7・635

始まりは、あたし――犬吠埼風の提案からだった。

「勇者部も6人になったことだし、そろそろ誰が最強なのかはっきりさせようじゃない」
「最強……でありますか、風先輩」
「わ~、なんだかわくわくしてくる単語だね~『最強』~!」
「そのっち、それは中二病の予兆よ。気をつけておかないと5年後、10年後に枕に顔をうずめて足をバタバタさせるはめになるから気をつけて」
「最強って、風……そんなの完成型勇者であるわたしに決まってるじゃないのよ!」
「夏凜さんノリノリですね。でも最強って言っても色々な分野があるけど……お姉ちゃんは何の最強を言ってるの?」

最強――字を書いて如く『最』も『強』い者。
しかし、一言で最強と言っても『何をもって』ということになる。
神様のように全知全能であれば分野に関わらず『最強』といえるのだろうが、人間にはどうしても得手不得手がある。

「ふふん、樹。勉強で最強なのは誰だと思う?」
「勉強?だったら……東郷先輩、かな?」
「…………」
「い、樹ちゃん!さすがの東郷さんも3年生の風先輩には勝てないよ!ね?東郷さん!」
「あ、私はもう3年生の教科書も予習してあるから風先輩が相手でも負ける気はないわ。友奈ちゃん」
「東郷さーーーん!?」
「うふふ、冗談よ。さすがに風先輩にはカテナイワー」

くっ、最後完全に棒読みじゃない。ありゃ絶対に負ける気なんてしてないわ。

「あ、ちなみに私よりそのっちの方が頭いいのよ?」
「えっ!?園子さん、そんなにすごいんですか?」
「そんなことないよ~」
「神樹館のころはテストでそのっちに勝ったことは一回だけ。しかも、その一回は解答欄を一つづつ間違えて書いてしまったことによる0点で、
 実際は100点だったから実質一度も勝ったことがないわ」
「神樹館!?あ、あの四国一の偏差値を誇る……!?」
「東郷さんと園ちゃんは神樹館出身だったんだね!すごいよ!」
「そのっちは神樹館でも学年一位だったのよ」
「神樹館の学年一位って、もうその学年の四国一位といっても過言じゃないわよ!」
「わたし、園子先輩のこと尊敬します!今度勉強教えてください!」
「もちろんいいよ~」
「…………」
「…………」

あ、あれ。おーいみんなー、あたしが提案した『最強』を決めるってのはどこに行っちゃったのかなー?
自分のことでもないのに園子のことを自慢げに話す東郷に、いつの間にか園子の呼び方が『園子さん』から『園子先輩』変わった樹。
その変化に気付き、内心ちょっと傷ついた『さん』の約二名。

「え~、こほん!」
「あっ……すみません風先輩。で、なんでしたっけ?」
「『最強』よ!『最強』!」
「最強最強言っていると、頭悪そうに見えるわよ風」
「うっさいわ!さん付けは黙っとれ!」
「うぐっ……!」
「ぐぬぬっ……!」
「あ、友奈はごめん」
「……?」

当の樹は気付いていないようでポカンとしている。
この子、将来芸能界に入ったとして露骨にこんなことしたら干されかねない。
無意識に相手への接し方が変わってることを教えてあげた方がいいだろうか。
……夏凜をからかえるうちは言わんでおくか。

「話を戻すわよー。じゃあ樹、勇者として最強は誰だと思う?」
「それはわたし以外のみん――」
「――そのっち、でしょうね」

ま た お 前 か、東 郷 ! !

