7・275

「ただいまー、東郷さん!」
「おかえりなさい、友奈ちゃん。温泉旅行は楽しかった?」
「うん!でも、途中から東郷さんが恋しくなっちゃったかな」
「たった1日じゃない。ふふっ、でも私も恋しかったからお相子ね」

 祝日を利用して家族旅行に出かけていた友奈ちゃんが帰って来たのは、日曜日の夜のこと。
 こうやって帰ると真っ先に私の元へ来てくれるのがとても嬉しくて、昨日今日と感じた寂しさは吹き飛んでしまう。

「そうだ、お土産があるんだよ!東郷さんに合うかなーと思って」
「あら、何かしら。その言い方だと食べ物ではなさそうだけど」
「私のお土産=食べ物なの?」

 友奈ちゃんがふざけて口を尖らせるのを宥めながら、彼女がお土産を取り出すのを見つめる。
 そこまで大きなものでは無さそうだ、包みを開けば掌に乗りそうなくらい。

「これって、木彫りのお雛様?」
「当たり!一刀彫って言うんだっけ?縁起物の小さなお雛様。
 ひな祭りは過ぎちゃったけど、ほら、この子ちょっと東郷さんに似てるでしょ?」
「言われてみれば確かに。ふふ、旅行先でも私のことばかり考えていたの?」
「か、からかわないでよ、東郷さん」
「ご、ごめんなさい、自分で言って照れるわ」

 赤くなりながら、掌の上で小さなお雛様を転がす。
 ちょっと澄ました顔をしているけど、友奈ちゃんの中の私ってこういう印象なのかしら。

「あら、友奈ちゃん。そっちの包みは勇者部のみんな用?」
「え、あ!いや、これは私用なんだけど、あはは…」

 何故か慌てて鞄の中にしまいこもうとする友奈ちゃん。
 けれど片付けをする前に私の家にやってきたせいで、鞄の中の着替えで弾かれて玩具のように包みが飛び出す。

「っ!」
「と、東郷さん大丈夫!?ぶつからなかった!?」
「ええ、平気。あら…」

 多分向こうで一度包みから取り出していたのだろう。片手で受け止めたそれは、包みから頭が出てしまっていた。
 頭が出る。そう、それは私のと同じ一刀彫のひな人形。

「ああ、バレちゃった…」
「これって、もしかして私のと対称になっているの?お雛様同士で?」
「う、うん。若いお弟子さんが間違えて作っちゃったんだって。無理を言って譲ってもらって…。
 ちょ、ちょっと引いちゃった、かな?」
「…ううん、もっとこのお土産が素敵に思えてきたわ」

 よく見ると、このお雛様は友奈ちゃんに似ているような気もしてくる。
 ちょっとした悪戯を思いついた私は、包みから丁寧に友奈ちゃん雛を取り出すと、東郷雛の横に置いてみた。

「と、東郷さんったらもう!」

 真っ赤になる友奈ちゃんを見つめながら、ふとひな人形は良いお嫁さんになれるように飾る意味もあるのだと聞いたのを思い出した。
 今更ながらこの位置取りは“そういう意味”だと理解して、私の顔もゆっくり朱が差した。
最終更新:2015年03月08日 07:00