友奈side
東郷さんと来た夕日の見える公園で、ベンチに二人で腰を掛けた。
夕日は水平線へと姿を消し始めたところで、吹く風が大地に残ったわずかな熱を冷ましていく。
ふと、東郷さんが体を預けてきた。
横目で見ると少し上目づかいで私を見ている東郷さんと目が合う。
そのまま東郷さんは私の左腕を両手で抱きしめてくる。
必然、二の腕は東郷さんの胸に埋まり、その柔らかな感触で私の頭は思考停止に陥った。
-今日の姫は積極的だな。-
あるいはこの情景が気に入ったのかもしれない。
立ち直った私は少し気取った笑顔をつくると、右手を東郷さんの顎に伸ばす。
人差指と中指は顎の先端からラインに沿って、親指は下唇を右から左へ。
軽く滑らせると東郷さんは一度ピクンと体を震わせ、潤んだ目で私を見てくる。
こんな時の東郷さんはいつも以上に綺麗で、私の胸をうずかせる。
そんな東郷さんを愛おしく感じながら、顎を少し持ち上げると、東郷さんの唇に自分の唇を重ねた。
何度となく繰り返した行為なのに、慣れることも飽きることもない。
いつまで経っても私の心臓はオーバーヒート寸前だ。
キスが終わると、東郷さんは少しはにかみながら、私の肩に頭を乗せてきた。
東郷さんの体温と柔らかな髪、そしてわずかに甘い匂い。
それらを感じながら、私も少しだけ東郷さんの頭に私の頭を乗せる。
あらかじめ打ち合わせたわけでもないのに、まるで元から一つの物だったかのようにピタリとはまる。
「今日も勉強教えてね。東郷さん」
「月単位でスケジュールを組んでいるから、大丈夫よ、友奈ちゃん」
いつもどおりのいつもの会話。ただそれだけなのになんだかとても幸せだ。
-でも、次は私が甘えてもいいよね。-
甘え上手な東郷さんがいつも姫役だけど、たまには私がしてもいいはず。
そんなことも考えながら、東郷さんと二人で夕日を見続けた。
肩に頭を乗せる。
恋人達のスキンシップとしては定番なものかもしれないが、実は最初にしたのは私の方だった。
東郷さんに促されるままに、彼女の肩に頭を乗せたあの時。
すごく恥ずかしかったけれど、まだ少し幸せを感じるだけだった。
それが劇的に変わったのは次の瞬間のこと。
東郷さんは私の頭の上に自分の頭を少し乗せてきたのだ。
ただそれだけなのに、わずかに触れた東郷さんの頭から東郷さんの私への想いまで伝わってくるような気がした。
知らなかった世界が開けた気までして、私は嬉しさで泣いてしまった。
東郷さんはそんな私が泣き止むまでそっと頭を撫でてくれた。
今、私が同じことをするのは、ちょっとしたお返し。
あの時私が感じた感謝が、今の私が感じている喜びが、ほんの少しでも伝わるように。
私の想いが、東郷さんの想いが、互いを強く結び付けますように。
東郷side
夜、勉強会も一区切りつき、一度自宅に戻っていた私が友奈ちゃんの部屋に入る。
友奈ちゃんはベッドの上で壁に背中を預けていた。
最近根を詰めて勉強していたから、少し疲れたのかもしれない。
「東郷さん」
視線で私を呼ぶ友奈ちゃん。
察して私も友奈ちゃんの隣に座り、壁に背中を預ける。
友奈ちゃんが頭を私の肩に乗せてきた。
よく知った彼女の匂いが鼻腔をくすぐる。
私も少しだけ自分の頭を友奈ちゃんの頭に乗せる。
これは友奈ちゃんに初めて肩を貸した時からいつもやっていること。
借りる方も貸す方も、実は両方嬉しいんだということをわかってほしくてやったこと。
互いが思いあう気持ちは循環するのだということをわかってほしくてやったこと。
友奈ちゃんも同じことをやってくるから、この気持ちは彼女も思っていることだろう。
-伝わっているよ、友奈ちゃん。-
友奈ちゃんの傍はとても暖かで、もうしばらくこのままでいよう、そんな誘惑に私はあっさり乗っていた。
今は全く違う手段で互いの愛を確認することもできるようにもなった私達だけれど、ただそばにいる、
肩を貸しあう、それだけで互いを強く想える、感じられる。そのことがとても嬉しい。
-ひょっとしたら、今日は私に王子役をして欲しかったのかな。-
そんな考えが頭によぎる。
今少し甘えてきているのは、次の機会は逃さないという意思表示?
凛々しいところもあるけれど、友奈ちゃんも女の子。
そんな面があるのを。私は知っている。
そんな面を見せるのは私にだけだということも。
頑張っている友奈ちゃんへのご褒美に、どこか素敵なところへエスコートしよう。
心の中のToDoリストに最優先、最重要で書き込んだ。
ふと、今の二人は漢字の「人」の字に似ているな、と思った。
子供のころ、「人」の字が互いが互いを支えあっている人の形だと聞いたときを思い出す。
最初は納得し、後で疑問を持ったものだった。
だって明らかに片方が片方を支えているだけなのだから。
今ならわかる気がする。。
人は時に支え、時には支えられる。
支えられる側はもちろん、支える側も実は相手から力を受け取っている。
その関係は幾重にも層をなし、より強い絆となっていく。相手を思う力となる。
それは今の私達のかたち。これまでも、これからも一緒に歩んで行く二人のかたち。
最終更新:2015年04月28日 09:56