ちくたく ちくたく ちくたく
ちくたく ちくたく ちくたく
時計の音が薄暗い部屋に静かに漂っている。
休んでも咎めるものはいないのに、それでも時計はちくたくちくたく時間を刻む。
誰も見ていないときにも動いているから、いつ見られても役に立つ。
そう言っているかのような音。
どこか寂しげなその音は、この家の主の枕元から聞こえてくる。
時刻はもうすぐ午前6時に指しかかろうとしている。すると、時計の音が変わった。
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆぅ~ん! かわいいれーむが
ゆっくり6じをおしらせするよ!!」
文字盤の上に見える顔らしきところから、声が出た。
丸く、ふてぶてしい顔つき。黒と赤の装飾。
ゆっくり霊夢型の時計のようだ。
その時報で、布団がもぞもぞと動きだした。夢の中の住人が身じろぎしているのだ。
「う~んむ」
ちくたく ちくたく ちくたく ちくたく
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆぅ~ん! ゆっくりおきてね! れーむとおしゃべりしてね!!」
「れーむとあそんでね! ゆっくりおきてね! れーむとあそんでね! ゆっくりおきてね!」
時計が続々と言葉をつむぎ出す。目覚し機能のようだ。
本物のゆっくり霊夢と同じ声色、同じ口調でせっついてくる。
「ゆっくりしないでれーむとあそんでびゅぅうんっ!?」
時計が叩かれる。家主が起きたのだ。
むっくりと起き上がると、声を上げて伸びをする。
寝巻きにしている浴衣は乱れており、はだけた胸元から垣間見える肌は透けるようだ。
寝癖でぼさぼさの頭をぽりぽりとかき、寝ぼけ眼をそのままにべちべちと時計を叩いていく。
叩かれるままぶにぶにと柔らかく形を変えるソレは、
「ゆ゛っ! ゆ゛っ! ゆ゛っ! ゆ゛っぐ!? ゆっぐりやべでねっ! ゆっぐりでぎなぃいい!!!」
というように一撃ごとに悲鳴をあげた。
「目は覚めたから、黙ンなさいな」
「ゆ! ゆっぐりわがっだよ!!」
ああ、生きてゐる。
それは本物のゆっくり霊夢だった。
ゆっくり霊夢を生きたまま加工し、時計にしてしまったのだ。なんという恐るべき所業。
時計れいむは涙ぐみ、嗚咽をこらえながらも「ちくたく ちくたく」言いはじめる。
やがて主は出かけてしまい、それを聞くものはもう誰もいなくなった。
しんとした部屋に、時計れいむの声は染み渡るように響いていた。
人里からほど近い場所にその施設はある。
いつもは里の喧騒とは無関係に閑散としているそこは、いまや祭りもかくやと言う程の賑わいを見せていた。
里の子供達だ。10人くらいだろうか、その子供達が思い思いに騒いでいるのだ。
「こら、静かにしないか」
子供達をつれている女性、上白沢慧音は眉をしかめて注意した。
それで一旦は静かになったが、すぐにまた元通りになるだろう。
ほどなくして、柔和な顔つきをした男性が近づいてくる。
「こんにちわ。 お待たせしてすみません。 里の寺子屋から社会科見学の皆さんですね」
「はい。 本日はよろしくお願いします」
「こんにちわ~」
「おねがいしま~っす!!」
慧音の挨拶に、子供達が元気良く続いた。
「はい、こんにちわ。 みんな元気一杯だね! それではこちらへ」
案内の男性に続いて奥へと入っていく。
白い床に白い壁、天井まで真っ白で、清潔だがどこか無機質な感じのする廊下を歩く一同。
見れば壁にはさまざまな写真が掲げられている。
その写真には、ゆっくりたちと人間が仲睦まじく並んでいた。
「さて、ここは育児室です」
男が指す方にはガラスで仕切りのされた部屋があった。そこは見下ろすようにできており、地下に
埋設されているようだ。
外から見えていたのは一階部分で、どうやらこの施設の重要な場所は地下に設置されているのだろう。
「育児室?」
慧音が訝しげにたずねる。
「ええ。 子ゆっくり達をここでゆっくりできるように育てるのです。 素体は健康なほど長持ちしますからね」
「ああ、なるほど。 しかし見たところ成体と言えるようなゆっくりがいませんが?」
