慧音×ゆっくり系8 ゆっくろっく(下)




 そこは、さきほどの加工室の半分ほどの広さだった。
 しかしそこにいる人間の数は圧倒的に少ない。5,6人程度だ。そのどれもが緊迫した顔で
ゆっくりれみりゃを加工している。
「ゆっくりれみりゃは、今のところ胴体付の個体しか加工していません」
「なぜです?」
「通常のものは、どうにも加工しづらいのです。 数も一定量から増えませんし、他のゆっくりとは
格が違うと思い知らせてくれますよ。 ゆっくりふらんなどはもっと扱いづらいですしね」
「さすがは希少種、ということですね」
「そういうところですね。 頭の痛いことです」
「あはは~れみりゃだー。 ぷぷっ」
「れぇみりゃ、だ、どぉ~☆ あははは」
 子供達は愉快げにガラスにかじりつき、見下ろしている。
 その視線の先には先ほどの加工室と似たような光景が広がっていた。


「うっう~。 れ☆み☆りゃ☆だっどぉ~~♪ にっぱぁ~~~☆」
 このゆっくりれみりゃも何不自由なく育てられ、とても素晴らしい肌のはりと色艶をしていた。
 皮も滑らかで、羽の動きも滞りがない。
「れみ☆りゃ☆うぅ~~~♪」
 野生でこれほど上質のゆっくりれみりゃは、おそらく100匹に1匹いればいいほうだろう。
「うっう? ぷっでぃんはぁ? おなかへったどぉ。 らんちもっでぎでぇ~~ん」
 男は意に介さず、きびきびとゆっくりれみりゃの四肢を拘束していく。
 大の字に固定されたゆっくりれみりゃは、頬をぷっくりと膨らませて、可愛らしく不機嫌さを
アピールしていた。だが、それを可愛らしいと思うのは同じゆっくりれみりゃだけに違いない。
 むしろ、そのにこにこ笑顔で全てがぶち壊しになっていて、とてもちぐはぐな印象を受ける。
「れみりゃはおこるってるど! でっもぉ~、あやまればぁゆるしてやるんだどぉ~?」
 男はかまわずに、道具を取り出していく。
「ぷっでぃんふたぁっつもってくればぁ、いいこいいこしてあげるんだどぉ~♪」
 男はかまわずに、作業着を整えて口元をマスクで覆う。
「とぉってもありがたいことなんだどぉ? めったにないことなんだがらぁん」
 男はかまわずに、ゆっくりれみりゃを見据えた。
「なんでだまってるんだどぉ! あやまるんだどぉ! あやまるんだどぉお!!」

 男は黙ってメスを取り出すと、ためらわずに腹を切り裂いた。男の鼻孔にひき肉と油の匂いが侵入する。
「うぎゃぁあぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 への字に良く似たにこにこ笑顔を崩して、目を根限り見開いて絶叫するゆっくりれみりゃ。
 その羽は痛みを紛らわすためだろうか、ばっさばっさと激しく小刻みに動き続けている。
「れみりゃのおながいだいどぉお~~~!! なにずるんだどぉーーーーーーーー!!!」
 男はうんざりしたような表情を見せると、そのままゆっくりれみりゃの中身をかき出し始めた。
「うぎゃぅぅ! う゛あ゛っ! う゛あ゛あ゛っ! う゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
 胴体付とはいえ、ゆっくりれみりゃの中枢は他のゆっくりと同じように頭部にあるので、胴体部分
をどれだけ無遠慮にかき回しても、生命維持にはまったく問題が無い。
「やめでーーーーーー! やめでーーーーーーー!! やめでーーーーーーーーー!!!」
 さらに言えば、他のゆっくりにはない異常な再生力のおかげで、ぐちゃぐちゃになっても放置して
おけば、数時間(部位によっては数秒から数分)でものの見事に復元してしまうのだ。
 この超回復こそが、ゆっくりれみりゃを希少種たらしめている点であり、業者の頭を痛めている
最大の要因でもあった。
 時間をかけて技巧をこらすことができないのだ。
 ゆえに、ゆっくりれみりゃの場合は、すでに組み立て済みのメカニズムを埋め込むことになる。

