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「それでは始まりました~、第5回東郷婦妻対抗戦『私の方が貴女を大好き』~。
 解説は私、乃木園子とにぼっしーでお送りします」
「もう5回を数えてるっていうことに若干の疲れを感じるのは私だけなの?」
「青コーナー、友奈ちゃんのこといつも見てる!人生を救われた私の愛は無限大、東郷美森~」

 ゆっくりと部室に入場してくる東郷。
 その表情はキリリと引き締まり、手縫いのゆうぐるみ(=友奈ちゃんぬいぐるみ)を手にしている。

「こちら、青コーナーの犬吠埼樹です!東郷先輩、意気込みをどうぞ」
「そろそろお遊びは終わりだというところをお見せしたいと思います」
「そのコメントは何だかフラグのような気がします!スタジオにお返しします!」
「毎度思うけど同じ部室内でスタジオも何も無いわよね…」
「それでは続きまして桃コーナー、天真爛漫少女がふと見せる独占欲、東郷さんを滅茶苦茶強く思ってる!結城友奈~」

 こちらは元気いっぱいに部室に入ってくる友奈。
 その手には常に枕元に飾られている東郷とのツーショットを収めたフォトフレーム。
 もしかして廊下で普通に2人一緒に居たんじゃ、とか考えてはいけない。

「こちらは桃コーナーの犬吠埼風です!どうですか、友奈選手。勝てそうですか?」
「そういえば、今更ですけど赤コーナーじゃないんですね」
「まあ赤はどっちかというと夏凜っぽいでしょ?って、勝負の意気込みはいいんかい!スタジオにお返しします」
「結城選手節が炸裂してますね~」
「あれは単なる天然よ」

 両者は机がどけられて広くなった勇者部部室の中央まで進み出て、互いを見つめ合う。
 愛情、優しさ、時に激しい独占欲や好き過ぎて苦しくすらなる気持ち。
 それらを込めあった視線は互いの肌をみるみる赤く染め上げていく…戦いは既に始まっているのだ!

「時間無制限一本勝負、より多くの愛を感じて腰砕けになった方が負けです。ではでは、試合開始ー、カーン!」
「毎度思うけど口で言うのね」
「―――先攻、よろしいでしょうか」

 東郷がまず挙手をして先手を宣言する。基本的に後攻有利の対決だが、開幕一撃で勝負が決まることもあり得るのだ。

「おおっと、東郷選手が仕掛けました~!どう見ますか、にぼっしーさん」
「何というか、着々とフラグを積み立ててる感じが否めないんだけど。後、今更だけど自然ににぼっしー言うな」
「―――友奈ちゃん、そもそも今回の口論の原因は、どちらの方が先に互いを好きになったか…だったわね」
「うん、そうだよ。ここは絶対譲れないもん!私は一目惚れなんだから!」
「う、くぅ…」
「攻めている最中にも油断はできません!返す刃で即キュンもあり得るのがゆうみもファイトです!」

 友奈の真っ直ぐな返しを何とか受け止め、東郷は再び態勢を立て直す。

「けれど、私は鷲尾須美だった頃から…未来の友奈ちゃんに出会ったあの日から、友奈ちゃんに惹かれていたわ。
 授業中にポーッとしたりしてたことについては、そのっちが証人よ」
「一応解説として中立でいなきゃダメなんだけど~、これはガチでーす。あれから数日のわっしーはネタの宝庫だったよー」
「伝家の宝刀、不思議な祠でタイムワープを切って来たわね。これは一気に決着かしら」

 友奈は穏やかな顔で笑っている。自分が東郷にどれだけ長く深く思われていたか知って嬉しくない訳がないからだ。
 しかし、解説の2人すらも誤解している…2人の喧嘩の原因が解決するのと、勝負の結果は別であると!

「ありがとう、東郷さん。ずっとずっと私を好きでいてくれたんだね?その分、一生懸命に好きを返していくから」
「おぉっとぉっ!?スタジオの2人、見えていますか!結城選手!荒業です!東郷選手を抱きしめました!」
「しかも、耳元で甘いささやきまで!これは東郷選手ピンチで…」
「友奈ちゃぁぁん…///」
「ピンチどころじゃなかった!一撃!一撃でーす!」

 友奈の腕の中で完全に腰砕けになった東郷。いつの間にかゆうぐるみがフォトフレームを持って机でそれを見守っている
 樹が特に意味なくタオルを投げ、園子が口でゴングの真似をしながら猛スピードで筆を走らす。

「結局、友奈の5戦5勝0敗…やる意味あるの、これ?」
「婦婦の納得のためには必要なんだよー、きっと」
「友奈ちゃん、意地張ってごめんなさい!その、もっとぎゅうってしてくれる?」
「えへへ、こんなに短い時間なのに私も寂しかったよ。東郷さん、もう離さないんだから」
「おーい、延長戦は家でやんなさーい」

 かくして、婦婦の舌戦は愛ある結末を迎えたのだった。
 ―――だがしかし、人の根は争いの根!その僅か1週間後!

「こればっかりは譲れないわ!友奈ちゃんの方が元気いっぱいの陽性の魅力に溢れているし、顔立ちだって愛らしい!
 普段は小動物的な可愛さがあるのに、いざという時の仕草は正に勇猛!友奈ちゃんの方が素敵な人よ!」
「私だって譲れないものはあるよ東郷さん!東郷さんくらいの和風美人さんなんて私、雑誌やテレビでもみたことない!
 話してると面白くて安心するし、笑うと『本当に東郷さんと出会えてよかった』ってしみじみ思っちゃう!東郷さんのが素敵だもん!」
「ゆ、友奈ちゃん…」
「これは第6回を開催するべきかな~」
「東郷、もう揺らいでるじゃない…」

 戦いは、続く!!
最終更新:2015年03月13日 10:02