H2・266

私の名前は東郷美森。
讃州中学校に通う中学二年生。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿。
私の真の姿は、四国を我が物にせんと暗躍する悪の秘密結社“大赦”と日夜戦う正義のヒロイン……国防仮面なのだ!
大赦にはノギー暗黒卿という支配者がおり、私はついに彼の人物のアジトをつきとめ乗り込んだのだった。

「あなたがノギ―暗黒卿ね……?」
「ふっふっふっ、そういう君は国防仮面~」

ノギ―暗黒卿は黒い仮面をつけており顔は分からなかったが、おそらくは私と年齢の近い女の子のようだった。

「まさか大赦の支配者が女の子だったなんて」
「よく言われるよ~。国防仮面さんも女の子だったんだね~。……知ってたけど~」
「私にやられた部下にでも聞いていたのかしら?」
「いや~、文字通り“知ってた”んだよ~」
「……?」
「まあ、そんなことはどうでもいいよね~。ここに来たのは、私を倒すためでしょ~?」
「……あなたが悔い改めると誓うならば、力を振うつもりはありません」
「それはできない相談だね~。あなたにやられたフーミンとにぼっしーのためにも私はもう引けない。たとえ相手があなたでもね……」
「ならば私はあなたを倒し、女の子たちが安心して暮らせる世界を取り戻して見せる!」

啖呵を切ったものの私は動かず、ノギ―の動きを慎重に見極めていた。
大赦が四国中をその手に収めようとするほどの大勢力になった要因の一つが、ノギ―の洗脳攻撃にあるからだ。
どういった方法でかは分からないが、ノギ―は四国中の女の子たちを誘拐しては洗脳し、勇者と呼ばれる大赦の兵士にしている。
私まで洗脳されてしまったら元も子もない。
どんな攻撃なのか分からない以上、一定の距離を保ちながらの遠距離攻撃が一番の手だろう。
幸い、私の一番得意なレンジは遠距離だ。
私は愛銃“シロガネ”を取り出して構え、ノギ―の額めがけて撃った。

「――ッ!!」

結果を言えば私が撃った弾丸は、綺麗に真っ二つにされていた。
いつ取り出したかすらわからなかった槍の一閃によって……。
あの槍……私が撃った瞬間にノギ―は手に持っていなかった。
つまり彼女は私が銃を撃った後にあの槍を取り出し、弾丸を両断したことになる。
人間業ではない……さすがは世界を手中に収めようとする支配者といったところか。
今まで戦ってきた大赦の大幹部たち……シスコンのフーミン、にぼしのにぼっしー以上の強敵――。




「――ストップ!」
「えっ?夏凜ちゃん、ここからが良いところなのよ?」
「いや、良いところとかではなく!わたしが聞きたいことへの回答にまるでなってないじゃないの!」
「だから答えていたじゃないの。私とそのっちが普段やっているシチュエーションなりきりプレイについて」
「そんなのが聞きたいんじゃないわよ!」

事態を簡潔に3行で説明しよう。
①夏凜ちゃんが友奈ちゃんに告白して、二人は恋人同士になる。←ヒューヒュー♪
②交際6か月にして、ようやくキスに至る。←夏凜ちゃんヘタレすぎよね。
③そろそろ友奈ちゃんとそういうことをしたいけど、知識がないため私を頼る。←いまここ。

「わたしが聞きたかったのは、その……そういうことをする時のアドバイスよ!」
「だから私たちが週1でやってるプレイを……」
「週1でやってるの!?えっ?さっきのを!?」
「ええ。このあと国防仮面はノギ―の仮面を割るところまで善戦するんだけど、その素顔は……なんと!!」
「……園子でしょうに」
「密かに想いを寄せていた親友、そのっちだったの!!」
「ああ、そういう設定なのね……」
「仮面の下の素顔を見て、一瞬動きが止まってしまう国防仮面!その隙をノギ―は見逃してはくれなかった。
 強烈な一撃を受け、意識を失ってしまう国防仮面……。意識を完全に手放す瞬間に聞こえてきた『ごめんね、わっしー……』という声」
「あの、東郷?話を戻してもいい?」
「……ここからが良いところなのに。もう初体験これでいいじゃない!」
「初体験でシチュエーションなりきりプレイはハードル高すぎるわ!」