 だが、それでは微妙に職人気質のある者たちが納得しなかった。
 他のゆっくり時計との差別化を図ろう!!
 ということで一味違うギミックを拵えたのだった。
「うあーーー! う゛あ゛ーーーーーーー! れみりゃのながみだじぢゃだめだどぉ~~~っ!!」
 男は中身を抜き、程よい隙間を空けるとそこに円形の物体を埋め込んだ。
 それはもちろん時計だ。
 しっかりと固定させると、今度はその時計に棒状のものをつなげていく。
「いぃだあぁ~~あぁぃいい!!! ながみがぁ! れみりゃのおうごんのながみがぁぁああ!!!」
 その黒くしなやかな金属棒は、ぐにぐにと曲がり、自在に湾曲するのだ。
「う゛あ゛べるんだどぉおお! や゛べるんだおぉ!! う゛あ゛ーー! う゛あ゛~~~!!」
 それを時計に接続し、四肢に手早く埋め込んでいく。
「う゛ぎゃぁあぁ!! れみりゃのおででがへんなんだどおぉ! ぎれいなおででになにがはいっでるぅうぅ!?」
 涙と唾らしきものが男の顔にかかるが、気にせず作業を続ける。
 ぐりぐりとねじ込んでいくと、末端の皮膚に突き当たる。
 次々にそれを埋め込んでいくと、そのたびにゆっくりれみりゃの絶叫があがる。
「れみりゃのあんよがぐるじいどぉ~!! かわい゛い゛あんよがみっぢみぢだどぉおおぉぉっ!!!」
 いつのまにか、男は顔をゆがめていた。笑顔になっている。
 最後に、歯車などの金属片が露出した一際太い棒を刺し込んで、時計と頭部とをつなげてしまった。
「ぶぎゅぅ!? あ゛だま゛がいだいどぉ~! わ゛れぞうだどぉ~! とるんだどぉ! はずすんだどぉおお!!」
 これでゆっくりれみりゃの頭と四肢は、時計と骨組みで繋がっていることになる。

「う゛あ゛~~~。 う゛あ゛~~~~~。 やべるんだどぉ~~~。 いだいんだどぉ~~~」
 すっかり脱力し、元気を失ったゆっくりれみりゃ。
「がぢがぢいっでるんだどぉ~! うるさいんだどぉ。 やがまじいんだどぉ~」
 だが、男が拘束を解くと、とたんにぐりぐりと動き始めた。
 いつものもたもたとした乱雑な踊りと違い、とてもゆっくりれみりゃらしくない身のこなしだ。
「うっうあ? う゛あ゛ああ!? うわぁあ!!?」
 戸惑うゆっくりれみりゃ。
 腹から露出している文字盤の針がかちかちと動くたびに、あわせるようにくりくりと四肢と頭が不規則に動く。
「う゛あ゛ーーーー! うあーーーーーーーッ!!」
 まるでロボットダンスのように、ぐねぐねかくかくと動いているゆっくりれみりゃ。
「おがしいどぉ! へっへんなんだどぉ!! とまるんだどぉ~!! とっとまれどぉ~~~!!!」
 自分の意思とは無関係に動く体に、戸惑いつつもそれを止めようと全身に力を込める。
「うぎゃーーー!! いだいぃ!! うあ~~~! とまらないどぉ! どうじでだどぉおお~~!!!」
 いくら動きを止めようとしても、体の中の骨組みが動いているのだ、やすやすと止まるものではない。
「どまらないどぉーーーー!! どーぢでぇえええ~~~~~!? どまるんだどぉーーーー!!!」
 それどころか、無理に動かないでいると、皮膚が中身と共につっぱり、かき回されて痛みが走る。
「うあーーー! いたいどぉ~! づがれるどぅ~~!! やだどぅ~! いやなんだどぉ~~!!」
 泣き叫びながら、体はぐりんぐりんと奇妙な踊りを続けている。
 ゆっくりれみりゃは死ぬまでその動きをし続けなければいけないのだった。
「ごわいどぅ~~! れみりゃおがぢぐなっちゃったどぉ~~! う゛あ゛ぁぁ~~~ん゛!!」


