東郷さんが私にとって、そういうひとになったのはいつからだったろう
少なくともそう、意識したのは、あのバーテックスとの最後の戦いからだと思う
「東郷さん、髪弄ってもいい?」
今日という日も終わりに近づいた時間帯、私は東郷さんの部屋にいた
ちょっとお願いをして、東郷さんの家にお泊りさせてもらうことになったのだ
「いいよ、友奈ちゃん、お願いするね」
東郷さんの許可を貰ったのでいつも身に着けているリボンを
外させてもらって、その髪をいじり始める
東郷さんの髪を弄りながらも、特に何かを話すでもない
東郷さんも弄られるがままに身を任せた、ゆるっとした時間が過ぎていく
私の心の内だけは、とてもじゃないけどそんな心境ではなかったけど
東郷さんの部屋に訪れてから、ずっと機会を、踏ん切りを探していた
ううん、ずっとだ、泊りに来てからでも、今日でもなく、ずっと
東郷さんの事を意識しだしてからの私は言いたい言葉があった
けれども結局、今の今までそれを口に出来なくて
いつもの、それになってしまう
「……」
「どうかした、友奈ちゃん?」
そんな私の心境が様子に出ていたのか、東郷さんに声をかけられてしまった
「う、ううん、なんでもないよ」
誤魔化すようにそれまでどちらかといえば梳くに終始していた東郷さんの髪を結い始める
「ふふっ、変な友奈ちゃん」
きっと東郷さんは今日が、明日が何の日かを分かってて
察してくれて深くは触れないでくれているんだろう
年度末生まれの私と、年度初め生まれの東郷さんとでは
同じ学年だけど、同い年である期間はとっても短い
だから、屁理屈かもしれないけど、あなたに並べているこの間なら
もうひと押しの勇気が持てるかもしれないと、思ったんだ
……それが、この体たらくなんだけど
「よし、できた」
東郷さんに手鏡を渡し、出来上がった髪型を見せてあげる
勇者部の合宿で旅館に泊まった朝方に東郷さんにしてあげた髪型
「あ、この髪型……」
そっと、部屋の時計を確認すると、タイムリミットへのカウントダウンが始まっていた
3
こんなにも絶好のチャンスなのに
2
今だ、いけ、と心は叫んでいるのに
1
口を無理やり開いても、どうしても、その言葉が出てくれない
……4月、8日
「東郷さん、誕生日おめでとう」
きっと今の私はとっても情けない顔をしてるんだろうな
こんなにもあなたへの想いに溢れてるのに、ただ一つ
あなたの名前を呼ぶ勇気すら持てないなんて
最終更新:2015年04月09日 10:51