「ひっ……くしゅん!」
部室前の廊下で、上下虎柄ビキニ姿の夏凜が、両手で自分の身を抱いて大きなくしゃみをする。
その隣では、同じ格好をした友奈が
「えへへ……『鬼は外!』って、追い出されちゃったねぇ~、夏凜ちゃん」
と、頭をかきながら照れ笑いを浮かべていた。
「ったく……みんなして本気で豆ぶつけてくるんだもの……つーか、何なのよ、この格好!? いくら何でも、恥ずかしすぎるわよっ!」
「あ、それは確か風先輩が、『どうせやるなら、本格的な鬼になってもらわなきゃ!』って、どこからか……」
「……後で絶対ブッ飛ばすわ、あのアホ……へ、へ、へくちっ!」
眉間に大きくシワを浮かべながら、夏凜がもう一度、くしゃみをし、ずずー、と鼻をすすった。
「……寒いの? 夏凜ちゃん」
「ああ、当ったり前でしょ……2月よ、2月……!」
「……それじゃあ……」
さすさすと体中を摩擦して少しでもあったまろうとする夏凜に対し、友奈がふふ、と含み笑いを浮かべた。
「――えいっ♪」
「きゃあっ!?」
と、次の瞬間、友奈が突然、夏凜の背中めがけてがばっと飛びついてきた。
「こーやって、お肌とお肌がくっついてれば、きっとあったかくなるよ!」
「ちょっ、ちょちょっ、友奈……! そんな、いきなり……!」
唐突な展開に気が動転しつつも夏凜は、背中一面に広がる友奈の温かさ――それから、ふにゅりと柔らかい感触にすっぽりと包まれ、
妙に気持ちよくなってしまっていた。
「えへへ、ほーら、夏凜ちゃんの全身、ぺたぺた触ってあったかくしてあげるー♪」
「ひゃんっ、ゆっ、友奈っ! そこはダメっ……!」
「ほらほら、隠しちゃダメだってば、夏凜ちゃん。おっぱいとかおへそとか、隅々までぽかぽかにしてあげるから、ね?」
「や、やめてってば……ん、あぅんっ……!」
――初めは嫌がっていた夏凜だったが、その声が甘みを帯び始めるのには、ものの30秒もかからなかった。
その頃。
「……鬼も内! 鬼も内!! 鬼も内ぃぃぃっ!!」
「ちょっと、東郷! せっかく追い払った鬼、呼び戻してどうすんのよ!」
「でもっ、でも、風先輩! 外に、外に福が、至上の福が……・!!」
部室内では、必死の形相で廊下に締め出してしまった鬼を呼び戻そうとしている約一名の姿があったとか、なかったとか。
最終更新:2015年03月02日 10:10