「あははははは!! れみりゃのかお、おっもしれえ~~~!」
「ぶはっ! バカまるだしぃ~! へんなのーー!」
 ゆっくりれみりゃの動きを見ていた子供達は一気に爆笑の渦へと巻き込まれた。
 それほどまでに、ゆっくりれみりゃは滑稽だったのだろう。
「あれでは、持ち主のあずかり知らぬ場所まで勝手に動いていってしまうのでは?」
 慧音は疑問をぶつけた。
 四肢の戒めもなく、自分の意思に従わないとはいえ、自由に動き回るのだ。当然の疑問と言えよう。
「それは大丈夫です。 販売の際には台座を合わせてますから」
「なるほど」
「他に何かご質問はありますか?」
 しばし考え込む慧音。
「そういえば、さきほどのゆっくりたちも、このゆっくりれみりゃも、普通に機械部品を埋め込んで
いましたが、それはゆっくりの体に悪影響はないのですか?」
「ええ。 あれらに使用されているのは、全てゆっくりの死骸から特殊加工したものでして、ゆっくりには
まったく悪影響はありません。 それゆえにゆっくりの生体との適合性も極めて高く、縫合せずとも癒着します。
そこはさまざまな機関が協力を申し出てくれたので、落ち度は無いはずです。それぞれの面子にも関わる
でしょうしね」
「……なるほど」
 さまざまな機関。
 永遠亭や河童だろうか。
 少なくとも慧音には、それくらいしか思い当たる節はなかった。
「それに、弾力性もあるので、ゆっくりが死なない程度の衝撃では故障もしませんよ」
「ほう。 それは凄いですね」
「もし故障しても、格安で修理を引き受けています。 といっても、今まで修理に来た人はいませんけどね」
 そのままからからと笑う男。
 きっと目覚まし機能を止めるついでにぶち壊す者が大半なのだろう。慧音はそう思った。
「さて、加工室はここまでですが、このままでは製品としてはなりたちません」
 男は手を数回打ち合わせ、子供達の注目を集めると、歩きながら説明を始めた。
「時計機能はついていますが、まだ時計としての振る舞いを知らないからです。そこで今度は調律室で
調整をしなければなりません。ここです」
 そこは今までとは違い、薄暗く、どんよりとした区画だった。
 暗室を想起させる雰囲気だ。
 ここも今までと同じくガラス張りで見下ろすことが出来る。
「うわ!」
 子供達が驚きの声をあげる。当然だ。彼らの目線の先には、とても大きなゆっくりがいたのだから。
「でっけ~!」
「なにあれ、キモい!!」
「! あれはもしや」
「さすがは上白沢女史。 お気づきになられるとは。 そう、あれはドスまりさです」
 部屋の三分の一を占める巨体。その天辺は天井にあたりそうなほどだ。
 腹にすえられた文字盤も大きく、見ただけでアンティークだとわかる。マニアが見れば垂涎ものだろう。
「まさか、実在していたとは……。 ん? あの表情、どこかで見覚えがあるような……?」
 慧音は何処で見たのだろう?と記憶を探る。つい最近のはずだ。
「あ!」
 そう。あの顔は最初の廊下に飾ってあった写真のゆっくりにそっくりだ。
「あのドスまりさは、写真のゆっくり魔理沙と同じ個体なのですか?」
「写真……? ああ、廊下の創業者の写真ですね。 ええ、その通りです。 あれがうちで一番古い時計ですよ
ドスまりさですが、我々は"大時計まりさ"と呼んでます」


 調律室の中では、一際大きなドスまりさ時計がちくたくと呟く中で、泣き声、悲鳴、怨嗟が響き、さらに
ドスまりさ時計と同じようにちくたく奏でているゆっくり時計がたくさん置いてあった。
 ここでドスまりさ時計から、時計としての振る舞いを学ぶのだ。
 いや、刷り込まれるというほうが正しいだろう。
 ドスまりさ時計が部屋中に響く大声で「ちくたくちくたく」言っているのに唱和し、
「ゆ! ゆ! ゆ! ゆぅうぅん!! おおどけいまりさが、ゆっくり3じをおしらせするよ!」
 と時報を奏でれば、それぞれの種類に適した物言いになるという差はあるが、その文句を告げる。
 たとえばゆっくりアリス時計は
「と、とと、とかいはのありすが、しかたないから3じをおしらせしてあげるわ!」
 というようになる。
 中でも面白いのがゆっくりれみりゃで、
「うっうっ、うあ、うあ~☆ れみりゃがぁ、かわゆぐ3じをおしらせするどぉ~! おやづもっでぎでぇ~ん♪」
 などと独自性がでたりするのだ。
 朝、昼、晩の時間になると、それが「あさごはん」「らんち」「でなぁ」になったりするので、
数が少なく、かつ踊るギミックで値段も張るというのに、なぜか大人気なのだった。
 もちろん、これらは調整が終わったゆっくり時計であり、調整の済んでいないゆっくり時計は見るに耐えない。
 どれもが苦痛にあえぎ、泣き、恨みつらみを吐いたり、体内の時計の音にいらいらしているからだ。
 個体差があるものの、それらが完全に治まるのがおおよそ20時間が経過したころで、そうなると、それらは
ドスまりさ時計の一際大きい音を聞き続けることになる。
 するとどうだろう、次々に「ちくたくちくたく」口ずさむものが現れるのだ。
 さらに40時間がたつ頃には、ドスまりさ時計にならって、時報を言い始める。
 ゆっくり時計たちが目覚し機能まで習得するには、分単位での認識が必要なので、さらにそこから60時間が
必要だ。そのころには人間に対する敵愾心も消えており、なぜか時計としての扱いに不満も持たないようになる。
 計上すると約120時間、実に5日間の調整期間を経て、ゆっくりたちは立派なゆっくり時計として
出荷されていくのだ。

