ゆっくり実験・まりさ解体
やあ。僕は人里に住む普通のお兄さん。
最近、僕のまわりの連中が、ゆっくりゆっくりとうるさいので、僕もゆっくりに興味を持った。
ちょっと実験してみることにした。
「ゆっくりしていってね!!! ゆっくりしていってね!!!」
テーブルの上で叫んでいるのは、金髪で黒帽子のゆっくり。
ゆっくりまりさというやつだろう。
大きさは逆さにした洗面器ぐらい。
森の奥のほうで見つけて、お菓子をエサに交渉した。
独身(っていうの?)だったせいか、簡単に箱に入ってくれた。
うちに連れてきてから、約束どおりお菓子をやって布団で寝かせたため、元気まんまんだ。
今日は三日目。すっかりなついてくれたので、そろそろ実験することにする。
僕はテーブルの前に立って、まりさを見下ろした。
「ゆっくりしていってね!!!」
さっきまで毛づくろいをしてやっていたので、とても上機嫌だ。
リズミカルにゆらゆらと体を左右に揺らし、それにあわせて歌うようにあいさつしている。
「ゆっくり! ゆっくりしていってね!!!」
「うん、ゆっくりしているよ。まりさもゆっくりしてる?」
「ゆっくり、ゆっくり!」
勝ち誇った顔でぴょん、ぴょんと軽く跳ねた。
ああ、ほんとにゆっくりという言葉が好きなんだなあ。
無邪気でかわいらしいけれど……無防備すぎる気もするなあ。
こんな生き物を今から**してしまうなんて、なんだか悪い気がする……いや、実際悪いことなんだな。
でもまあ、誰も止める人はいないから……やってしまうか。
「まりさ、ちょっと向こうを向いてくれる?」
「ゆ! ゆっくりむこうをむくよ!」
ぺったりテーブルに接した面を、むにむにと動かして、まりさは背を向けた。
僕の前にそびえる、ペットボトルぐらいの高さの黒帽子。
「お帽子取るよー」
「ゆ? おぼうしとるの?」
きょろきょろ振り向いて、まりさは不安そうに言った。
「おぼうし、だいじだよ! とらないでね!」
「だいじょうぶ、すぐ返してあげるから」
「ゆー、それならいいよ! でもゆっくりしないでかえしてね!」
帽子を取ってからかうのは、この三日で一番楽しい遊びだった。
しかし、それもいまは割愛。
帽子を取ってまりさの見えるところに置いてやってから、僕はまりさのお尻、っていうか後頭部を、軽く持ち上げた。
「いくよー」
「ゆ?」
ぐさっ。
後頭部の一番下。底との境目の部分に、僕は素早く果物ナイフを突き刺した。
もちもちした皮の手ごたえがした。ああ、ほんとに饅頭だ。
「ゆぎゃああああ!?」
まりさは金切り声を上げて飛び上がった。凄まじい声で、刺した僕のほうがビクッとした。
でも、無理もない。人間だっていきなり刺されたら悲鳴を上げるだろう。
「おにいざん、なに? なにじでるの!?」
「動かないでっ」
悪いと思いつつ、振り向こうとしたまりさを、片手でぎゅっと押さえつけた。
そのまま、サクサクとナイフを横へ滑らせて、まりさの底を切り取っていく。
「いだああぁぁ! いだいいだい、まりさちぎれちゃうよおお!
やめてねおにいさんやめでね! やめで、やめないどまりざおごるよ!」
サクサクサク。四分の一回った。ほころびた裂け目から、ねろっと餡子が漏れ始める。
餡子が漏れたら失敗だ。僕はあわてて、押さえる手の力を調節した。
まりさは水揚げされた魚みたいに、猛烈にびたびたと暴れる。僕の手がぐいぐいと持ち上げられる。
「やめてっでいってるでしょおおお!!?
どうじてやめでくれないのおおお!!?
まりざっ、まりざちぎれぢゃうってばあああ!!!」
サクサクサク。あごの下まで来た。やりにくい。僕はテーブルをぐるっと回ってまりさの正面に来た。
カッと見開いた目に涙を溜めて、信じられない、という顔でまりさが必死に訴える。
「おにいざん、まりざだよお!? なかよしのまりさだよ!!!
