8・101-112

部室

「そういえば、そのっちの小説まだ読んだこと無かったのよね」

「時間もあるしちょっとだけ」カチカチ

「……」

「これは、2年前の私とそのっちをモデルにした話……?」

「私の記憶が戻って、そのっちもあの頃を懐かしんでいるのかしら」ホロリ

「そうそう、こんな風に一緒の布団で寝たのよね。……ん?」

(小説がR-18展開に突入)

「」

「わっし~なに見てるの~?」

「わぁっ!!」


「あ、それ……」
「え、あの、勝手に読んでごめんなさい。でもこれって……」
「…………」

 気まずい──。

 この雰囲気の中で、ちょっとした興味本位で覗いたことを後悔する。しかし私の中で、後悔以上の思いが湧き上がっていることを自覚していた。

「友達だから題材にしたの?」

 だが私は、思いを口に出すより先に問いかける。自分と同じ思いを相手が抱えこんでいる、とは限らないからだ。勝手に勘違いして思いを伝えた結果拒否される、そんなピエロにはなりたくないという弱さのあらわれ。

「……ううん、違うよ~。わっしーのことが好きだったから書いたんだよ」
「好きだから……じゃなくて『好きだった』なの?」
「今のわっしーにはゆ~ゆ~がいるからね。私は身を引いたんだよ」

 彼女が私から目をそらす。そして表情は普段なら絶対に見せないであろう哀しみを帯びていた。

(それは違うと言いたい、今すぐに)

 だけどそうはいかない。彼女のことだ、咄嗟に否定したところで「わっしーは優しいね」と静かに微笑む返すだけだろう。

「ねぇ園子、私の話聞いてくれる?」
「……いいよ」

 彼女が私へと目を向ける。

「私ね、友奈ちゃんのことが好き」
「そんなこと、もう知ってるよ」
「それに夏凜ちゃんのことも好きなの」
「え?」
「それだけじゃない、風先輩も樹ちゃんも銀も好きなの」
「……」

 何も言ってこないが、視線で「なら私は?」と聞いていることがわかった。でもそれにはまだ答えない。

「みんなことが好き。大切な友達として、仲間として、みんなで一緒過ごしたい」
「そうなんだ」

「だけど私が二人っきりでいたいと思うのは貴方だけ。私が愛しているのはそのっち……いえ、乃木園子なのだから」
「……!?」

 彼女は私の言葉を聞いて驚き、すぐに返答ができずにいた。だけど、表情からは「信じられない」という考えがみてとれる。落ち着くためか、彼女は一旦深い息を吐く。そのまま口を開いた。

「そう言ってくれてありがと~。でもね、そんな優しさは必要ないんだよ」

 先程までと違う、普段通りの口調。そして「もうこの話はこれで終わり」とでも言いたいのか、顔を私からそむける。

(言葉でわからないって言うのなら)

 私は近づいて両手を彼女の頬に当て、こちらに顔を向けさせる。

「私を見て」
「わ、わっしー?」

 困惑する彼女に構わずに唇を奪う。

「んん!?」

 だけど長くは続けない、数秒と経たないうちに顔をゆっくり離す。

「これでわかったでしょ? 私は本気よ」
「…………」

 返事はない。ただ、ボーッと呆気にとられているようだ。

「そのっち?」

 呼び掛けで正気に戻ったのか、私に笑顔を向ける。そして両目からは涙が零れていた。

「私も、私もね……ずっと……ずっとずっと前から……好き。愛してるの……」

 お互いに抱きしめ合う。もはや言葉は不要だった。

 ──────その後。

「それにしても……」
「なに?」
「もうちょっと長くして欲しかったかな~、なんてね」

 彼女が指を自らの唇へ当てる。

「そうね。次はもっと長くて深いのをしましょう」

 『次』……そう、これからなのだ。この先ずっと私たち二人で過ごしていく。今までの分を取り戻すだけじゃ足りない。忘れない思い出を作っていく。それはきっと……いや、間違いなく幸せなのだろう。

終わり
最終更新:2015年04月05日 01:18