悪事を働いたゆっくりが収容されるゆっくり刑務所。
その中ではゆっくりが毎日過酷な労働を強いられていて、ゆっくり達は各々の刑期が終了するまで働かさせ続ける。
ただし過酷な労働ゆえ刑期が終了するまでに生き残れたゆっくりは今のところいない。
しかしそんなゆっくり達にチャンスが与えられた。刑期を減らすチャンスだ。
そのチャンスとは運動会だった。
ゆっくり達は赤組と白組の二つに分かれて対決する。
そして勝った組に所属するゆっくり達の刑期を減らすと約束されたのである。
それを聞いたゆっくり達は大いに喜んだ。
刑期が減るのもそうだし、何よりその日は辛い労働をせずに遊べると考えたのだ。
だがこれはゆっくりのためなどではなく、ゆっくり刑務所で働く人間の娯楽のために催される行事だった。
そんなことも知らずに運動会を楽しみにするゆっくり達。
運動会の準備が終わるまでの数日間、ゆっくり達の間では運動会の話でもちきりだった。
もっとも労働時間中に会話したゆっくりはきついお仕置きを受けたが。
そして運動会当日。
天気は雲ひとつ無い快晴。運動日和である。
刑務所の敷地内にあるグラウンドには数百のゆっくりが二手に分かれて向かい合っていた。
赤組には赤いシールを、白組には白いシールをおでこに貼ってある。
各組はなるべく実力が拮抗するようにチームが分けられた。
赤組のリーダーは囚ゆっくりの中でも1,2を争う巨体のれいむ。
白組のリーダーはそのれいむと同格の体長を誇るまりさだった。
「ゆっ! あかぐみのみんながんばるよ!!」
「えい、えい、ゆー!!!」
「しろぐみはあかぐみになんかまけないよ!! みんなゆっくりかとうね!!」
「ゆっくりかっちゃおうね!!!」
両組ともに気合たっぷりのようだ。
やはり刑期が減るというのはこのゆっくりにとって最高に嬉しい賞品なのだろう。
何せ刑務所は食事の時間は決まっている上、量は少なく味は不味い。
そして朝から晩まで肉体労働だ。昼休みなど栄養補給のためだけに存在するのでその時間は十分にも満たない。
そりゃこんなゆっくり出来ない刑務所なんて早くおさらばしたくて当然である。
グラウンドを囲うのは観客席。
そこには刑務所の所員だけではなく、外部からの物好きな方々もゆっくり運動会を見に来ていた。
ここに来る人間は誰もがこの運動会の趣旨を理解し、『それ』を求めている。
すなわちゆっくりが賞品のために同属と競い合い、潰しあい、最終的にゆっくり出来なくなる様を。
グラウンドの外周、直線部分の中央にある朝礼台に一人の人間が昇った。
彼はゆっくり刑務所の所長でこの運動会の企画者。朝礼台の上にあるマイクスタンドの前に立つと開会式を始める。
といってもゆっくり相手なので簡単なルールの確認程度のものだが。
「これより第一回ゆっくり運動会を始める」
その言葉を初めに所長の話が続く。
それを聞くゆっくり達は皆私語をせず、話す所長の方を向いていた。
この刑務所で決まりを破ったり、人の話を聞かなかったものは罰せられる。
具体的には拷問だ。それも違反をすればするほど辛くなる拷問。
それをよく知っているからこそゆっくりは黙って聞いていた。
話自体はゆっくりに分かるような簡単なものだった。
それぞれの競技で多く勝った組が勝ちで、勝った組のゆっくりは刑期を減らす。
競技とは関係なく他のゆっくりを傷つけたらお仕置き。
逃げようとしたり、競技をストライキしようとしたらお仕置き。
こんな感じである。
要するに何があっても競技を中断するなということである。
所長の話が終わるとようやく一つ目のプログラムが開始される。
ちなみに本運動会のプログラムは以下の通りだ。
~運動会プログラム~
第一競技【綱引き】
グラウンドの中央に長い縄が一本。
縄の真ん中付近を除いて、長い縄に沿ってゆっくり達が一列に並んでいた。
片側が赤組、もう片側は白組である。
ゆっくりの列はどちらも成体ゆっくりが中央に近い部分に並んでいる。
続いて子ゆっくりが並び、赤ちゃんゆっくりは縄を咥えられるないので応援である。
リーダーの巨大ゆっくりは縄の両端にいる。
ゆっくり達は「がんばろうね」だとか「おかーしゃんがんばっちぇね」「みててねおちびちゃん」などと話していたが、
一人の人間が縄の中央に片足を乗せ、片手を挙げるとそれを合図にゆっくり達は縄を口で咥えた。
会場が静寂に包まれた。
