最初は純粋に喜びからだったと思う。
友奈ちゃんと並んで歩ける。同じ目線を共有して日々を過ごせる。
そのことに感極まって、思わずと隣を歩く友奈ちゃんの手をギュッと抱き寄せてしまった。
友奈ちゃんは急なことに驚いたようだったけど、笑って“今日の東郷さんは甘えん坊だなあ”とい受け入れてくれた。
それが嬉しくて、手を繋ぐだけでは足りない気持ちになってしまったら、彼女に抱き付くのが普通になっていた。
「その、東郷さん、嫌ではないんだけどね?でも外ではちょっと控えた方がいいかなって」
そう言われた時はとてもショックで、気持ち悪いと思われてしまったんじゃないかと不安になった。
けれど、そうでないのは隠し事のできない友奈ちゃんを見ていると一目瞭然で。
私が抱き付いたり、胸をくっつけたりすると、友奈ちゃんは明らかに照れていることに気付いた時、私の中で小さな邪心が起きた。
外では控えよう、けれど2人きりになる機会は幾らでもある。
その時にこうしてくっつき続けたらどうなるのか、試してみたくなった。
「(ごめんね、友奈ちゃん。けれど照れた友奈ちゃんがとても可愛いから)」
朝、登校する前に。昼間、部室で2人きりになった時に。夜、宿題を教えてあげる時に。
彼女が綺麗と言ってくれた体を寄せて、胸をくっつけて、友奈ちゃんと温もりを交わす。
真っ赤になりながらも平静を保つ友奈ちゃんを見ていると、もしかしたら私の気持ちに脈があるんじゃないかという気がする。
一番の友達よりも、もう少しだけ先に行きたい気持ちに、いつか答えてくれるんじゃないかという期待。
―――その期待は、非常に前向きに破られることになるのだけど。
「え、えぇと、友奈ちゃん?」
「ごめんね、東郷さん。ごめん」
宿題を教えた後、ほんの短し休憩時間。ベッドに2人腰かけて話していた時、いつものように私は身を寄せたのだけれど。
ほんの一瞬の浮遊感の後、、友奈ちゃんに押し倒されるような形になっていた。そう言えば友奈ちゃんは武道をやっていたっけ。
「でもね、東郷さんも悪いんだよ?こんなに綺麗で、やわらかくて、いい匂いがするのに、気安くくっついて」
「ちょ、ちょっと待って友奈ちゃん。謝る、謝ります!だから少しだけ待って!こういうのはまだ早いと思うの!」
「大丈夫だよ。好きだから。東郷さんが好きだから、大丈夫」
すごくうれしい言葉をかけられているのに、その内容の滅裂さから少しも安心できないこの状況。
しかも、私が明らかに私がやりすぎた結果なので強く拒否することもできない。
「友奈ちゃん、怖いから…!まだ怖いの、私…」
「怖くないよ、よしよし…」
ぎゅうと抱きしめられて、頭を撫でられる。友奈ちゃんの、何かのお花に似た匂いが頭の中いっぱいに広がる。
私よりは小ぶりだけど、確かな柔らかさのある胸に抱かれていると、強制的に気持ちが落ち着いてしまう。
頭、背中と撫でられ続ける内に、私は完全に抵抗の意思を失っていた。
こんなことを私もしていたのかと思うと、友奈ちゃんが暴走してしまうのも無理ないと思う。
「無理だったら、ごめんね?」
「な、何が…?」
「優しくするの。無理だったら本当にごめん」
友奈ちゃんの言葉に、勝手に目の端に涙が溜まっていく。
私は多分世界で一番甘やかな絶望の中に沈みながら、頭の隅では“私も後で好きって言わないと”と冷静に考えていた。
追記:あんなことを言っていたけど、友奈ちゃんはとても優しかったです。
最終更新:2015年04月11日 08:38