「え！？ウェディングドレスが一着足りない！？」
そんな声が聞こえたのは、小さな撮影スタジオで順調に企画が進行している…はずの時だった。
地方紙に載せる『君の夢をデザインしよう』という企画のモデルに選ばれた私たち讃州中学勇者部。
風先輩はモデルさん、夏凜ちゃんは婦警さんというように、貸衣装屋さんの全面協力を得て快調に撮影は進んでいた。
残るは私と東郷さん、２人そろってウェディングドレスでお嫁さん風に撮影するだけ。
そこに至って、突然トラブルが発生したようで…。
「すいません、どうも結婚式の衣装ってことでウェディングドレスとタキシードのセットが届いてたみたいで…」
「まいったなあ。モデルさんたち学生さんだから、日を改めてってなると休日潰してもらわなきゃいけなくなるし…」
「なんだか、雲行きが怪しくなってきたわね」
ウェディングドレス姿の私をビデオで撮影していた東郷さんが言う。勿論、こちらは東郷さんの私物になる予定だ。
「せっかく東郷さんのウェディング姿が見れると思ったのにぃ…」
「私は友奈ちゃんのお嫁さん姿が見られたから、もう割と満足なんだけどね」
「２人揃ってウェディングドレス着たかったんだもん！」
「いいよ～、続けて！続けて！」
看護師さんの衣装のままで園ちゃんがメモ帳にペンを走らせる。
なんだかカルテを記入してるみたいに見えなくも…いや、そっちは今は良くて。
「友奈、ワガママ言っちゃ駄目よ？とりあえず今から脱ぐのも何だし、友奈１人で撮影するってことで…」
「うぅ、なんだか寂しいです」
「しゃーないでしょ。婦警や看護師と一緒に写ってたら意味深過ぎるし」
「連行される直前とか、余命○○の～とか浮かんじゃいますね…」
ちなみに樹ちゃんはコックさん。パティシエさんかな？高い帽子がズレそうになって何度も直している。
「すいません。衣装一着足りないみたいで、申し訳ないですけど撮影は…」
「いえ、大丈夫です。タキシードはあるんですよね？」
「え？あ、はい、そっちは問題なく」
「あ、そっか！それを私が着れば問題ないよね！」
ダブルウェディングの夢は消えてしまったけど、これはこれで美味しいかも知れない。
ウェディングドレス姿の東郷さんを、お姫様だっこなんかしちゃったりして…えへへ…。
「いいえ、友奈ちゃんは脱ぐ時間も勿体ないからそのままでいて？」
「え、でも東郷さん…」
「少しお待ちを」
そう言って、颯爽とタキシードを手に更衣室へと消える東郷さん。
それから、約５分後…。
「お待たせしました」
「！？！？！？」
「こ、これは…」
どんな魔法を使ったのか（後から聞いたら胸をサラシでかなりきつく縛ったらしい）、ばっちりとタキシード姿を決める東郷さん。
大人びた怜悧な容姿のお陰かどんなイケメンよりも格好良い！
それでいて完全には抑えきれなかった胸が、ふっくらと女性らしさを主張している。
「………きれい」
「ふふ、ありがとう、友奈ちゃん。それじゃあ撮影しましょうか？」
そう言って東郷さんは私の体を軽々と持ち上げて見せる。
入院生活で体重が落ちてたのもあるけど、東郷さんは元々腕の力は凄く強いのだ。
でも、これってつまりお姫様抱っこで…考えてたのと逆の構図で…。
「こ、このまま撮影するの！？恥ずかしいよ、東郷さん…！///」
「最近、友奈ちゃんのことを狙っている男女が結構多いのよね…」
「いきなり何の話？」
「だから、この辺で私のモノだってちゃんと主張しておこうと思って」
「公私混同だよ東郷さん！それにそんなことしなくても私は東郷さんのものだよ！」
「おーい、バカップルー。アタシらだけじゃなくて、撮影の人もいるのを忘れずにー」
『あ…』
編集とかで何とかしてくれたらしいけど、その写真は花婿も花嫁も（あと実は撮影者も）赤面しているという写真になった。
あと、何故か企画のお姉さんとカメラマンのお姉さんに“頑張ってね！”とエールを送られた。頑張ります。
「あー、恥ずかしかった…東郷さん、最近積極的過ぎだよ！」
「そうかしら？友奈ちゃんが可愛すぎるのが悪いと思うんだけど」
「何というか、東郷の返しが凄いレベルに達しつつあるわね」
「これでこそ、わっしー完全体だよ！」
帰り道、一度崩れてしまったペースはなかなか取り戻せなくって、私は東郷さんにされるがままだった。
そういうのも嫌いじゃないけど、できたら一矢報いるくらいはしたい。
「次があったら、私がお姫様だっこしちゃうからね！」
「えー…友奈、それ仕返しのつもり？」
「何か変だった？」
「ただの惚気じゃないって思っただけよ。まったくアンタらは…」
すっかり夏凜ちゃんには呆れられてしまったけど、重要なのは東郷さんの反応だ。
ほんの少しでも赤面でもしてくれれば、今日の戦績は引き分けで…。
「次の機会って、もしかして本番？」
…結城友奈、轟沈です。
最終更新：2015年04月18日 08:39
