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―――ベッドの上で、裸の東郷さんが微笑んでいる。
その表情は恥ずかしげではあるけれど拒絶の色は無くて、胸と大切な所を隠した手も簡単に除けられそうで。
私は息を荒くしながら東郷さんの、親友の上に圧し掛かる。自分でも驚くほど頭の中が熱くなっている。
 けれど、友達同士でこういうことをしてもいいんだろうか。
 頭の片隅で小さくそんな考えが点滅する。

『いいのよ、友奈ちゃん』

 エコーがかかったような東郷さんの声。
 でもそれは全然不快じゃ無くて、心地よく心の中に染み込んでくる。

『だって友奈ちゃんは、私のことが好きなんだもの』

 漫画やアニメに出て来る「キレる」という表現。
 あれは怒り以外でも引き起こされるのだと私は知った。
 理性の糸や感情の声を全て振り払って、私は東郷さんの柔らかい肌に―――。


 ―――そこで目が覚めた。
 時計を見ればまだ3時半、東郷さんが起こしてくれるまでまだかなりの時間がある。

「また見ちゃった…」

 ここ数日、私はずっと東郷さんとエッチなことをする…というか、しようとする夢を見ている。
 その唇を奪ってしまいたい。その胸を両手揉みしだきたい。大切な所を独占し尽したい。
 今までだって東郷さんの裸を見る機会は何度かあって、その度に綺麗とは思っていた。
 けれどこんな激しい、食欲にも似たような渇望を覚えるは初めてで。

「東郷さん、ごめん…ごめんなさい…」

 親友を穢してしまったような罪悪感に苛まされながら、私は股間に伸ばしかけていた手を必死で止める。
 東郷さんの夢を見た後、そこを触るとすごくビリビリしてフワフワした気持ちになる。
 けどダメだ、これ以上東郷さんを穢すようなことをするのは、絶対に―――。

『穢すだなんて酷いわ。私は友奈ちゃんが私を想って慰めてくれると、嬉しいのに』

 頭の中の夢の残滓が、都合のいい東郷さんがそんな言葉を囁く。
 ダメ、ダメ、しちゃダメ、こんなことダメ、ダメだよ、東郷さんに悪い、東郷さん、東郷さん…!

 ―――結局その日も東郷さんが“起こして”くれるまで、彼女の名を呼びながら4回もしていた。


「友奈、調子悪そうね…」
「そういう風先輩こそ…」

 勇者部の部室で、私たち2人はぐったりと椅子に寄りかかっていた。
 何しろここ数日寝不足で、しかもその原因(いや、原因はこっちにあるんだけど)と朝から顔を合わせることになる。
 相手への罪悪感、そして夢を見る度に高まる好意、その裏に貼り付く“夢の中のようなことがしたい”という欲望。
 それを気付かれない様に必死に振る舞っていると、放課後にはもうぐったりしてしまうのだった。

「風先輩は、その…やっぱり、同じ夢を?」
「うん…」

 私たちが同じ様な夢を見ていると知ったのは3日前のことだ。
 あまりにも憔悴の激しい私を風先輩が気にかけてくれて、少し2人だけで話をすることにした。
 私の方も風先輩が調子悪そうにしているのには気を配っていたので実際良い機会だった。
 そして、私たちは互いの不調の原因が毎晩の夢にあるという事実を確認し合ったのだ。
 私は東郷さんに、風先輩は樹ちゃんに、エッチなことをしようとする夢。

「そりゃ樹は宇宙一可愛いけどさ…実の妹とあんなこと…」
「わ、私だって、その、あんな欲望丸出しで東郷さんに接したいだなんて…」

 私は内心“宇宙一可愛いのは東郷さんだけど”と思いながら同意する。
 確かに私は東郷さんに他の誰に向けるより強い好意を抱いているし、風先輩は樹ちゃんを溺愛している。
 でも、ここ数日で急に相手への気持ちが欲望まみれになってしまうなんてあるだろうか。
 まさか勇者システムの後遺症とか…等とあらぬ考えが浮かんで、事情はボカして夏凛ちゃんに確認までしてしまう始末。

「少なくとも私はあれから特に変化ないわね。
一方通行とは言え一応大赦に聞いてみるから、詳しい症状を話してみなさいよ」

勿論、丁重にお断りすることしかできなかった。

「でもさ、友奈…あたし、そろそろ限界なんだよね」
「限界って…まさか?」
「うん、今日も着替えてる樹の後ろから抱きつきそうになってさ…冗談にしてごまかしたけど」

 冗談にして、という言葉にドキリとする。
 実は私も朝に、後ろから東郷さんに抱きつこうと…いや、本当は胸を触ってしまおうと考えていたのだ。
 冗談だって言えばきっと東郷さんは赦してくれる。それに東郷さんが嫌がる訳ないし。
 現実の東郷さんと夢の東郷さんをごっちゃにして、そっと東郷さんの背中に忍びよって。