まりざがしんじゃってもいいの!!?」
「頼むからおとなしくしてよ、餡子出ちゃうよ」
僕が言うと、顎の下に目をやって、まりさは凍りついた。わなわなと震えだす。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! あんこでてるあんこでてるあんごででるうう!
あんこっ、あんこでたら、まりさしんじゃうんだよおお!!
だめっ、だめだってばああ、やめでねえええ?」
サクサクサク。顎の下を過ぎて、四分の三まで来た。まりさは餡子が出るのが怖いのか、もう動こうとしない。
僕は、まりさの叫びに、なんだかドキドキし始めていた。
こんな凄まじい悲鳴を聞いたのは初めてだ。こんな無力な悲鳴を聞いたのも。
メチャクチャにしてやりたい気分がすごく高まって、ちょっとアレな話だけど、ズボンの中が硬くなってきた。
「あ゛あ゛あ゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛っ」
なすすべもなくうめくまりさの前で、サクサクサクとナイフを動かし、出発点へ向かった。
サクッ。
到着。
まりさの底を、切り離した。
「ふう……」
僕は手を離し、ナイフを置いて、額の汗をぬぐった。まりさは「あ゛」の形に口をガッと開いたまま、ひくひく痙攣している。
「まりさ、まだ歩ける?」
呼びかけへの返事なのか、それとも単に逃げようとしたのかわからないけど、まりさは体の左側をグイッと動かそうとした。
その途端、ムリッと餡子がこぼれそうになり、まりさはビクッと動きを止めた。
「動ける、っていうか、試すことはできるんだな」
「あ゛あ゛あ゛……」
「ごめんよ、どうしても確かめたかったもんだから」
「あ゛あ゛……おにーざん、ひどいよ……」
涙をだくだくたらすまりさの後ろへ回って、今度はお尻の下端、っていうか皮の「すそ」に両手を差し込んだ。
「ゆ゛っ?」
めりめりめりめり。
僕は、まりさの金髪に覆われた後頭部の皮を持ち上げた。
ちょっとした毛布ぐらいの厚みのあるもちもちした皮が、めくれていく。
「ゆぎゃあああああ!!!
やめでやめでやめでやめでやめで!!!
まりざまりざまりざっ、めくれっ! めぐれぢゃううう!!!」
痛みと恐怖のあまりパニックに陥ったのだろう。
まりさは絶叫するとともに、ずりずりと前へ進もうとした。
ところが、底の部分は完全に切り離されているものだから、進まない。
ただ上部の皮と、中身の餡子だけが、前へ進もうとする。
「あっ、こら、だめだよ!」
そのままだとベチャッと崩れてしまいそうだったので、僕はあわてて片手をまりさの顔にかぶせた。
顎の下をつかみ、そちらの皮もめくりあげる。
めりめりめり、めりりっ。
「ゆびゃああああああ!! いだいめぐれらぎゃばわがが」
メチャクチャに動きながら混乱した叫びを発している、口のところまで、皮がめくれた。
さあ、ここからが見所だ。
メリメリッ!
口の上、鼻のところまで(ゆっくりに鼻はないっぽいけれど)、皮をむいた。
どうなるだろう? まだ動くかな?
