「ん…」
目を覚ますと、隣で穏やかに眠る友奈ちゃんの顔がある。
朝、最初に目を開いて視界に入るのが友奈ちゃんの顔だなんて、なんて幸せなんだろう。
例え今日が嘘を吐いていい日でも、私は絶対にこのことを偽れない。
「それにしても、少し寝すぎたかしら?今、何時だろう」
昨夜…少しだけ今日も入っているけど…は大変だった。
いつかのエイプリルフール(いつだったかは何故か正確に思い出せないのだけど)で私が吐いた嘘。
色々波乱はあったけど、その時は丸く収まったそれが、友奈ちゃんの中では不安として蟠っていたらしい。
本当は嘘じゃないんじゃないか、離れ離れになってしまうんじゃないか、嘘を吐いていい日に嘘が本当になるんじゃないか。
そんな不安から、友奈ちゃんが選んだのは“4月1日を、前日からずっと私と一緒に過ごす”ということだった。
「友奈ちゃん、可愛い…」
天使のような寝顔をで眠る友奈ちゃんの髪を優しく撫でながら、私は何度も何度も、毎日だって思っていることを反芻する。
昨日、2人でベッドに入ってからも不安そうに何度も何度も時計をチェックしていた友奈ちゃん。
4月1日を迎えたらすぐに時計を置いて、私が嘘を吐かないように拙い言葉で誘ってきた友奈ちゃん。
お陰で眠りについたのは体感で3時か4時を回ったくらいで、春休み中でなければ確実に遅刻だと思う。
「―――けど、このまま何もしないというのは少し勿体ないわね」
カーテンを開きかけて思い留まる。この前は少しやりすぎたとしても、罪のない嘘なら許されるだろうと。
私は友奈ちゃんの部屋に一着置かれている(何のためかは皆さんの想像にお任せする)制服の予備を取り出す。
そして、友奈ちゃんを起こさないようにそれを身に着けると、愛らしい寝顔を記憶に焼き付けてから体を揺すった。
「友奈ちゃん、友奈ちゃん!起きて!学校に遅れる!」
「う、ん…がっこぉ…?今日は、春休みだよ、東郷さん…」
「寝ぼけている場合じゃないわ!今日から新学期じゃない!」
「え…へ…?え、えー!?」
私が制服姿なのに驚いて、友奈ちゃんの眼がぱっちりと開かれる。
慌ててベッドから這い出し、制服を探すべきか顔を洗いに行くべきかで悩んで、冬眠明けの熊さんのようにうろつく友奈ちゃん。
可愛い、可愛すぎる。今すぐ押し倒して昨日の続きをしてしまおうかと思うほどに!
結局、まず携帯電話を開いた友奈ちゃんの眼が、再び驚きに見開かれた。
「ふふっ、ごめんなさい友奈ちゃん。冗談よ、冗談。今日はまだ4月1日」
「し、心臓に悪いよぉ…もう!東郷さんの嘘吐き!嘘を吐く子はお仕置きだからね!」
「エイプリルフールということで赦してほしいわ。ほら、今年はまだ罪がないでしょう?」
そう言って笑う私に向かって、友奈ちゃんは何故かニヘラと笑い返した。
「東郷さん、エイプリルフールで嘘を吐いていいのは、午前中だけって知らない?」
「そう言えば、そんな説もあるそうね。けどほら、時間はまだ大丈夫―――」
指差した枕元の時計は10時を少し回ったところを指している。
友奈ちゃんは何故か笑いを深くして―――さっとカーテンを開いて見せた。
「!?!?」
太陽が、高い。どう見ても正午を回った位置に太陽がある。
まさか、と思って私は自分の携帯電話を開いてみる。午後1時3分。思った以上に私たちはよく眠っていたらしい。
「本当はね、東郷さんがこの時計と自分の携帯の時間が違うのにびっくりする、っていう嘘だったんだけど…。。
仕方ないよね、東郷さん?もう嘘を吐いていい時間じゃないし」
やられた、と思う。
友奈ちゃんがやたらと時計を気にして弄っていたのは、自然な動きで時計を遅らせる為だったのだ。
友奈ちゃんがそれをやったのは12時を過ぎてから。“午前中”なので赦される。
「よっと。じゃあ…もう一回、寝ようか」
カーテンをさっと閉めた友奈ちゃんの顔は、天使は天使でも悪戯好きの堕天使のそれで。
―――とりあえず、置いていた制服がその役割を果たしたことだけ、ここに報告しておく。
最終更新:2015年04月01日 09:23