「ええ、この部屋はあれらが発情期になるまで育成する部屋ですから、成体は一匹もいません。
発情期になって、つがいを作り、身ごもったらすぐに別の育成室へと移すのです」
「だから育児室という名前なのですね」
慧音は納得した。
育児室の中の大きめのゆっくりたちは、頬をすり合わせてはいるが、それが交尾に繋がっていない。
発情期ではないからだ。
しかし他にも疑問があった。
「どうしてゆっくり霊夢しかいないのです?」
そう。その部屋にはゆっくり霊夢だけがゆっくりしているのだ。
子供達は、思い思いに「まりさはいないの?」「ありすは~?」などと言っている。
「ここはゆっくり霊夢専用の育児室なのですよ。 他にもそれぞれ専用の育児室が用意してあります」
「ほう、専用ですか」
その二十畳ほどの部屋で、多くのゆっくり霊夢がそれぞれ飛び跳ね、歌い、かけっこをし、自由に
ゆっくりを満喫していた。リボンの色のみならず、その張りと艶もよく、健康状態は良好であることを
如実に表していた。
肌はぴちぴちとしており、かつ、もちもちとした弾力がある様が見て取れる。競売にかければ、高値
がつくに違いない。
慧音は子供達の声を聞きながら、目を皿のようにしてそれを観察した。
「ゆっくりは他の野生動物と違い、環境の激変でストレスを感じると言うことがありません」
男は育児室に見入る慧音を横目に説明を続ける。
「あれらのストレス要因とは、ずばりゆっくりできないことです。 ゆっくりできさえすれば、他の瑣末な
ことにはあまり頓着しないのです」
「……なるほど。 この部屋はあれらにとって、十分にゆっくりできる環境が整えられていると言うことですか」
「もちろんです。 私達人間には聞こえませんが、部屋にはゆっくりが安らげる音楽が常時流されています」
「犬笛みたいなものですか」
「ははっ、わかりやすく言えばそうですね」
「気になっているのですが、どうして部屋には巣にできるようなものがないのですか?」
そう、育児室は床と壁と天井がむき出しなのだ。これで本当にゆっくりできるのだろうか?
「当然の疑問ですね。 ここからでは解かりませんが、部屋の内装は全てゆっくり霊夢の皮で出来ています」
「!」
「ゆっくりしすぎて死んだゆっくり霊夢の皮を剥がし、なめし、繋げて貼り付けてあるのです。
そうですね、洋菓子のミルフィーユをご存知ですか? あの皮のように何層も重ねられていて、一枚一枚の
間に適度な隙間も設けているので、弾力性や保温性は優れていますよ」
「そ、それはまた、手間のかかることですね」
「さらに、先ほども申し上げましたとおり、あれらのストレス要因とはゆっくりできないこと」
「ええ」
「巣というのは、あらゆる外的刺激から身を守るために作るものです。 天候や外敵などですね。
しかし、この部屋は室温や湿度も完璧に制御されており、かつ外敵は存在しません。 水や食事も規則正しく
配給しているので、あれらはむき出しでもゆっくりしているのです。 巣を作るという発想自体、ゆっくり
できない環境という証明にほかなりません。 もちろん、子供同士のいさかいなどはありますが、それは
じゃれあいなので問題にもなりません。 そして、部屋はゆっくり霊夢の皮で敷き詰められています。
あれらにとって、非常に慣れ親しんだ感触。 夢見心地でゆっくりしていることでしょう」
「……なるほど。 この部屋そのものが巨大な巣、コロニーの役割を果たしていると言うことですね」
「そうですね、その通りです」
納得する慧音。しかし、今自分達がゆっくりしている場所が、同族の死体の皮で出来ていると知ったら
ゆっくり霊夢たちはどうなるだろう。慧音の胸がかすかに疼いた。
「そういえば、餌の配給とはどんなものなのです?」
「ゆっくりの死骸です。 それをわからないように潰して混ぜているので、想像すらしていないでしょう」
「ははあ」
慧音はやはりと思った。おそらくは、その餌も全て死んだゆっくり霊夢のものなのだろう。
「他にもゆっくり魔理沙の部屋、ゆっくりアリスの部屋などがありますが、ご覧になりますか?