「ゆ、友奈ちゃん、くすぐったいわ」

 ―――首筋に息が当たって、東郷さんがくすくすと笑う。それで正気に戻った。
 本当に危なかった。最悪、自分の家に連れ込んでしまおうとまで考えていた自分に愕然とした。
 慌ててふざけたことにしたけど、あの時の私は完全に本気だった。
 人の嫌がることはしない、相手の気持ちを常に考えて行動する。
 そう決めている私が、自分の欲望を優先しようとしたことに凄く動揺した。

「あたし、どうなっちゃうんだろう…樹を…傷つけたくない…よ…」
「私だって…大好きな…東郷、さ…に…嫌われ…たく、な…」

 疲れが頂点に達したようで、私たちは向かい合ったままとろとろと目を閉じて行く。
 そう言えば昨日も…ううん、ここ数日ずっとこの時間に眠くなるな、と消えそうな意識の中で思った。


 ―――友奈ちゃんと風先輩は、穏やかに寝息を立てている。
 私と樹ちゃんはそっと部室の中に入ると時計を確認する。
 夏凛ちゃんが剣道部の助っ人から帰って来るまで後20分ほど、十分な時間があった。

「お姉ちゃん、すごく可愛い…」

 風先輩のふわふわした髪を、樹ちゃんがうっとりと撫でる。
 私も友奈ちゃんの頭を優しく撫でてみる。うつぶせに寝ちゃって、苦しくないのだろうか。
この程度では目覚めないのを確認する為もあったけど、純粋に彼女に触れたいのもあった。

「それじゃあ樹ちゃん、そろそろ」
「はい、東郷先輩」

 頷きあって私たちは、それぞれの思い人の耳元にそっと唇を寄せた。


最初はちょっとした冗談のつもりだった。
 樹ちゃんが友達からもらったと行って持って来た一冊の本、簡単な催眠術の手引書。
 全然かからないのでもう飽きた、と友人は言っていたとい。
 だから私たちも軽いジョークのつもりで、疲れて眠っていた友奈ちゃんと風先輩に試してみたのだ。
 結果的に、効果は抜群だった…たった数日で、目に見えて2人の私たちへの態度が変わって来たのだ。

「でも、お姉ちゃんあんまり眠れてないみたいで可哀想です」
「そうね、友奈ちゃんが体を壊してしまったら元も子も無いわ…今日でおしまいにしましょう」

 それは、今日中に私たちの想いを達成してしまおうという確認。
 そして私たちは、そっとここ数日繰り返して来た通りに言葉を投げかけ…。

「―――なるほどねー、催眠術か」
「!?」

 風先輩がいきなり言葉を発して、樹ちゃんが飛び上がる。その手が逃げられない様にギュッと握られた。

「東郷さん。私も、時には怒るんだよ?」
「ゆ、友奈ちゃん!?」

 友奈ちゃんの目もぱっちりと開いている。どうして、今日に限って!?

「友奈が、流石に毎日毎日同じ時間に眠くなるのはおかしいって気付いたのよ。
 それで眠りかけた時に、思いっきり頭を机にぶつけて眠気覚まししたワケ」
「風先輩はその音で起きたから、痛い思いしたの私だけなんだよね…」

 そう言って真っ赤になったおでこを見せる友奈ちゃん、うつぶせに寝ていたのはこれを隠す為だったのだ。

「さあて、どうしてくれよう…偉大なる勇者部部長様に害なすとは不届き千万…」

 風先輩は劇で鍛えた低音は、勇者というより矢張り魔王のそれだと思う。
 友奈ちゃんもプクーと膨れて可愛い…いや、とっても怒っている様子だ。

「それで申し開きはあるかね、お2人さん!」
「場合によっては―――すごく一杯くすぐるよ!」

 友奈ちゃんがわきわきと手を動かす。私たちは慌てて平謝りした。

「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん!催眠術なんてかけてごめんなさい!」
「私もごめんなさい!だって友奈ちゃんの本音が聞きたかったから!」

 2人の顔が“ん?”としかめられた。何か変なことを言っただろうか。

「本音…え、本音?エッチな夢を見せる催眠術じゃないの?」
「ええ!?そ、そんな恥ずかしいの、やる訳ないよ!」
「えぇと、心の奥底に隠している気持ちに素直になるという催眠術だったのだけど。
 掛け始めてから私たちへの態度が好意的に変化して来たから喜んでいて…」
「心の奥底に…?」

 ギギィ、となんだかカラクリ人形を思わせる動きで2人が顔を合わせる。
 やがて2人の顔が真っ赤にそまって、パクパクと口を開いて―――静かに頷き合った。

「そ、それじゃあこれで、今日は帰るわ。夏凛によろしく」

 何故かお説教も罰もなく、風先輩が樹ちゃんの手を引いて部室を出て行く。
 友奈ちゃんは無言、本当に怒らせてしまっただろうか、もしも本気で嫌われたら生きていけない…!