「そのっちの満開数は……20です」
「なん……だと……!?」

なんでフリーザ様の戦闘力数みたいに言った!?
そしてブリーチで返すな友奈!知ってたでしょ!
あ、劇場版『ドラゴンボールZ 復活の「F」』2015年4月18日(土)公開よ!
ドラゴンボールファン、特にフリーザ様ファンは必見!ぜひ見に行ってね!……なんで宣伝なんかしたんだろ。

「勇者は満開を繰り返すほど強くなります。そのっちはいうなればLv21の勇者!それに比べて私たちは、私と夏凜ちゃんのLv5が
 最高レベル。勝負にならないわ。もし風先輩があのとき大赦に殴り込みをかけていたら、そのっちにボコボコにされてたかもしれないわね」
「いや~、勇者のお役目の辛さはよく分かってるから、そんなボコボコになんてできないよ~。一瞬で気を失わせるとか、ダメージのない
 方法で対処したと思うよ~」
「さすがね。そのっちは優しいわ。風先輩、そのっちに感謝してくださいね?」

……あたし、さっきからめちゃくちゃdisられてない?
ていうか、あたしは樹や友奈、夏凜に止めてもらって大赦を襲ってないのに……。
うう……部長としての自信なくなってきたわ……。もぅマヂ無理、部長辞めよ……。

「……ねえ、勉強も勇者としての強さも園子が最強なんだから、もう園子が最強ってことでいいんじゃない?」
「異議ないわ、夏凜ちゃん!そのっちは一番頭が良くて、一番強くて、一番優しくて、一番かわいいもの」
「わたしも異議ないかな。園ちゃんってなんかラスボスの雰囲気あるし」
「園子お姉様が最強ってことで、私も異議ないです」

いつきぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃいぃいぃぃぃいぃぃぃぃいぃぃぃいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あなたのお姉ちゃんは、あたし!あたしよおおぉぉおっぉぉおぉおおぉおぉぉおぉぉっぉぉぉぉぉぉっぉぉおぉ!!!!!!!!

「でも私、運動は苦手なんだ~。だから最強ってことはないと思うよ~」
「さすがね。そのっちは自分が『最強』でないことを理解している。そういう者こそ『最強』なのでしょうね……」
「さすが園子お姉様です……///」

「あ、夏凜ちゃん今日にぼしラーメンに挑戦してみない?」
「いいわね!そうと決まったら帰りに食材を買っていきましょう」

こいつらぁ……人を無視して勝手に話終わらせやがってぇ……!
初めてですよ……ここまで私をコケにしたおバカさん達は……。
ゆ、許さん……!絶対に許さんぞ虫けらども(樹以外)!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!覚悟しろぉ!!
劇場版『ドラゴンボールZ 復活の「F」』2015年4月18日(土)公開!(2回目)
このセリフもフリーザ様が言ってくれるかも!

「帰り支度始めちゃってるところ悪いんだけど、あたしはまだ園子が最強だって結論に納得してないわよ!」
「えっ、まだこの話続いてたんですか?もう夏凜ちゃんとラーメンの話してました」
「もう解散でいいでしょ、風。帰って友奈とラーメン作りたいわ」
「シャアアアアアラップ!!あたしが事前に決めていた『最強』のお題を知ったら帰りたいなんて言えなくなるわ!」
「もう……なんですか風先輩。とっとと言ってください。そのっちの家にお邪魔する時間が減っちゃうじゃないですか」
「あ、私も園子お姉様のお宅にお邪魔してもいいでしょうか?」
「いいよ~。わっしーと一緒に勉強見てあげるね~」
「はい!ありがとうございます!」

ふふふ……まったく人をイライラさせるのがうまい奴らだ……。
元気玉を作る時間稼ぎをくらっているときのフリーザ様も似たような気持だったのかもしれないわね。

「……キス」
「……?お姉ちゃん、今なんて?」
「だれが一番キスがうまいか『キス最強決定戦』をやろうじゃない!!!!」
「キス……だと……!?」
「友奈はブリーチ好きなの?」
「いえ、特に好きというわけではないです。ドラゴンボールの方が好きですね」
「あ、わたしもドラゴンボール好きよ友奈!」
「夏凜ちゃんも?やっぱりわたしたち趣味が合うね!」

