7・340

 バーテックスとの戦いが終わって、私の意識が戻って、園子ちゃんが勇者部にやって来て。
 ようやく勇者部の日常が戻って来た頃、私と東郷さんには1つ秘密が出来た。

「ゆーなちゃん、だっこして?」
「はいはい、任せて!ふふ、東郷さんは…おっとっと、美森ちゃんは羽みたいに軽いね!」
「えへへ、ゆーなちゃん、あったかい。もっとぎゅーして、ぎゅー」

 東郷さんの幼児返り。満開や勇者としての戦いの後遺症かと最初は思ったけど、お医者様によると違うらしい。
 後から知ったのだけど、お母さんたちは私たちが勇者として戦っているのを知っていたそうだ。
 神樹様からの加護で生きていける事実、世界と自分の娘を天秤に掛ける葛藤、それを知って私としては逆に申し訳なくなってしまった位だ。
 でも、東郷さんは少しだけ事情が違う。そのことに戦いの最中に気付いて追い詰められてしまった上に、彼女は“2度目”だった。
 甘える対象や無償の愛情をくれる相手を見失ってしまった東郷さんは、私の前で時々こうして子供に戻ってしまうようになった。

「ゆーなちゃん、あれやって、あれ。ほっぺ!ほっぺすりすり!」
「美森ちゃんはあれ好きだねー。すりすりすりー」
「きゃー!やわらかい、あったかい♪」

 この時の東郷さんは私が『東郷さん』と呼ぶのをすごく嫌がる。
 これもお医者様から聞いたのだけど、東郷さんは私が『格好いい名前』と言ったのを大切に思ってくれているらしい。
 だからこそ、とことん甘えつくしたいという気持ちが爆発する時に『格好よくいなくては』と思い出させる呼び方を嫌がる、らしい。
 甘えん坊な東郷さんだけでも新鮮なのに、呼び方も違うと何だかいつも不思議な気持ちになる。

「ゆーなちゃん、おっぱい…」
「え!?あ、あれは、その、ちょっと恥ずかしいんだけどなー///」
「や!ゆーなちゃんのおっぱい!すうの!ゆーなちゃんのおっぱいー!」
「あわわ!お、大きな声を出しちゃダメだよ!ほ、ほらー、おっぱいですよー、美森ちゃーん」

 私の胸に顔を埋めていやいやする東郷さん、こうなると絶対に言うことを聞いてくれない。
 そもそも東郷さんの方がずっと胸は大きいのになあ…と複雑なものを感じながら服を捲り上げる。

「ゆーなちゃん、ゆーなちゃん…ん…ちゅぱ…ちゅう…おちつくの…」
「んっ、ふっ…そ、そんなに吸っても何にも出ないよぉ…」
「ゆーなちゃん…だいすきぃ…友奈ちゃん…ずっと、ずっと一緒…私を、見捨てないで…」

 ほんの一瞬だけ『美森ちゃん』から『東郷さん』に戻って、東郷さんはスイッチを切ったみたいに私の胸の中で眠りにつく。
 15分ほどして目が覚めたら、何にも覚えていない、いつもの東郷さんに戻っているのだ。
 服を苦労しながら戻して、東郷さんの頭を撫でながら、私は自分の罪深さを思う。
 勇者部5箇条、1つ、悩んだら相談。これを私が秘密にしているのは、東郷さんのこの状態に悩みがないからだ。
 園子ちゃんがやって来て、東郷さんには私の知らないところがいっぱいあるって知って。だから私しか知らない東郷さんが少し嬉しくて。

「(こういうのもロリコンって言うのかなぁ…まあ、どっちも好きだから、みもコン?)」

 いつかは『美森ちゃん』も消えて、東郷さんは東郷さんに戻るだろうとお医者様は言っていた。
 ずっと先、もう絶対に大丈夫という時になってから、この時の話をしたら東郷さんはどんな顔をするだろう。
 少しだけ意地悪に思いながら、私は可愛い彼女の頭を撫で続けた。
最終更新:2015年03月11日 10:35