日も落ちかけた紅魔館近くの森で新たな生命が誕生しようとしていた。
「う~♪」
と声を上げて誕生したのは
ゆっくりれみりゃの赤ちゃん。
「うっう~♪ れみりゃのあがじゃんだどぉ~♪」
隣にはお母さんれみりゃ。
まだ上手く力の入らない手足をプルプルさせながら何とか立ち上がろうとしている。
決してお母さんれみりゃは手をかさない。
一人で大自然を生き抜く力をつけて欲しい訳ではない、単純に無知なのだ。
しかし、立ち上がれないまでも、うつ伏せのまま大きく目を見開いて初めて見る世界を眺める。
「う~♪」
目の前には、始めてみる木々、地面、そしてその奥に見える大きなお屋敷。
「う~♪」
赤ちゃん特有の大きな目が細くなる、笑顔を作っているのだ。
「う~♪ れみりゃのお屋敷♪」
どうやら始めてみる、ある程度大きな家を自分のお屋敷だと思ってしまうらしい。
「う~れみりゃたちのおやしきだどぉ~♪ あどでおがあさんといっしょいくの~♪」
「う~♪ まぁまぁといぐ~♪ おやしきいぐ~♪」
赤ちゃんれみりゃは大興奮だ。
一人で立ち上がって、もう一度自分のお屋敷を見る。
それは随分大きく、まさしく紅魔館の主である自分にはぴったりの屋敷だ、言わんばかりの表情だ。
「まぁま~♪ れみりゃおうじいぎだぁい~♪ れみりゃのお~じいきだい~♪」
「う~♪ おかあざんもいぎだぁいどぉ~♪ これからいぐどぅ~♪」
パタパタと紅魔館に向かって飛んでいく。
赤ちゃんにとっては始めての飛行。
と言っても、母子ともども一メートル前後しか浮いていないのだが二匹はご機嫌で自分たちのお屋敷へ歩を進めていった。
「うっう~♪」
お母さんれみりゃはご機嫌だ。
ここのところ毎日あのお屋敷で過ごしていた、お庭にはたくさんのれみりゃ達がいる。
他の人間は皆れみりゃ達の言うことを聞いてくれる。
だってれみりゃは紅魔館のお嬢様だから。
「う~♪ ぷっでぃんたべどぅの~♪」
「う~?まぁま~ぷっでぃんってなぁに~?」
赤ちゃんれみりゃが大きな目をくりくりさせて聞いてくる。
「ぷっでぃ~んは、あま~くてぷるっどしでうっう~なの~♪」
「う~♪ れみりゃもぷっでぃ~んたべたい!!」
語彙の少ないれみりゃの答えでしっかりと理解する赤ちゃんも凄い。
あま~い、の一言に反応しただけかもしれないが……。
「う~♪ れみりゃのお~じについだどぉ~♪」
「う~!! れみりゃのおうち~♪」
あかちゃんれみりゃはその目で、改めて自分のお屋敷を見る。
なかなか大きな建物、門もしっかりしてる、なによりお庭は広くて美味しそうで綺麗な花もいっぱいだ。
「う~♪ れみりゃのおやしき~♪」
バンザイして喜ぶ赤ちゃんれみりゃ。
さぁ、二人仲良く自分のお家にご帰宅だ。
「う~♪ うっう~♪」
お母さんれみりゃが門番に手を振る。
いつもさくやに苛められている門番、れみりゃの中では一番下の階級に位置していた。
「こらこら、ダメよここはあんた達のお家じゃないんだから!」
そういって一番下の階級のものに回れ右される。
プッディン脳みそで数歩、歩いた後下膨れの顔を更に腫らせて慌てて戻ってくる。
この間あかちゃんれみりゃはメイド長が一瞬の内に回収した。
「う~! ここはれみりゃのおうちだどぉ~!!!!」
「あ~はいはいじゃあこっちに来なさい。お友達も皆こっちに居るわ」
「う~♪」
裏庭に案内されるれみりゃ。
そこにはたくさんの自分のお友達であり、紅魔館のお嬢様でもある
ゆっくりれみりゃが大量に一人の少女と遊んでいた。
「はい、あの女の人が心行くまで遊んでもらいなさい」
門番がそういう前に既にれみりゃはその少女の前に走っていた。
女の人は他のれみりゃと遊んでいるそうだが、日も完全に落ちかかっている今ではもっと近寄らないと確認できない。
いや、今はそんな事はどうでもいい。
さっき自分の赤ちゃんと約束したことがあった。
赤ちゃんはどこかに行ってしまったが、きっと大丈夫泣けば直ぐ誰かが駆け寄ってくれるから。
「う~♪」
漸く少女の前に到着したれみりゃ。
遊んでいた友達も見ないで少女に駆け寄りご自慢の笑顔で呟く。
「うっう~♪ れみりゃぷっでぃ~んだべたいの♪ あかちゃんのぶんど、ぷっでぃ~んふたづもっでぎで~♪」
……。
……、また体が千切れた。
今度は足だ、さっきまで泣き叫んでいたお友達はみんな動かなくなっている。
