美鈴×ゆっくり系17 めーりんと美鈴

※美鈴によるゆっくり虐め……かなぁ、一応。虐待描写は温め。
※ハッピーエンドです。書いた者を、この偽善者と罵りたくなるような感じの。
※性的描写を今回は、本当に極々僅かしか含んでおりません。

※ゆっくりの設定は今回ほとんど俺設定入れてませんが、イメージと違う場合もございま
すので、ご注意ください。






「めーりんと美鈴」


 春も終わりが近付き、新緑が目立ちはじめる頃──。
 紅魔館の門番を勤める紅美鈴は、本日も大過なく勤務を終えようとしていた。

 門前で腕を組み、美鈴は珍しく真剣な目で夕焼け空を睨んでいる。
「交代の時間です。美鈴さん」
 後方から声を掛けられた。
「ご苦労様」
 振り向き、整列した妖精メイド守備隊に視線を送る。

「ここ最近、侵入者──ゆっくりの被害が増大しています。夜勤の皆さんも巡回の強化よ
ろしくお願いします」
 約一個小隊の妖精メイドに向かって短い訓辞を行い、美鈴は勤務を夜勤者たちに引き継
いだ。

 そこへ、門の内側から通用門を通って、一人の妖精メイドが駆けつけてくる。
「美鈴さん! 侵入者です! ゆっくりです! 薬草園と菜園が荒らされてるです!」
「なんですって! ……下番昼勤者のみんな、悪いけど残業ね。私に続きなさい! 上番
夜勤者は勤務開始しちゃって」
 まるで瀟洒なメイド長のように、美鈴は速やかに妖精メイドたちへ指示を下す。

「了解! 夜勤者メイドA勤務開始します!」
「了解! 昼勤者メイドB撃退に向かいます!」
「了解! 夜勤者メイドC外周定時巡回開始します!」
「了解! 夜勤者メイドE勤務開始します!」
「了解! 昼勤者メイドD残業なんかしません!」
「了解! 夜勤者メイドG勤務開始します!」
「了解! 夜勤者メイドI勤務開始します!」
「了解! 昼勤者メイドF残業いやだから本館戻ります!」
「了解! 夜勤者メイドK眠いんで勤務開始せず仮眠入ります!」
「了解! 昼勤者メイドH残業? ざけんな、本館に帰ります!」
「了解! 昼勤者メイドJさぼって本館に戻ります!」
「了解! 夜勤者メイドM勤務開始します!」
「了解! 夜勤者メイドO定時巡回さぼって湖へ遊びに行きます!」
「了解! 昼勤者メイドLお腹減ったので食事に向かいます!」
「了解! 昼勤者メイドN撃退に向かいます!」

 以下、アルファベット一文字では足りなくなり、メイドABだとかメイドAXなどと言
う名称となった、昼勤と夜勤合わせて60名近くの行動申告が続く。
 アルファベット順に発言せず、思い思いのタイミングで申告するので、非常に聞き取り
づらい。
 どさくさに紛れて何人かは妙な申告を行っているが、大陸的おおらかさで美鈴は聞き流
し、素早く現場へと向かった。

 指示に従ったメイドは、美鈴を除いた下番昼勤者24名のうち7名だった。
 あとの17名は残業を厭い、そのままとっとと本館に帰り、速やかにオフの時間へと突入
したのである。

「ちょっと、なんでこんだけしか居ないのよ?」
 門内に入ったところで、付き従ったメイドを確認し、美鈴は呆れたように呟いた。
「はっ! 美鈴さんのカリスマでは、残業強制が困難だったと愚考いたします」
 メイドBが言わなくても良さそうな、むしろ言わない方が相手への思いやりな事を、わ
ざわざ美鈴に言った。

「……くそっ……まぁ、いいわ! 三手に別れます! メイドBは他4名連れて薬草園、
メイドNとメイドVは本館のメイド長と館内警備隊に報告の上、向こうの指示に従って動
きなさい。菜園は私一人で充分だから……以上!」
 忌々しげに眉根を寄せてから、美鈴は素早く指揮官の顔に戻り、勤務意欲充分な精鋭メ
イドたちに下知をくだす。

「はっ!」
「了解!」
「イエス・マム!」
 お辞儀、挙手の礼、合掌、拱手など、各員多様なゼスチャーとともに、メイドたちは美
鈴の命に従い散って行った。
 それと同時に、美鈴も自らに割り当てた現場──菜園へと歩を進める。

