5・132

身も心も私のもの、なんていうと大袈裟かもしれないけれど、
人に頼らないと生きていけなくなってしまった夏凜ちゃんを見るとそう感じてしまう時がある。
「あ、来てくれた!?」
でもそれは私の思いあがりなのだと、病室のドアを開けた途端に飛んでくる夏凜ちゃんの声で知る。
奇跡の人のようになっても気配で人気を察することが出来るみたいで、
意中の人がお見舞いに来てくれたのが嬉しいのね。ぶんぶんと尻尾を振る子犬みたい。
「ねえ、風なんでしょ?」
無言で立ち尽くす私に不審を感じたようだ。悔しいなぁ……風先輩のほうが優先順位が高いなんて。
口を開けないまま距離を詰め、不意をついて夏凜ちゃんの手を握った。
「ふ、風!?……じゃない……?」
流石夏凜ちゃん。手のぬくもりだけで分かるほどなんだね。
「残念。今日のお見舞いは東郷美森さんでした」
あーあ、身も心も夏凜ちゃんに刻むのは遅すぎたみたい。
種明かしをしてもなんのドッキリにも繋がらない結末だなんて、妬けちゃうわ。
最終更新:2015年02月08日 23:36