子供のように胸がわくわくして、ズボンの中が痛いほど突っ張った。ああ、これは夜使えるかも。
「……ぁ…… ……」
餡子から剥がされても、数秒の間は口がぱくぱく動いた。
だが、じきに静かになった。
ということは――
皮は本体じゃない、のかな。
僕は慎重に、前後左右からまりさの皮をめくりあげていった。
半分ぐらいの高さまでめくりあげると、スポッという感じで手ごたえがなくなった。
「あっ……」
まりさが剥けちゃった。
ヘルメットのような形のもちもちした分厚い皮が、僕の手の中にあった。
テーブルを見下ろすと、お椀を伏せた形の餡子の小山があった。
まりさの、中身だ。
僕はまりさの「頭皮」を、そうっとテーブルに置いた。
中身のない頭皮は、柔らかな帽子みたいに、少し型崩れしたものの、自立した。
僕はまず、そちらと対面してみた。
『皮だけまりさ』はデスマスクのようだった。瞳孔はなくなり、目玉は全体的に黒ずんでしまっている。どっちを向いているのかわからない。
口からはダラリと舌が出ている。その奥は貫通して内側が見える。
ぽっかりと開いた、ただの穴だ。
「まりさ、まりさ?」
返事はない。ぐてっ、と傾いたまま、ピクリとも動かない。
どうやらやっぱり、皮はまりさの本体じゃないらしい。
では、中身だ。
僕は餡子の小山の正面に回ってみた。
『皮なしまりさ』は、黒赤紫色の、てらてらしっとりした小山だ。
二つの小さなくぼみと、ひとつの大きなくぼみがある。眼窩と、口腔だろう。
声をかけてみた。
「まりさ、まりさ」
返事はない。ピクリとも動かない。
餡子なんだから当然だって? でもこいつは、ついさっきまで話をしたり、跳ねたりしていたんだ。
この餡子に力を蓄え、この餡子でものを考え、この餡子で痛みや喜びを感じていたはずなんだ。
僕は人差し指で、餡子に触れてみた。
つんっ。
動かない。ピクリともしない。
少しすくって舐めてみた。
ぺろっ……。
ほんのりした甘味。だが、やはり反応はない。
でも、人間の脳みそだって、動かないし反応なんかしないはずだ。
ひょっとしたら、このひと盛りの餡子の中で、苦痛と絶望の感覚が荒れ狂っているのかもしれない。
目玉を引き抜かれ、皮をすべて剥がれ、敏感な内臓を直接空気にさらされて、言語に絶する苦痛に悶えているのかもしれない。
……。
僕はたまらなくなった。股間の勃起がうずいている。心臓の鼓動が耳に聞こえるほどだ。
この餡にペニスを突っ込んで、思い切り射精してやりたくなった。
熱い粘液の濁流をどくどくと打ち込んで、もそもそした餡の内部を突き崩してやりたい。
砂場の小山に、ホースの水流を叩きつけるように。
「……ふー……」
だが、ぼくは大きく深呼吸して、自分を抑えた。
まだそんなことをするほど理性が飛んではいなかった。
ただ、代わりに別のことをすることにした。
指を伸ばして、あんこに刺す。
ずぷ……。
抵抗はなく、指はもぐりこんだ。室温と同じ、ひんやりしたペースト。
動いたり、叫んだりはしない。脳と同じように。
ずぷ。ずぷ。ずぷ。
指先をグリグリ動かして、こねてみた。
ずちゅずちゅずちゅずちゅ。
だんだん激しく、バイオレンスに、こねてみた。
ぐちゅう! ぐちゅう! ぐぶぶぶちゅう!
最後は拳でつかんで、握り締めた。指の間から、ねろねろと餡が漏れた。
ふと、僕はあることを思い出した。
ゆっくりは、苦痛を受ければ受けるほど、ある変化が生じるという。
もし、この餡子が、脳のように本当に生きているのならば――。
僕は、ぺろっと指を舐めた。
<<ぞわぁぁぁぁぁ……っ>>
「……!!」
息が止まった。濃厚な甘味が襲ってきた。舌にしみこみ、根元までトロトロに溶かしてしまうほどの、恐ろしく濃厚な甘味だった。
さっきは、砂糖の味がするかしないかぐらいの、薄味だったのに。
やはり、こいつは。
僕は、指で攪拌されてグチャグチャになってしまった餡を、じっと見つめた。
その塊に、輝くような笑顔を浮かべて跳ねていたまりさの姿が、ダブッて見えた。
「……っ」
僕はたまらず、手についた餡子を振り捨てると、トイレへ走った。
