ゆっくりれみりゃ系いじめ53 ゆっくり眠れない夜

 ゆっくり眠れない夜


  • 最近の研究で、ある種のゆっくりさくやは他のゆっくりの体内時計を調節し、よりゆっくりさせることができるということが判明しました……-
「こいつは使えるな……」
 俺は新聞を放り投げると、手早く外出の支度をし、今日の予定をすべてキャンセルしてゆっくりショップへと急いだ。
 こうした情報が出回ったからには、もともと稀少であるさくやの市場価格は間違いなく高騰する。駆け出し虐待お兄さんに過ぎない自分にも簡単に予見できることだ。
 実は、今まで俺は値段と扱いづらさの両面からさくやに手を出すことはなかったのだが、これはいい機会かもしれない。
 知らず、駆け足になっていた。
「ヒャア!大人買いだぁ!」

《さくや種売り切れ》
《さくや売り切れました》
《さくやお一人様2匹まで(ループ買い不可)》

「やっぱりな……」
 案の定、市場に出回っているさくやは驚くほど少なくなっていた。誰も考えることは一緒ということか。
 しかし、比較的早い時期から三軒両隣の村を駈けずりまわったために、俺は10匹ものさくやを確保することができた。十分な成果といえよう。
「この中に、させや(”ゆっくりさせ”さくや)がいるといいんだが……」
 俺はゆっくり箱を大事に抱えて、家路を急いだ。

「れみ☆りゃ☆うー☆」
 引き戸を開けるなり、飼っているれみりゃの例のダンスを目の当たりにする。
「おっがえっりだどぅ~♪ぷっでぃんかってきたかどぅ~?」


 俺はそいつの翼を毟り取り、正面から拳や蹴りを叩き込む。
「ぷぎゃっ!?」
 腕が根本から吹き飛び、肉汁で床を汚しながら転がる。
「でびぢゃのうでがああああ!!!!????」
 足がへし折れる。
「あ゛ん゛あ゛ぁ゛ぁ゛ーー!!!い゛だっい゛だい゛どぅ~~!?」
 帽子を掴み取り、
「う゛っ゛う゛ー!!れ゛み゛り゛ゃ゛の゛だい゛じだい゛じか゛え゛せ゛どぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!??」
 それを口の中に押し込んでやる。
「む゛ぐう゛ぐぐぐぐ!!!いやだどぅ!だべだぐないどぅぅぅぅ!!!!!!」


 はっと妄想から覚める。また有頂天に飛んでいたらしい。悪い癖だ。俺は反省する。
 情熱だけでなく冷静さも併せ持ってこその虐待道。慌てるな、まだ虐待するような時間じゃない。
「ぷっでぃんはないよ」
 期待の眼差しでこちらを見上げるれみりゃに教えてやる。
 俺の言葉を理解するなり(本当に理解してるのかは知らない)、じたばたと暴れだすれみりゃ。だんすといいぐずりといい、いつもながら見るに耐えない仕草だ。
「う゛う゛~!!ぷっでぃんたべたいどぅぅぅ!!!」

 と、俺は本来の目的を思い出し、大事に抱えてきたゆっくり箱を開封した。
「あう♪しゃくやだどぅー!!しゃくや、しゃくやぁぁぁぁ!!!」
 れみりゃの反応は包みを開けた途端だった。ぐずるのをやめて、さくやがひしめく箱に取り付く。

”させや”でなくとも、れみりゃ種とさくや種の間には先天的な共生傾向があるとは聞くが……それにしても想像以上の食いつきだ。
 こいつにさせやが判別できるのなら、話が早いのだが。

 れみりゃは例によって、何もしていないくせに尊大な態度でこう宣言する。
「しゃくやぁは~、れみりゃのめいどにしてあげるどぅ~!」
「「「ありがとうございます」」」
 一斉に答える箱の中のさくや10匹。こいつらの方はなかなか理知的だ。