この部屋とあまり大差ありませんが、どうします?」
「いえ、次をお願いします」
「わかりました。 それではみなさん、どうぞこちらへ」
ゆっくり魔理沙は幸せだった。
生まれたときから、とてもゆっくりした仲間と育ち、何不自由なくゆっくりできたからだ。
日がな一日、友と遊び、思うままにゆっくりする。
毎日毎日腹が減る頃には丁度良くご飯を食べることが出来た。
暗くなれば眠り、目を覚ます頃には明るくなっている。
最初は、ご飯を持ってくる「にんげん」というのがよくわからなかった。
その「にんげん」は時折自分の体をくすぐったりしたが、それも心地よかったから気にしなかった。
「にんげん」は、苦痛を訴えればすぐさま原因を取り除き、自分をゆっくりできるようにした。
「にんげん」は、自分に空腹を感じさせないように、いつもご飯を持ってくる。
「にんげん」は、自分の体が汚れたと感じたら、その旨を伝えれば、丁寧に綺麗にした。
やがて、ゆっくり魔理沙にとって、「にんげん」とは自分の言うことを聞くものだという認識に至った。
そうして育ち、立派なゆっくりになった頃、恋をした。
発情期というものだったが、ゆっくり魔理沙にとっては衝撃的な恋であった。
相手は同じゆっくり魔理沙。
二匹は目と目が逢った瞬間、すぐさま恋に落ち、頬と頬とが触れ合った瞬間に運命だと感じた。
やがて、どちらからともなく交尾をし始め、二匹は共に子を宿す事が出来た。
体のなかに現れた異物感。
しかし不快ではなく、むしろ天上の至福を感じることが出来た。
それが愛しい相手との、無二の実りだと確信していたからだ。
以前よりも動き回ることが出来なくなっていたが、二匹は幸福の絶頂にいた。
その後、一度お引越しをしたが、自分達がゆっくりできたので、気にもならなかった。
むしろ、子供が出来たことを理解できない幼子たちに注意を向けないでいられる分、この場所のほうが
ゆっくりできると思った。
それに、ご飯を運んでくる「にんげん」も、祝いの言葉をかけてくれたし、より一層ゆっくりできるご飯を
自分達のために用意した。その行為を当然だと思っていたが、感謝もしていた。
お引越しをする前に、仲間たちが祝福してくれたが、同種以外に自分達の子供を祝福してくれる存在は、
純粋に嬉しかったのだ。
可愛い子供が生まれたら、あの「にんげん」にも見せてやろう。きっと一緒に喜んでくれる。
自分達の可愛い子供達に、美味しいご飯を用意してくれるはずだ。
事実、「にんげん」は身重になった自分達に、今までよりも丁重に自分達に接していたのだから。
いつもよりゆっくりできる美味しいご飯。ゆっくりできるお風呂、ゆっくりできる匂い。
そうして、臨月を間近に控えたある日。
ゆっくり魔理沙は目を覚ました。
どこかいつもと違う感触がするので、あたりを見回した。
そこはゆっくり魔理沙が眠る前にいた場所ではなかった。
無機質な光、匂い、音。さらに自分の体がうまく動かせないことに気づいた。なにかががっちりと
ゆっくり魔理沙の体を捕えている。冷たくも温かくも無いそれに、ゆっくり魔理沙はぞわりとした。
「ゆ? ここどこ? おねーさんだれ?」
ゆっくり魔理沙の目の前には「にんげん」がいた。
いつも、ゆっくり魔理沙に従っている「にんげん」とは違う「にんげん」だ。
「ゆっくりはなしてね! まりさおこるよ?」
でっぷりとした体を揺らそうとするが、びくともしない。
女はそれを意に介さず、チョークのようなもので、ゆっくり魔理沙の口の下に線を引いた。
「ゆっふふふっふ! くすぐったいよ! やめてね!」
多少歪んでいるが、見事な円形をしたそれにそって、メスでゆっくり魔理沙を裂いた。
「ゆ゛あ゛っ!?」
ざくり。
という歯切れのいい音と共に、鋭い痛みがゆっくり魔理沙を貫いた。その痛みは熱さを伴っており
徐々に激痛がゆっくり魔理沙の体に広がっていく。
「ゆ゛ぎゅぅっ! ゆ゛っう゛う゛うぅ゛ぅ~~~~っ!!?」
女は濁った悲鳴を聞いても、微塵も揺るがずに作業を続けた。
べろりとめくれた皮をそのままに、鉗子で穴を広げて固定する。
「やっ! や゛べろ゛ぉお゛お゛ぉぉお゛~~~!! ま゛り゛ざをはな゛ぜぇえ゛ぇっ!」
みちみちと単発的に弾けるような鋭い痛みと、じぃんじぃんと染み渡るような鈍い痛み。
ゆっくり魔理沙の血走った目からはだくだくと涙が流れている。口からは涎がとめどなく溢れているし、
体は切り裂かれたときから震えているばかりだ。
どおして? なんで魔理沙がこんなことをされているのっ!?
