ちょっと変則的なゆうみもを一本、薄い本展開注意
「東郷さん、今日は私に付き合ってくれないかな」
友奈ちゃんに誘われて私が断る訳がない。けれどその日は少し思いつめたような目つきが気になった。
勇者部五カ条.一つ、悩んだら相談。
友奈ちゃんは勇者部でもこれを一番実践している人なのに、こういう目をしているのは珍しい。
でも友奈ちゃんが私の嫌がることをする訳が無い、全面的に私はそう信じているのだ。
放課後、人通りの少ない道を友奈ちゃんと一緒に歩いて行く。
やっぱり友奈ちゃんの表情は何処か固くて、話をしても何だか上の空だ。
それにどんどん人気のない方向へ向かっていくのも不安にならなくはない。
幾つか廃屋の並んだ角を曲がって、路地裏に入る。こんな所に何の用があるのだろう。
「ねえ、友奈ちゃ―――」
「ごめんね、東郷さん。本当にごめん」
私が何か言う前に友奈ちゃんがそんな風に謝って来て。
それと同時に、路地の奥から大勢の人が姿を現した。全員が女性、けど鍛えている感じがする。
咄嗟に入口の方に目をやると、そこにも4、5人の女性が塞ぐようにして立っていた。
囲まれた、閉じ込められた―――そう気付いた私は思わず友奈ちゃんの服の袖を握る。
ここまで誘導して来たのは友奈ちゃんなのに、それでも私は彼女を反射的に頼っていた。
「へえ、本当に来たんだ。逃げちゃうかと思ってたのに」
リーダー格らしいポニーテールの女性が妖しい笑みを浮かべて言う。
「本当に連れて来たんだー、やるじゃん」
「最近の中学生は恐いねー」
女性たちはみんな、私たちに好奇の視線を向けていた。頭の奥で警告音が鳴り響く。
「友奈ちゃん、この人達は一体…」
「ごめんね、東郷さん―――みんなが、東郷さんを連れて来いって言うから」
友奈ちゃんの目には、深い苦悩が宿っていた。でも、何か覚悟を決めているようでもあって。
「それじゃあ、初めてくれる?」
「何なら手伝ってあげてもいいのよ?」
「―――大丈夫、やれるよ」
友奈ちゃんが私の肩を掴む。痛いくらいに力が籠っている。私は漸く、恐くなって来た。
「ゆ、友奈ちゃん、何をするの?やめて、恐いよ…」
「ごめん、東郷さん、ホントごめん。でも、こうしないときっと…」
はあ、と友奈ちゃんの少しだけ上気した息が頬にかかる。
それだけで私は、もう何も抵抗できなくなってしまった。
今友奈ちゃんを振り払えば私だけは逃げられるかも知れない。
けど、そんな意味のない過程はすぐ頭の片隅に消えていった。
―――そして、宴が始まった。
―――いいね!最高だよ!こっちに笑顔ちょうだい!」
「もうちょっとひっついて!ほら、恥ずかしがらずに!」
周囲に無数に炊かれるフラッシュ。そして女性たちの興奮した声。
私は友奈ちゃんにお姫様だっこされながら、恥ずかしいやら困惑するやらでまとまらない頭でそれを聞く。
「友奈ちゃん…なに、これ?」
「えっと、その、何手言ったらいいかな…東郷さんと私の仲を、見せつける会?」
「東郷さんが歩けるようになって、劇の反響もあって勇者部も忙しくなってさ…
私たち一緒に過ごせる時間が減ってたでしょ?帰りも別々になっちゃったり
それに東郷さん、歩けるようになってから男の子から女の子からも大人気で
何だか毎日毎日不安で、東郷さんは私の一番なんだよ!って誰かに言いたくて
それで協力してもらったのがこちらのお姉さんたち、です…」
何でも友奈ちゃんは前からこの人たちと知り合いで、色々と相談ごとをしたりしていたそうだ
主に私のことで。もっと具体的に言うと私との関係のことで。親友よりもっと深い気持ちのことで。
「ごめんね、何にも言わずに不安にさせたよね。嫌な想いも、させちゃったかも知れない
でもね、もう口を開いたら最後『東郷さん大好きだよー!』って叫び出しそうなくらい色々限界で…
その、こういう形で本当に悪いけど…私、もっと東郷さんとくっついたりしたいんだ!」
お姫様だっこから流れるようにおでこをコツンとしながら、友奈ちゃんが真剣な顔で言う。
まったく―――悩んだら即相談主義なのに、1人で抱えるとこんな風に暴走してしまうなんて。
一言私に相談してくれれば、こんな大掛かりな舞台は必要なかったのだ…私も、気持ちは同じだから。
「くっついたりしたいって、どれくらい?」
私はわざとそんな風に聞いて友奈ちゃんを困らせる。
「えーと、それはね…!?」
答える前に、その唇を塞いだ。周りの盛り上がりが最高潮に達する。私にとっては無も同然だ。
恥ずかしい思いを不意打ちで一杯したのだ。友奈ちゃんも少しは味わってもらわないと。
これは友奈ちゃんから望んだことなんだからね
友奈ちゃんの柔らかな髪を撫でながら、私はそっと目を閉じた
おまけ
「それは恥ずかしかったねー、わっしー」
「恥ずかしいなんてレベルじゃなかったわよ、そのっち」
私はもう1人の親友…友奈ちゃんとは“先”に行ったので唯一の親友だろうか?
彼女の病室で、あの日のことを愚痴っていた。
ちなみに彼女の体も全快しているのだが、家の中が入院中に腐海化していたので掃除が終わるまで借りているらしい。
「結局、あのお姉さんたちは何者だったのかも解らないし…これからは隠し事なんて赦さないんだから」
「いいねいいねー、わっしー新婚さんみたいだ」
私が何か言う前に、大赦の人が病室に入って来る。何か彼女に用事のようだ。
「それじゃあ、次は勇者部の部室で会いましょうね」
そう告げて退出する私の目に、大赦の人が手にしたものが映る。
何処かで見たことのあるようなカメラ。女性らしいその人の背で、ポニーテールが揺れていた。
最終更新:2015年02月09日 13:28