「友奈ちゃん、大丈夫?眠ってもいいのよ」
「ふ、ぁ…けど…それだと、東郷さ…1人で…」
必死に目をこすろうとする友奈ちゃんだけど、その手すら頬の辺りまで上がって、くたりと下がってしまう。
老人ホームでやる隠し芸大会の飾りを作っている途中で、友奈ちゃんの眠気は限界を迎えようとしていた。
「まだ日にちに余裕はあるから大丈夫よ。みんなが戻ってきたら起こすから、ね?」
「ありが…東ご…さ…ふにゃ…くぅ…」
お礼さえ最後まで言えないままに、友奈ちゃんはこくりこくりと船を漕ぎはじめた。
慣れない車椅子生活で疲れも溜まっているだろうし、他のみんなよりも治りが遅い不安でよく眠れていないのもあるのだろう。
歩けなくなっても友奈ちゃんが頑張りすぎてしまう所は変わらない、私たちが―――私が気にしてあげなくてはいけないのだ。
「すぅ…すぅ…ん…むにゅ…」
その後、友奈ちゃんの寝息を聞きながらの作業は思った以上に手が進み、飾り作りは殆ど終わってしまった。
友奈ちゃんが傍に居る、確かに一緒に居て息をしてくれている、いずれ目覚めて私に笑いかけてくれる。
それがはっきり解るだけで、どうしてこんなに頑張れるんだろう。
「ふふ、これを見たら友奈ちゃん、きっと驚くわね。『凄いよ東郷さん!流石は私の大親友!』なんて…?」
ふと友奈ちゃんの方に視線を向けると、車椅子に寄り掛かるようにして眠っている彼女の制服の胸元が乱れていた。
さっき手を下げた時に引っかかってしまったのだろう、起こさないように気を付けて直してあげることにする。
「…大丈夫よ、友奈ちゃんはゆっくり眠っていてくれたらいい。私が、できることは全部してあげるから」
「ただいまー。いやー、やっぱり力仕事は腰に来るわ―」
「お姉ちゃん、何だかおじさんっぽいよ」
「おっさん風ね、おっさん先輩とこれから呼んで…」
「全部、友奈ちゃんが教えてくれたことだよ。だから、今は私が返してあげる。元気になったら、友奈ちゃんからもまたしてね?
…ああ、みんなおかえりなさい、お疲れ様でした」
胸元を繊細な動きで直しながら、帰って来たみんなに労いの言葉をかける。
何故かみんなは固まって、こちらをじっと見つめていた。
「…どうかしたの、みんな?」
「できること全部って…」
「やっぱり前は友奈さんがいろいろしてあげてたんですね…?」
「て、ていうか、神聖な部室で何をしてるのよあんたらは!?」
「え、え?」
結局、私がみんなの誤解に気付くのにしばらく、更にその誤解を解くのにもうしばらくの時間を擁して。
そんなことをしている間に、友奈ちゃんは目を覚ましてしまったのだった。
「…ちぇっ」
友奈ちゃんが小さくそう呟いた気がしたけど、多分気のせいだと思う。
最終更新:2015年03月10日 10:07