やりなんて駄目だよ!東郷さんは、私にそんなひどいことしないよね?』
光り輝く純白の羽を生やした友奈ちゃんが、私に向かって潤んだ目でそう訴える
…いやいや、ちょっと待って欲しい
「どうして友奈ちゃんなの?」
「え?私は私だよ?」
「あ、そうじゃなくて」
思わず声に出してしまっていた、私は慌ててごまかすと友奈ちゃんを部屋へと案内した

「東郷さんのベッド、ふかふか~」
ベッドにころんと横になって枕に顔を埋める友奈ちゃん、当然脳内議論はヒートアップ
『これは確実に友奈ちゃんの方も誘っています!むしろここで手を出さないのは失礼ですよ!さあ勇気を出して!』
『一番の親友だからこんなに気を許しているんだよ?そんな気持ちを裏切ってしまって、本当に後悔しない?』
…どうやら私にとって、友奈ちゃんは外付けの良心のような役割も果たしているようだ
いや、確かに友奈ちゃん絡みになるとちょっと見境ないかなとは思っていたけど、これは流石に…
「いつも東郷さんはここで寝てるんだねえ」
無邪気な友奈ちゃんの言葉が悪魔にどんどん燃料を注ぐ、あ、衣装が満開状態になってる

『友奈ちゃん、邪魔しないで!大体、友奈ちゃんが可愛すぎるせいもあるわ!責任を取って!』
『ちょ、ちょっと東郷さん、駄目だよ。本体(=私)が見てるよ…』
如何に友奈ちゃんとは言え、勇者状態でもない友奈ちゃん(の姿をした良心)があっという間にデビル私に組伏せられる
「東郷さんどうしたの?お疲れさん?」
悪魔優勢なせいか、思わず友奈ちゃんの足に手を伸ばしかけていた手を抓りあげる
「だ、大丈夫よ、今お茶を入れて来るからね!友奈ちゃんのお土産も食べちゃいましょうか」
私は慌てて台所に向かう、友奈ちゃんにこんな浅ましい考えを知られてしまったらことだった

「疲れているのかしら…」
頭の中で天使と悪魔が戦うなんて、旧世紀の漫画じゃあるまいし。しかも一方は友奈ちゃんだ
…いや、本当は解っている。私の気持ちは分裂なんて最初からしていないということは
私は友奈ちゃんともっと進んだ関係になりたい、悪魔の声こそ私の本音だ
でも、友奈ちゃんがそれで傷ついてしまわないか不安に思っている…いつだって私の一番は友奈ちゃんだから
だから静止の声は友奈ちゃんの姿をしていたのだ、欲望よりも強い彼女への愛情の絆

『大丈夫だよ、2人でゆっくりと進んで行けばいい。いつかはきっと報われるから。私を信じて』
天使の友奈ちゃんが優しくそう語りかけて来る、悪魔の声は、もうしない
これで悪魔が友奈ちゃんの隣で真っ赤になってシーツにくるまっていなければ本当にいい話なんだけれど
どうやら想像の中ですら私は友奈ちゃんに勝てないみたいだ…苦笑して、自分の分のお茶を少し苦めに注いだ


「う~ん、なかなかその気になってくれないなあ」
東郷さんのベッドの上で、私は次はどうしようか考えながら目をつむる
『もういっそ、そのまま押し倒しちゃおうよ!絶対東郷さんは嫌がらないよ!』
背中に蝙蝠の様な羽、頭には角が生えた勇者の衣装を着た私が、そんなことを私に囁く
『無理矢理なんていけません!先ずは二人とも身体を清めてから、同意の上でコトに及ぶべきです!』
光り輝く純白の羽を生やした東郷さんが、私に向かって潤んだ目でそう訴える
「「「だよね」」」
3つの声が重なって、私はスッキリした気持ちで東郷さんが戻って来るのを待った
…お泊まり会は、まだ始まったばかりなんだから
最終更新:2015年02月08日 23:28