その他 焦点は石の上

※れみりゃなんて初めて書いたよ



【焦点は石の上】



「いつもごひいきに」
香霖堂の店主から面白いものをいただいた。
レンズである。
虫眼鏡に使うようなレンズなのだが、直径が風呂桶ほどある。
珍しいのでもらってしまったが、さてこれをどうやって使ったものか。
考えること数刻。
ふと面白いことを思いついたので、これを持って林に行くことにした。

しばらく林を歩き、河の横にたどり着く。
葉は青々と茂り、隙間から差し込む光がまぶしい。
椅子にするには少し低い、平らな石。
木の幹にはゆっくりの巣であろう穴。条件は充分。
巣の近くに香りの強い果物を置いて、釣りを始める。

どうも調子が悪い。1匹も釣れやしない。
どうしたもんかと頭をかいていると、ゆっくりが顔を出した。
「ゆっ!」
人間の存在に気づいたようだ。声を上げなければ気づかれないものを。
まぁ今日はそういう目的じゃない。釣りをやめてゆっくりの方を向く。
「ゆっくりしていってね!」
「あぁ、ゆっくりしていくよ」
れいむ種が5匹。純正れいむ種の家族かね。まぁ別にかまわんが。
そして意外に人間に友好的である。退治が日常化した今では珍しい。
しかしこれも好都合。平らな石から腰を上げ、レンズの準備をする。

「ゆー?おにいさんなにやってるの?」
「お前達にいいものをやろうと思ってな」
「いいものはやくちょうだいね!」
「はいはい、待ってろよ…」
レンズを持って立ち上がり、木の枝の間にうまく設置する。
レンズに飲まれた太陽光は、さっきまで俺の席だった石の上に収束する。
小さな一点が強く照らされ、やがて熱を帯び始める。
「どれ」
荷物の中から干草を取り出し、収束先に置く。
数分たって、葉に火がついた。上々。
火が大きくなる前に河に流す。草だから大丈夫だろう、草だから。

「ゆぅー?」
「ほれ、出来たぞ」
「なんもないよ!おにいさんうそつきだね!」
「そうでもない。お前らに『火』をやろう」
「ひ?」
火も知らんのか。さすが林暮らし。
とりあえず、干草をまたひとつ取り出して説明してやる。餡子が覚えられるかね。

「石の上の明るい部分、見えるか?」
「みえるよ!」
「俺が干草を置いていってやる。その干草を光の当たる部分においておくんだ」
「ゆ?そんなことしてどうするの?」
「ほしくさはすにもってかえるものだよ!」
…あー、寝床か。なるほど。
「しばらくして煙が出て、火がつく」
「『ひ』なんてなににつかうの?ゆっくりおしえてね!」
「そうだな…料理、はしないのか。そうだ、れみりゃが寄ってこない」
「ゆー!べんりだね!」
「よるにむしさんをとりにいけるね!」
こいつらどうやって持ってくんだろうか。
まぁ一応入れ物も持ってきてやってるけど。
「しかも虫は火の光に寄ってくるから、だいぶ楽だろうな。
 ただし火は熱いし危険だ。いらなくなったら火に水をかければいい」
「ゆっくりりかいしたよ!」

「どれ、やってみろ」
「ゆっ」
一匹が干草をくわえ、石の上の光に干草を当てる。
火は…ついた!
「ふっ!ふっふひへひはいほ!」
くわえたまましゃべるんじゃない。危ないだろう。
「おにーさん!あれが『ひ』?」
「そうだ。熱いからお前ら気をつけるんだぞ」
「ゆゆーっ!」
「はふいはふいはふいはふい!!!」
火が侵食してきて、れいむに近づいていく。
「その草を河に捨てるんだ」
「ふっ!」
ナイスショット。じゅっ、という音と共に流れていった。

「よし、達者で暮らせよ」
「おにーさんありがとー!」
俺はレンズと干草一山、それと火のついた干草を入れる器を置いていく。
とりあえず燃えるものは干草しかなかったから大丈夫だろう。