「むーしゃ♪ むーしゃ♪ しあわせー♪」
「まりさぁ、それはれいむがたべようとしてた、おやさいさんだよ~」
「むきゅ~、どろくさくのろまなしなじんがつくったにしては、まずまずのおあじだわ」
「ゆっへっへっへ! はやいものがちだぜ! うまいぜ!」
「ゆ~♪ おやさいさん、おいしー♪」
「むしゃむしゃ……ふんっ、と、とかいはのありすのこえたしたは……んぐっ、こ、この
ていどのおやさいじゃ……がつがつ」

 美鈴が菜園に着くと、そこはゆっくりたちによって荒らされていた。
 丹精込めた菜園を襲ったのは、れいむ種が6匹、まりさ種が4匹、ゆっちゅりーが2匹、
ありすが2匹の計14匹のゆっくりたちである。
 畝を崩し、葉物野菜にかぶりつき、根菜を土中よりほじくり出し食い荒らし、排泄餡子
をひり散らし、交尾を行うなど、見るにたえない狼藉を働いている。

「こらっ! あんたら、なにやってるのよっ!」
 黙って近付き奇襲を行おうと考えていた美鈴だったが、自分が愛を注ぎ育てた可愛い野
菜たちが凌辱されているのを見て、つい怒鳴り声を上げてしまった。

「ゆっ! みてのとおり、まりさたちはおしょくじちゅうだぜ!」
 まりさは鼻で笑って、小馬鹿にしたように言った。

「あんっ、ぱちゅりぃ……いいわぁっ、ぱちゅりーのびょうじゃくぺにぺにが、ありすの
とかいはまむまむのなかだと、こっ、こんなげんきにぃっ!」
 ゆっちゅりーと交尾中のありすは、美鈴には見向きもせず、ひたすら快感に喘いでいる。
 食欲を満たした後は性欲を満たし、子孫繁栄に努めるのが都会派だと考えているようだ。

「ゆっへっへっへ! まりさがみつけたおやさい、たべてるんだぜ! うまいんだぜ!」
 悪びれもせず、まりさは菜園の野菜を汚らしく貪り、食べ滓をあたりに散らす。

「ここはれいむたちがみつけた、ゆっくりファームだよっ! ゆっくりできないひとはで
てってね!」
 見つけた以上は自分たちのものだと、れいむは美鈴を威嚇しながら主張した。

「むっきゅ~っ……あっ、ありすぅっ……ありすのまむまむ、きもちよくてぇっ、ぱちぇ、
しっ、しんじゃいそうっ!」
 本当に死にそうな顔で、ゆっちゅりーはありすと交尾をしている。おそらく、すっきり
すると同時に息絶えるであろう。
 しかし、仮令命を失ったとしても、ありすの中に新しい生命を宿し、残すことが出来る
のならば、ゆっちゅりーにとっては本望である。

「おねえさん、おやさいわけてほしいんなら、なんかもってきてよ!」
 れいむは無邪気な顔で、貰うのが当然とばかりに言い放った。

「べっ、べつにおいしそうからたべたんじゃないわよ! こんな、いなかくさいおやさい
なんか、とかいはのくちにあわないのよ! ……むしゃむしゃ」
 口に合わないと言う割りには、喋る間も惜しむほどに、がつがつとありすは大根をかじ
っている。

「ゆっ! みてわかんないの? ばかなの? ゆっくりしぬの?」
 蔑んだような目で、れいむは美鈴を見た。

「むきゅっ! しなじんのうどは、だまってぱちぇにおやさいをじょうのうしてればいい
わっ!」
 犬と支那人は芝生に入るべからずと言う英国人の如く、ゆっちゅりーは傲慢な態度を取
る。

「おねえさん! ぱんつはかないの? すそからみえてるよ! ろしゅつきょう?」
 乱れた旗袍の裾から、美鈴のデリケートな部位が覗いているのに気付いたれいむが、変
質者を見る目で聞いてきた。

「ゆっ! ここはれいむたちのおうちにするから、おろかなにんげんはきえてね!」
 この頭数でも食べても、まだまだ沢山食べ物があるのが気に入ったのか、れいむは菜園
を自宅にする気でいる。