いや、赤ちゃんゆっくりだけは空気を読まずに「がんばってぇね!!」「ゆっくち! ゆっくち!」と騒がしい。
しかし綱引きに参加するゆっくり達は審判の合図をじっと待つ。
人間でもそうだがゆっくり達だって初戦で躓きたくないのだろう。
開始の合図となる審判の手がいつ振り下ろされるのかと、ゆっくり達は真剣な眼差しで審判の手を見つめる。
それからまもなく、審判は手を振り下ろし、縄を踏んでいた足を退ける。
同時にゆっくり達は一斉に綱を引く。
「ゆ"ー!!!」
「ゅ"ぅ"お"ー!!!」
「ん"ふー!!!」
長い縄がピンと張る。
縄の真ん中に結ばれた白い布が右へ左へゆらゆら揺れる。
れいむ、まりさ、ちぇん、そしてみょん。みんな顔を真っ赤にして縄を咥えて踏ん張っている。
ちなみに、ぱちゅりー種は刑務所の過酷な労働で真っ先に死ぬので残念ながらこの場にはいない。というよりもこの世にいない。
ありす種も捕食種と同等の危険を持ってるとして被捕食種とは一緒にいられず、独房で孤独に過ごしている。
他四種類のゆっくり達は勝利のため、賞品のために必死に綱を引く。
「ゅーえしゅ! ゆーえしゅ!!」
「ゆっ!」
「く!」
「り!」
「「「がんばっちぇ!!」」」」
赤ちゃんゆっくり達の声援にも熱が入るが、両組の力は拮抗していて中々勝負は決まらない。
これは赤組と白組を分けた時に力量が偏らないようにしてあるのでむしろそうでなくては困る。
係員の人が白熱する綱引きの中、布に包まれた何かを持ってきた。
「ゅ? なにしょれ??」
「ゆっくちできる??」
興味を示す赤ちゃんゆっくりを無視して、その何かを縄の白布が結んであるその下に置く。
目の前に何かを置かれて綱引きの先頭にいるゆっくりは不思議そうに見ている。
布を取り払うとそこには鋭く尖った槍が二本。
槍は木材で組んだ台に横向きで固定されていて、その穂先はそれぞれ両組のゆっくりに向けている。
「ん"ん"!?」
「ゆ"ん"ーっ!」
先頭から数匹までの、槍の存在に気付いたゆっくり達の顔が青ざめていくのが分かる。
いくら頭が悪いと言われるゆっくりでも流石にこの槍の意味は分かる。
すなわち綱引きで負けたら先頭に居る自分達は槍に貫かれるということを。
「ゆ"っゆ"う"ぅ"ぅ"ぅ"…!」
「んぐぐぐぅ…」
それを知ったゆっくり達の反応は主に二つ。
死んでたまるかと踏ん張る者。死を恐れて萎縮する者。
これによって両組のパワーバランスは崩れた。
少しずつではあるが赤組がズルズルと引っ張られていく。
赤組ゆっくりの先頭に居る二匹がまさに死を恐れて力が抜けてしまったゆっくりだった。
縄から口を放して逃げれば良さそうなものだが、決してそのようにしようとはしない。
それはこのゆっくり達が「お仕置き」を何よりも恐れているからだった。
お仕置き。言ってしまえば一言だがその実は死んだ方がマシとさえ思えるほどの拷問の連続である。
それに比べれば槍に貫かれる方がずっとマシと思ってしまうほどの。
「逃げたらお仕置き」と初めに聞かされたゆっくり達は逃げられない。
お仕置きという恐怖に拘束されたゆっくり達は縄を咥えたまま槍へと吸い込まれていく。
「ゆ"ん"っ」
そして先頭のゆっくりの頬に槍が突き刺さった。
味方が踏ん張るので実にゆっくりと体が槍を飲み込んでいく。
「んぼおぉぉぉ……!」
とうとう槍は柔らかいゆっくりの体を貫通し、串刺しにした。
まだ長さに余裕のある槍はそのまま先頭から二匹目のゆっくりの体にも埋まっていく。
そしてそのまま二匹目を串刺しにするがまだ綱引きの終わりを誰も告げない。
さらには三匹目、四匹目まで貫いたところで審判が白組の勝利を告げた。
「ゆー! かったよ!!」
「よゆうだったね!!」
「ゆっくりしていったね!!」
白組はリーダーの巨大まりさの周りに集まってワイワイしている。
一方負けた赤組はしょんぼりムードだ。
「ゅぅ、まけちゃったね」
「ゆー、それだけじゃないよぉ!! れいむとまりさとみょんがぁ!!」
赤組はただ負けたわけじゃない。
れいむとまりさ二匹、そしてみょんが犠牲となって死んでしまったのだ。
もっとも列の後ろ側にいたゆっくり達は今の今までそれに気づかなかったが。
「どうじでごんなごどじだのぉぉ!!」
「おがーじゃんがちんじゃったぁ!!!」
そんなゆっくり達に所長が説明をする。
「伝えてなかったかな?