お兄さんが帰ってからしばらく。日はほどよく傾き夕暮れ前。
「もっかい『ひ』をつけてね!」
「ふっふー!」
一匹のれいむが干草に火をつけ、器に入れる。
「ゆううぅぅ…」
「あかるいね!」
「あったかいね!」
しかし火種は一本の干草、すぐに火が消える。
「もういっかい!」
「ゆっ!」
消えかけの干草の上に、新しい火のついた干草を投げ入れる。
火は残りに燃えうつり、少しだけ大きくなる。
「ゆっ!おおきくなったよ!」
「れいむ!ひのついてないほしくさをもってきてね!」
「ゆっくりわかったよ!」
火のついてない干草を、器の中に投げ入れる。
またひとつ、火が大きくなった。
「ゆぅー!」
「これでだいじょうぶだね!」
「こんやはむしさんいっぱいたべられるね!」

そうやって火をつなぎつなぎ、夜に至る。
干草は一山あるので、そう切れることはないだろう。
ゆっくり達は器の火を取り囲み、飛んでくる虫を捕まえては食べている。
「ゆー!ひってすごいね!」
「むしさんどんどんくるよ!」
自分が動かずとも餌のほうから飛んでくる、それは素晴らしいことだろう。
だがうかれてもいられない。夜の覇者の襲来である。
「うー☆たーべちゃうどー!」
本能的な恐怖。つい逃げ出しそうになるゆっくり達。
「れみりゃこわいいいいいぃぃぃぃ!!!」
「だいじょうぶだよ!いまのれいむたちにはひがあるよ!」
できるだけ器の近くに身を寄せるゆっくり達。体はあたたかいのに震えている。
「うー?…ごわいよおおおおぉぉぉぉ!ざぐやああああぁぁぁぁ!」
火を見るやいなや、あわてて飛んでいってしまった。
「ゆー!れいむたちのかちだよ!」
「ゆっくりしていってね!」
それからゆっくり達は、祭りのようにはしゃいだ。

夜も更けて、虫もいい数が集まった。
おなかもいっぱいで満足である。
「そろそろすにかえってゆっくりしようね!」
「ゆっくりかえるよ!」
「ゆっ!ひをすにもっていこうよ!あったかいよ!」
「ゆー!ゆっくりできるね!」
三匹で器を巣まで押し、干草を運べるだけ運び込んだ。
干草を多めに器に入れておき、残りの干草の上で寝床に着いた。
火の与える熱が心地よく、満腹感もあり、ぐっすりと眠っていった。

「朝ですよー!」
春妖精の宣言。彼女の機嫌がいいときだけ聞けるラッキーな声である。
今日はちょっといいものでも食べようかという気になった。他意はない。
昨日のゆっくり達がどうなったか心配になったので、見に行くことにした。
林を抜け、昨日の釣り場にたどり着く。
そこにはレンズと、少しだけ減った干草しかなかった。
「とりあえず火事にはなってないか。安心安心」
饅頭のことだからやらかしかねないと思っていたが、さすがに杞憂だったようだ。

しかしこんなにいい朝なのに、ゆっくり達の姿が見えない。
水浴びでもしているかと思ったんだが。
「まだ寝てるのかね。器はどうしたんだ」
気になって、巣の中を覗いてみた。頭を地に着けて、頑張ってのぞきこむ。
顔を地面につけた時点で、少し煙たいにおいがした。
幹の穴の中は、煙が充満していた。
危険に思ったので、竹筒の中のお茶を幹に流し込んだ。
火の消える音はしない。煙が茶に飲まれ、視界が鮮明になる。
「あー、…そうなるか」
ゆっくり達は、干草の上で眠るように息絶えていた。
煙を吸っての中毒死だろうか。こんな空間で火を焚いたら嫌でもこうなる
…のだが、つい先日火を知ったゆっくり達には予想できなかったか。

指を伸ばして、中の器とゆっくり達を回収する。レンズも木の上から下ろす。
燻製といって、煙でいぶす調理法があるらしいが、どうも美味しそうには見えない。
食べる気にも捨てる気にもなれず、再び水びたしの巣の中に戻してやった。

やっぱり、ゆっくりに火は荷が重かったか。



【あとがき】
おひさしぶりです、タカアキです。
文字だと絵で描けない部分が書けていいね。

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最終更新:2008年09月29日 19:33
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