 初めて会うさくやに夢中のれみりゃからさくやを取り上げ、見せびらかして遊びたいよいう衝動を堪えて、れみりゃの住居『ゆっくりゃ育成キット”紅魔館”』――透明素材で出来た、お城の形を模したペット小屋だ――にさくやをぞろぞろと放してやる。
「ゆっくりですね」
「とてもゆっくりします」
「おゆはん、おゆはん」
「れみりゃさま、どうぞゆっくり」
 腹が減っているのも混じっているようだが、軒並み理性的な様子でれみりゃと接している。
「う~☆う~☆れみりゃもゆっくりするどぅ~☆」
 れみりゃの方も、さくやを食べたりする素振りはない……ってちょっと待て!!
「今なんつった……」
 思い返してみるに、れみりゃは確かに”ゆっくりするどぅ~☆”と言った。
 見ているうちに、れみりゃは常にない様子で身体を弛緩させ、ごろりと寝そべった。その周囲にさくやが寄り添う。
「ゆーっくり……ゆーっくり……」
「さくやといると、とぉってもゆっくりできるんだどぅ~……」
 友好的なさくや種と一緒にいてリラックスしている、というわけではなさそうだ。れみりゃの挙動そのものがゆっくりとしている。
「こうえいですわ」
「ゆっくりなさってください」
「れみぃぃ☆りゃあー☆うー……にぱーー☆」
 やがてゆっくり達はひとかたまりに眠ってしまう。
 これは……どうやら、俺は当たりを引いたらしかった。


 俺は考えた末、この中のどれがさせやなのか判別する必要はないと判断した。ゆっくりの見分けは付きにくいし、苦労して分別したところでさくやは一般種のように生命力が強いわけではない。それに転売するつもりもない。
 今回の計画では、さくやの能力でれみりゃがゆっくりしてさえいればいいのだ。

「おい、起きろ」
 俺はれみりゃを起こした。
「なんだどぅ~~!!れみりゃ、まだねてたいどぅ~~!!」
「甘い物があるんだけどな」
「たべるどっ!!」
 俺は用意したものをれみりゃの前に出した。
 それはコップに入った、薫り高く、湯気を立てている――珈琲だ。無論、れみりゃにも飲めるように砂糖、ミルクをたっぷりと、食品としての限界まで投入している。
「う~?」
 はじめはちびちびとすすっていたれみりゃだったが、
「おいちいどぅ~♪」
 じきにコップを深く傾けるようになり、あっという間に飲み干してしまう。
「まだあるからね」
 俺は二杯目を差し出してやった。それもすぐになくなる。
「もっともっともってくるどぅ~~!!」


 お腹もふくれ、意気揚々とペット小屋へ帰るれみりゃ。さくやに囲まれて、さらにご機嫌である。
「さて、まだだいぶ早いけど、おやすみの時間にしようかな」
 時間も遅くなり、俺は就寝の用意を始める。ところであれは、どこへしまったっけな……
「ねむくなってきました」
「ゆっくりおやすみですわ」
「れみりゃさま、おやすみなさい」
「あぅ♪おやすみだどぅ~♪」
 俺はやっとのことでそれを見つけ出す。耳栓だ。
 俺は耳栓を装着すると、ペット小屋の出入り口をロックし、部屋の電気を落とした。

 * * * *

 れみりゃはふだんよりもゆっくりした気分で、紅魔館のベッド(ただのマットだ)に、ぼてんと転がった。
「ゆうっくりしてるどぅ~~♪おぜうさまはごきぜんだどぅ~~♪」
 暗闇の中で目を閉じる。

