「東郷、ウェブの方の依頼はどんな感じ?とりあえず依頼ボックスだけ設置したって言ってたけど」
「はい、今日は少なめで1件ですね。内容は…」
そこまで言ったところで、東郷さんの顔がみるみる赤く染まって、そのまま黙り込んでしまった。
私たちが女の子の集まりだからか、時々セクハラ紛いの依頼がやってきたりすることもある。
憤りながら東郷さんの後ろから画面を覗き込むと、意外にも依頼者は女の子からだった。
少し前まで、私と東郷さんで手伝いに行っていたお菓子研究会からだ。
東郷さんは和菓子の作り方指導、私は力仕事で分業してお手伝いをした。
『前回の依頼は本当に助かりました。結城さんと東郷さんにはとても感謝しています』
なるほど、依頼のメールじゃなくてお礼のメールだったみたいだ。
これを見て真っ赤になっちゃうなんて、東郷さん可愛い…。
『それで、お2人に聞きたいのですが、やっぱりお2人はお付き合いしているのでしょうか?
ふとした時、お2人から香る石鹸やシャンプーの匂いが同じだったので絶対そうだと後輩たちが騒いで…』
私の顔も、東郷さんと同じくらい赤くなっていたと思う。
ひょっこりと風先輩が横から覗き込んで、うんうんと何度か頷いて見せた。
「で、実際どうなの?」
「どうって何ですか!?つ、付き合ってません!お友達です!親友です!」
「そ、そそ、そうですよ!まだ告白もしていないのに付き合うなんて、順序がなっていな…」
「東郷さん?東郷さーん!?」
「ふーん、あんたらならもうイチャラブでも別におかしくないなあって思ったんだけど」
ケラケラと笑いながら椅子をくるくると回してみせる風先輩。
何というか、鋭すぎて相変わらず困る…確かに、私はそういう目で東郷さんを見てる部分はあった。
けれど、東郷さんの方はあくまで私を親友として見てくれている(はず)だ。迷惑をかけてはいけないと我慢している。
「でも、シャンプーとかデオドラント、同じもの使ってるわよね。
しかも、その辺で売ってるのと違うちょっと高い奴」
「それは…その、そういうのを買いに行く時はいつも一緒ですから」
「元は母に買ってきてもらっていたんですが、友奈ちゃんがいい匂いだと言ってくれるので2人で買いに行くようになりました
友奈ちゃんの匂いは何かのお花に似ているので、この香りがとてもよく似合って」
「東郷さんも、甘い匂いとシャンプーの香りが混じって凄くいい匂いがするよ!」
「…付き合ってないのよね、本当に?」
『付き合ってません!』
私と東郷さんの声が見事に重なる。ワガママなことに、そこまで否定しなくてもいいのにな…と少しだけ思ってしまった。
「OKOK、解ったわ。ならこうしましょう。そのブランド、アタシにも教えてよ」
「え?」
「そうすれば、2人だけで共有してる訳じゃなくなるから誤解も消えるでしょ?
むしろ、女子力全開のアタシに憧れて後輩たちが真似している構図になるわ!」
「実際は逆ですけどね…」
ちょっと高めとは言え、普通に売っているものなんだから教えていけない訳がない。
なのに、私は少しだけ“嫌だなあ”と思ってしまった…風先輩、ごめんなさい。
「解りました、私と友奈ちゃんが使っているのは…」
東郷さんがハキハキと答えて、それを風先輩がメモしていく。
私たちの間にあった小さな特別がなくなってしまうことに、私は何だか寂しくなる。
と、東郷さんがこちらを見上げて、鞄の中を指差した。
そこに入っていたのは……。
※
「…と、いうことがあって、勇者部ではこれらを統一することになった訳」
「何というか、羹に懲りてあえ物を吹くような話ね」
「でも、すごく髪がサラサラになるし、いい匂いだから結果的に良かったです」
「まあ私もそういうの解んないし助かってはいるけれど」
懐かしい、まだ勇者部が3人だった頃のお話だ。
あの頃は東郷さんと微妙に気持ちがすれ違っていて、色々とやきもきしていたっけ…と懐かしい気持ちになる。
後で聞いた話だと、東郷さんもあの頃にはもう私を好いてくれていたそうで、自分の鈍さが嫌になる。
いや、仕草とか態度で“もしかして?”と思うたびに否定してたから、鈍いとはちょっと違うんだけど。
「でも、今思うと東郷はあの時よく教えてくれたわよね。2人だけの秘密ですから、とか言ってもおかしくないのに」
「市販品でそれを言い出すのはどうかなと思ったので。それに…」
東郷さんがチラリとこちらに視線を送ってくる。私はうんうん、と笑顔でその視線に答えた。
私たちの制服のポケットには、共通のリップクリームが入っている。
あの時、東郷さんが鞄の中に入れていたもの。勇者部でも共有していない、私たちだけのお揃い。
「やっぱり、2人だけの共有しているものがあってもいいと思うの。だって、一番近い相手だもの」
そう言って東郷さんと買い揃えたものだ。
こうして互いの気持ちに気付いてからだと、あの時の東郷さんはかなり積極的だったんだなあとほんわかする。
「その視線、何だか意味深ねえ…ま、見逃してしんぜよう。東郷、今日の依頼は?」
「はい、ウェブの方に1件来ていますね。内容は…」
そこまで言ったところで、東郷さんの顔がみるみる赤く染まって、そのまま黙り込んでしまった。
私たちが女の子の集まりだからか、時々セクハラ紛いの依頼がやってきたりすることもある。
憤りながら東郷さんの後ろから画面を覗き込むと、意外にも依頼者は女の子からだった。
『勇者部のみなさんは、5人で付き合ってるんですか?シャンプーや制汗スプレーのブランドが一緒で…』
とりあえず、風先輩の作戦は失敗だったということ思い知りつつ、これをどう伝えようか私は頭を抱えた。
最終更新:2015年04月13日 10:55