『ぶーぶーってやつかわいい』
満月が照らす、静かな森のはずれ。
放置されて久しい廃屋の中から、
ゆっくりれみりゃの声が響き渡った。
「うぁぁーー! なんでふらんがいるんだどぉー!!」
「
ゆっくりしね!」
このれみりゃは、紅魔館で飼われているれみりゃの1匹だったが、
メイド達の目を盗んでは森へ遊びに行き、
ゆっくりを狩ったり、野良れみりゃとスッキリしたりして毎日をすごしていた。
この廃屋も、元々れみりゃが見つけて"ゆうがなべっそう"と名づけて使っている場所だった。
そんな安全なはずの"べっそう"で、
ゆっくりしていた矢先に現れた天敵。
その突然の恐怖の襲来に、れみりゃはすっかり戦意を失ってしまう。
「ふ、ふらんぢゃーん♪ ご、ごれあげるがらぁ~、えびりゃのごどはみのがじでほじい~どぉ♪」
「う?」
れみりゃは、ダラダラ冷や汗をかきながら、部屋の奥に置かれたダンボールを指差した。
そのダンボールの中身をあげるから自分は助けて欲しい……れみりゃなりの懐柔策であった。
れみりゃの言うことなど、フランは毛頭聞くつもりはない。
絶対的強者であるフランの
ゆっくりに対するスタンスは一つ、前進制圧するのみである。
しかし、本当に単なる気まぐれで、フランはそのダンボールの中身に興味を持った。
廃屋の中を歩いていき、ダンボールの中を覗きこむフラン。
「みゃんみゃ~♪ おにゃかちゅいたどぉ~♪」
そこには、ピンク色のベビー服を着た小さな
ゆっくりれみりゃ、通称べびりゃがいた。
フランの恐ろしさをまだ理解していないべびりゃは、ニコニコしながらフランを見上げている。
「こんなの、いらない」
ダンボールの中身に興味を失ったフランは、さっきのれみりゃをいたぶろうと振り向く。
が、既にそこに親れみりゃの姿は無かった。
* * *
廃屋の中から逃げ出した親れみりゃは、
必死に羽をパタパタ動かし、夜空を全力で疾走する。
「う~~あがぢゃん~! ごべんだどぉー! ごべんだどぉー!」
涙を後ろにながしながら、叫ぶ親れみりゃ。
しばらくの間わんわん泣きはらすと、徐々にその下ぶくれ顔に余裕を取り戻していく。
「まんまぁは~、あがぢゃんのぶんばでゆっぐでぃずるどぉー♪」
れみりゃは、"れでぃー"たるもの前向きなことが大事だと都合良く考えた。
そうと決めるや否や、下ぶくれスマイルで紅魔館に帰ろうとする、れみりゃ。
れみりゃは、パタパタ羽を動かそうとして、
ふと違和感を覚えた。
自分は確かに空を飛んでいる。
でも、ちっとも前に進んでいないような気がする。
「う~~? なんでずずまないどぉ?」
がむしゃらに羽をパタパタ動かそうとする、れみりゃ。
「う~~! はやぐおがえりじないどぉ、ざぐやのおやじょぐたべのがじじゃうどぉー!」
お夜食は、"こんにゃくゼリー"という幻想郷に入ったばかりの珍しいお菓子だと咲夜は言っていた。
本当は、赤ちゃんと食べるつもりだったが、いなくなったものは仕方ない。
いなくなった赤ちゃんのぶんまで食べるのが、自分の使命だとれみりゃは考えた。
だというのに、さっきからちっとも前へ進まない。
そういえば、パタパタ動かしているはずの羽も動いていないような気がする。
れみりゃ、おそるおそる後ろを振り向いて、恐怖で顔をひきつらせた。
「ど、どぉーじでだどぉーー!」
