「そのっち、最近の姉様をどう思う?」
「どう思うって、ゆーゆと仲良しで可愛いな~って」
「そう、可愛いの。すっかり可愛い女の子なの。由々しき事態だわ」
私の主張がピンと来ないらしく、そのっちも銀も頭に?マークを浮かべている。
私の名前は鷲尾須美。親友のそのっちこと乃木園子と三ノ輪銀と共に、最近双子の姉の居る讃州中学へと転校してきた。
かつて私たちは勇者としてバーテックスから世界を守る為に戦い、姉様は記憶を、私と銀は意識を失い2年が過ぎた。
目覚めた私に知らされたのは、姉様たち讃州中学勇者部がバーテックスを撃退し、その結果として供物が神樹様から返されたこと。
私たちが眠っている間も戦い続けてくれたそのっちの回復を待って、3人で讃州中学へ転校することになったのだけど。
「姉様が鷲尾家から戻されたことを聞いた時も驚いたけど、実際に出会ってもっと驚いたわ…。
2年前の姉様って、怜悧で聡明で少し影のある感じだったでしょう?」
「影云々はピンと来ないけど、それこそ須美の生き写しみたいな感じだったよな。いや、妹の須美が生き写しなのか?」
「そ、そこはどっちでもいいわ。けれど、今の姉様は…」
「須美、そのっち、それに銀。ぼた餅を作ったんだけど食べない?」
ニコニコとほほ笑みながらお手製のお菓子を差し出す私とよく似た、でも色々と大きな女性―――東郷美森。
目覚めた私が再会したのは、2年前の私の印象とは大きく食い違う姉様だった。
なんというか、全体的に雰囲気が柔らかくなり、可愛らしくなり、ちょっとだけ悪戯好きになった。
そして何より。
「いただきます!それにしても、こんなに余ってるなんて珍しくない?」
「今日は調理実習があったんだけど、友奈ちゃんが失敗した班の分まで食べて回っていたから。
お陰でみんな笑顔で実習が終えられたんだけど、ぼた餅は流石に入らないって…それでも3個くらい食べてくれたけどね」
そう、この顔だ。結城友奈…さん。実は姉よりも先に私たち3人が遭遇したこともある、讃州中学勇者部2年生。
彼女について語るとき、姉様の顔は本当に幸せそうな笑顔になり、全身から好意を放っているかのようだ。
確かにこの2年間、記憶を失った姉様を私たちの代わりに支えてくれたことはとてもありがたい。
それに友奈さんが人間的な魅力に溢れた人であることもよく知っているし、勇者部に入って更によく理解できた。
けれど、姉様がすっかり変わってしまった原因も、やっぱり友奈さんなのは確かだった。
「須美が作る菓子もいいけど、やっぱりみも姉が作るぼた餅は最高だな!こりゃ友奈さんも夢中になる訳だ!」
「ふふ、銀もそろそろ友奈って呼んでもいいのよ?そのっちみたいに親しく呼んでほしいって友奈ちゃんも言っていたし」
「いやー、初めて会った時は年上だったから中々ね」
「?」
「ミノさんはそういうところ律儀だよね~」
そのっちも銀も今の姉様を自然に受け入れているし、友奈さんともすっかり仲良しだ。
だからこそ、複雑なものを抱えたままの私は何だかますます疎外感を感じてしまう。
2年前に私だけが取り残されてしまっているかのようで…。
「須美、また何か1人で考え込んでいるでしょう?」
こつん、と姉様が私と額を合わせて言う。
こんな大胆なスキンシップも昔は無かったので、何だか照れてしまう。
「勇者部5箇条、1つ、悩んだら相談。話せるようになったら私にまず言ってね?」
「は、はい…(姉様にだけは言えない悩みなんだけど…)」
「前にそのっち達が言っていたけど、須美は少し思いつめすぎるところがあるから」
それは姉様も同じだった、私たち姉妹はどちらも色々と抱え込んでしまう所がそっくりだった。
けど、今の姉様はそんな時にぐいぐい引っ張ってくれる相手がいる。
「東郷さーん!やっぱりここだった!須美ちゃんたちも一緒に行こう!勇者部出動の時間だよ!」
「友奈ちゃん。教室で待っていてくれたら戻ったのに」
「えへへ、鞄も持ってきちゃったから安心だよ」
このさりげない気遣い、ただ明るくて空気の読めない子とは違う所がまた姉様を夢中にさせるに違いない。
正直、私だって少しグラリと来そうになることが…。
「きゃっ!そ、そのっち、銀?急に手を握ってどうしたの?」
「うーん、須美が取られないように?」
「みもりんは取られちゃったけど、わっしーは私たちのものだからねー?」
「わ、訳が解らないわ」
3人で手を繋いでいると、うじうじと悩んで沈んでいた心が少しずつほどけていく気がする。我ながら現金なものだ。
一方の姉様は、時々友奈さんの方に手を伸ばしかけては下げるを繰り返して、結局気付いた友奈さんにしっかりと手を握られていた。
…確かに、可愛いのもいいのかも知れない。そのっちと銀のお陰か、余裕のある気持ちで私はそんなことを思った。
最終更新:2015年04月21日 10:42