「東郷さん」
「は、はい!」
「―――今日は放課後、私の部屋に来れるよね?」

 有無を言わさない口調に私は何度も頷く。
夕日の逆光でよく見えないけど、怒っているはずの友奈ちゃんは笑っている様に見えた。

―――普段怒らない人を怒らせると怖いとよく言われるのは、多分どんな反応が返って来るのか予想出来ないからだと思う。
 黙々と催眠術の手引書のページを捲っている友奈ちゃんの隣で、私は小さく縮こまっていることしか出来ない。
 友奈ちゃんの部屋の中、しかも隣り合ってベッドに座っているというこの状況、普段ならきっと天にも昇る気持ちだろう。
 今の私は別の意味で天に昇りそうな心持ちだ…処刑を待つ囚人めいた意味で。
 友奈ちゃんの想いを知りたい、そんな欲望に負けた私は彼女からの断罪を粛々と待つことしか出来ない。

「―――ふーん、結構面白いんだね、催眠術って。これならついやっちゃっても仕方ないかな」

 友奈ちゃんの口調はいつも通りだ。いつも通り過ぎて恐い。
 言葉の内容だけなら寛容にすら思えるのに、迂闊に同意したらどんな事態になるか解らない。
 私はただ俯いて震えながら、ひどく自分勝手なことを心の中で繰り返していた。

「(嫌わないで…嫌わないで…嫌わないで…嫌わないで、友奈ちゃん…)」

 大袈裟と言われても重いと言われても、友奈ちゃんに拒絶されたら私は生きていけない。
 バーテックスとの戦いで拾った大切な命を、きっと私は迷うことなく擲つだろう。
 どんなにひどい言葉を投げかけられてもいいし、数日なら彼女の視界から消えてもいい。
 友奈ちゃんはそんなことしないと思うけど、それで気が済むなら叩いたり蹴ったりしても構わない。
 ただ友奈ちゃんとさよならするのだけは嫌だった、それを避けられるなら私は何だってする。

「東郷さん、正直に答えてね」
「…ええ」
「どうして東郷さんは、私の気持ちが知りたかったの?」

 友奈ちゃんが少しだけ身を寄せて来る。
 こんな時なのに私は、その温もりに似た気配と心を落ちつかせる匂いに気持ちがざわめく。

「それは、その、本当に興味本位で…樹ちゃんのせいにする気はないけど、2人で悪乗りしたというか」
「私、いつも東郷さんには正直に接してるよ、何が不満だったのかな?」
「不満だなんて!そうじゃない、そうじゃないの!」

 友奈ちゃんに不満なんて何もない、あるとすればそれは私の心の方だ。
 いつも見ていると約束をした、いつまでも一緒に居ると約束してくれた。
 勇者部のみんなは誰1人欠けることなく私にとっての大切な人たちだけど、友奈ちゃんはその中でも一番だ。
 そんな特別な彼女と、もっと特別になりたくて。そんな気持ちが彼女にもあるんじゃないかと期待して。

「ねえ、どうして?」

 いつも私に触れる時よりずっとずっと強い力で、友奈ちゃんが私の手を握る。
 手から伝わる熱が全身に感染する。友奈ちゃんが近過ぎてくらくらする。

「もしかして東郷さんは―――こういうことがしたかったのかな?」

 声が信じられないくらい近くで聞こえて。
 友奈ちゃんの唇が、私の耳をはむりと挟み込んだ。

「!?!?!?!?!?!?///」

 甘噛みする、舐める、口づけする、舌をそっと挿し入れる。
 事象の1つ1つは理解出来るのに、何をされているのかが理解できない。
 口が開いていくのを自覚して、私はてっきり悲鳴を上げるのかなと他人事のように思った。
 予想は外れて、そこから漏れだしたのは明らかに甘いものが混じった吐息だったのだけど。

