ゆっくり×ゆっくりれみりゃ系1 こわいこわい

「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
耳障りな万能の挨拶が、霧のかかった湖の畔にこだまする。
悪魔の棲む館の近所に集う饅頭たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で元気よく飛び跳ねている。
汚れを知らない心身を包むのは肌色の皮。
生まれつき被っているZUN帽は落とさないように、体内に詰まっている黒い餡子は吐き出さないように、ゆっくりと過ごしていくのが彼ら(彼女ら?)のたしなみ。
もちろん、天敵に追いかけられて必死こいて逃げ回るなどと言った面白、否、可哀想なゆっくりなど存在していよう筈も無い。
だがそれもたった今までの話。
元気に跳び回るゆっくり二匹の傍の茂みには、まさにその天敵が潜んでいたのである。
「ゆっくりたのしいね!!!」
「ゆっくりたのしいよ!!!」
「ぎゃおー!たーべちゃうぞー!!」
天敵が茂みから飛び出した瞬間、それまで太陽にも負けんばかりの笑顔だった二匹の顔が凍りついた。
ゆっくりれみりゃ。略してゆっくりゃと呼ばれるそれは、他のゆっくりとは明確な差異があった。
基本的にゆっくり達は人間の生首に似た生物である。
このゆっくりゃもその例に漏れず生首っぽい外見なのだが、一組の蝙蝠に似た翼を生やしている。
他のゆっくりには無い飛行能力も多少有しており、最大の特徴はゆっくりを好んで捕食する事である。
「ゆっゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりさせていってね!!!」
ゆっくり二匹もゆっくりゃの危険性を本能的に知っているのか、必死で命乞いを始めた。
大量の涙で頬をふやけさせた惨めったらしい表情は、極一部の、常人には理解し難いが―――加虐嗜好を持つならば歓喜する事だろう。
それはともかく、ゆっくりゃにとってそのような命乞いなど何の意味も持たない。
むしろ、ゆっくり種の中でも凶暴な部類に入るゆっくりゃからしてみれば、丁度いい前菜のようなものだろう。
あっという間に紅白のゆっくりを組み敷くと、物凄い勢いでかぶりついた。
「い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!ゆ゛っぐりざぜでえ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」
「れ゛い゛む゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!」
「うー♪」
喰われる紅白饅頭と、傍観するしかない黒大福の奏でるデュエットを聞きながら、荒々しく食事をするゆっくりゃ。
始めは大声で騒ぎ立てた紅白饅頭も、やがて声を出すことの無い醜いオブジェへと変貌し、そしてZUN帽以外全てがゆっくりゃの中に納まった。
「うー♪うー♪」
「う゛わ゛あ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁぁ゛!!!」
ゆっくりゃが一息ついた隙に、黒大福がその場から猛然と逃げ出した。
どうやらずっと逃げる隙を窺っていたらしい。どんなに仲の良い相手でも、意外とあっさり見捨てるのがこの種の特徴なのだ。
……尤も、食事中に隙を見出せなかった時点で黒大福の運命も決まったようなものであるが。
「ぎゃおー!またないと、たべちゃうぞー!!」
「だずげでえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!
運動能力でも他のゆっくりを大きく上回るゆっくりゃから逃げられる筈も無く、あっさり捕まり、捕食される黒大福。
「うー!うっうー♪うあうあ♪」
二匹ものゆっくりを喰い、上機嫌のゆっくりゃ。
どう考えてもゆっくりゃよりあの二匹の方が体積が大きいが、そのような事は気にしてはいけない。それが世界の選択なのである。
食後の散歩、というより散飛を愉しんでいたゆっくりゃ。少々休憩しようと地上に降りようとした時、新たな獲物を発見した。
今日はツイている。また二匹組みだ。
そのような事を言いたげな笑顔で、再びあの言葉を口にする。
「ぎゃおー!たーべちゃうぞー!!」
だが、今度の二匹は先程の二匹とは違う反応を見せた。
「たべちゃうぞ、だってさ」
「おお、こわいこわい」
これらは、外見は先程のゆっくりれいむ、ゆっくりまりさとほぼ同じであるが、性格が大きく違う種類だった。
浮かべる笑顔も通常のゆっくりとは違い、どこか皮肉っぽい半笑いである。
「う、うー?」
自分の雄叫びで動じない相手に動揺するゆっくりゃ。気を取り直してもう一度
「ぎゃおー!たーべーちゃーうーぞー!!」
「たべちゃうぞ、だってさ」
「おお、こわいこわい」
平然としている二匹。ゆっくりゃはどうしていいのか分からず泣きそうになるが、考えてみれば所詮相手はゆっくりれいむ達。
何も恐れる必要など無いのだ。怖がらせるのはやめにして、さっさと喰う事にしたゆっくりゃ。だが
「ぎゃおおー!がぶり!!」
「かみつかれたみたいだよ」
「おお、いたいいたい」
実際に噛まれても堪えた様子も無いゆまりさ。それどころか、
「おんみょうだんを、くらえ」
「おお、まぶしいまぶしい」
何とゆれいむの方が、ゆまりさにも構わずゆっくりゃに体当たりを仕掛けた。
「うー!うぅー!」
「うぅー!だってさ」
「おお、なみだめなみだめ」
ありえない事の連続に、最早ゆっくりゃは完全にパニック状態に陥っていた。噛付いたままでべそをかいている。
もういい、こんな奴らとは関わりたくないお家帰る、とでも思ったのか、牙を引き抜こうとするゆっくりゃ。だが。
「うー!うあー!」
「うあー!だってさ」
「おお、ぬけないぬけない」
蚊に食われた際、その部位に思いっきり力を入れたら管が抜けなくなり、蚊が破裂するという。
まさにそれと同じ事が起きていた。
「ううー!おうひはえふー!!」
飛び上がって逃げようとするゆっくりゃ。だが、飛び上がる前に翼にゆれいむが食い千切った。
「う゛ぅ゛ぅ゛ー!!!」
「う゛ぅ゛ぅ゛ー!!!だってさ」
「おお、とべないとべない」
牙を引き抜く事も出来ず、空を飛ぶことも出来ない。
もはやこのゆっくりゃに出来る事といったら、嬲り殺されるまでの数時間、ただ唸り、涙を流す事だけだった。

おわり

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最終更新:2008年09月14日 10:39
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