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「前回の壮絶な戦いから僅か1週間、愛とはかくも激しいものなのか!?第6回結城婦妻対抗戦『重いからこそ釣り合うの』!
 解説は私、女子力MAXな勇者部部長、犬吠埼風とマイエンジェル犬吠埼樹でお送りします!」
「何気に一回ごとにどちらの姓が付くか変わってるんだね。こんにちは、夜は堕天使な犬吠埼樹です。
 お姉ちゃんの匂い立つような女子力の半分ほどは私の手で…」
「選手紹介と参りましょう!今すぐに!青コーナー、告白、ゴンドラ、共同作業!結婚の予行演習はあらかた済ませた!東郷美森ー!」

 今回も落ち着いた様子で部室へと入ってくる東郷。
 連敗中にも関わらず、頭に『必勝』と書いた鉢巻をした彼女の顔には余裕の笑みが浮かんでいる。

「こちら、青コーナーの乃木園子です~。わっしー、意気込みをどうぞー」
「これが終わったら、私、友奈ちゃんの家で一緒に今夜の夕食を作るわ」
「完全なる死亡フラグと惚気を両立しました~、流石の貫録です!」
「ふふふ、そのっち。今回の私には秘策があるのよ、その予想を覆してあげるわ」
「東郷選手、今回は何か策を練って来たようです!果たして結城選手に通じるか!それでは対戦者、入場!」

 今回も元気いっぱい入場する友奈。
 その手には重箱に入ったぼた餅が抱えられており、半分ほどが既に食べられている。
 どうやら廊下で渡しっこしていたようだ。

「桃コーナーの三好夏凜です…いや、あんたらもう仲直りしてるんじゃないの?」
「ううん、この戦いだけは譲れないよ!今回も東郷さんを腰砕けにして、お姫様だっこを見せつけながら帰りたいと思っています!」
「ゆ、友奈ちゃんったら…///」
「何で意気込み聞いてない時の方が饒舌なのよ…けど、東郷には秘策があるらしいわよ?」
「正面から抱きとめるのみです!」

 両者は机がどけられて広くなった勇者部部室の中央まで進み出て、互いを見つめ合う。
 愛情、優しさ、時に激しい独占欲や好き過ぎて苦しくすらなる強い気持ち。
 それらを込めあった視線は互いの肌をみるみる赤く染め上げていく…戦いは既に始まっているのだ!

「解ってるとは思うけど、時間無制限一本勝負。より多くの愛を感じて腰砕けになった方が負けよ。ではでは、試合開始!」
「カーン!」
「そこ、わざわざ分業するのね」
「―――先攻、よろしいでしょうか」

 東郷がまず挙手をして先手を宣言する。今まではこのパターンで敗北を重ねているのだが…?

「東郷選手、まさかの先手です!聡明な彼女がこれまでのことを学習していないとは思えませんが!?」
「本当に聡明なら6回もこんなこと繰り返さないと思うんだけど…」
「にぼっしー、しーっ」

 東郷は友奈をじっと見つめた上で、にっこりとほほ笑みかけると…ゆっくり目を閉じる。
 そして、耳を塞いで体を丸めるようにしてしゃがみこんだのだ!

「お、おおっと!?これはまさか…見ざる聞かざる作戦!?こういうのもありなんですか、解説の樹さん!」
「ありです!なぜなら普段はクールな東郷選手が体を縮こまらせるあの仕草、友奈選手には特攻のはずです!
 そして、友奈選手の声も身振りも届かない…友奈選手の全てに魅了されている東郷選手の絶対防御形態と言えるでしょう!」
「おー、ゆーゆの頬がさらに赤く…あれは可愛さにやられてるね~」
「実際に効果があるのが凄いわね…」

 そんな外野のやり取りを遮断した状態で、東郷は内心勝利を確信する。
 庇護欲の強い友奈を魅了し、かつ彼女の素敵さに敢えて背を向けることで生み出す鉄壁さを生む最強形態。
 後は、この目に焼き付け、心に刻み込まれた彼女の愛らしさ、素晴らしさを語り続けるだけだ!勝った!婦婦喧嘩、完!

「ちゅっ」

 第一声を放とうとした瞬間に、東郷の唇に柔らかい感触が触れた。
 胸に刻み込まれた愛しい日々の記憶は、互いに照れながらも何度か交わしたことのある行為を鮮やかに呼び起こす。

「ゆ、ゆゆ、ゆゆゆ友奈ちゃん!?///」

 思わず手を耳から離して括目してしまう東郷。それに視線を合わせるように身を屈めた友奈が、満面の笑みで笑いかけた。

「ごめんね、東郷さん。あんまり東郷さんが素敵で可愛かったから」
「友奈ちゃぁぁん…///」
「一撃ーっ!今回も返す刃で一撃です!!友奈選手6連勝ーっ!!」
「前回、身体的接触で負けたのにそこは考慮しなかったのかしらね…」
「まあほら、その辺りがわっしーの可愛らしさだよー」

 ぺたんと床に尻餅を付いてしまった東郷を、友奈は軽々と持ち上げてお姫様だっこしてみせる。

「でもね、その顔はキスを待ってるように見えるから、これからは私の前以外でしちゃダメだよ」
「友奈ちゃん…///」
「返事は?」
「は、はい…!///」
「うん、東郷さん、いいお返事だ!やっぱり素敵!」

 机が片されているお陰で余裕のある部室の中、友奈は東郷をお姫様だっこしたまま、くるくると2回転して喜びをしめす。
 どういう仕組みなのか、友奈の腕の中で蕩けている東郷の鉢巻、そこに書かれた文字が『友奈命』に変化していた。
 解説の2人はその空気に当てられたのか、保健室に言ってくると言い残して姉妹揃って退室済みだ。
 残ったぼた餅を食べながら、夏凜と園子が言葉を交わし合う。

「次回があるなら多分、キス対策しようとして耳攻めを食らうと思うんだけど」
「ネタつぶしはだめだよ、にぼっしー」

 愛ある限り、戦いは続く!!
最終更新:2015年03月14日 07:40