「…っ、は…ゆ、友奈ちゃ…何し…ひぅっ…!?///」
「東郷さんが悪いんだからね。こんな気持ちが私の中にあるって、気付かせちゃったんだから」

 友奈ちゃんの声に怒気はない。代わりに、普段の明るくて元気な彼女からは想像もできないほど妖艶な響きが混じっていた。
 いつの間にか友奈ちゃんの手は私の肩に回されていて、唇は耳から頬へ、そして首筋へと口づけを繰り返しながら下りていく。
 その全てが焼ける様に熱くって、私の冷静な思考や理性を焦がしていく。

「友奈、ちゃ…やぁ…だ、ダメよ、こんな…んっ!///」
「本当にダメ?こういうことも、しちゃダメかな?」

 肩に回されていた手が滑り、私の胸に当てられる。
 友奈ちゃんが、私の胸に触れている…それを認識した瞬間、それだけで私は軽くだが絶頂を迎えていた。
 友奈ちゃんを想って自分を慰めたことはある、けれどこんな短時間で達したのは初めての経験だ。

「あはっ。東郷さん、ビリビリしてフワッてしてるんだね?可愛いよ、すごく」

 友奈ちゃんは本当に嬉しそうに囁きながら、私の胸を本格的に愛撫し始める。
 そう、愛撫だ。イタズラやふざけて触っているのではない、性的な行為。
 私は勝手に、友奈ちゃんはそう言った方面に興味は薄いだろうと思いこんでいた。
 いや、その予想は多分正しいのだろう…今が、特別なだけで。

「(特別…)」
「こんなことしたくなるの、東郷さんだけだよ…だからいいよね?」
「…私は、特別なの…?」
「そうだよ、東郷さんだからだよ」

 もしかして、あの短時間で友奈ちゃんは催眠術を己のものにしてしまったのだろうか。
 それとも、私の掛けた催眠がまだ彼女に影響を与え続けているのか。
 1つだけ確かなのは―――もう、私がその辺りを考えるのを放棄してしまったということだ。

「服、脱ごうか」

 それは確認か、それとも命令か。私は羞恥心と戦いながらいそいそと上着を脱ぐ。
 いつもより可愛い下着を付けて来て良かった、私も何かを期待していたのかも知れない。
 胸を隠そうとした手を友奈ちゃんが優しく払い、両手で乳房を触り始める。

「(そう言えば、友奈ちゃんはとってもマッサージが上手だったっけ)」

 そんな思考がぽっこりと浮かんだのは、これから自分を待つ運命をぼんやりと理解していたからかも知れない。


「ぅあ…ひ…は、ふぅぅ…!ゆう、なちゃ…は、激し…ひぅぅ!///」

 私は東郷さんの大きくて柔らかくて綺麗で、とってもエッチな胸を触りながらここ数日繰り返していた朝の行為を思い出す。
 何て馬鹿なことをしていたんだろう、これに比べたらあんなのは子供の遊びみたいだ。
 私自身は東郷さんを一方的に触っているだけだ。
胸を揉んで、扱いて、首筋や鎖骨にキスをして。時々、胸の先端の膨らみを刺激して。
 それだけで、何も弄っていないのに私の体は何度も何度もビリビリしてフワフワする。

「東郷さん、解る?私も東郷さんに触りながら感じちゃってるの」
「は、ひぃ…!わかる…解るわ…!///」
「こんなに気持ちいいなら、もっと早くにしてれば良かったかもね?
 ねえ東郷さん、朝のこと覚えてる?本当はあの時、私はこうやって胸に触れようとしてたんだよ?
 もしあのまま止まらなかったら、東郷さんは道の真ん中で今みたいなエッチな顔になってたんだね」

 恥ずかしがっている東郷さんの顔が可愛すぎて、私もやらしいことを一杯口にしてしまう。
 一番大切な人を苛めている様な倒錯した快感、同じくらいもっともっと愛したい気持ちが膨らむ。

「(愛…)」

 ああ、そうか。なんだ、簡単なことだったんだ。

「東郷さん、愛してるよ」

 今までで一番大きく、東郷さんの体がびくびくと跳ねる。
 眼の端から涙がこぼれているけど、それは悲しいからじゃない。東郷さんのことで間違うはずがなかった。
 涙を舐め取りながら、東郷さんの大切な所に指を這わせる。
 流石にそこはまだ抵抗があるようで、きゅっと足を閉じて見せる東郷さん。無駄なのに、ね。

「東郷さん、いいよね。大丈夫だよ、好きだから、愛してるから」
「友奈ちゃん…」

 その響きにうっとりした瞬間、東郷さんの足の力が弱まる。そう、いい子だね。
 下着の上から何度も何度も、夢の中で“こうしたい”と望んだように。
 大切な所に掠るようにして周りを撫でて、こすって、それの繰り返し。
 東郷さんの下着はまるでおもらしをしてしまったみたいにぐっしょりと濡れていた。