振り向いたれみりゃが見たもの、
それは自分の羽をぎゅーと掴んで逃がさないようにしているフランの姿だった。
「じゃ、じゃぐやぁー! えびりゃをはやくおたずげじでぇー!!」
恐怖で、口から肉汁を飛ばしながら叫ぶ、れみりゃ。
フランは、そんなれみりゃを冷たい眼差しで一瞥し、
それから羽を思い切り引きちぎった。
「しね!」
「う、うあああーーっ!!」
羽を失い、地面に落下する、れみりゃ。
現在の飛行高度は約50メートル。
地面と衝突すれば、れみりゃの肉まんボディーなどひとたまりもない。
"ぐちゃ"
フランは、顔から落下して動かなくなったれみりゃを確認し、
それを持ち帰ろうと地面に降下していく。
その時、フランの頭の上で小さな声がした。
「う~、みゃんみゃ~?」
フランの頭の上には、廃屋の中にいたべびりゃがいた。
べびりゃは、何が起こったかわからず、相変わらずニコニコしている。
「……うー」
フランは、べびりゃを殺さずに自分の頭の上に乗せていた。
別に、このフランが幼いべびりゃに何かを感じたわけではない。
ただ、なんとなく。
巣で自分の帰りを待っている、妊娠中の"つがい"のことが頭に浮かんだのだ。
そして、このべびりゃが、
これから産まれてくる自分の赤ちゃんの、良いオモチャになる気がしていた。
* * *
それから月日は流れ。
1匹のフランが、1匹のべびりゃを巣に持ち帰ってから、3回ほど冬を越えた春のある日。
新緑美しい木々に囲まれて、1匹の胴つきれみりゃが、ニコニコ笑みを浮かべながら踊っていた。
「うっう~うぁうぁ~♪ うっう~うぁうぁ~♪」
のたのたぶきっちょに手足を動かす、れみりゃ。
このれみりゃこそ、フランに連れ去られたべびりゃが成長した姿だった。
「れみ☆りゃ☆う~☆にぱぁ~♪」
猫のように丸めた手を頭の横に掲げて、れみりゃは決めポーズを取る。
「うーうー、いいかんじのしんきょくだどぉ♪ はやくみせてあげたいどぉー♪ きっとよろこぶどぉ♪」
れみりゃは、自分のダンスに惚れ惚れしながら、
ダンスを見せるべき相手の到着を待った。
すると数分後、れみりゃの下へ1匹の
ゆっくりが空から降りてきた。
紅白の服に、不思議な形の翼、美しい金髪に、ルビーのような紅い瞳。
その
ゆっくりは、胴体つきの
ゆっくりフランだった。
普通、れみりゃ種だろうが、他の
ゆっくりだろうが、フランを見て怯えないものはまずいない。
また、フランにしても、れみりゃ種に対してはことさら好戦的であり、残虐性が高くなる傾向にある。
しかし、このれみりゃとフランに関しては、少々勝手が違った。
「……おはよう」
フランは、地面に降り立ち、あろうことかれみりゃに朝の挨拶をした。
そして、れみりゃもまた、フランを見て嬉しそうに歩み寄ってくる。
「う~、ふりゃ~~ん♪」
れみりゃは、フランの下までトテトテ歩いてくると、
嬉しそうにダンスを始める。
「みてみてぇ~♪ おねぇちゃまのしん☆のうさつ☆だんすぅ~♪」
おねぇちゃま。
そう、このれみりゃとフランは、種こそ違うが姉妹のように育てられた2匹だった。
このフランは、べびりゃが攫われてきた後に産まれ、
親フランから、べびりゃをオモチャとして与えられた。
しかし、なんだかんだで人恋しかったフランは、れみりゃを姉のように慕いだした。