もう夏凜ちゃんたら、話の骨を何度も折って……処女はこれだから困る。

「夏凜ちゃんが一人でいたしてるときにすることを友奈ちゃんにしてあげればいいのよ」
「なっ///」
「初体験で友奈ちゃんもきっと緊張してるだろうから、始める前にマッサージをしてあげるのが効果的でしょうね。
 緊張をほぐし、血行を良くすることで感度も上がるわ。気分も高まるしね。あ、これは2度目以降の性生活でも有用よ」
「い、いきなりまじめに答えてくれたわね。ちょっとメモ取るわ」
「初めてなんだし、相手を満足させようとかじゃなくて、好きな人と肌を重ねられることへの幸福感をまずは存分に感じてほしいわね。
 いきなりで性的に満足させられるなんてほぼありえないし、そういうのは何度も肌を重ねることで身体も技術も出来上がっていくと思うわ」
「わ、わかったわ。あせらず、ゆっくり身体と技術をっと……メモメモ」
「そして、慣れてきたら色んなプレイを楽しめるようになるのよ!」
「お、おおっ……!友奈とあんなことやこんなこと……///」

夏凜ちゃんの顔まっかっか。目とかちょっと焦点がずれちゃってる……少し刺激が強すぎたかしら。

「東郷……!相談に乗ってくれてありがとう。わたし、やるわ!友奈と何度も肌を重ねて、二人だけの形を作り上げてみせる!」
「夏凜ちゃん、その意気よ。また助言が欲しくなったら聞きに来てね」
「ええ、頼りにしてるわ。……ところで、ノギ―にやられちゃった国防仮面はどうなっちゃうの?」
「あら夏凜ちゃん、気になる?」
「え、ええ。まあ……ちょっとね」
「実はね、さっき話したのは先週やった内容だったんだけど」
「先週やったのね……」
「ええ、先週やったの。あの後国防仮面はノギ―の洗脳調教を受けて悪堕ちしちゃうバッドエンドなの」
「ええ!?洗脳!?」
「言ってたでしょ?ノギ―は洗脳能力があるって。能力の正体は声でね、ずっと聞きつづけていると脳をトロトロにしてしまうの。
 まあ実際はそのっちの言葉責めなんだけど///」
「こ、言葉責め……高度な技術ね」
「正義の味方として悪に屈するわけにはいかない。でも……相手は大赦の支配者である以前に、想いを寄せていた人……。
 国防仮面の精神は揺らいでいき、さらに脳はトロトロにされて……最後には自分から求めてしまうの///」
「す、すごいわね……///でもハッピーエンドにはならないの?」
「ハッピーエンドの方は今週する予定なの。……聞きたい?」
「……ご、後学のために」
「じゃあまた来週話してあげるね。ハッピーエンドの鍵は、大幹部フーミン戦前のルート分岐と、にぼっしー戦前の分岐の2つよ」
「ノベルゲー方式だったの!?というか、フーミンとかにぼっしーって……」
「国防仮面とノギ―以外の人物は、私たちの妄想の中のフィクションであり、実在する人名、団体とは何の関係もございません」
「そ、そう……。ちなみに、どっちがシナリオ考えてるの?どっちもできそうだけど」
「二人で案を出し合ってるわ。夏凜ちゃんもやってみるときは、友奈ちゃんとわいわい話しながらシナリオ作ってみると良いわ。
 結構楽しいわよ」
「え、ええ。やる機会があったらね」
「……幼馴染プレイとか初心者にはいいかもね」
「幼馴染!?……あっ///」
「うふふ、ちょっと妄想できたわね?」
「興味、少し湧いてきたわ」
「夏凜ちゃんは将来有望ね。もし良いシチュを考えついたら、教えてね?」
「今は貰うばかりだけど、いつかは情報交換できるようになってみせるわ!」

夏凜ちゃんの表情は、もはやヘタレのそれではなかった。
友奈ちゃんとのプレイを脳裏に描き、そのイメトレに余念がない。
これならば初体験もひどいことにはならないだろう。
夏凜ちゃん、友奈ちゃん、ようこそこの素晴らしき世界へ。
ここからあなた達だけの無限の可能性が待っているわ。
先達として助言は惜しまないけれど、切磋琢磨していきましょうね。

「でも東郷、あんた達100の質問の時は、言葉責め以外は普通のプレイをしてますって言ってたじゃない」
「私とそのっちの関係は日進月歩。常に進化しているのよ!また100の質問をやったら、答えはずいぶん変わるでしょうね」
「やる?」
「……遠慮しておくわ。ちなみにハッピーエンドは、私とそのっちのラブラブオフィスプレイになる予定なの」
「オフィス!?いったい何があったのよ」
「来週のお楽しみよ、夏凜ちゃん」
「き、気になる……」
最終更新:2015年05月17日 12:20