「そのっちはドラゴンボール好き?」
「好きだよ~」
「私もよ。ドラゴンボール好き同士なんて、運命かもしれないわね///」
「私もドラゴンボール好きです!」

話を進めさせろーーー!!ドラゴンボール好きなんて世の中に何千万といるわ!
それが趣味が合うだぁ?運命だぁ?ほんといい加減しろ!
私はただキス最強決定戦にかこつけて、樹とキスがしたいだけなんだ!
それなのに、なんで本題にたどり着くまでにこんな疲労感を感じなければならないのか!
そっちが勝手にするなら、こっちだって勝手にやらせてもらうわ!
あ、あとあたしもドラゴンボールは大好きよ!

「宣誓!私たちはスポーツマンシップにのっとり、キスすることをここに誓います!勇者部部長、犬吠埼風!」
「風先輩、勝手に話を進めないで下さい」
「風、あんたがみんなのことを無視して勝手する奴だったなんて……わたしは失望したわ」
「勝手に壁を壊した私が言うのもなんですけど、勝手になに言ってんです?」
「風先輩~、『悩んだら相談』でしたよね~。もっとみんなと話し合いましょう~」
「お姉ちゃん、お医者さん行こ?」
「ぐっ……くぅっ……ご、ごめん……なさい……!」

勝手をやってきたのはお前たちだろ!と言ってやりたかった。
しかし、しかしだ……ここで私がキレてしまったら、キス最強決定戦はお流れだ。
樹とのキスのため、私は腸が煮えたぎるようなこの思いをなんとか飲み込んだ。

「みんな、私は……キス最強決定戦が……やりたいです……っ!」
「そもそも、キス最強決定戦というのはどういうものなんです?」

あ、友奈が食いついてくれた。やっぱり友奈は一番空気を読める子だわ。

「みんなとキスしていって、誰が一番キスが上手かったかをみんなで決める競技よ」
「みんなとキス……だと……!?」
「あ、あんた!自分が何言ってるかわかってんの!?」
「ええい黙れ!部長権限を行使するわ!五箇条にもう一つプラス!ひとつ、部内あいさつはキスでおこなう!」
「お、横暴よ!こんな破廉恥なことは許されないわ!」
「お姉ちゃん、精神科行こ?」

いつきぃ……さっきから病院勧めてくるの地味に傷つくからやめて……。

「私はやってもいいかな~」

それは、まさに鶴の一声だった。
わたしがどんなに言っても反発しかされなかったのに、園子の一言で場の空気は一変した。

「もちろん、ファーストキスの相手は選びたいけどね~」
「……そのっちが言うのなら、私もやってもいいです。でも初めてなので、相手は……そのっちがいいわ///」
「私も、わっしーなら大歓迎だよ~」
「そのっち///」
「わっしー///」

……。

「わたしもやってもいいですよ!勇者部のみんな大好きですし!」
「ゆ、友奈がやるってんなら、わたしもやっても……いいわ。最初の相手はゆ、友奈がいいけど///」
「夏凜ちゃん///わたしも、初めてが夏凜ちゃんなら、嬉しいな」
「ゆーなぁ///」

……なんか気に食わないけど、うまい具合に樹が残ってくれた。
うしし!讃州の諸葛孔明とは私のことよ!戦略シュミレーションゲームに出たら知略100は決定的ね。

「じゃあ、樹はあたしとね」
「えっ!?わ、私もやらなきゃダメ……?」
「あたりまえでしょ。なんのためにこんなアホな企画考えたと……こほん」
「お姉ちゃん、なんか言った?」
「何も言ってない。……何も言ってない。重要な事なので二回言いました」
「……はぁ。うん、わかった。お姉ちゃんになら……いいよ///」
「よっしゃあああああああああああああ!!!!じゃあやろう!!すぐやろう!!みんな準備はいい?」

「OKです、風先輩!夏凜ちゃん、行くよ」
「だ、大丈夫よ。きて、ゆーな……///」

「わっしー、綺麗だよ」
「そのっち……好きよ」

「ではでは!せーのっ!」

あたしたちは、それぞれの想い人とキスをした。
樹は目をつぶって、あたしを待っていた。
その様子がとても愛おしくて、ずっと見ていたくてなかなかキスできずにいたけど、覚悟を決めて、樹のくちびるにあたしのを重ねた。
え?樹のくちびるの感想?絶対教えない!樹のくちびるの味を知っていいのは、世界でアタシだけなんだから!