また、れみりゃにしても、フランに対する先入観が無いため、自然とフランに対してお姉さんぶるようになった。
それから色々と紆余曲折はあったものの、この2匹はともに立派な成体
ゆっくりへと成長し、
親元から独立して、2人いっしょに森で暮らし始めたところだ。
「う~う~うぁうぁ♪」
れみりゃは、これからの
ゆっくり楽しい姉妹の生活を思い浮かべ、期待で胸をいっぱいにしていた。
だから、この今の自分の嬉しさをフランに伝えたくて、新作のダンスを披露したのだが……。
「うるさい」
「うがぁーん!」
フランは、自分にまとわりつくように踊るれみりゃを鬱陶しげに見つめ、その頬を軽く叩いた。
「ぅ~~~~っ……」
良かれと思って、やったダンスが裏目に出て、
れみりゃは叩かれて赤くなった頬を押さえながら、ベソをかきだす。
「うっく……ひっく……」
フランは、そんなれみりゃを見て溜息をついた。
「……ごめん」
フランは、れみりゃの頬に手をあて撫でてあげる。
「……う?」
「……あそぼ」
フランの提案に、れみりゃは涙を止め、あっという間に下ぶくれスマイルを取り戻す。
「う~♪ ふりゃ~~ん、きょうはいいこだどぉ~♪」
きゃっきゃとはしゃぐ、れみりゃ。
それを冷ややかに見つめる、フラン。
この2人、確かに姉妹として"仲良く"育ったのだが、
その"仲良く"は、世間一般の感覚とは少々異なる歪(いびつ)な形であった。
「なにしゅるぅ~? おままごとぉー? おひめちゃまごっこぉ? それともあまあまとりにいくぅ~?」
れみりゃの提案に、フランは首を左右に振って、静かに呟く。
「ううん、ぶーぶーごっこ」
「う?」
"ぶーぶー"という言葉の意味を、優秀とは言えない肉まん脳で検索する、れみりゃ。
やがて、前に紅魔館の友達れみりゃが話していた、絵本の内容を思い出す。
曰く、"ぶーぶー"とは"車"というエレンガトな乗り物のことらしい。
実物を見たことは無いが、れみりゃは何となくその響きが気に入っていた。
「おくるまとってもえれがんとだどぉ~♪ おぜうさまにふさわしいどぉ~♪」
友達れみりゃ達と話していた時の楽しい記憶をよみがえらせ、
"ぶーぶーごっこ"をやることを了承する、れみりゃ。
それを聞いたフランは、ニヤリと狩人特有の邪悪な笑みを浮かべると、
れみりゃを押し倒して、無理矢理よつんばいにさせた。
「うっ!?」
驚き、体を強張らせる、れみりゃ。
フランはお構いなしに、四つんばいになったれみりゃの背中にまたがる。
「う~~! おねぇーちゃまになにするんだどぉ!」
抗議の声をあげるれみりゃに、フランは楽しそうに言い放つ。
「ぶーぶー、おまえぶーぶー」
「うぁ!?」
フランの言う、"ぶーぶーごっこ"、それはれみりゃを乗り物にして遊ぶことを指していた。
その意味に気付いたれみりゃは、またがるフランを落とそうと体をゆらして叫ぶ。
「れみりゃは、おくるまじゃないのぉー! おぶぁかなふりゃんはさっさとどくんだどぉー!」
ぎゃーぎゃー叫ぶ、れみりゃ。
フランは、そんなれみりゃの様子を見て、むしろ機嫌を良くした。
そして、れみりゃの背中で笑みを浮かべたまま、れみりゃの大きな尻をパァーンと平手で叩いた。
「ぷぎゃぁ!」
突然の痛みに、れみりゃは泣き叫ぶ。
「うぁ~~うあぁ~~! れみりゃのぷりてぃーなおしりがぁ~~!」