「ひとにものをきくたいどじゃないぜ! ゆっくりしね! はんせいのまえにしね!」
 美鈴の言い方が気に触ったらしく、まりさは怒りの形相を浮かべた。

「ゆっ! おねえさん! れいむ、いまうんうんしてるんだから、はなしかけないでよ!」
 ぶりぶりと排泄餡子を垂れながら、れいむは口を尖らせて美鈴に抗議する。

「ちゅうごくのくせに、まりささまたちにおおきなたいどだぜ! かかってくるかだぜ?」
 格下の者を挑発するような風情で、まりさは頬を膨らませた。大勢なので気が大きくな
っているようだ。

 ──美鈴の怒りが爆発した。



「……あちゃー……やりすぎちゃった……うぅっ……」
 肩を落とし、沈鬱な表情で美鈴は俯向いた。
 菜園は無惨な荒れ地と化している。
 怒りのあまり、前方に気弾を溜めて発射する大技、極光「華厳明星」を放ってしまった
のであった。

 白黒の魔法使いが何かと言えば、ほいほいぶっ放す恋符「マスタースパーク」や、ここ
の図書館に住む引きこもりが時々使う日符「ロイヤルフレア」に比べれば、その威力は同
情を禁じ得ないようなレベルだが、ゆっくりに対しては充分すぎるオーバーキルだ。

 ゆっくりたちは餡子のひとかけらも残さず消滅し、また美鈴が守るべきだった菜園も壊
滅したのである。

「あぁ……ごめん、ごめんなさい……私の可愛い青梗菜、大根、人参、オクラ、ジャガ芋、
トマト、春菊、小松菜、ラディッシュ、キュウリ、茄子、きゃべつ、タマネギ、長ネギ、
モロヘイヤ、にら、アスパラガス……」
 食されることなく失われた野菜たちに、美鈴は心の底から詫びた。
 彼女の目からは悔悟の涙が、とめどもなく溢れている。

 がっくりと大地に膝を突き、美鈴はうなだれた。
 そして、人目をはばかることなく大声で泣き始める。
 まるで親兄弟の葬式で哭泣するかの如く、わんわんおんおん泣く。

「……今は、そっとしといてあげましょう……」
 騒ぎを聞きつけて集まったメイドたちを、いつの間にか現れたメイド長が解散させる。
 しばらく見守っていた彼女だったが、このまま泣き死にそうな勢いで号泣する美鈴に掛
ける言葉が思い浮かばず、やがて静かに立ち去った。

 あとには、菜園の跡地とその前で泣く美鈴だけが残された。



「それで被害状況は?」
 紅魔館の主であるレミリア・スカーレットは、起きて早々「ゆっくりに館を荒らされた」
と言う不快な報告を聞く羽目となった。

「はい、菜園が壊滅いたしました。また、薬草園の方は僅かな被害はあったものの、ゆっ
くりは問題無く駆除。他に、館内へ侵入したゆっくりにより花瓶が割られるなどの被害が
出ておりますが、それらも全て対処済みです」
 淡々とメイド長である十六夜咲夜は報告した。

「そう……って、菜園が壊滅!? ゆっくりが壊滅させたの?」
 予想外の壊滅という報告に、レミリアは驚いた。
 レミリア自身は、まだゆっくりと言う生物を見た事はないが、話しを聞いて知る限り、
そんな被害を及ぼせるほど強大な力は持っていないはずである。

「いいえ、菜園を壊滅させたのは美鈴です。撃退の際、おそらく力加減を間違えてしまっ
たと思われます」
 本当は力加減を間違えたわけではなく、激高して大技を炸裂させてしまったのだが、美
鈴から真相を未だ聞いていないので、咲夜は予測で答えた。

「へー……力加減間違えたぐらいで、壊滅するのかしら……まぁ、それはいいわ。で、美
鈴はどうしてるの?」
 レミリアは原因の詳細よりも、責任者の現状の方が気になった。
 その壊滅させた本人が、誰よりも強い思い入れを持って、毎日世話をしていたはずだか
ら。
「自分の為してしまった事にショックを受け、菜園跡地で泣いております」

「なるほど……まぁ、そうでしょうね。とりあえず、菜園はどうせ美鈴が一人で管理して
たんだから、今回の件は勇み足ってことで不問とするわ。壊しちゃったんなら、もう一度
作らせればいいだけだし」
 そう言って、レミリアは今回の件を片付けた。
 実際のところ、さほど好きではない野菜が食卓に並ぶ頻度が下がるのだから、菜園が壊
滅したならしたで別に構わないと思っている。