おしまい。
まだ続きますが、↓からはお下品な表現が多々あります。
ここで辞めるのも一つの選択肢です。

そのとき、事件が起きた。

「んっ……///そのっちぃ///も、もう、らめぇ~///」
「わ、わっしー大丈夫~?」

東郷が足をガクガクさせて立っていられなくなり、園子に抱えてもらっていた。
園子ってキスも上手いのか……ほんと超人だなあ……そんなことを思っていた。
しかし次の瞬間、あたし達は驚愕することになる。

「はっ……あっ……///」

と、東郷が失神している……!?
しかも、東郷の抱えてもらっている直下の床に水たまりができている……これは……。

「わ、わっしーがおもらししちゃった~」

あの東郷がキスだけで気を失い、あまつさえ失禁するなんて……。
さっき園子はキスは初めてだと言っていた。初キスでそんなテクニックがあるだろうか。いや、ない。
同じことを疑問に思ったのだろう。友奈が園子に質問した。
夏凜は友奈とのキスでちょっと朦朧としているようだが、意識はあるようだ。

「園ちゃん、キスほんとに初めてなの?」
「初めてだよ~。すっごくドキドキしたし、私だって一瞬クラってしたよ~」
「で、でも初キスでこんなことってありえるのかしら……」
「あ、もしかしたらアレのせいかもしれない~」
「アレ?」
「はい~。私、2年間ずっとベットの上から動けなくて暇だったので、さくらんぼのヘタを口の中で結ぶっていう暇潰しを毎日やってたんです~」

乃木園子。12歳。秋。
己の肉体の不全に悩みに悩みぬいた結果
彼女がたどり着いた結果は
暇潰しだった……
自分自身を苛む死なない身体ゆえの限りなく長い時間
自分なりに少しでも楽しく生きようと思い立ったのが
一日一万回 暇潰しのさくらんぼのヘタ結び!!
気を整え さくらんぼの実を味わい 瞑想 ヘタを咥え
結ぶ!!!!!!
一連の動作を一回こなすのに当初は5~6秒
一万回を結び終えるまでに初日は18時間以上を費やした
結び終えれば倒れたように寝る(最初から倒れている)
起きてまたヘタ結びを繰り返す日々
2年が過ぎた頃 異変に気付く
一万回結び終えても 日が暮れてない
齢14を超えて完全に羽化する
暇潰しのヘタ結び一万回 1時間を切る!!
かわりに雲と海を見る時間が増えた
お役目から解放され戻ってきた園子のヘタ結びは
音を――――置き去りにした

「どこのハンター協会会長よ!?」
「音速を超える舌遣い……ゴクリ」

い、いかん!樹が興味を示している。ただでさえさっきから樹の中の園子株が爆上げされているのだ。このままでは……。

「わっしーはもうキスできませんね~。ここからどうしましょうか~?」
「そ、そうね。アタシたちの中にキスだけで失禁させられるようなテクニシャンはもういないだろうから、園子が最強ってことで……」
「異議なしよ!勝負は終わり!園子おめでとう!」

夏凜が即座にあたしの援護に入ってくれた。
この子の気持ちはよーく分かる。
あたしと同じ理由だ。
こんな化け物と樹をキスなんてさせたら、樹をNTRされてしまう……!
それだけは絶対に避けなければならない!

