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「わっしーわっしー、コイバナしようよ~」
「コイバナ?」
「うん。私はずっとベットの上の二年間だったから、出会いなんてなかったけど~わっしーは学校に通ってたんだからなにかあるでしょ~?」
「そうね……付き合っている人はいないけど」
「え~?わっしー綺麗なのにモテないわけないよ~」
「付き合うなら、友奈ちゃんね」
「えっ……?」
「でも、夏凜ちゃんも捨てがたいのよね」
「わ、わっしー……ゆーゆもにぼっしーも女の――」
「――二人ともいざって時に頼りになるし、誠実で優しい。でも、一緒にいた時間の長さで友奈ちゃんが一歩リードかな?」
「そ、そうなんだ~」

私は今までの人生の中で一番困惑していた。
自分はただ、二年前はなんの膨らみもしなかった話題を今ならば膨らませられるのではないかと気軽に話してみただけだったのだ。
なのに……。

(わっしーが同性愛者だったなんて……。私だってそういう小説は書いたことあるけど、ガチか~……もしかしてミノさんのこと狙ってたりしてたのかな~……?)

「風先輩はね、綺麗だし懐が深くてとてもいい人なんだけど……やっぱり良い先輩かな。そういう目では見れないわね」
「……うんうん~」
「樹ちゃんは、かわいい後輩って感じね。やっぱり恋愛感情にはならないかな」
「……へ~」
「あ、もちろんそのっちは一番の友達だよ?そのっちだからこそこんなこと言えるの」
「そ、そう言ってくれるのは嬉しいよ~」

そうか……私を信頼してのカミングアウトだったんだね。
こんなこと他人に話せるわけがない。
わっしーが私のことそこまで信じてくれていたことは、とても嬉しい。
私だけは、わっしーのこの性癖を受け止めて相談に乗ってあげよう。

「ま、まあ最初は誰だって友達なのだし……これからどうなるのかってことは分からないわよね……///」
「えっ、ああ……まあ、そうなんだ~」
「うん///でも、やっぱり付き合うとしたら私のことを包み込んでくれるような人がいいかも。
 た、例えば夏祭りで金魚を取ってくれたりしてくれる……///」
「へ~、夏祭りで金魚を……ん?」

ちょっと待ってほしい。
あれ……わっしーに金魚を取ってあげたって、私当てはまっちゃう?

「今の私は東郷三森だけど、特別な呼び方で呼んでもらったり///」

『わっしー』のことでしょーか~?
これはヤバいかも……いくらでも相談に乗ろうとは思ったけど、わっしーがそういう目で私を見てきても私は応えられない。

「あのね、わっしー。申し訳ないんだけど私は――」
「――私がね『絶対に守る』って決めた人だったり」
「へ……?//////」
「ごめんね、そのっち。私……あの時、あなたを守れなかった。心に固く誓っていたのに……だから、今度こそ」
「あっ……///」

わっしーの真剣なまなざしが、私の心を貫いた。

「これからずっと、私にあなたを守らせてください」

私の両手をギュッと握り、私の両目を見据えながら、そんなことを言われた。
わっしーの目は真剣で、その言葉は真摯で、私は……生まれて初めて、恋をした。











おまけという名の蛇足。

「きゃあああああ!!」
「ど、どうしたのわっしー!?」

わっしーの告白を受け、二人きりでちょっといい雰囲気を楽しんでいたのに、わっしーが急に悲鳴をあげた。

「そ、そのっち!ああ!窓に!窓に!」

窓の方を見てみると、窓辺にカマキリが一匹。

「ああ、カマキリだね~」
「た、助けてそのっち……私、虫は駄目なのー!」
「ええ!?虫がダメなのは知ってたけど、カマキリもだめ~?」
「むしろなんでカマキリは大丈夫だと思ったの!?」
「う~ん、二刀流だしミノさんっぽいから」
「銀はカマキリじゃない!!」
「あっ、ガチの返しだね~。そんなに怖い~?」
「お、おねがいそのっち!はやくアレをなんとかして……」
「別にいいんだけど、さっきわっしーは私のこと守ってくれるって言ってたのに~」
「む、虫だけは……」
「さっきのわっしー格好良かったのにな~……」
「そ、そのっち!早くしてくれないと怪談を話すわよ!」
「わ、わ~……守るって言ってくれてたのに脅迫してきた~」
「そのっちーーー!!おねがいーーー!!」

私にしがみつきブルブル震えるわっしーに、私のさっきまでのときめきは少しなくなってしまった。
しかし、別の感情も生まれていた。

「仕方ないな~――」

――仕方ない。
私を守ってくれるらしいわっしーのことは、私が守ってあげよう。これからもずっと、ね。
最終更新:2015年03月20日 23:39