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 「……3月21日」

 朝、目を覚ました私――結城友奈は、カレンダーで日付を確認する。
 今日がまぎれもなくその日――私の誕生日である事を確認すると、自然とこぼれる笑いを我慢できないまま
洋服に着替え、お出かけの支度をした。


 「おはようっ、東郷さん!」
 きちんと身だしなみを整えて外へ出ると、そこにはもう東郷さんが待っていた。
 私に気づいた東郷さんはくるりと振り向くと、にっこりと微笑んで、私の名前を呼ぶ。

 「――おはよう、『友奈』」

 「……えへへへ~」
 「うふふ」
 その呼ばれ方に、思わずにやけてしまう私。ぴょん、と東郷さんの隣に収まると、ぎゅっと手をつないで
歩き出した。
 「お誕生日おめでとう、友奈。今日はどこに遊びに行くの?」
 「ありがとう! ……ん~、東郷さんの行きたいところでいいよ?」
 「ダメよ、今日は友奈の誕生日なんだから、友奈の希望を言ってくれなくっちゃ」
 「えー、どこにしようかなあ……」
 そんな会話を交わしながら、私達は仲良く歩いていく。

 ……私、結城友奈の誕生日は、3月21日。
 そして私の大親友、東郷さんの誕生日は、4月8日だ。
 私達は学年が同じだけれど、実は、ほとんど一歳分、誕生日が離れている。だから新年度になるとすぐ、東郷さんは私よりも
ひとつお姉さんになってしまうのだ。
 そんな東郷さんと私が、一年の内で東郷さんと同い年でいられる期間。

 それがこの、私の誕生日から東郷さんの誕生日までの、18日間なのだ。


 最初にその事に気づいた時は、なんだか東郷さんが遠くに感じてしまって残念だったけれど、その分、この18日間が巡ってくるのが
とても楽しみになった。
 と、いう話を東郷さんにしたところ、いつの間にか、その期間だけは東郷さんが私を『友奈』と名前だけで呼んでくれるようになったのだ。
 妹でも、姉でもなく、同い年のふたり。
 そんな関係が、私はとってもくすぐったくて、すっごく嬉しかった。

 「……もう、友奈はいつも私のことばっかりね。たまには自分のワガママだって、言ってもいいのよ?」
 「えへへ、そうだね、同い年だもんね~。……よしっ! じゃあ今日は、二人で映画館に行こう!」

 私達は、隣同士で並んで歩く。前でも後でもなく、ただ隣で。
 今年からは年齢だけじゃなくって、目線の高さだって同じなのだ。……ほんとはちょっぴり東郷さんの方が高いけれど。
 頼るだけじゃなく、力を貸すだけじゃなく、お互いに助けて、助けられる関係。
 そんな友達関係に、私はずっとずっと憧れてたんだ。

 「……本当に、お誕生日おめでとう、友奈。今日は帰ってきたら、盛大にパーティをしなくちゃね」
 「楽しみだな~。……あ、もちろん私も、東郷さんの誕生日には、どかーんとすっごいパーティをするからねっ!」
 「あらあら、ずいぶん張り切っちゃうのね」

 いつもいつも、一年早くお姉さんになってしまう、東郷さん。
 この、魔法の18日間は、私を何だか背伸びさせてくれるような、不思議な時間だ。


 ――これからもずうっと、お互いの誕生日に、「おめでとう」って言える仲でありますように。
最終更新:2015年02月16日 10:46