8・132-197

部室

「東郷、2年前の記憶取り戻したんだって?」

「夏凛ちゃん…ええ、まだほんの一部だけれど」

「乃木さんと一緒だったんだよね。どんな感じだったの?」

「先代勇者の日常、少し興味あるわね」

「そのっちとは…えーっと…」

「そう、よくイネスで遊んでいたわ。
 そこでいつもジェラートを食べさせあいっこしていたわね」

「仲良かったんだねえ」

「あとは、一緒に勉強して、一緒に訓練して、一緒にお風呂に入って」

「ん?」

「一緒のお布団で寝て…お互いの、素肌に、触れ合って……」アセダラー

「と、東郷さんっ」アワワ

「東郷、あんたまさか…」

  ■

「勇者部、入部希望の乃木園子です~」


「か、歓迎するわ」

「そのっち、また一緒で嬉しいわ…
 あっ…!い、一緒に勉強できるって意味だから」

(この違和感はなんだろう~?)

「わっしー、どうかしたの~?」
「な、なんでもにゃ……なんでもないわ」

 慌てすぎて噛んでしまった。どうも自分で思っていた以上に動揺しているらしい。彼女は不思議そうな顔をしていたが他の部員との話を始めた。

(まともにそのっちの顔を見れなかったわ)

 試しに片手を自分の頬に当ててみる。ほのかに熱い。記憶を取り戻したとは言え、まだ殆ど話していない状態でこの有様だ。

(このモヤモヤを解消したい)

 その方法は簡単だ。彼女に全て思い出したことを告げた後、記憶を失う前のように誘って共寝でもすればいい。

(だけど……)

 私は思い出してからこの気持ちが出てきて、それを我慢してきた。だが彼女の方はどうなのだろう。そもそも、今でも好きでいてくれているのだろうかという不安がある。

(かといって悩み続けても仕方がないわね)

 部活を終えての帰り道。「帰りはそのっちと二人っきりで歩きたい」と告げたことで今は私と彼女だけだ。私も彼女も一言も喋らずに歩き続ける。
 気まずいからそうなってるわけではない、彼女の傍にいると自然にこうなるだけだ。この場の空気というか雰囲気というか……ずっと浸りたくなる心地良さがある。
 このまま今日を終えるのも悪くはないだろうけどもう決めたことだ、私は立ち止まり彼女に話しかける。

「ねぇ、そのっち」
「ん~?」

 呼びかけたことで園子も立ち止まり、私の方へと振り向く。私はそこで全て思い出したことを告げた。そして、

「昔みたいに私と付き合って欲しいの」
「もちろんだよ、わっしー」

 私が告白を言い終えた瞬間に返事をされる。この早さは反射神経だとかそう言うことではないだろう。つまり……察しられていたらしい。

 今の流れなら断られない筈、という策略とは決して言えない拙い思考をもとに彼女を誘う。

「ところであの……そのっち。良かったら今日にでも、私の家に泊まりに来てくれないかしら?」

 ただのお泊りではない、という私の意図に気づいたようで一瞬驚いた表情をされる。だが、すぐに嬉しそうに微笑んで答えてくれた。

「わかったよ~。優しくしてあげるからね」
「……うん」

 返事をした後、手を繋いで歩き出す。それから間もない内に『好き』という言葉をまだしっかりと言ってないことに気づく。
 でも、そんなことは些細な問題だ。これからしっかり伝えていけばいい。少なくとも、今夜は『好き』を何度も伝えることができる位に長くなりそうなのだから。

終わり
最終更新:2015年04月08日 00:24