何が起こっているかなんてプッディン脳では理解できない。
取り合えず、痛い事と、咲夜助けて、それだけだ。
「あはは、お姉さまの顔を、服を、風評を無様に汚した罰だよ。そのお姉さまには似つかない無様な顔で生まれた事をせいぜい後悔しなさい。あっはっはっはっは~~~」
ここは紅魔館内の図書館。
先ほど、ドサクサにまぎれてつれて来られた赤ちゃんれみりゃは、初めて長距離を移動したこともあり、
生まれたときのようにうつ伏せのまま、その大きなクリクリした目で辺りを見渡していた。
「う~♪」
その目だけを見ると純粋そのものだが、その奥には成長したれみりゃ同様悪戯心が潜んでいる。
「う~♪ とどきゃない♪ だれがー!! どっでーーー!!!」
立って取ればいいモノを、それもしない。
理由はこう言えば誰かが取ってくれるから。
これも
ゆっくりれみりゃ(四肢有)が本能的に備えているものだ。
「はいは~い♪ 小悪魔がお取りしますよ~♪」
予想通り直ぐに誰か来た。
「う~♪ ぞのふぉんどっで~♪」
親同様にふてぶてしい笑顔を振りまいて伝える。
目がパッチリとしているだけこちらの方が純粋さはあるが。
ゴッツン。
「んじゃん!!!」
「あ~すいまえん~間違って落としちゃいました~♪」
そんなのはお構いなし、見事に大きな辞書の角に頭をぶつけたれみりゃ。
腫らした額に両手を当てて、アワアワと声にならない声を上げて涙を流すれみりゃ。
ゆっくりとはいえ、クリクリ目を持つ子供がそんな格好で泣いているのは良心が痛む?
そんな事は無い、彼女は小悪魔だから。
「……!! ……!! しゃくやーー!! ここにこわいひとがいるよーーー!!!」
漸く、それだけ言葉に出す赤ちゃんれみりゃ。
「は~い♪ 怖い人ですよ~♪ じゃあこっちで一生怖い思いしてもらいましょうね~♪」
「いやーーー!!! さくや!!? さくやどこー!!!」
「どうしたの咲夜、ボーっとしちゃって」
「いえ、誰かに呼ばれた気がして……」
「気のせいよ、それよりパチェ、どうしてあの子供一匹だけ残したの?」
テラスのカフェで起き上がりのティータイムを楽しんでいたレミリアはふと疑問に思ったことを友人に聞いてみた。
「最近観察の為に飼い始めた
ゆっくりの餌よレミィ。子供のうちから餌にしておいたら、色々なことを知らずに暮らせるでしょ。せめてもの情けよ。
……しかも、なぜかものすごく食い意地が張ってるのよ、あれ」
「まるで本人みたいですね♪」
いつの間にかこの場所にいた小悪魔が、パチュリーの肩に手を載せながら呟く。
「……小悪魔。仕事は済んだの?」
背中から紙を剥がしながら尋ねるパチュリー。
「はい、きちんと
ゆっくりさんの所に持って行きましたよ。ものすごい勢いで食べ初めて、でも、ちゃんと頭だけ
残すように言っておきましたから」
「私は何処でも良いって言ったんだけど、顔を残しておいたら煩いじゃない」
「大丈夫ですよぉ~、魔法で防音処理されてるじゃないですか~」
「それは良いとして、飼っている
ゆっくりはどの位生きるのかしら、体が弱いって聞くけど」
ここまで二人の濃厚なボディータッチを見せられながら、レミリアが呟く。
隣の従者の目が真っ赤になってこちらを向いていたけど気にしない。
「それを調べるための観察でもあるわ。ブリーダーの記録によると、七年くらい生きた例もあるそうよ」
「そんなに生きるの?」
「そうよ」
七年、それは自分たちにとってはあっという間の年数だ。
しかし、
ゆっくり達にとっては長いのだろう、現に七年といえば霊夢種や魔理沙種の限界とほぼ同じだ。
本当にそこまで生きるだろうか?
「大丈夫。そこまで生きる確信がなかったら、
ゆっくりれみりゃを餌にだなんて思ってないわよ」
「そうですね♪」
小悪魔も賛同する。
それにしてもこの二人、ノリノリでイチャイチャである。
ただ、誤算だったのはれみりゃの本能が予想より我侭だったこと。
そしてぷっでぃんの言葉を知っていたこと。
対象が予想に近い年齢を全うして、れみりゃが夕食に並ぶまで、ぷっでぃんと暴れ、おうちかえるーと騒ぎ、紅
魔館のお嬢様なのにーと泣きながら訴え続けた。
勿論えさにプリンをくれることもしないが、その誤算は図書館の司書と屋敷の主には良い誤算になったようだ。
最終更新:2022年01月31日 01:21