拙者、虐待侍と申す者。
長く厳しい修行の旅から、生まれ育った地へと戻ってきた次第でござる。
「見せてくれるかな……? 君の修行の成果をね」
出迎えてくれたのは虐待鬼意山殿。
拙者が修行の旅に出るきっかけとなったお人でござる。
今思い返すだけでも恥ずかしい、厚顔無恥であった頃でござるよ。
「ふん! はあ! そりゃあ!」
「ゆべぇ!」
「ゆぎゃ!」
「ゆ、ゆっぐげぇ!」
手にした刀が三度閃き、同時に三つのうめき声が上がる。
餡を振り払い鞘に収めた音が止めを刺したのか、
ゆっくりがその名の通りゆっくりと二つに別たれた。
ぱちぱちぱちと、背後から乾いた拍手が聞こえる。
「いやいや、これは見事な剣筋だね」
「おや、虐待鬼意山殿。お主も最終調整でござるか」
「ということは、やっぱり君も出るんだね。
ゆっくり虐待コンテスト」
「当然でござる。鬼意山殿には悪いでござるが、優勝は拙者が頂くでござるよ」
その頃の拙者は自らの剣に溺れていたのでござる。
ゆっくりを斬ることにかけては誰にも負けぬと、そう考えていたのでござる。
「それはどうかな?」
そう、その時までは。
「ほほう、鬼意山殿もかなりの自信のようでござるな」
「自信はあるとも。だけどそれ以上に……君に負ける気はしないね」
「そ、それはどういう意味でござるか!」
「まだ気づいていないのかい? 君がしているのは虐待じゃない。虐殺ですらない。君はただ饅頭を斬っているだけだ!」
「な……なんと!」
「君の剣には愛がない! 意思がない! ゆっくりである必然性が何一つない! そんな君が優勝? 笑わせてくれるじゃないか!」
言葉もないとはこの事でござった……。
拙者は剣の腕に溺れるがあまり、なぜゆっくりを斬るのかという大事な一点を完全に失念していたのでござる。
コンテストの結果は、言うまでもないでござろう。
動揺は剣を鈍らせる。
鬼意山殿の言葉に動揺していた拙者が満足のいく剣を振るえるはずがなかったのでござる。
かくして拙者は、修行の旅に出ることと相成ったわけでござる。
「次に会うときは君の虐待を見てみたいものだね」
見送りに来てくれた鬼意山殿のその言葉が、心の支えでござった。
修行は厳しいものでござった。
「どげええええ! じじいはばりざのうえがらざっざとどげええ! ざぶいのおおお! どげじゃうのおおおおお!」
ゆっくりまりさの上で座禅を組みながら滝に打たれること数十日。
「ゆべ! ゆべ! でいぶのあんよあづいいいいい!」
「おぎゃあざあああん! だずげでええええ!」
ゆっくりれいむを履いて燃え盛る道を歩むこと数十日。
「だじでええ! ごごがらだじでえええ! んほおおおお! ずっぎりじだいいいいい!」
一匹のゆっくりありすだけを共に、それ以外の全てを絶つこと数十日。
「わからないよー! わからないよー!」
ゆっくりちぇんとの問答に励むこと数十日。
季節が巡り、一年が経とうとしたとき、拙者はついに極意へとたどり着いたのでござった。
「見せてくれるかな……? 君の修行の成果をね」
鬼意山の手には成体のゆっくりまりさが乗せられている。
刀の柄に手を添え――
「虐待道とは生かすことと見つけたり」
瞬閃。
瞬き一つの瞬間に、一つ、二つ、三つ、四つ、そして五つ。
「……お見事!」
かくして、まりさの体には米の字を描くが如く四筋の切れ目が走り、最後の一突きで崩壊を始める。
まるで花開くようにまりさの体が広がっていくが、中央の一点だけで繋がりを残す。
「これぞ活ゆ剣が奥義――生け花」
ゆ、ゆ、ゆと痙攣したまりさが声を上げる。
「ここまで分かれているというのにまだ声が出せるのか……たった一年でここまで成長するなんてね」
中枢餡子、目、口、そして聴覚をもすべて避け、繋がったまま斬る。
傍目からは餡子の固まりにしか見えなくとも、まりさはまだ生きているのでござった。
「なに、鬼意山殿の言葉があったからこそでござる。拙者はあれで目が覚めたのでござるよ」
どちらともなく、堅く握手を交わす。
虐待道に通じた男二人、言葉は不要でござった。
「君と本気で戦えるのが楽しみで仕方がないよ」
「前回のような無様な勝負にはならないと申しておくのでござる」
そう、全ての始まりとなったゆっくり虐待コンテストの開催は、もう間近に迫っていたのでござる。
そして、決勝戦と相成った。
「二人とも、準備はよろしいでしょうか!? それでは――開始!」
「ヒャア! 虐待だ!」
「虐待侍、参る!」
最終更新:2009年01月08日 21:40