 何度寝返りを打っただろうか。れみりゃは、自分がまったく眠くないことに気がついた。

「れみりゃねむくないどぅ~~!さくや♪あそぶどぅ~♪」
 寝床を起き出して、さくやの群れが眠っている場所へ踏み込む。一匹一匹つついてまわるが、いずれも起きる気配はない。それもそのはず、一日家に居ただけのれみりゃと違い、さくや達は方々のゆっくりショップから長い距離を運ばれてきたのだ。精神的にも饅頭的にも疲れている。さくやの”ゆっくりさせる能力”でよりゆっくりしたれみりゃの揺さぶりや突っつきなどでは、起きられるはずもなかった。
「めいどのくせに、なまいきだどぅ~~!!」
「ぎゃおー☆たぁべちゃううどおおぅぅ!!!」
 泣いても騒いでも、一匹として起きる気配はない。れみりゃは、おぜうさまである自分が命令したのだからいずれ起き出すはずだと肉饅の頭で考え、先に自分ひとりでゆっくりすることにした。
「れみ☆りゃ☆うー☆にぱー☆」
 どこどこと音を立てて、頭の悪い舞踏を繰り広げる。飼い主の虐待お兄さんが見たらまた有頂天へ旅立ってしまいそうな出来栄えだ。しかし、電気の消えた闇の中では見るものもなく、踊り甲斐もない。
「う゛う゛う゛ーーー!!あきたどぅーーー!!!」
 しかし、依然として起きてくるものもない。
 れみりゃは騒ぎ疲れて、
「うー…うー……れみりゃはおぜうさまだから、ちゃんとおねむするどぅ……」
 とうとう寝床に戻る。しかし身体中に染み入ったカフェインは、まだれみりゃを眠らせはしない。
「ぜんぜんねむくないどぅーーー!!どうなってるどぅーーー!!??」
 次に、お外に出ることを思いついたれみりゃ。お外に通じるドアへと向かうが、すでにお兄さんによって鍵はかけられている。
 いくらじたばたしてみても、ドアノブは揺るぎもしない。
「やっだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!お゛そ゛と゛て゛る゛ぅ゛ぅ゛~~!!」

 * * * * 


 俺は暗がりで目を覚ます。れみりゃの立てる振動によって起こされたようだった。
 耳栓を外すと、ペット小屋へと向かう。
「おにいざん!れみりゃたいくつだどぅ~~!!れみりゃのために、ごほんよんでもいいどぅ~~!?」
「今そんな気分じゃないな」
「それじゃとくべつにれみりゃののうさつ☆だんすをみせてあげるどぅ~☆」
「暗いから見えないよ」
「それじゃ、ぷっでぃんもってくるどぅ~~!!」
「うちのおぜうさまは夜中にぷっでぃん食べたりしないぞ!お前さては偽者だな!?」
「ぞんなことないどおおおお!!!」
「いいかい、夜ゆっくり寝ない悪い子は、ふらんが食べにくるんだぞ。ほら、そこまで来ている」
 俺は窓の外を指差す。まだ高い月明かりに照らされて、木々のシルエットが風に揺れている。
「あ゛う゛う゛う゛う゛!!!ふ゛ら゛ん゛こ゛わ゛い゛どぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!」
 頭を抱え、うずくまってぶるぶると震えるれみりゃ。
「ふらんに食べられたくなかったら、ゆっくり眠ることだね。あんまりうるさくしてると、ふらんにきづかれちゃうからね。
 それじゃ、おやすみ、れみりゃ」
「じゃ゛く゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!こ゛わ゛い゛の゛く゛る゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!じゃ゛く゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」
「せいぜいゆっくりさせてやってくれよな、さくや」
 俺はその辺にあった本を数冊抱え持つと、ペット小屋が揺れないように重しとして置く。これで、ちょっとやそっとのことでは揺れることはなくなった。
「じゃ゛く゛や゛ぁ゛お゛き゛て゛ぇ゛!!!じゃ゛く゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!ふ゛ら゛ん゛こ゛わ゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!」
 俺は耳栓を深く装着し直すと、自分の寝床に入った。
「さてと、寝るか……」
 今はまだ23時。
 れみりゃの長い夜はこれからだ。



 □ ■ □ ■

 あとがき

 寝つきの悪かった子供時代のトラウマで虐待してみました。

 読了ありがとうございました。



 過去に書いたSS

 豚小屋とぷっでぃーん
 豚小屋とぷっでぃーん2
 エターナル冷やし饅頭
 れみりゃ拘束虐待
 無尽庭園 

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最終更新:2022年01月31日 02:01
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