「寛大なご処置、美鈴に代わってお礼申し上げます……時に、お嬢様」
「なに、咲夜?」
 この忠実な従者が次に何を言うか、レミリアには薄々想像がついている。

「美味しく召し上がっていただけるよう、野菜料理もさらに工夫いたしますので、今後は
もっとお野菜を召し上がってください」
「……善処するわ……でも、咲夜のお料理が悪いんじゃないわよ。私って小食だから、お
野菜食べると他があんまり食べられなくなるから……」
 カリスマの欠片も感じさせない言い訳をレミリアは始めた。

「いいえ。お嬢様の場合は単なる偏食です。お野菜もきちんとお召し上がり下さい」
「えっ……んー……だ、だってぇ……確かに、咲夜のお料理だったらお野菜も美味しいわ
よ。でも、やっぱり……その、ねぇ、ほら……」
 最早、主人と従者の会話では無かった。



 時間の経過とともに、号泣はやがて嗚咽へと変わり、現在の美鈴はしくしくと普通に泣
いていた。
「うぐっ……ぐすっ……ごめん、ごめんね……青梗菜さん、あなたの……みずみずしい青
い身体を塵に変えて、ごめんなさい……ぐしゅっ、モロヘイヤさん、あなたの……」
 自らの技で葬り去ってしまった、愛しく可愛い野菜様たちへの詫びの言葉が口から溢れ
る。

 額を地に着け、のばした手で土を掴みながら、ぐしゅぐしゅすんすんと声を詰まらせな
がら、美鈴は泣き、詫び、許しを乞う。

 そんな美鈴の前に、一匹のゆっくりが近寄って来た。
 どこからか入ってきた──おそらくは夜勤者が巡回をさぼったため、見咎められずに侵
入を果たしたであろう、ゆっくりめーりんである。

 直径およそ30センチぐらいのめーりんは、美鈴の悲しみや後悔、罪悪感はよくわかると
言いたげな、悲しそうな顔をしている。
 ゆっくりと美鈴に近付くと、慰めるようにめーりんは彼女の手に身を擦り寄せた。

「大根さ……ん!? ……だ、誰……?」
 涙と鼻水と涎と泥で汚れても、可愛らしく美しい顔を、美鈴は上げた。
 心中密かに、レミリアか咲夜が慰めに来てくれたのかも……でも、会わせる顔がない、
と葛藤しつつ。

 そこには自分のデフォルメされた似顔絵があった。
 平面ではなく立体なので、正確には似顔絵ではなく頭像であろうか。

 目が合うと、それ──めーりんは、悲しげな微笑を浮かべて見せた。

「ふ、ふざけるなっ! ゆっくりごときに、私の悲しみが、自責が、後悔が、行き場のな
い怒りが、わかるもんですかっ!」
 地に伏した姿勢のまま、美鈴はめーりんを平手で叩いた。
 声も上げずに、それは叩き飛ばされるように、地面を転がる。

「く、くそっ……! な、舐めないでよっ! 同情なんか……ゆ、ゆっくりに同情される
ほど、私は可哀想な子じゃないわよっ!」
 立ち上がり、転がるめーりんを美鈴は追いかけた。

 荒々しく乱暴に抱え上げると、片手で頬を握り掴み、もう片方の手を振り上げる。
「あ、あんたなんかにっ! な、なにがっ、わかるっていうのよっ! ちくしょうっ!」
 振り上げた拳を、めーりんの頬めがけて振り下ろす。

 人を殴った時に感じるそれよりも、柔らかい感触が、とても気にくわない。
 殴っても効いてないんじゃないかと思えて、ますます腹立たしくなってきた。

「なんなのよっ! へらへらと締まりのない顔してっ! 私がそんな顔だって言いたいの?
バカにしてるのっ!?」
 喚き、怒鳴りながら美鈴は、めーりんの頬を殴り続ける。
 殴られるのが痛くて悲しいのであろう、めーりんは涙を流しているが、顔自体の構造が
笑顔系なためか、バカにされてるような気分になり、どんどん怒りが高まってゆく。

「私はっ! そんな顔してないわよ! くそっ! ちくしょうっ! こいつめっ!」
 美鈴もまた泣いている。
 涙を流しつつも、めーりんの顔を殴る作業を休めようとはしない。

 きつく握り掴んだ片頬には爪を立て、もう片方の頬は拳の打撃で痛めつける。
 モデルとした人物と同様に、愛らしく可愛いめーりんの顔は、次第に痛ましく変形させ
られてゆく。