これはお前達が楽しむためのものではない。人間様が楽しむショーだ。
なのにゆっくりがゆっくりしてたらショーにならないだろ?」
ゆっくり達は納得いかない顔だが、それでも白組含めて黙って聞いていた。
「最初に言ったが逃げたり、やる気がなかったらお仕置きだ。
ゆっくり理解したかな?」
ゆっくり達には当然理解できない。
話の意味うんぬんではなく、どうして人間は自分たちをゆっくりさせなくするのか理解出来なかった。
「返事はどうしたかな?」
「ゆっくり理解したよ…」
運動会が始まるまでの楽しげな表情はどこへやら。
結局ゆっくり出来ないことを知ったゆっくり達の表情はいい見物になったようで、観客は楽しげにそれを眺めていた。
第二競技【玉入れ】
綱引きの縄とゆっくりの死体は回収され、代わりに玉入れの準備がされている。
次の玉入れには赤ちゃんゆっくりも玉として参加する。
ちなみにこの刑務所に居る赤ちゃんゆっくりは他のゆっくりとは違って悪さをしてここに居るのではない。
他の目的のために囚ゆっくりに半ば強制で産ませた赤ちゃん。
その目的とはここに連れてこられたゆっくり達のモチベーション管理である。。
ゆっくりの中には過酷な労働の中で自殺を考えるゆっくりも出てくる。
そんなゆっくりを癒す存在。つまり自殺抑止剤として赤ちゃんを産ませる。
可愛くてゆっくり出来る赤ちゃんはゆっくりの母性を刺激し、働く意欲を湧かせる。
後は反逆を防ぐ人質である。反逆は起きても怖くないが後処理が一々面倒なのだ。
そんなわけでこの刑務所には赤ちゃんゆっくりが多数生かされている。
それを活用しない手はないと、この運動会では玉入れの玉としての役割が与えられた。
ゆっくり達はこの赤ちゃんゆっくりを縦に細長い鍋の中に放り投げる。
制限時間後に鍋の中に入った赤ちゃんゆっくりの飾りを数え、その数が多い組が勝利となる。
負けた方の罰はどんなものか。それは鍋に放り込むという時点で予想は付くだろう。
鍋を中心に半径1mほどの円の外周に玉を投げるゆっくりが集まり、円の内側には赤ちゃんゆっくり集まって戯れている。
ちなみに赤ちゃんゆっくりにはこれから何をするのか分かっていない。
ただ無邪気に円の中で友達と跳ね回っていた。
「ゆぅ…」
「ゆっくりできてるねぇ」
「ちんぽこかわいいみょん」
それを微笑ましく見る周りのゆっくり達。
しかしここにいる人間はそんな微笑ましい光景など見る気はない。
急かされるように一人の人間がグラウンド中央まで現れた。
「それではこれから5分間。赤ちゃんゆっくりによる玉入れを執り行います!