「ちょっと待ってください。やっぱり最強決定戦だというのなら、総当たりをすべきです!」
「い、いや樹……もう勝負は決まったようなものだから――」
「――そんなことない!」
「!!」
「私が証明してみせます!園子お姉様よりも、お姉ちゃんの方がキスが上手いってこと!だって、すごく気持ちよかったから……!」
「い、樹……。でも、そういうことなら樹がやる必要はないわ」
「えっ……?」
「あたしが、やる」
「ふ、風……あんた……」
「夏凜、審判を頼むわ」
「……分かったわ。風、どうか死なないで」
「当たり前でしょ、樹を置いて逝けないわ。でも……万が一のことが起きてしまったら、樹をお願い」

あたしが園子に勝てば、樹の言う「お姉ちゃんの方が上手い」を証明できる。
だが、相手は音速を超える舌を持つ化け物。
もう一度、東郷に目をやる。

「はっ……あぅ///あ、あぁ……」

なんとか意識は戻ってきているようだが、いまだに目は虚空をさまよい、体中が痙攣し、時々思い出したように身体がビクンッと跳ねる。
跳ねる際にあのメガロポリスが揺れるさまは、なんというか……目に毒だ。
失禁してしまった際に濡らしてしまったパンツもストッキングもまだ替える余裕すらない。
そして何と言っても表情だ。
完全にトロ顔をキメてしまっている……あたしは樹の前であんな醜態を晒すわけにはいかない……!

「わっしーごめんね、これから風先輩とキスするけど、特別なのはわっしーだけだから」

園子が東郷の頬にキスをすると、東郷はまたビクンッと反応した。

「しょろっちぃ……しんしてるわ……」

呂律のまわらない声で、東郷が園子を送り出す。

「では風先輩、始めましょうか~。どちらが『最強』か、決戦のバトルキスを~!」
「望むところよ……!」

私は目をつぶり、精神を統一する。

「お姉ちゃん……!」
「風……どうか生きて帰ってきて……!」
「風先輩……わたしは勝負を棄権します。この勝負に勝った方が『最強』です!」

ふっ……友奈の奴、粋な事を。
ならばこの讃州の諸葛孔明と呼ばれたあたしだ。策をもってあの化け物を倒して見せよう。
諸君、『先手必勝』という言葉を知っていよう。
つまり、戦いの局面で相手よりも先に攻撃を仕掛ければ、必ず勝てるということだ。
園子は技量が神の領域に達しているようだが、まだ本物のキスは2回目(あたしもだが)、先に主導権を握ることが出来れば
園子の攻めが始まる前にKOできる。
例えるなら、武器はメタルキングの剣だが、防具はぬののふく……それが現状の園子だ。
もし経験値を積み、防具がメタルキングの鎧になっていたなら、もはや勝ち目は零だっただろう。
ふふふ、我ながら恐ろしい策よ……!
かつて東郷に「風先輩は紫色の脳細胞をお持ちですね」と誉められたこともある。

「夏凜、始まりの合図を頼むわ」
「分かったわ。では、両者向かい合って」
「風先輩~負けませんよ~」
「ふっ、それはどうかしらね」

夏凜の動きに全神経を集中させる。

「では…………はじ――」

夏凜が言い終わるか終らないかの刹那、あたしはすばやく園子の肩を抑え、無理やり唇を奪った。

「――むぐぅ!ふっ、あぅ///」

一片の淀みもないあたしの早業(フライング)に、さすがの園子も驚いたか、あたしの舌の侵入を易々と許し、されるがままになっている。
あたしは容赦なく園子の口内を蹂躙する。園子の抵抗はまるでない。
攻めながら園子の様子をチラッと見てみると、顔は上気し、目は潤んでおり、息も絶え絶え、あと一押しのように見えた。
一気に勝負を決めたかったが、もう息がもたない。一度呼吸を整え、最後の口撃で勝負を決める!