フランは、れみりゃの泣き声を満足そうに聞きながら、
まるでもっと泣き声を聞かせろと言わんばかりに、パァン!パァン!と尻に平手を加えていく。
「いたぃ~! いたぃ~! ぼぉうやべでぇ~~~っ!」
泣いて許しを請う、れみりゃ。
フランはしばし黙った後、口角を歪めて呟いた。
「……ぶたのまね」
「う?」
「じょうずだったら……ゆるす」
「……う~~っ」
豚の真似をする。
それが何となく屈辱的な行為であるのは、れみりゃにも理解できた。
えれがんとなこーまかんのおぜうさまがしてはいけない、はしたないこと。
仮にもおぜうさまを自負する自分が、妹の言いなりになってそんなことをしていいはずがない。
れみりゃは、フランに抗議しようと、口を結んで泣くのをやめる。
「やらないの?」
フランは、わざとれみりゃを怖がらせるように、
れみりゃの尻に手のひらを当てて、ムニムニとこねくりまわす。
抵抗すると、また叩くよ?という無言の圧力だ。
「ひぃ! い、いたいのこぁいーー!」
痛いこと苦しいことが大嫌いなれみりゃは、
フランの圧力にあっさりと屈して、姉としてのプライドを放棄する。
「じゃ、やって」
「や、やりまずぅ~! おねぇちゃまがんばりまずぅ~!」
れみりゃは、べそをかきながら、
フランを背に乗せたまま四つんばいで土の上を歩いていく。
「ぶ、ぶぅーぶぅー、ぶぅーぶぅー、ぶぅーぶぅー……」
れみりゃの泣き声にまじって聞こえてくる、豚の鳴き声。
そのシンフォニーに、フランはニヤニヤと笑みを浮かべた。
「……ほんとにぶたのまねするんだ」
一方、れみりゃは、しばらく豚の真似をするうちに、少しずつ笑顔を取り戻していった。
屈辱的な行為ではあるが、痛いのよりはずっとましだったし、
よくよく考えれば、妹を背中にのっけて遊んであげるなんて、
実にお姉さんらしいではないか……そんな風に、れみりゃの脳は解釈を始めていた。
「ぶぅ~♪ れみりゃはおぶたさんのおまねもじょうずだどぉ~♪」
「うん、ほんとぶたみたい」
内容はさておき、フランに認められたことで機嫌をよくする、れみりゃ。
「ぶっぶぅー♪ じゃあはやくおねぇちゃまをじゆうにしてねぇ~ん♪ れみ☆りゃ☆う」
「ぶたはしね!」
笑顔をフランに向けようとしたその時、
フランは、思い切りれみりゃの尻を叩いた。
それは、先ほどまでとは違う、全力の平手うちだった。
「ぶぅーーーーーーーーーー!!」
苦悶の叫びをあげる、れみりゃ。
同時に、強い衝撃を受けた尻は、激しい音を立てて放屁してしまう。
痛みと恥ずかしさで顔を真っ赤に染める、れみりゃ。
"もうおうちにかえりたい"そう願いだすれみりゃを打ち砕くように、フランは淡々と口を開く。
「このまま……おでかけ」
「ううーっ!? おねぇちゃま、そんなのいやだどぉー!!」
「かんけいない……いけ」
「ぎゃ、ぎゃおー!」
「?」
さすがにこんなことは続けられない、れみりゃはそう感じて精一杯の抗議をフランに試みる。
ぎゃおーぎゃおーと、恐竜の鳴き真似を繰り返す、れみりゃ。
「おねぇーちゃまおこると、ティガれみりゃよりこぁいこぁいなんだどぉー! ぎゃおーぎゃおー!」
自信満面で叫ぶ、れみりゃ。
しかし、それに対するフランの対応は冷ややかなものだった。
「……ぶたはそんなふうになかない」
パァーン!