これは何かの間違いだよ!! 魔理沙がこんなことをされるわけがないんだもん!
そうだッ! これは夢だよ! ゆっくりできない夢に違いないんだよ!!
早く起きろ! 早く起きろ!! 早く起きろ!!!
ゆっくりしないで目を覚ませぇっ!
「い゛や゛ぁあ゛ぁぁ!! あ゛り゛ずの゛あ゛がぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
必死に念じていたゆっくり魔理沙の身に、悲痛な声が届いた。
はっとしたゆっくり魔理沙は、周りにも自分と同じ状況のゆっくりがいることに気づいた。
自分以外にもこんなことをされている仲間がいるかと思うと、怒りが湧いてきた。
文句を言おうと口を開くが、
「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
という悲鳴しか上がらなかった。
自身に何かが刺し込まれる激痛。その痛みの場所に目をやると女が手を入れていた。
「い゛っだい゛、な゛に゛を゛じでる゛の゛ぉお゛お゛お゛お゛お゛っ!?」
胎内の何かをつかまれ、引っ張られる感触。
うああ! やめろ! やめろぉ! やめろぉっ!!
そこはっ! そこには愛しのまりさとの子供が……っ!!
もうすぐ産まれる魔理沙の可愛い可愛い子供がいっ……!!!
中身がくちょくちょと乱される感触。大事なものがいなくなる喪失感。こすれる音と千切れる音。
目の前に引きずり出される、自分に良く似た形。
どこか柔らかさを感じさせるそれ。思わず守ってあげたくなるようなたたずまい。
拘束されたゆっくり魔理沙の意識が揺れる。
そう、それは──
「ゆ゛ぐう゛う゛ぅぅぅう゛う゛ぅぅっ!! ま゛り゛ざの゛あ゛がぢゃぁあ゛あ゛ぁあぁん゛!!!」
女は取り出した赤子を、無造作に横にある金属製のバットに置く。
自身の異常事態に気づいていないのか、赤子はゆぅゆぅと寝息をたてていた。それだけで女が
熟練の腕だと判断することが出来る。
「どおじでぞんなびどいごどずるのぉおおぉぉっ!? がえじでっ! まりざのごどもだよぉおぉぉっ!!!」
「うん。 どこも欠損はないわね。 じゃ、それは持って行って」
「わかりました。 それにしても、いつみても見事な手際ですね」
「そう? ま、切った数が違うからかもね」
女は赤子に異常部位がないことを確認すると、脇に控えていた男に渡した。
「ま゛っでえ゛ぇええぇぇっ!! ま゛り゛ざのあ゛がぢゃんがえ゛じでえ゛え゛え゛ぇぇっ!!!」
赤子はこの後、ナンバリングを施されて育児室へ入れられる。
親が育ったのと同じ、ゆっくり魔理沙だけのコミュニティで、発情期まで何不自由なくゆっくりと育つのだ。
残されたゆっくり魔理沙は、燃えるような眼差しで、女を射抜くように見据えていた。
「ゆ゛っぎゅう゛ぅう゛ぅう゛ぅぅっ!! ゆ゛るざない゛! ぜったい゛! ゆ゛るざないよ゛ぉっ!!!」
怨嗟に燃えるゆっくり魔理沙の慟哭。
だが、女は今までと同じように、黙してただ行動しただけだった。
スプーンでゆっくりと中身をかき出していく。
「ゆ゛ぐっ! ゆ゛ぐっ! ゆ゛ぐっ! ゆ゛ぐっ! ぶぎゅゆっ!!?」
少しずつ減っていく中身。
それに伴い、ゆっくり魔理沙の表情は憤怒から蕩けそうなものへと変貌していく。
さらに、その中からさまざまなものが無くなっていく。
ひび割れそうな意識と、砕けそうな記憶。溶けて流れてしまう感情。
痛い! 痛いよ!! すっごくゆっくりできない!!