「東郷さんが座っている辺りね…」
「はふっ…あ…?///」
「私が朝に、今の東郷さんみたいにぐしょぐしょに濡らしちゃった所だよ…」

 そう告げると、東郷さんの目から完全に抵抗の色が消えた。
 私は彼女の白い肩に軽く噛みつく。そうしたくなったからだ。もう我慢しない。

「ごめんね、優しくできないよ」
「…はい」

 私は、東郷さんの“はい”が好きみたいだ。
 沸騰した頭が命じるままに、東郷さんの大切な所に指を挿し入れる。
 狭い。熱い。可愛い。私のはまだ指1本しか入らないのに、東郷さんは2本も入る。

「東郷さんのエッチ」

 私は笑ってそう告げると、水音をわざわざ大きく立てながら何度も何度もかき回す。
 東郷さんは最初は“やぁ”なんて言っていたのに、その内“もっともっと”とおねだりするようになっていた。

「友奈ちゃん!友奈ちゃん…大好き!愛してる…ずっと、ずっとこうしたかったの…!」
『―――ね?私が嫌がる訳ないでしょう?』

 東郷さんの甘い嬌声に混じって、夢の東郷さんの声が聞こえた気がした。

「私もね、ずっと東郷さんとこういうことがしたかったみたいなんだ」

 アレから何度ビリビリして、フワフワしたか解らない。
 東郷さんによればそれは“イク”というそうだ。流石は東郷さん、物知りでとってもエッチだけはある。
 東郷さんを休ませてあげなきゃと思う程度に頭が落ちついた頃に、私たちの初めては終わった。
 シャワーを浴びなきゃと思ったけれど、東郷さんが足腰立たなくなってしまったのでそのままベッドで休んでいる。
 部屋の中が東郷さんの、それもエッチな匂いで満ちているので、ついつい再開しそうになるのを流石に我慢した。

「ごめん、その、優しく出来なくて。次は、ちゃんと東郷さんのことを考えて…」
「次…」

 ずっと夢の中に居る様な目をしていた東郷さんが、急に悲しげに眼を細めた。
 私は慌てて彼女を気遣う。

「どうしたの?私、変なこと言っちゃったかな?」
「…ねえ、友奈ちゃん。本当にこれって友奈ちゃんの意思なのかしら。本当は私が催眠術で好きなように操って―――」
「ちょっと待った!東郷さんがかけたのは素直になる催眠術でしょ?」
「けれど、私は素人だし…それに欲望混じりで何をしたか解らないわ」

 何と言うか、形だけ見ると私が無理やり東郷さんを押し倒した形なのに、彼女は私を気遣ってくれているみたいだ。
 大丈夫だよ、東郷さん。こういうのは私の役目だから。

「本当はね、今も東郷さんを抱いちゃいたいって思ってるよ」
「い、今は流石に無理よ…///」
「解ってる。でも、東郷さんが信じてくれるまで、何度だってキスするよ…他のこともするけど」

 そう言って、東郷さんの唇にキスをする。
 思えばキスを忘れていた、本当に欲望に身を任せていたんだなあと反省する。
 ぎゅっと抱きついて来る東郷さんの頭を撫でながら、私は催眠術の手引書に向かって心の中で“ありがとう”と告げた。

おまけ

 ―――翌日。
「何よ、今日は東郷も樹も休み?風邪か何か?」
「ええと、まあそんなところ」
「さ、最近寒いから注意しないとね!」

 夏凛ちゃんが“根性が足りないからそうなるのよ”と呟く横で、私と風先輩は目くばせする。

「(…やっちゃいましたか?)」
「(うん、やっちゃった。樹超可愛い。流石はあたしの妹嫁)」

 妹嫁って斬新な単語だなあと思いながら、私は樹ちゃんに返そうと持って来た催眠術の手引書を見詰める。
 ふと思い立った私は、本をしまうと夏凛ちゃんに声をかけた。

「夏凛ちゃん」
「何よ」
「悪いんだけど、私の前でこう、手をパンッてしてくれない。1、2、3って口にして」
「は?まじないか何か?別にいいけど…はい、1、2、3」

パンッ。乾いた音が部室の中に響く。

「友奈?」
「―――大丈夫、ちゃんと東郷さんが好き」
「…いや、いきなり色ボケるとか何なの?」

 呆れたような夏凛ちゃんの言葉を聞きながら、私は今日は優しくしようと心に決めていた。
最終更新:2015年02月09日 16:40