森にれみりゃの尻が叩かれた高温が響く。
「ぶぅーーーーーーーーっ!!」
再び、苦悶の叫びと放屁を同時にしてしまう、れみりゃ。
「いけ」
「ぶぅ~~~、わがりまじだぁぶぅ~~~」
フランの命令を、れみりゃはさめざめ泣きながら了承する。
れみりゃの中で何かが折れた瞬間だった。
「ぶぅーぶぅー、ぶぅーぶぅー」
豚の鳴き真似と嗚咽を繰り返しながら、四つんばいで進んでいくれみりゃ。
自分とほぼ同じ体格のフランを背負って歩く苦痛は並ではなく、
さらに、地面の小石が手足に突き刺さってチクチク痛みが増えていく。
「うん……ぶーぶーごっこ、たのしいね、おねぇさま」
「ぶぶぶぅ~~! ぶぶぅぶぶぅ~~~~っ!! (ざぐやぁー! だじゅげでぇーーっ!)」
フランは、れみりゃの泣き顔など我関せずで、ニコニコ無邪気に笑う。
そして、さらに無茶な要求をれみりゃに突き付けるのだった。
「……そうだ、とんで」
「ぶー!?」
れみりゃは、フランが何を言っているのか解らなかった。
こんな態勢で空を飛ぶ……そんな無茶を言われるはずがない、れみりゃは必死にそう思いこもうとする。
「とばないの?」
「ぶ、ぶぶぅー!」
フランの催促が、れみりゃの思いこみを、あっさり粉みじんに打ち砕く。
なかなか飛ぼうとしないれみりゃに業を煮やしたフランは、先ほどと同様にれみりゃの尻に平手を当てる。
その感触にゾッと背筋を凍らせたれみりゃは、
顔を真っ赤にしながら羽をパタパタ動かし始める。
「ぶぅ~~~~~~!!」
れみりゃが渾身の力を込めたその時、
1メートルたらずではあるが、れみりゃの体はフランを乗せたまま空に浮かび上がり、のろのろ前進を始めた。
「もっとはやく」
「じ、じんじゃぶぅー! おねぇーちゃまじんじゃぶぅー!」
フランは浮かび上がっただけでは満足せず、れみりゃにそのまま飛んでいけと命令する。
さすがにそれは無理だと、フランに許しを請う、れみりゃ。
「ぶーぶー、もんくいわない」
「ぶぎゃ!」
フランは、れみりゃの尻を再び叩く。
"ばぶぅーーーー!"
再び放たれる、れみりゃの放屁。
するとどうだろう、放屁を推進力にして、れみりゃの体が前へ進んだではないか。
それに満足したフランは、何度も何度もれみりゃの尻を叩いて放屁させていく。
「うん、はやいはやい」
"ばぶぅーーーー!"
"ばぶぅーーーー!"
"ばぶぅーーーー!"
楽しげにスパンキングを繰り返す、フラン。
対して、れみりゃの体力は限界が近づいていた。
「だ、だじゅげ」
"ばぶぅーーーー!"
"ばぶぅーーーー!"
"ばぶぅーーーー!"
そして、ぶーぶーごっこを始めてから30分後、
とうとうれみりゃは力尽きて、地面に落ちてしまう。
「ぶぁぁぁぁーーー!」
「うっ?」
地面に落下し、ピクピク体を痙攣させる、れみりゃ。
一方、フランは落下の直前にれみりゃから離れ、華麗に地面に着地する。
「……やくたたず」
「ひ、ひどいどぉー」
れみりゃは、大粒の涙を流しなら、よろよろ地面を這っていき、
大きな木の切り株を背にして、ぐったり体をもたれかける。
「うっく、ひっく、
ゆっくりおやすみしたいどぉ……」
嗚咽と、疲労で、れみりゃの顔はひどいことになっている。
フランは肩で息をして、れみりゃのために食料を獲ってきてあげようと、地面から浮き上がる。
「……あまあま、とってくる」
それはフランの善意からくる行動だったが、
れみりゃは、一人取り残されることを不安に感じ、それを呼び止めた。
「う~~ふりゃんまっでぇ~~! おねぇーちゃま、おひとりじゃこぁいどぉ~~!」
