季節が過ぎるのは早いもので、友奈ちゃんが目を覚ましてからリハビリを重ねる内に、色づいた葉も落ちて冬の空気が満ちてきた。
清冽な空気の中を友奈ちゃんと並んで登校する、そんな日が来るとは勇者としての戦いを始めた頃は思いもしなかった。
新品だというマフラーを首に巻いて微笑む友奈ちゃんに、私も微笑ましくなりながら歩みを進める。
「う~ん」
「友奈ちゃん、どうしたの?さっきから私の背中を見つめたりして」
「いや、東郷さんの背中とか頭の位置がね、まだちょっと掴めなくて。
ほら、目が覚めたらいきなり東郷さんが立って歩けてた訳で、定位置の感覚が抜けないんだよね」
それは私にも少しだけある感覚で、友奈ちゃんは大抵私の後ろに居るか前に居るかだった。
だから並んで歩いているとふっと違和感のようなものを感じることがある。
すぐ近くにいるのに、見失ってしまいそうになる奇妙で寂しい感覚だ。
「これからはこうして歩んでいく時間の方が長いのに、これはいけないわね。
いつも見てると約束したのに」
「そのうちに慣れていくんじゃないかな?」
「こういうのは早い方がいいものよ。この距離感が私たちの新しい定番だと決める何かが、くしゅん」
「大丈夫、東郷さん?寒い?」
言葉の途中でくしゃみが出てしまった。急な冷え込みのせいだろう。
友奈ちゃんは私の方をしばらく見つめていたけれど、やがて何かを思いついたようにマフラーをほどき始めた。
もしかして私にかけてくれようと言うのだろうか。
「友奈ちゃん、悪いわ。それだと今度は友奈ちゃんが風邪をひいてしまうかも」
「えへへ、大丈夫大丈夫。これは車椅子だとちょっとできないからね」
そう言って友奈ちゃんはマフラーの端を私の首にかけると、もう片方の端を自分の首に巻き付ける。
そして寄り添って、冷たくなってきていた私の手をそっと握った。
これって、もしかして、いわゆる恋人巻きではないだろうか。
「冬の定番!マフラーのお裾分け!」
「友奈ちゃん、その、これはさすがにちょっと恥ずかしいかも」
「こういうのに慣れるのは早い方がいいんでしょ?これからの2人の定位置ってことで!」
それを言われると私には何も言えなくて。
並んで歩くだけでも色々と刺激的なのに、この距離感は寒さを感じる余裕もない。
「(な、慣れるのは、ちょっと無理かも)」
けれどもちろん、不快な感覚ではなくて。
その日は学校につくまで、友奈ちゃんを一度も見失うことはなかった。
最終更新:2015年03月19日 09:49