「あははっ、いい顔になってきたじゃないっ! ほら、こうしてやると、もっと、もぉぉ
っといい顔になるわよっ! あははははっ!」
 殴るのを止めた美鈴は、泣きながら笑いつつ、両手でめーりんの頬をつねり掴んで引っ
張りはじめた。
 ぎちぎちと皮肌を指先でねじりながら、左右に力を込めて引き延ばす。

 めーりんの皮肌は、他種に比べると弾性が強く強靱にできているとは言え、美鈴の力で
引っ張られたら耐えられるはずもない。

 うにょーんとのばされた皮肌は、やがて限界を迎えて、ぶちんとちぎれた。
 支えを失い落下しためーりんは、引き千切られた頬の傷から中身を漏らし、激痛で地面
の上をのたうち回る。

 手に残る引き千切った頬を適当に投げ捨ててから、
「あははっ、痛いの? 痛いわよね? でも、私の心はもっと痛いのよっ!」
 美鈴は潰さない程度の力で、めーりんを踏みつけた。
 靴の下に感じる柔らかい感触が、まるで人の身体を踏みつけているようで心地良い。

 傷口が大地に擦られるように、美鈴はぐりぐりと足を動かす。
 中身と土が混ざり、それが身体の中にも入り込む苦痛に、めーりんは身を震わせる。

「ふんっ、泣きわめかないと、いまいちすっとしないわね……ほら、こっち向きなさいよ!」
 爪先を傷口に突っ込み、足を使って顔をこちらに向けさせる。

「あはははははっ! いい顔になったじゃないっ! 泥と涙と、ぶちまけられた中身で、
とってもぶさ可愛くお化粧されてるわよっ!」
 相変わらず涙を流し続けたまま、美鈴は楽しそうに笑い、めーりんの口元目がけてつば
を吐いた。

「あはははっ! ほら、舐めなさいよ! 疲れたでしょうから、水分くれてやったのよ!」
 傷口に突っ込んだ爪先で中身をかき混ぜながら、美鈴は言った。

 めーりんは言われた通り、ゆっくりと舌をのばして、美鈴に吐きかけられたつばきを舐
め取った。
 その顔は、とても悲しげに見える。
 今までもずっと悲しそうな顔をしていたが、まるで美鈴のそんな姿を見るのが最も辛く
悲しいと、目で言っているかのような表情だ。

「……なによ……なんで、そんな目で、見るのよ!」
 理不尽な暴力を振るわれているのに、責めるでもなく、哀れむでもなく、言うなれば美
鈴の苦悩を我が事のように悲しむ目が、心をちりちりと焦がす。

 そうだ、この目が気にくわないんだ──美鈴は、そう思った。
 それは違うと、心の中で別の自分が言っているような気がするが、一度そうだと思って
しまった以上は、どうにかして処理したい。

「その目、貰うわよ……」
 美鈴はめーりんの前にかがみ込み、ゆっくりと見せつけるように、まず右目に手を伸ば
す。

 めーりんの目は、それでも変わらなかった。
 じっと美鈴の顔に視線を合わせている。

「……ねぇ、あんた……怖くないの?」
 眼球に触れる直前で、美鈴は手を止めて聞いた。
 微かに、めーりんは頷いた。

「…………萎えたわ」
 そう言うと美鈴は、のばした手を自分の目元に運び、涙を拭った。
 もう涙は止まっている。

「ふふっ、ありがとう……あんたのおかげで、落ち着いたわ」
 普段通りの穏和な表情を取り戻し、美鈴はめーりんに微笑みかける。
 めーりんも涙を流すのを止め、痛みに苦しみながらも、懸命に微笑んで見せた。

「ゆっくりはモデルに似る、か……ふふっ、良く見るとあんた可愛いわよね」
 周辺を見回し、投げ捨てためーりんの頬を探す。
 ぞんざいに投げ捨てたためか、それほど遠くない、数歩先の距離にそれは落ちていた。

「あはっ、可愛い顔が台無しになっちゃってるわね……まぁ、私がやったんだけど」
 じっとしてて、と言い置いてから見つけた頬を拾ってくる。

「治してあげるわ……」
 引き千切った上に、踏みつけ地面に擦り付けたため、傷口は酷い有様であるが、くっつ
けて気を送れば問題無いだろう。
 美鈴の言葉に、めーりんは痛みも忘れて嬉しそうに笑った。

「あらあら、そんなことするから……中身がどんどん漏れてくじゃない。ほら、じっとし
てなさいよ」
 結構な量の中身を失っているはずだが、元から生命力が飛び抜けて強い種であるめーり
んは、重傷を負って辛そうではあるが、瀕死と言うほどでは無さそうである。

