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「よっしーはいい匂いするね~(ハスハス」
「っ!?…またアンタは気配もなく…それとよっしー言うな」

乃木園子。文化祭から少し経って転入してきたこの娘は、東郷の知り合い…いや、一応友人であるらしい。
それ以上のことは二人して曖昧に笑うだけで、詳しく語ろうとはしない。

「…あ~、ふーちゃん先輩もいい匂いだよね~。よく干したお布団みたいな~」
「あ、そ…」

私はこの娘が少し苦手だ。
私達にだけ妙なあだ名を付けて呼んだり、たまに会話が一方通行だったり、それはまぁ、いい。
いつもの呆けた言動に混じって、全く予想外の方向から槍を突いてくるような鋭さが私は苦手だった。
そしてその槍はすんでの所でぴたりと止まり、私の心を脅かす。不快、とは少し違う、嫌な感覚。
私はそれを─友奈と東郷への嫌な気持ちを─見ないようにしているのに。嫌でも意識されられる。向き合うことになる。

「……………」
「…何よ」
「ん~…あ~、うん。よっしー疲れてない~?」
「今まさに疲労感に浸っている最中よ…」
「え~?それはよくない~よくないよ~」

さっきの眼もそうだ。この娘が私を見る目はぞっとするほど透明で、得体が知れない。
目と目が合っても“私”を遥か通り越し、いつも“何か”を見つめている。
乃木園子。アンタは私に、いったい何を見ているの。
最終更新:2015年02月08日 22:18