勇者部5箇条、1つ、悩んだら相談。
かつて相談を怠った結果、色々やらかしてしまったアタシと東郷は、平和な日々に戻った後特にこれを徹底するようになった。
自然、東郷が相談する相手はアタシの比率が上がって来ているのだけど。
「ちょ、ちょっと東郷?なに、何のつもり!?」
相談があると呼び出されて保健室にやって来たら、いきなり東郷が上着を脱ぎ始めた。
職員会議で先生は居らず、体調の悪い生徒やサボりも居ない、2人っきりのこの状況。
いやいや、待ってほしい。確かにアタシの溢れる女子力は同性を魅了してもおかしくないけどアタシには樹と言う最愛の妹が…。
「あの、風先輩。俯かれると見せられないんですが」
「み、見せてどうするつもりよ!?」
「いえ、ですから相談を」
東郷の声が思った以上に冷静なので顔を上げてみると、脱いだ制服で前を隠しながらくるりと背中を向けて見せる。
真っ白できめ細やかな美しい肌。友奈が綺麗だといつも言っているその肩に…小さな痕が付いていた。
どうやらそれは歯型らしいと、見ていて気付く。
「なにそれ?野良猫にでも噛まれたの?」
「いえ、その…実は最近、友奈ちゃんと一歩進んだ関係になったんですが…その時、友奈ちゃんに」
「Oh…」
確かに最近の東郷のスキンシップは過剰な程だった。
足が動くようになり、かつての親友も勇者部にやって来て、様々な蟠りが消えた東郷のアクティブさは眼を見張るほどで。
こりゃあ遠からず友奈も落ちるだろうな、と思っていたが予想以上にそれは早かったらしい。
「それで、相談はその噛み痕のこと?」
「はい。友奈ちゃん、とても優しいし、こちらを気遣ってくれるし、それでいて経験がないとは思えないくらい指使いとか巧みで」
「ストーップ!よそ様の婦婦生活とかあんまり詳しく知りたくないんですけど!?」
「あ、ごめんなさい。友奈ちゃんは今言った通り優しいんですが、その、興奮してくると噛み癖があるみたいで」
そう言えば、友奈はいつぞやか東郷のことを“美味しそう”だの“甘い匂いがする”だのとも言っていた。
気遣いの鬼とは言えまだ学生、しかも好きな相手が誘惑してきたとなったら、理性を失ってしまう部分もあるだろう。
「う~ん、つまり友奈に、えーと、行為中に噛むのをやめるようアタシに言えってこと?
いや、流石にそれは馬に蹴られるってレベルじゃないんじゃ…」
「そうじゃないんです、誤解させてすいません」
「???」
「あの、私…噛まれるの事態はそんなに嫌じゃなくて」
何だか物凄くディープな告白が飛び出した。
とりあえず意識が何処かに飛びそうになるのを樹の笑顔を思い出して堪える。
「友奈ちゃんが、段々と私の名前を呼ぶことしかできなくなって来て、やらしい声が上がりそうになるのを必死に耐えて。
我慢しきれなくなって、自分の腕を噛もうとするのをそっと抑えて肩を差し出した時の顔がまた可愛くて」
「東郷ー、お願いだから本筋に戻って東郷ー」
「はっ!それで、こういう小さな傷に効く良いお薬とかあったら紹介してほしいと思いまして。
友奈ちゃんに聞いてもいいんですけど、ちょっと責任を感じさせてしまうかなあと」
なら、その用件だけで告げて脱ぐ必要は無かったんじゃないだろうか。アレですか、惚気たかった的な奴ですか。
確かに樹や夏凜は最後まで聞いてくれないだろうし、園子は逆に落ち着いて話せないくらい色々聞いて来るだろうけど。
まったく、私はもうすぐ勇者部を、讃州中学を卒業するのに大丈夫だろうか後輩たちは。首筋を掻きながら思う。
「…いい薬紹介したげるから、取り敢えず服着なさい。友奈に見られたら誤解されるわよ」
「………」
「それもちょっといいかもとか思ってないわよね?」
「お、思ってませんよ?友奈ちゃんはアレで独占欲も強いから今夜は凄いだろうなー、なんて」
「バカップル…」
…本当に大丈夫だろうか、この子らは。
「東郷さん!保健室に用事ってもしかして…!」
間一髪のタイミングで友奈が保健室に飛び込んでくる。
東郷の方は涼しい顔だけど、逆にアタシの方がうろたえそうになった。
「もしかして?風先輩に相談があったから、保健室を使わせてもらっただけなんだけど」
「良かったぁ…。東郷さん、嫌なことがあったらちゃんと言ってね?」
「ええ、ありがとう、友奈ちゃん。でも私は、友奈ちゃんにされて嫌なことって思いつかないわ」
「東郷さん…!もう、可愛すぎるよ!」
アタシがいなければ抱き付きそうな、むしろベッドの使用も辞さない空気を放つ婦婦。
まあ、これなら大丈夫だろう。そう私は思い直した。
おまけ
―――その夜、犬吠埼家。
「それでお薬紹介してあげたんだ。優しいね、お姉ちゃん」
「ん…あ…樹ぃ…」
「そういうの馴れてるもんね、お姉ちゃんは。ふふふ、今日は何処を噛んじゃおうか?」
「み、見えないところにしてぇ…今日は、東郷に見られそうに…」
「見せてあげたら良かったのに。うん、今日も首筋にしようか…みんなにお姉ちゃんが誰のものか、知ってもらおうね?」
…一番大丈夫じゃないのは、我が妹かも知れない。
最終更新:2015年04月14日 08:58