魔理沙にこんな事するなんて、絶対に許さない!
絶対に! だよ! 人間なんて酷いことをする奴はゆっくりできなくしてやる!!
どうしよう。 まりさとの子供がいなくなっちゃったよぉおお。
人間に持っていかれちゃったの。 すっごく寂しいよ、寒いの!
まりさにはなんて言えば良いんだろう? どう説めいすればいいンだろう?
せツめい?
……なにヲ?
あれぇ? おっかしいな~。
さっきまでそこにミえてたまりさがすっごくとおいよ?
あ、まって。 まってよ。 おいていカないで! マりさもいくよ! まりサといっしょにいくよ!!
ユっくりしてイってね!!!
やだヨ! まってね! ゆっくりまってね! そこでほほえんでるまりさはだぁれ?
なにかとってもたいせつだったまりさなきがするよ?
アれ? まりさってなにたいせつってどおゆうことよくわかんないや
あいなくなっちゃったもっとゆっくりしていってね
……ゆくり?
ゆっくり魔理沙は静かになった。
一見すると死んだように思えるが、女はしっかりと限界を見極めていた。
しっかり呼吸もしてるし、ゆるくではあるが震えてもいる。
女が掬い取った中身は、生き物でいう羊水に当たる部分と、感情、記憶を司る部位を少々。
生命活動には問題がない程度だ。
これらの餡子は処理されて、ゆっくり魔理沙の育児室へ餌として送られる。
「ふう」
それでもやはり集中力が必要なのだろう。疲れの色が見えている。
しかし女は手を休めなかった。次々と道具を取り出してテーブルの上に置く。
大小さまざまな歯車と、何本かの針のようなものが見える。
それらをひとつひとつ、ゆっくりと、かつ丁寧にゆっくり魔理沙の体内に配置していく。それらが
かみ合うように配置するたびに、中身に引っかかるのが刺激になっているのか
「ゆ゛ふっ! ゆ゛ふっ! ゆ゛ふっ!」
と奇妙なうめき声が、ゆっくり魔理沙の口から涎と共に、断続的に漏れていた。
おおよそ15分後、全ての歯車を配置し終えると、次は文字盤を取り出した。
1から12までの数字が刻印されているそれをかぶせると、仕上げに時針、分針、秒針と繋げていき、
最後に特殊なコーティングを施した蓋をする。
これで「まりさ時計」の体裁が整った。
あとは調律室で時計としての心構えを叩き込めば完成だ。
「これは、なかなか凄いですね」
慧音はごくりと喉を鳴らした。10畳ほどの広さの部屋で、数多くのゆっくりたちが体を開かれ、
子を引きずり出されて、体内に異物を接続され、徐々に時計に仕立て上げられていく。
そのあまりの異様さに戦慄しているのか、利発な美貌はわずかに翳っていた。
「ああ、刺激が強すぎましたか?」
男が慧音や周りの子供たちを心配げに見渡した。
「この加工室には防音措置が施されていますが、人によってはあれらの表情にやられてしまうのですよ」
「いえ、私は大丈夫です」
慧音は気を取り直したように言った。
子供達は、皆一様に目をきらきらさせて、
「すっげー」
「時計ってああやってできてるんだァー」
「うふふ」
「うちの時計はありすなんだぜ!」
などと興奮を隠し切れずにいた。
「……ははは」
慧音の乾いた笑い声。子供達の無邪気な残酷さは、こんなとき大人の思惑をたやすく超えてしまう。
「ねー、おじさーん。 ここぱちゅりーとかいないよー」
「ほんとだー。 れみりゃもいなぁい。 なんでー?」
「こぉら。 どうしてですか?だろう」
「ははは。 かまいませんよ、子供は元気が良すぎるくらいでないとね」
そう言って、男は子供達の頭を軽く撫でる。
「ゆっくりぱちゅりーは虚弱ですからね、あのような大々的な加工をすると容易く死んでしまうのです」
「すると、ここではゆっくりぱちゅりーは扱っていないのですか?」
「あぁ、いえいえ。 そんなことはありませんよ。 ただ、今は研究の段階でしてね」
困ったように頭をかく男。
「今までとは違った形にしたいと言っているので、出回るのはまだ少し先になるでしょうねぇ」
「へ~、ざんねーん。 れみりゃはー?」
「ゆっくりれみりゃはこちらです」
最終更新:2008年09月17日 22:31