 ゆっくり時計の寿命はまちまちで、1~2年で壊す持ち主がいたりすることから短命だと思われがちだが、
その実手荒な扱いをしなければ5年10年は楽に使えるのだ。
 しかも、時計部品もゆっくりの生体に近いつくりになっているため、ゆっくり自身が大きくなるにつれて
共に成長するのだ。中には市販のゆっくり時計を使い続け、ゆっくり大時計にしてしまう好事家もいるらしい。


「ははぁ。 物好きがいるものなのですね」
「かく言う私も、自宅ではゆっくりありす時計を使っていますよ。 もう3年になりますかな」
「そういえばゆっくり時計の動力は何なのでしょうか?」
 慧音ははたと思いついたふうに言った。
「ああ、これは説明が足りませんでしたな。 あれらの動力は足です」
「足、ですか?」
「ええ、あれらが体を跳ねさせたり、引き摺ったりして移動することはご存知ですね」
「はい」
「その移動するために使っている部分にバネを当てて、時計部分の動力に変換・利用しているのです」
「なんと! そんなことが」
「ですから、ゆっくりれみりゃ時計以外は基本的に置時計になり、あれらが生きている限り時を刻み続けるのです」
「するとやはり、ゆっくり時計にも餌を与えなければいけないのですか?」
「長持ちさせたいのなら、必要でしょうね。 それもメンテナンスのうちですから」
「ああ、やはりそうなのですか」
「ただ、それは思い出したときにしていただければ十分長持ちします。 クズ野菜やほんのちょっとの水で十分です」
「虫とかは~?」
 慧音と男の会話を聞いていた少女が質問する。
「もちろん虫でも大丈夫ですよ。 霧吹きでしゅっと潤わせるだけでも大丈夫なんですよ」
「へ~」
「いやはや、すごいですね」

 やがて一堂は元いたホールに戻ってきた。
 壁に立てかけてある写真も、あの大時計まりさを見た後では別の感慨が生まれるだろう。
「さて、ここまでで私の役目は終わりです。 他にもいろいろと展示品がありますので、よろしければ
そちらもご覧になってください。 体験教室もありますよ」
「本日はどうもありがとうございました。」
「ありがろうございました~!」
「ましたー!」
 慧音や子供達の声に送られ、男は次の仕事へ行ってしまった。
「さて」
 慧音は呟くと、壁にかけられた柱時計を見た。
 そのゆっくり時計は、顎が外れんばかりに開かれた口に文字盤がはめ込まれ、その下に繋がれた振り子の
先には小さなゆっくりがくくりつけられていた。
 親子を加工したに違いない。
 その振り子ゆっくりは振られるたびに
「ゆ゛っ ゆ゛っ ゆ゛っ ゆ゛っ」
 と漏らし、同時に時計部分のゆっくりはその度に目を白黒させていた。
 その時計は11時半を指していた。
 程好い時間。
 今日は天気もいいし、中庭でお弁当というのもいい考えだ。
 午後は、体験教室というのもやってみよう。
 子供たちのなかから、将来職人が生まれるかもしれないのだ。
 こういうものは幼いころに触れたほうが良い。

 慧音はそう思いながら、子供達に向かって口を開いた。


終わり。

かわいいれーむがゆっくり6じをお知らせするよ!!!のAAを見て思いついた。
きっと分針とかいじくって回すと、面白い声を上げてくれるはずです。
踊るゆっくりれみりゃ時計は、フラワーロックを想像してみてください。

著:Hey!胡乱

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最終更新:2008年09月17日 22:32
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