「がまん」
冷たく言い放つフランに、俯いて押し黙る、れみりゃ。
「うー…」
「あと、ぶーぶーはそんなこといわない」
フランにまた叩かれる、そう感じたれみりゃは、慌てて"豚言葉"で訂正する。
「ぶ、ぶぅーー! ごめんなさいぶぅーーー!」
れみりゃの態度に満足がいったのか、
フランはその場を後にして、木々の奥へと姿を消していった。
* * *
それから、数十分の時間が過ぎた。
フランはまだ戻らず、れみりゃは疲れと空腹から、未だにぐったりして動くことが出来ないでいた。
とはいえ、ずっと一人で待っているのは、流石に飽きてくるし、心細くもなる。
れみりゃは、辛うじて動く口を使って、か細い声でメロディをくちずさんだ。
「ぶぅーぶぅーぶぁぶぁ…………」
と、そんなれみりゃの歌を聞きつけたのか、
一匹の招かれざるギャラリーが木々の奥から姿を現した。
「ぐろまぐ~~」
のそぉ~としたスローモーションな動きと、独特の鳴き声。
それは、捕食種の中でもとりわけの希少種、
ゆっくりレティだった。
「ぶぅ~?」
のっそりのっそり歩いてくるレティを見上げる、れみりゃ。
レティの2m近い異様に太ましい巨体に、れみりゃの視線は釘付けになる。
その大きさにこそ驚いたが、動きはのんびりしていて、
れみりゃは、
ゆっくりレティに対して、すっかり警戒をおこなってしまっていた。
ゆっくりとして当然の挨拶をかわす、れみりゃ。
しかし、その油断が命とりだった。
レティは口を開くと、信じられないほど長い舌を伸ばして、れみりゃの体を捕縛する。
「ゆっぐりぐろまぐ~~」
「う、うぁぁっ!」
レティを初めて見るれみりゃは、知るよしも無かったが
このレティこそ、
ゆっくり随一の大食漢であり、恐るべきハンターであった。
大きな舌に巻き取られたれみりゃは、
なすすべもなくレティの口元まで運ばれてしまう。
「や、やべでぇー! でみりゃごあんじゃないどぉーー!!」
泣き叫ぶ、れみりゃ。
「ぐろまぐ~~ぐろまぐ~~」
そんなことお構いなしに、巨大な口をあ~んと広げるレティ。
……と、その時だった。
"ビュッ!"
風切り音がして、ドサっとれみりゃの体が地面に落ちた。
何が起こったのかわからず、れみりゃとレティは同時に首を傾げる。
「ぐぅ~!?」
そして、レティは気付いた。
れみりゃに巻き付いていたはずの自分の舌が、途中から切れていることに。
「ぐ、ぐろまぐ~!」
今さらながら舌を失った痛みに、苦しみだすレティ。
そのレティの傍らに、風切り音の正体……れみりゃの妹たるフランが降り立った。
「……ふりゃん?」
フランの姿を見て、呆けるれみりゃ。
フランは片手に"れーばてぃん"と呼ばれる不思議な金属の棒を持っていた。
「おねぇさま、いじめちゃだめ」
フランは一切笑わず、レティを睨み付けて静かに言葉を紡ぐ。
その姿、その圧倒的なプレッシャーに、
鈍感なはずのレティが、ガタガタ体を震わせた。
「ぐ、ぐろまぐ~~!」
「おねぇさまいじめていいの、ふらんだけ」
レティはフランに背中を向けて、ドタドタ走り出す。
フランはそれを見逃さず、
ゆっくりとしては圧倒的な速度で跳躍して、
"れーばてぃん"を逃走するレティの背中に突き立てる。
「おねぇさまいじめるやつは、
ゆっくりしね!」
「ぐっ、ぐろまぐぅ~~!!」
"れーばてぃん"で体を貫かれ、レティの巨体が地面に倒れる。
フランは、レティが動かなくなったのを確認してから、"れーばてぃん"を引き抜き、
それを自らの口の中に押し込むように挿れていく。