「ぷはっ……」

だが、一瞬口を離した瞬間……あたしの背筋が凍った。
園子が、恐ろしいほど冷めた視線であたしを見ていたのだ。
なぜ?WHY?さっきまであんなに顔を赤くして、目も潤ませていたのに。あきらかに、堕ちる寸前だったはずなのに……!

「いつから私がされるがままだと錯覚していた?」
「なん……だと……!?」
「風先輩、先手必勝の考えは間違えてはいません~。弱者が強者に勝つためには先んずることが肝要です~」
「ッ……!!」
「でも~、ゆえに行動は限られてしまうんですね~。フライングするとか~」

なんということだ……園子は、あたしの策を見破っていた。
見破ったうえで、受け止めていた……これが真の強者の姿とでもいうのか……!?

「風先輩、『後の先』は知ってますか~?」

『後の先』――かつての大横綱・双葉山が理想とした相撲の立ち合いである。
相手よりあとに立ちながら、あたり合った後には先を取っている。
最近、横綱・白鵬がこの領域に片足を踏み入れたらしいが、才ある者が何十年と修行してようやくたどり着ける境地だ。

「そ、園子……あんたまさか……東郷とのキス一回で……!?」
「イッつんの前で恥ずかしい姿は見せたくありませんよね~。降参してくれるなら、ここで辞めてあげますよ~?」
「こ、降参ですって!?あたしは、樹の期待を背負ってここにいるの!バカにしないで!」
「……そうですか~。では、君がッ!失禁するまでキスするのを辞めないッ!」

そこから先の記憶は、ほとんど残っていない。
園子によって新しい扉をこじ開けられ、よがり狂った挙句、あまりの快感に気を失い、当然のように失禁したのだろう。
しかし長い間気を失っていたわけではないようで、あたしが気付いたときは夏凜がカウントを取っているところだった。

「7、8、9――」
「かっ、はっ……」
「お、お姉ちゃん!」
「い、いつ、き……」
「お姉ちゃん、気をしっかり!」
「はぁはぁ……あ、あたしは……」
「お姉ちゃん!?しゃべっちゃダメだよ!おしっこもっと出てきちゃうよ!?」
「あ、あたしはぁぁぁ!!!」
「!?」
「樹とのキスの方が、気持ちよかったアアァァアァアァァァッァ!!!!」
「お、おねえちゃ……///」

あたしは樹に伝えたかった言葉を叫び終わると、意識を手放した。
その瞬間、股からも力が抜けてしまったのを覚えている。
まったく無様だ。妹の目の前で失禁してしまうなんて……でも、少し興奮した。

「にぼっしー審判」
「なに?」
「私の負け、だね~。『最強』はイッつんだよ~」
「……ふっ、そうね。友奈も異存はない?」
「うん、園ちゃんとキスした風先輩が樹ちゃんの方が気持ちよかったって言うんなら、きっとそうなんだよ」
「おめでとう、イッつん~」
「おめでとう、樹」
「おめでとう、樹ちゃん!」
「みなさん……ありがとうございます!これは、お姉ちゃんがくれた『最強』です!」

お姉ちゃんが意識を失ってしまったので、ここからは私――犬吠埼樹がお送りします。
でももうそんなにないです。あと少しお付き合いください。

私は気を失い床に倒れているお姉ちゃんをとりあえず椅子に座らせようとしましたが、私一人ではお姉ちゃんを運べず、
友奈さんと夏凜さんに手伝ってもらいました。
失禁してしまっているお姉ちゃんを嫌な顔一つせず運んでくれた二人には、ほんとに感謝です。

「園子先輩、申し訳ありませんが今日はお姉ちゃんのそばに……」
「うん~。勉強はまた今度みてあげるよ~」
「ありがとうございます」
「あ、樹ちゃん、風先輩がこんな状態じゃお夕飯作れないよね。よかったらわたしと夏凜ちゃんがラーメンつくってあげようか?」
「ありがとうございます友奈さん。でも、今日はがんばったお姉ちゃんに私が手作りで作ってあげたいです」
「……そうね、風の奴ちょっと格好良かったわ。漏らしてるけど」
「そうですね。でも、漏らしちゃっても格好いい自慢のお姉ちゃんです!」
「でもこのままじゃ帰れないね~。大赦に車出すように言っておくよ~。わっしーのことも家まで送らないといけないし」
「だ、大丈夫よそのっち……もう、立てるわ」