 ゆっくりれみりゃのような規格外の再生力こそ無いが、回復力も高いめーりんは、傷を
塞ぎ気を送り込むと、あっさりとすぐ元気になった。

「ふふっ、本当に私に似てるわね……頑丈で、元気で、可愛くて、健気で……」
 抱きかかえ、めーりんの頭を優しく撫でる。
 あんなに痛い目に遭わされたのに、めーりんは美鈴の胸に顔を押し付け甘えてくる。

「人懐っこいわね……だめよ、私のゆっくりなら、優しいだけじゃだめ。時には強く、厳
しく、敵と戦わなきゃ……あっ、そうだ!」
 美鈴は名案を思いついた。



 それから一週間後──。

 門番業務をこなしつつ、美鈴は菜園の復興に勤しみ、今ではもう立派に復旧していた。
 育苗中でまだ植えていない作物もあるが、ゆっくりの侵入を防ぐ柵を作り、土壌を整え、
用水を整備し、畝を立て、直播きのものは播種を済ませている。

 あとは播いた種の生育を待ちつつ、日々の手入れを行い、育苗を終えた苗を植えれば、
かつての姿を完璧に取り戻すであろう。

「こう言う仕事は、見事にこなすわね」
 ちゃんと作り直された菜園を眺めながら、咲夜は美鈴に語りかけた。

「こう言う仕事って……咲夜さん、まるで私が他の仕事は、ロクにこなせてないみたいじ
ゃないですか……」
 不本意そうに肩をすくめつつも、美鈴はどことなく嬉しそうな顔をしている。

「うーん……一応、最大限に褒めたつもりよ。と言うか、あなたは本来の業務中の居眠り
が……ちょっとねぇ」
 咎める風ではなく、からかうように言って、咲夜は微笑んだ。

「うぅっ、そ……それは、その……が、頑張ってますよ!」
「はいはい。私がナイフを刺さなくても済むように頑張ってね……そう言えば、今度は柵
も作ったのね?」
 ぐだぐだと守られもしない約束や言い訳を聞き、それにいちいち対応するのは、あまり
瀟洒ではないので、軽く美鈴の言葉を流しつつ皮肉を言い、咲夜は話題を変えた。

「あ、はい! しっかりと門を見張って、巡回を強化しても、連中はどこからともなく入
ってきますからね……やっぱり柵ぐらいは必要だと思いまして」
 さりげなく、ちゃんと仕事をしている事もアピールしながら、美鈴は答えた。

「そうね。柵があると無いとじゃ、だいぶ違うでしょうね。それに加えて、さらに見張り
も置いた、ってわけね」
 柵の切れ目、菜園の出入り口に居る一匹のゆっくりに視線を向ける。

「はい、そうです。あの子は私に似て可愛くて真面目ですから、きっと悪辣なゆっくりを
排除してくれますよ!」
 ある意味で存在自体が咲夜への皮肉とも思える豊かな胸を張り、美鈴は力強く言い切っ
た。

「ふーん……確かに、そっくりね。ぐっすり寝てるところなんか、もう生き写しね」
「……え!?」
 咲夜の言葉を聞き、美鈴は慌てて菜園の入り口を見た。

 そこには、ゆっくりと寝ているめーりんの姿があった。

「…………だ、大丈夫です……し、侵入者が現れたら、ちゃんと撃退するはず……です」
 激しく動揺し内心で非常に大きな不安を感じながらも、美鈴は太鼓判を押した。

「飼い主が飼い主だし、モデルがモデルだから、あまり期待はしないでおくわ」
 そう言い残して、咲夜は菜園に背を向けて立ち去った。

 あとには、これから豊かになるであろう菜園と、困り顔で頭を抱える美鈴、対照的に幸
せそうな顔で眠るめーりんが残された。


                                   ■END■

あとがき
 ご笑覧いただきありがとうございます。A.Hでございます。
 書いてるうちに、生ぬるいハッピーエンドになりやがりました。どう言うことだ。
 本格的なめーりん虐めは、そのうち再挑戦しようかと……ってか、めーりんに他のゆっ
くり退治させる方が書きやすそうだな……。

 いつもご感想いただきありがとうございます。
 本籍地が18禁エロ系なためか、すぐにそっち系へ走りやすく、それっぽい描写が増える
傾向にあり、色々となんかすみません。

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最終更新:2008年09月14日 11:21
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