不思議なもので、フランの身の丈ほどあった金属棒が、
しゅるしゅるとフランの体の中に収納されていった。
「うん、ごっくん」
"れーばてぃん"を飲み込み、満足げに頷くフラン。
と、同時に、れみりゃが駆け寄ってフランに抱きついた。
「ふりゃん~ありがとぅだどぉ~♪」
感謝の意を表し、涙と汗でべちょべちょになった下ぶくれ顔をフランにこすりつける、れみりゃ。
「きたない」
「ぶんぎゃぁ!」
れみりゃを押しのけるフラン。
れみりゃは、どたんと尻餅をついてしまう。
フランは、れみりゃから顔を背けると、
レティの腕を1本むしりとって、それをれみりゃに投げつけた。
「ぶーぶー、さっさとたべる」
れみりゃは、色々言いたかったが、
とりあえずは妹が仕留めてくれた獲物を食べることにした。
本来、れみりゃ種はそれほどたくさん食べる種族ではないのだが、
空腹も手伝って、れみりゃはあっという間にレティの腕をたいらげていく。
フランも、黙々とレティを食べていく。
そして、ある程度食べると、れみりゃの下へ歩いていき、言い放つ。
「ぶーぶーごっこのつづき、はやく」
「ううっ!?」
「ぶーぶー、して!」
「や、やだぁー! もぉーぶーぶーやだぁー!」
文句を言って、頬を膨らませる、れみりゃ。
フランは、無言のまま、れみりゃの帽子を取り上げる。
「うぁぁぁー! それおねぇちゃまのだいじだいじだどぉー! かえちてぇー!!」
帽子を取られ、泣き出すれみりゃ。
フランの手から帽子を取り返そうと、ピョンピョン飛びつくが、
簡単にあしらわれ、逆にドンと体を押されて転ばされてしまう。
「かえしてほしかったら、はやく」
「う~~~!」
「あと、くちきをつけて」
フランの迫力に負け、仕方なくれみりゃは再びよつんばいになる。
満足そうに頷いて、その背中に乗るフラン。
「ぶぅ~~~!!」
れみりゃは、再びフランを背に乗せて進んでいく。
「うん、たのしい……
ゆっくりできるね、おねぇさま」
「ぶ、ぶぅー! ぶーぶーごっこ、たのしぃでぶぅーー!」
目に涙を浮かべつつ、"ばぶぅーーーー!"と放屁を放って進む、れみりゃ。
そんなれみりゃの後頭部を眺めつつ、フランはふと口を開いた。
「……うた」
「ぶ?」
「……さっきのうた、きいてあげる」
さっきの歌。
それは、れみりゃがフランに聞かせてあげようとした新曲のことを指していた。
「ぶ、ぶぅー♪」
フランの言葉の意味を理解したれみりゃは、
嬉しそうに鳴き声を上げ、放屁を交えながら歌い始める。
「ぶぅ~ぶぅ~ぶぁぶぁ♪ ぶぅ~ぶぅ~ぶぁぶぁ♪」
"ばぶぅーーーー!"
"ばぶぅーーーー!"
"ばぶぅーーーー!"
おなかいっぱい食べたれみりゃのお尻からは、
大量のガスが薄黄色のもやを形成するほどの勢いで放出されていく。
その放屁を伴奏にして、れみりゃは意気揚々と歌っていく。
背中に乗るフランは、鼻を手で押さえて黙って歌を聴いていた。
そして同時に、"このかわいくもはらのたつあねを、どうおしおきしてやろうか"と思案を開始する。
いじめること。おしおきすること。
それこそが、フランにとっての姉に対する愛情表現なのだから。
れみりゃとフラン。
歪(いびつ)な仲良し姉妹にとっては、これが日常だった。
"ばぶぅーーーー!"
"ばぶぅーーーー!"
"ばぶぅーーーー!"
「れみ☆りゃ☆ぶぅ~~♪」
いつも通りの妹との日常を謳歌して、
れみりゃは、満面の笑みで思い切り放屁をして笑うのだった……。
おしまい。
最終更新:2022年01月31日 02:05