東郷先輩がヨロヨロと椅子から立ち上がりました。
しかし足元がおぼつきません。

「だめだよわっしー。車で一緒に帰ろう~。すぐにお風呂入らないといけないだろうしね~。一緒に入る~?」
「そのっち、すぐに車を呼んで!一緒にお風呂よ!あと……ファーストキス、よく覚えてないの……。もう一度してくれる?」
「もちろん~。これからは何度だってしてあげるよ~」

東郷先輩、家のお風呂で2回戦始める気だ……!さすが2年前から勇者をしていた人たちはすごい……!

「じゃあ、わたしたちは風先輩を家の中に運ぶの手伝うよ。家までは車で行けるけど、そこからは力仕事だからね」
「そうね、この状態の風を大赦の人に触らせるのは嫌でしょ?樹」
「はい……ありがとうございます。友奈さん、夏凜さん」
「やっぱり“さん”なんだね……」
「樹の中の尊敬基準は力仕事ではないみたいね……」
「……?なんですか、お二人とも?」
「なんでもないよ!」
「なんでもないわ!」

それから大赦の黒塗りのセダンでお家まで帰り、友奈さんたちの協力のもとお姉ちゃんをベットまで運ぶことが出来た。

「ふう……じゃあわたしたちはこれでお暇するね」
「なんか困ったことがあったら連絡しなさいね」
「今日は本当にありがとうございました」

友奈さんたちを見送り、お姉ちゃんの部屋に戻る。
お姉ちゃんは時々ビクンビクンと痙攣するが、まだ意識が戻ってこない。

「お姉ちゃん、今日はすっごい刺激的な日だったね///」

ちょっと色んなことが起こりすぎて、印象が薄くなってしまったが、今日はお姉ちゃんとのファーストキス記念日になったのだ。
私を一番かわいがってくれてたお姉ちゃん。ずっとずっと憧れだったお姉ちゃん。
その大好きなお姉ちゃんと、今日、さっき、キスをした。
いったん落ち着くと、先程お姉ちゃんとしたキスを鮮明に思い出してしまって、顔が熱い。
顔の熱さを自覚したら、今度は身体の奥からジンジンしてくる。お姉ちゃん、この感覚はなんなのかな……。
お姉ちゃんの顔を見てみると、少し顔が赤く、汗もかいている。なんというか、こういうのを色気というのだろうか。
ずっとお姉ちゃんを見ていたら、園子先輩にキスをされていた時のお姉ちゃんの姿がフラッシュバックしてきた。
園子先輩のキスに喘ぎ、腰をガクガクさせ、失禁してしまったときのあの顔は――幸せそうな顔だった。

私も。
私も、お姉ちゃんにあんな顔させてみたい。
お姉ちゃんを私が――!
もう我慢できなかった。意識を失ったままのお姉ちゃんに了承も得ずにスカートをめくる。

「お姉ちゃん、気持ち悪いでしょ?パンツ……脱がしてあげるね」

その後、行為の途中で意識を取り戻したお姉ちゃんは、私のことを受け入れてくれました。
え?行為の内容ですか?絶対教えません。お姉ちゃんの味を知っていいのは、世界で私だけですから!
でも、これだけは言っておきます。
お姉ちゃんは園子先輩とキスした時よりも幸せそうでした。

そして今度お姉ちゃんとデートに行く約束をしました!
2015年4月18日(土)公開の劇場版『ドラゴンボールZ 復活の「F」』を一緒に見に行きます!楽しみです!
最終更新:2015年03月23日 10:12