4・741

「前から東郷さんのこと、イイ感じだなって思ってて…」
“それならどうして、前は声もかけてくれなかったんですか”
寸前まで出かかった言葉を飲み込んで、私への想いを語るクラスメイトを見詰める
彼への気遣いという訳ではない、声をかけて欲しかったと勘違いさせてしまうかもと思っただけだ

記憶も、耳も、そして足も元に戻り、随分と懐かしい“普通”を過ごすようになってしばらく経つ
最近になって、特に歩けるようになってからこうやって男子から告白を受けることが増えた
それが容姿であれ性格であれ、評価して好意を持ってもらえること自体はありがたいことなのだろう
勿論だからと言ってそれを受け入れる理由にはならないし、何より私にはもう想いを寄せる相手が居る

こうやって告白を受けている時、きちんと聞かないと失礼だと思いつつも必ず友奈ちゃんのことを思い出す
足の動かない生活に慣れ切る前、記憶の空白もあって周囲への不安が募っていた頃、私の心にするりと入り込んで来た少女
私のことを笑顔で受け入れてくれた、私のやることに自信を与えてくれた、大袈裟では無く生きる理由を貰った
たくさん迷惑をかけて、相談を怠って自責の念を抱かせたのに、それでもずっと一緒に居ると言ってくれた
彼女の言葉と行動の重みを思うと、比べてはいけないのだけれど、どうしても今語られている熱情を軽く感じてしまう

「あの、それで良かったら…」
「とーごーさーん!」
ガラリと音を立てて扉が開き、友奈ちゃんが顔を出す
足が元のように動くようになってからの彼女は、今まで以上に元気いっぱいだ
「あれ?なにか話の途中だった?」
「あ、いや、その…」
「いいの、今終わった所だから。それじゃ、失礼します」
退出と否定の二重の意味を込めて丁寧に礼をすると、友奈ちゃんと連れだって勇者部の部室に向かう
友奈ちゃんは一瞬何か聞きたそうな顔をしたけれど、すぐに“ま、いいか”という顔で笑った
友奈ちゃんは本当に気遣いのできる人だ、それに私は支えられている…今までも、これからも

そう言えば、そんな気遣いのできる友奈ちゃんが、何故か告白されている場面にはよく途中で入って来る気がする
どうしてだろう?
試しに聞いてみたら、ちょっと拗ねたように“教えてあげない”と言われてしまった
……口をとがらす友奈ちゃんも可愛かったから、まあ、いいかな―――
最終更新:2015年02月08日 22:28