「東郷さん、今日もお邪魔するね~」
「良いけど……課題の手伝いはしないわよ。友奈ちゃん」
「そんなぁ」
「答えまでの過程のアドバイスくらいはしてあげるから。ファイトよ。友奈ちゃん」
「が、頑張ってみる」
わっしーこと、現・東郷さんは
落ち込むゆっきーにそう言って微笑む
鷲尾時代の記憶は戻ったらしく
私やミノさんとのことも、しっかりと覚えてるみたい
でも。よかったのかな~って思うんだよね
私は正直に言えば思い出してくれたことは嬉しい
あの思い出が全部消えちゃってて、それについて楽しかった。面白かった。美味しかった
そう言っても、覚えてない。知らない。解らない。ごめんねと
返されないと言うのは、本当に。嬉しい
でもだよ~? ミノさん
ゆっきーの明るさと、元気良さと、優しさはね?
容姿も口調も違うとはいえ、どこかミノさんに。似てるんだ
「……だからかな」
わっし……東郷さんは時々悲しそうな顔をする
ゆっきーと話している時、ゆっきーを見ている時
たぶん、私のようにミノさんが重なって見えるんだと思う
「だから、良いのかな~って」
もちろん、それが悪いことであるはずはないよ~
でも。だけど、わっしーとしての事を忘れて
東郷さんとして生きてきてしまったこと、あの生真面目わっしーの事だから
凄く、悔やんじゃうんじゃないかな~……
そう考えながら、ぼーっとしていた私
その頭を、ぽんっと誰かが叩いた
「なぁにボーっとしているんだい? お嬢さん」
「さっきー先輩……」
「……何かあった?」
私を快く迎え入れてくれた勇者部の部長、犬吠埼先輩
私の表情から何か察したのか、優しい声で聞いてきた
「…………」
「言いづらいことなら無理には聞かない。でも、悩んだら相談!」
「!」
わしわしと、さっきー先輩は私の頭を触る
優しい声で、温かい手で
私の頭だけでなく、心に触れてくる
「園子は私達勇者部の仲間……まぁ、アタシは暫くしたら卒業しちゃうけど」
「…………」
「でも。アタシだって、園子だって。当然みんなも。ずっと友達で、仲間なんだから。いつでも相談してきなさい」
さっきー先輩は何気なく言ったのかもしれない
でも、それは私の心に深く響いてきた
どこかで聞いた言葉、言い合った言葉
忘れるはずのない、約束の言葉
ずっと友達……そう、確か
「ズッ友……だよ~」
「……園子?」
「っ」
ポロポロと、涙がこぼれ落ちていく
視界の中のさっきー先輩が歪む
我慢していた涙があふれ出す
ゆっきーと、東郷さん
二人を見ていて思い出す、ミノさんとわっしーの姿
懐かしくて、悲しくて、辛くて……でも、幸せだった記憶
「……良く判らないけど」
「さっきー……先輩」
「遠慮せず、泣いちゃいなさい。我慢は体に毒だからね」
さっきー先輩はそう言って優しく抱きしめてくれた
それはとても温かくて、優しくて
我慢なんてとても、出来るようなものなんかではなくて
「ありがと~……ありがと~っ」
「……………」
ぽんぽんっと、さっきー先輩は私の頭を叩く
この未来のために、犠牲になってしまったミノさんへの感謝
この未来で、私のことを包んでくれる世界と、友達と。さっきー先輩への感謝
そして、東郷さんへの心配が解消されたからこその……笑顔
「……幸せだよ~っ」
心からの笑顔は涙に溢れていたけど
でも、さっきー先輩は言った「凄く、良い笑顔だ」って
私もそうだと、当たり前だよと。思った
だって、ミノさんが見守っててくれてるんだから
終わり
最終更新:2015年02月08日 23:42