「それにしても、お泊り会をあんたから誘ってくるなんて珍しいじゃない。」
「うん……あのね、夏凜ちゃん。私ちゃんと謝りたくて。私が壁を壊したせいで、友奈ちゃんと夏凜ちゃんが酷いことになって、本当にごめ……」
「はいはい、その話10回目よ。気にしなくていいって言ったでしょ。むしろ私は感謝してるわ。」
「え?」
「結果的に供物が帰ってきたのもそうだけど。あんたに言われた「大赦の道具」って言葉で気づいたわ、私はなんで戦うんだろうって。世界を救うためでなく、勇者部のみんなを救いたい。勇者部が好き。この気持ちに素直になれたのは、東郷のおかげよ。ま、東郷を救えるのは友奈だけだったけどね。」
「夏凜ちゃん……。うん、私も夏凜ちゃんがいる勇者部が好きよ。」
「なっ……そ、そんなに贖罪の気持ちがあるなら、またぼた餅作ってきてよね。ぼた餅とにぼし、甘いのとしょっぱいので意外と合うんだから。」
「そうだ、東郷に聞きたいことがあったのよ。」
「何、夏凜ちゃん?」
「東郷と園子は先代勇者だったのよね。私が使ってるこの端末の、前の所有者のことを知っていたら教えてほしいの。」
「……わかったわ、夏凜ちゃんはどこまで知ってるの?」
「これが先代勇者のものだってことと、その戦闘データくらいね。先代勇者が誰かも教えてもらってない。」
「……勇者の名前は三ノ輪銀。勇者として戦い、世界と、私達を守って亡くなったわ。」
「死んだ!?勇者は死なないはずじゃ……。」
「精霊がついたのはその後なの。あの頃の勇者システムは、精霊も満開もなかったから。」
「……銀って子は、どんな子だったの。」
「明るくて、優しくて、勇敢だったわ。トラブルに巻き込まれやすい体質だったけど、他の人のためにどこまでも頑張る子だった。」
「……友奈にちょっと似てるわね。」
「そう?私は夏凜ちゃんに似てると思うわ。」
「私はそんなんじゃ……。あ、ごめんなさい。辛い過去を思い出させちゃって。私、そういうところ鈍感で……。」
「大丈夫、辛い過去なんかじゃない。銀とそのっちの三人で過ごした時間は、かけがえのない思い出だもの。まぶたを閉じれば心の中にいる銀といつでも逢える。もう絶対に忘れないわ。」
「……東郷、この端末、あんたにあげるわ。」
「え?何言ってるの?」
「大切な人との思い出の品でしょ。何も知らなかった私より、あんたか園子が持っているべきだわ。どうせ、勇者にはもう変身できないんだし。」
「……夏凜ちゃんは勇者部が好きなんでしょう。」
「え?」
「その端末には今、夏凜ちゃんと勇者部とのかけがえのない思い出が詰まってる。だから、夏凜ちゃんが持っているべきだわ。」
「……わかったわ。ありがとう、話してくれて。」
「ふふ、謝るつもりが二回も感謝されてしまったわ。……そろそろ寝ようかしらね。」
「そうね、明日も……ゆ、勇者部の活動あるし。」
「おやすみなさい、夏凜ちゃん。」
「お、おや、すみ。」
最終更新:2015年05月17日 12:50