―――大昔の人は、喧嘩と一緒にキスを生み出したのだと東郷さんが読んでいた難しい本に書いてあったのを思い出す。
どちらも物事をとても解り易くする手段、喧嘩は絶対にしたくない私がキスを選ぶのはある意味当然のことで。
「んっ…東郷、さん…」
「ちゅっ…くちゅ…ゆう、なちゃ…今日は、激し…んんっ…!///」
最初にキスをしたのは、旅館で早起きした時だった。
東郷さんが私を頼ってくれないことや、私以外の誰かが胸の中にいることに、何故かとてももやもやして。
でも、同じくらい夜明けの海を見つめる東郷さんの横顔が神秘的なほどに綺麗で、可愛くて。
気付けば自然に、どちらともなく唇を重ねていた。
キスは凄い、互いが互いを大事に想っているって一瞬で解りあえる。
「ぷはっ…も、もう、友奈ちゃん…部室では軽くって言ってるのに」
「ごめんね、でも今日の東郷さんが昨日の東郷さんより可愛くなってたから!」
「はあ、友奈ちゃんは女たらしの気があるんじゃないかと不安になるわ」
それ以来、私たちは2人は色んな時にキスをするようになった。
特に私が満開の後遺症から目を覚ましてからは、キスで始まりキスで終わるっていうくらいキスしている。
何とかするって言ったのに私は東郷さんを泣かせてしまった。
五カ条を破って東郷さんは1人で行動して決断した。
もう2度とそんなことがないように、何も隠せないように私たちはキスをする。
「でも、不思議なものね。キスってもっと、何と言うか性的な行為だと思っていたのに」
「せ、性的って東郷さん直球だね。うん、でも確かにそれは想うかも。
そりゃあ東郷さんとはキスより先のこともいつかしてみたいと思ってるけど」
「中学校を卒業してから、できたら結婚出来る年齢になってからよ」
「東郷さんは真面目だなあ。でも、キスだけで今は満足しちゃうよね」
唇を重ねるだけのキス。互いの息を奪い合うようなキス。舌を絡めあうキス。睡液を交換するキス。
私たちにとってその違いは、その時の想いを、互いの気持ちを共有する為の差異でしかない。
キスしている時はふわふわして気持ち良いけど、無理にもっと気持ちよくなろうとは思わない。
その時の気持ちが通じ合えば十分、中毒のように繰り返しながら変な所で自重もある。
「ねえ、東郷さん。まだみんな部室に来ないみたいだね」
「そうね、それじゃあ友奈ちゃん…」
東郷さんが最近妖艶さの加わった笑みを浮かべると…鞄の中からぼた餅を出してくれる。
「先にいただいてしまいましょうか」
「やった!東郷さん話が解るぅ♪」
時間があるから、2人だから、それで無理やりキスするのは私たちらしくない。
また自然にキスをしたい気持ちになるだろう、多分1つ目のぼた餅を食べ終わった辺りで。
そしてぼた餅を口に含みながらこんな風にも思う。
―――あの時、みんなが眠った旅館の一室で。
まだ私には味覚が戻っていなかったはずなのに。
初めてのキスはぼた餅よりも甘く感じたな、と
最終更新:2015年02月09日 16:53