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それは朝のほんの僅かな時間にだけ訪れる特別な時間。
 私は友奈ちゃんの腕枕から体を起こして、時間を確認する。
 そろそろ“一度目に”起こす時間だ、私は友奈ちゃんの肩を優しく揺する。

「ん…」

 友奈ちゃんの目がゆるゆると開いて、けれどまだ完全に目覚め切れずに夢との境を迷っている。
 この瞬間にだけ、他の誰も知らない、知ることのできない友奈ちゃんが姿を現す。

「東郷、さん…東郷さんだよね…?」
「ええ、私は私よ、友奈ちゃん。貴女の東郷美森よ」
「東郷さん…何処にもいかないでね…ずっと一緒にいてね…」

 いつもの溌剌とした様子からは想像できないほど弱々しく私にすがる友奈ちゃん。
 なんて力なく、なんて痛ましく―――なんて可愛いのだろう

「んっ…」

 まるで赤ちゃんがするように、友奈ちゃんは私の乳房を口に咥えて再び目を閉じる。
 性的なそれではなく、心から甘え切った様子に私の母性が溢れだす。
 再び夢の中に還るまで、その柔らかな髪を撫で続ける…それが私の新しい日課。

「大好きよ、どんな友奈ちゃんも」

 隣人で、親友で、恋人で、それに加えてこの瞬間は家族のようでもあって。
 私の心は隅々まで満たされて、爽やかな朝を迎えるのだった
 始まりは、友奈ちゃんが最近よく眠れないと相談して来たことだ。
 そのっちが転校して来たりで色々と環境が変わり、ストレスが溜まっているのかも知れない。
 前に一緒に寝た―――行為も含まれる―――時はぐっすり朝まで眠っていたことを思い出し、私は提案した。
 これからは一緒に寝たらどうだろう、と。

 私たちの事情は双方の両親は了解済みだ、説得はとても容易だった。
 存分に互いを貪りあって、中学生なのにここまでしていいのかしらと思うことまで試して。
 安らかに眠ったその朝に、友奈ちゃんは別の顔を覗かせたのだ。
 とても甘えん坊で、不安に怯えていて、私にとても強く依存している顔。
 本格的に目が覚めると消えてしまう一面に、私はすっかり夢中になっていた。

「う~ん」

 2人で並んで学校に向かう途中、友奈ちゃんが腕組みをしながら首を捻っている。
 もしかして朝から一回してしまったことを気にしているのだろうか。

「大丈夫よ、友奈ちゃん。とっても気持ち良かったから」
「ふぇっ!?いや、東郷さん急にどうしたの?…でも嬉しいよ」

 どうやら外れてしまったようだ、最近思考がそっち寄りになりがちで注意しなければならない。

「何かを悩んでいる様子だったから。最近はよく眠れているでしょう?」
「うん、それは問題ないんだ…実はね、前は時々東郷さんに凄く甘えたい気持ちになる時があったんだけど」
「…光栄だわ。どんどん甘えてくれていいのよ?」
「あ、ありがと。でもね、今はそういう気持ちが全然無いの。
 でも、どんどん東郷さんのことが好きなってる気がして…///」

 それは、そうでしょうね。私はこっそり微笑んだ。
最終更新:2015年02月09日 16:42