5・152-155

「東郷さん、今日もお邪魔するね~」

「良いけど……課題の手伝いはしないわよ。友奈ちゃん」

「そんなぁ」

「答えまでの過程のアドバイスくらいはしてあげるから。ファイトよ。友奈ちゃん」

「が、頑張ってみる」

わっしーこと、現・東郷さんは

落ち込むゆっきーにそう言って微笑む

鷲尾時代の記憶は戻ったらしく

私やミノさんとのことも、しっかりと覚えてるみたい

でも。よかったのかな~って思うんだよね

私は正直に言えば思い出してくれたことは嬉しい

あの思い出が全部消えちゃってて、それについて楽しかった。面白かった。美味しかった

そう言っても、覚えてない。知らない。解らない。ごめんねと

返されないと言うのは、本当に。嬉しい

でもだよ~? ミノさん

ゆっきーの明るさと、元気良さと、優しさはね?

容姿も口調も違うとはいえ、どこかミノさんに。似てるんだ

「……だからかな」

わっし……東郷さんは時々悲しそうな顔をする

ゆっきーと話している時、ゆっきーを見ている時

たぶん、私のようにミノさんが重なって見えるんだと思う

「だから、良いのかな~って」

もちろん、それが悪いことであるはずはないよ~

でも。だけど、わっしーとしての事を忘れて

東郷さんとして生きてきてしまったこと、あの生真面目わっしーの事だから

凄く、悔やんじゃうんじゃないかな~……

そう考えながら、ぼーっとしていた私

その頭を、ぽんっと誰かが叩いた

「なぁにボーっとしているんだい? お嬢さん」

「さっきー先輩……」

「……何かあった?」

私を快く迎え入れてくれた勇者部の部長、犬吠埼先輩

私の表情から何か察したのか、優しい声で聞いてきた

「…………」

「言いづらいことなら無理には聞かない。でも、悩んだら相談!」

「!」

わしわしと、さっきー先輩は私の頭を触る

優しい声で、温かい手で

私の頭だけでなく、心に触れてくる

「園子は私達勇者部の仲間……まぁ、アタシは暫くしたら卒業しちゃうけど」

「…………」

「でも。アタシだって、園子だって。当然みんなも。ずっと友達で、仲間なんだから。いつでも相談してきなさい」

さっきー先輩は何気なく言ったのかもしれない

でも、それは私の心に深く響いてきた

どこかで聞いた言葉、言い合った言葉

忘れるはずのない、約束の言葉

ずっと友達……そう、確か

「ズッ友……だよ~」

「……園子?」

「っ」

ポロポロと、涙がこぼれ落ちていく

視界の中のさっきー先輩が歪む

我慢していた涙があふれ出す

ゆっきーと、東郷さん

二人を見ていて思い出す、ミノさんとわっしーの姿

懐かしくて、悲しくて、辛くて……でも、幸せだった記憶

「……良く判らないけど」

「さっきー……先輩」

「遠慮せず、泣いちゃいなさい。我慢は体に毒だからね」

さっきー先輩はそう言って優しく抱きしめてくれた

それはとても温かくて、優しくて

我慢なんてとても、出来るようなものなんかではなくて

「ありがと~……ありがと~っ」

「……………」

ぽんぽんっと、さっきー先輩は私の頭を叩く

この未来のために、犠牲になってしまったミノさんへの感謝

この未来で、私のことを包んでくれる世界と、友達と。さっきー先輩への感謝

そして、東郷さんへの心配が解消されたからこその……笑顔

「……幸せだよ~っ」

心からの笑顔は涙に溢れていたけど

でも、さっきー先輩は言った「凄く、良い笑顔だ」って

私もそうだと、当たり前だよと。思った

だって、ミノさんが見守っててくれてるんだから


終わり
最終更新:2015年02月08日 23:42