H1・714・781

「それにしても、お泊り会をあんたから誘ってくるなんて珍しいじゃない。」

「うん……あのね、夏凜ちゃん。私ちゃんと謝りたくて。私が壁を壊したせいで、友奈ちゃんと夏凜ちゃんが酷いことになって、本当にごめ……」

「はいはい、その話10回目よ。気にしなくていいって言ったでしょ。むしろ私は感謝してるわ。」

「え?」

「結果的に供物が帰ってきたのもそうだけど。あんたに言われた「大赦の道具」って言葉で気づいたわ、私はなんで戦うんだろうって。世界を救うためでなく、勇者部のみんなを救いたい。勇者部が好き。この気持ちに素直になれたのは、東郷のおかげよ。ま、東郷を救えるのは友奈だけだったけどね。」

「夏凜ちゃん……。うん、私も夏凜ちゃんがいる勇者部が好きよ。」

「なっ……そ、そんなに贖罪の気持ちがあるなら、またぼた餅作ってきてよね。ぼた餅とにぼし、甘いのとしょっぱいので意外と合うんだから。」

「そうだ、東郷に聞きたいことがあったのよ。」

「何、夏凜ちゃん?」

「東郷と園子は先代勇者だったのよね。私が使ってるこの端末の、前の所有者のことを知っていたら教えてほしいの。」

「……わかったわ、夏凜ちゃんはどこまで知ってるの?」

「これが先代勇者のものだってことと、その戦闘データくらいね。先代勇者が誰かも教えてもらってない。」

「……勇者の名前は三ノ輪銀。勇者として戦い、世界と、私達を守って亡くなったわ。」

「死んだ!?勇者は死なないはずじゃ……。」

「精霊がついたのはその後なの。あの頃の勇者システムは、精霊も満開もなかったから。」

「……銀って子は、どんな子だったの。」

「明るくて、優しくて、勇敢だったわ。トラブルに巻き込まれやすい体質だったけど、他の人のためにどこまでも頑張る子だった。」

「……友奈にちょっと似てるわね。」

「そう?私は夏凜ちゃんに似てると思うわ。」

「私はそんなんじゃ……。あ、ごめんなさい。辛い過去を思い出させちゃって。私、そういうところ鈍感で……。」

「大丈夫、辛い過去なんかじゃない。銀とそのっちの三人で過ごした時間は、かけがえのない思い出だもの。まぶたを閉じれば心の中にいる銀といつでも逢える。もう絶対に忘れないわ。」

「……東郷、この端末、あんたにあげるわ。」

「え?何言ってるの?」

「大切な人との思い出の品でしょ。何も知らなかった私より、あんたか園子が持っているべきだわ。どうせ、勇者にはもう変身できないんだし。」

「……夏凜ちゃんは勇者部が好きなんでしょう。」

「え?」

「その端末には今、夏凜ちゃんと勇者部とのかけがえのない思い出が詰まってる。だから、夏凜ちゃんが持っているべきだわ。」

「……わかったわ。ありがとう、話してくれて。」

「ふふ、謝るつもりが二回も感謝されてしまったわ。……そろそろ寝ようかしらね。」

「そうね、明日も……ゆ、勇者部の活動あるし。」

「おやすみなさい、夏凜ちゃん。」

「お、おや、すみ。」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年05月17日 12:50