今から5分です。はじめっ!!」
人間の合図と同時にゆっくり達は動き出す。
白線の円の内側で遊ぶ赤ちゃんを自分の下へと呼び寄せる。
「おちびちゃんこっちおいでね!!」
「こっちにもきてね! ゆっくりさせてあげるよ!!」
「ゆっくりしようね!!」
今まで周りを囲って自分達を見るだけだった年上のゆっくり達に呼ばれ、
赤ちゃん達は一緒に遊んでくれるんだと笑顔を浮かべて近寄っていく。
「ゅー! いまいきゅよ!!」
「ゆっくちあしょんでね!!!」
「なにしゅるのぉ??」
そうして近寄ってきた赤ちゃんゆっくりを優しく咥える。
「ゅ? どうちたの?」
?マークを浮かべる赤ちゃんゆっくりに心の中でごめんねと謝りながら体を捻って放り投げる。
「おしょらをとんでるみちゃい!!」
投げられた赤ちゃんゆっくりは定番のセリフと共に飛んでいく。
最初に投げられた一匹は狙い通りに鍋の中へと落ちていった。
「ゅべっ! ぃ、ぃちゃいよぉぉぉ!!!」
鍋の中に落ちた赤ちゃんゆっくりは堅い金属に叩きつけられ、痛みで泣きだしてしまった。
だが悲しいことにその声も鍋の中で響くだけで周りには届かなかった。
「なにしゅるのぉ! ゆっくちできないぃぃぃぃ!! ゆげぇぇっ!?」
文句を言う赤ちゃんゆっくりの上に鍋に落ちてきた他の赤ちゃんゆっくりが落ちてきた。
勢いついて飛んできた塊に為すすべもなく赤ちゃんは潰されてしまった。
そしてその潰した赤ちゃんゆっくりもいずれ他の落ちてきた赤ちゃんゆっくりに潰されることになる。
鍋の中の惨状を知らない外のゆっくり達は点数を稼ぐために赤ちゃんゆっくりを呼びよせ、そして投げていく。
まだ投げられていない赤ちゃんゆっくりも「お空を飛ぶ遊び」と勘違いし、自分から投げられに行っている。今は。
もちろん投げられた赤ちゃんゆっくりが毎回鍋の中へカップインするわけもなく、
何匹かは鍋の手前に落ちたり鍋の側面に正面衝突したりしてしまう。
そんな赤ちゃんゆっくり達は痛みで泣きながら自分を投げたゆっくりに文句を言う。
「いちゃいよぉぉ!! にゃんでこんなことしゅるのぉぉ!!」
「べにずっ! ぎょせいちんぽー!!」
「あたまがぎゅるぎゅるするょ!! ゆっくちできにゃいぃぃ!!」
「ゆっ、ごめんね! こんどはうまくなげるからこっちにきてね!!」
「いやだょ! きょんなのゆっくちできないよ!!」
「れいみゅはれいみゅたちであしょぶもん!!」
「しょうだよ! こんなのちょかいはじゃないよ!!」
この玉入れが通常のものと違う点は玉が生きていること。
そのため、投げるためには言葉で玉を呼び寄せなければならないことだ。
一度痛い目を見た赤ちゃんゆっくりのように信頼を失ってしまうと簡単には近づいてこなくなってしまう。
大人のゆっくりが入ってこない白線の内側、鍋の周りでその赤ちゃん達は赤ちゃん同士で遊びだしてしまった。
こうなると円の外周にいる大人ゆっくりは焦り出す。
こうしている間にも相手チームは次々と赤ちゃんを投げ入れているかもしれない。
負ければ何らかの罰が待っているうえ、最終的な勝敗を決める得点も相手に渡してしまうことになる。
最初は甘い言葉で赤ちゃんを呼んでいたものの、時間がなくなるにつれて言葉使いが荒々しくなっていった。
「あそんでないでこっちきてよね!!」
「ゆっくりしないでね!!」
「やだよ! しょっちにいったらなげりゅんでしょ!?」
「しょんなのゆっくちできないよ!!」
「みんにゃであしょんでるほうがたのしぃよ!!」
「なにいっでるの!! まげだらゆっくりできないよぉぉ!!!」
「じかんがないよ! はやぐぎでよぉ!!」
しかし赤ちゃんゆっくりは大人ゆっくりの声などどこ吹く風。
それは赤組も白組も同じで、どちらも同じように赤ちゃんゆっくりが大人達に近づかなくなっていた。
残りは一分。とうとう大人ゆっくり達は赤ちゃんを呼ぶことをやめ、赤ちゃんを罵倒し始めた。
「しね」だの「ばか」だの「ぐず」だのとひどいものである。
ゆっくり遊んでいた赤ちゃんゆっくりも周りの大人に一斉に責められるとさすがに泣き出してしまった。
「ゅぇーん! ゆっくちできないぃぃ!!」
「おかーしゃんたしゅけでぇぇぇ!!」
「うるさいよ! ゆっくりできないあかちゃんはゆっくりしね!!」
一匹のまりさが逆上して赤ちゃんを潰してやろうと白線の円の内側に足を踏み入れた。