ガチガチになっていたので、三分もかからなかった。
僕は餡子を小山の形に丁寧に盛り付けなおした。
それから、前後を慎重にあわせながら、『皮だけまりさ』をかぶせていった。
最初に頭頂部分がペタッと接触し、残りの皮がスポリとかぶさった。
その状態で、いったん正面から呼びかけてみた。
「まりさ、まりさ」
返事はなかった。目は真っ黒なまま、舌も肉片みたいにだらりと垂れたままだ。
死んでしまったんだろうか? ――普通に考えれば、まあそうだろう。
皮を剥いで中身をかき回されても生きている動物なんて、いるわけがない。
でも僕は、わずかな希望を持っていた。
ゆっくりなら。
ゆっくりなら、きっと……。
僕は気を取り直し、底面の接着に取り掛かった。
垂れ下がった頭皮の「裾」を、水で濡らして底皮と揉み合わせていく。
それだけでは心もとない気がしたので、ちょっと考えて、水濡れOKの絆創膏をぺたぺたと貼ってみた。
それで底面はくっついた。試しに持ち上げてみたが、ズボッと底が抜けるようなことは、なかった。
「おーい、まりさ」
まだ返事はない。デスマスクのままだ。
ふと、つかんだ皮がぶよぶよと浮いていることに気づいた。隙間に空気が入っているのだ。
これはよくなさそうな気がした。
そこで、カッティングシートを貼るときのように、ナイフであちこちを突いて、空気を押し出した。
皮がぴったりとくっつき、まりさはほぼ生前の姿に近くなった。
だが、まだ動かない。
「うーん……」
残念だった。生きていると思えばこそ、あれほど興奮できたのに。
そのとき僕は、最後の仕上げを忘れていたことに気づいた。
そばにおいてあった黒い三角帽子を取り、金髪の頭にすぽりと乗せた。
そして大声をかけた。
「ゆっくりしていってね!!!
ゆっくりしていってね!!!
まりさ、お兄さんだよ! ゆっくりしていってね!」
すると――
「……ゅ……ゆ……ゆっ?」
深い眠りから覚めたように、フッとまりさの瞳に光が戻った。
もぞっ、と身を起こして、きょろきょろと辺りを見回す。
そして、僕をじーっと見た。まだ表情はない。赤ん坊のような、きょとんとした顔だ。
僕はわくわくしてまりさの反応を待つ。
どうするんだろう。怒るのかな? それともすっかり忘れているのかな?
ふっ、とまりさの顔に表情が表れた。
笑みだ。明るい、親しみに満ちた表情。僕のことをなかよしだと思っていたときの顔。
そうか、今のひどいことを忘れちゃったのか。
まあ、それでもいい――僕はそう思って、まりさの声を待ち受けた。
まりさが口を開けて、叫んだ。
「ゆっ縺翫していっ繝峨!!!」
澄んだ甲高い言葉の間に、濁ったノイズのような声が混じった。
僕はぎょっとした身を引いた。すると、他ならぬまりさ本人も、驚いたように目を見張った。
「ゆっ・螳!!!」
ゆっく縺疲てュ縲てね!!!
莉贋く荳し臥いっ莨夂ぇぇぇぇ!!!」
懸命に繰り返すが、「ゆっくりしていってね」は出ない。
「ギォ」とか「ィジャ」のように聞こえる、奇怪な言葉が出るばかりだ。
「へんだ邁! ゆ托シり! 陦後く繧がいえないよぉぉぉぉ!
まり縺どうなっぢゃっ繝ォぉぉぉぉ!
これじゃ蜀埼くりでぎないぃぃぃぃぃ!!!」
見る見るうちにまりさは顔をぐしゃぐしゃにして、泣き始めた。
その泣き声まで、濁った奇怪なものだ。
「ああ……」
僕は理解した。
僕がまりさの餡の中の何かを壊してしまったんだろう。
大事なものを。
そう思うと、またしても股間がズキズキと熱くうずいてきた。
「おにーざ蜊、倥りざをだすけでぇぇぇ!!」
泣き喚きながらすりよってくるまりさに、僕はひとこと、言ってやった。
「ごめん、僕にもどうにもできないよ」
「……ゅ゛っ!」
息を詰めると、まりさはどうにもできずに、大声でわんわん泣き始めた。
僕は、仲間たちがどうしてゆっくりをいじめるのかよくわかって、うっとりとまりさを見つめた。
ゆっくりラヴの人
これからは虐待書くときはこっちのペンネームにします
→さらに改め、アイアンマンとします
最終更新:2008年10月19日 02:09