ルールを破ったらお仕置き。そのフレーズがそのまりさを見たゆっくり達の頭に浮かぶ。
「ゆ! だ、だめだよ!」
「るーるをやぶったら……あぁ~」
周りのゆっくりがそのまりさに注意しようとする間にまりさの動きが止まった。
背中には針が刺さっている。
それはゆっくり達を監視している所員の放った吹き矢だ。
吹き矢には痺れ毒が塗ってあり、それがこのまりさの動きを奪った。
そしてまりさは所員の手によってお仕置きルームへと運ばれていく。
ちなみにこのまりさはお仕置きルーム三回目。
お仕置きも三回目となると心の奥までボロボロにされる。
大抵は知性や記憶が壊れて「ゆっくりしていってね!!」しか言えなくなる。
良くてもビクビクとして世界の全てに恐れを抱くようになる。
そんなゆっくりを何度も見てきたゆっくり達は哀れみを込めた目で連れて行かれるまりさを見ていた。
そんなハプニングがあるうちに時間は過ぎ、玉入れの終了を告げる笛が響いた。
といっても最後の方は玉入れが赤ちゃん苛め大会に変わってしまっていたが。
二人の所員が飾りの数を数えるために赤ちゃんゆっくりの入った鍋を覗く。
鍋の中の赤ちゃんゆっくりはどれも鍋に落ちた時に潰してしまった赤ちゃんの返り餡子を浴びていた。
またどちらの鍋の中も、生きている赤ちゃんゆっくりが死んだ仲間の中身を幸せそうに食べている。
「むちゃむちゃ、おいちー!」
「はふはふ!」
「あまいんだね、わかゅよー!」
死んだ仲間を食べるのは野生では良くあること。
集計係の所員は特に驚いた様子もなく、淡々と鍋の中の飾りを取り出していく。
「ゅー! かざりをちょらないでょー!!」
「ありしゅのきれいなかちぅしゃー!!」
抗議する赤ちゃんゆっくりなど無視して飾りを剥ぎ取る。
抵抗したり邪魔しようものなら無礼討ちである。
そして鍋の中の飾りを全部取ったところで集計開始だ。
「いーち」「にー」
玉入れ定番の数え方で一つ数えるごとに飾りを一つ鍋に落とす。
といっても数えるのは人間のみ。ゆっくりは勝敗が自分のゆっくりにかかっているので暢気に数える気にはなれない。
ちなみに鍋に落とした飾りは、鍋の中の赤ちゃん達で取り合いになって喧嘩の種になっていた。
「よんじゅうはちー!」
と、ここまで数えたところで白組の飾りが尽きたようだ。
赤組の勝利である。
「やったね!」
「あかちゃんさっきはいいすぎてごめんね!!」
「ゆっくりかってよかったね!!」
赤組はどうやら赤ちゃんゆっくりと大人ゆっくりは仲直りしたようだ。
それも勝って機嫌がいいからそうなっただけで負けた白組はというと――
「おまえたちがこなかったからまけたんだよ!!」
「すべておちびのせいでまけたんだね! わかるよっ!!」
「ゅー! れいみゅはわるくないよ!」
「まりしゃもわるきゅないよ! なげたおねーちゃんがわるぃよ!!」
負けた責任を押し付け合い、暴力沙汰になりそうな雰囲気になっていた。
しかし手を出したらお仕置きである。
なので直接手は出さず、大人も子供も赤ちゃんも同じレベルで言葉の暴力を振るいあっていた。
そんなゆっくり達の喧嘩をヨソに、所員は負けた罰を与える準備を進めていた。
そして程なくして火をおこし、負けた組の鍋を熱し始めた。
赤ちゃんゆっくりの入ったままの鍋をだ。
「あちゅっ!? あちゅいょぉ!!」
「いちゃいぃぃ!!!」
「ゆっくちさせちぇよー!!!」
「べにずっ!?」
「ちょけるうぅぅぅ……」
飾りの奪い合いで勝ち残った赤ちゃんゆっくりもこれまでだった。
高温の鍋から逃げることは適わず、ただ跳ね回るのみ。
所員は鍋に時たま水を入れていたが、それもすぐに熱湯と化して赤ちゃんの体を溶かしていく。
苦悶の表情で皮も髪も溶けて餡子色の水に沈んでいく。
あとは水の量を加減しながら赤ちゃん達の中身をかき混ぜ、ゆっくりお汁粉が出来た。
そろそろ小腹も空いたであろう観客に対するちょっとしたサービスである。
ただし色んなゆっくり種が混ざり合った結果、カオスな味になってしまったのは失敗だった。
こうしてプログラムのうち半分が終了した。
しかし残りの二つが今回のメインである。
未だに喧嘩するゆっくり達を係の所員たちが誘導して次のパン食い競争のスタート地点へと連れていった。
by ゆっくりしたい人
最終更新:2008年10月05日 18:11