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ゆっくりが普通に現代社会にいる変な世界観です。
※同作者の現代社会ものとは大体世界観を共有していますが時々矛盾が生じています。
※作中で矛盾していることも多々あるので細かいことは気にしないでください。
数年前に突如現れ、急速に社会に浸透していった(ような気のする)ゆっくりと呼ばれる新たなる生命体。
人間の生首が膨張したような容姿のそいつらは饅頭のクセに生きていたり、どこから来たのは全く不明だったりとあまりに謎が多すぎる。
が、目新しいものや珍しいものを好む人々はその「ゆっくりしていってね!」とか「ゆーっ!」などと珍妙な鳴き声をあげる未知の存在をあっさりと受け入れた。
そして、社会にある程度浸透した以上、人間の真似事をさせて間違った可愛がり方をする輩がいるのもある意味では必然であった。
~ゆっくりのことはゆっくりに~
そんな信念の下に設立されたのがこのゆっくりのためだけの学校だ。
学校とは言うものの、寿命も能力も根本的に異なる以上、人間のように何年も通い続けるわけには行かない。
だから、1週間ほど施設に泊り込んで飼いゆっくりにゆっくりとしての教育を施すことがこの学校の目的となっている。
今回のカリキュラムは記念すべき第1回目。
それだけに教師陣のゆっくり達も気合十分。きらきらと瞳を輝かせて生徒達がやってくるのを心待ちにしていた。
「れいむぅ!どんなこたちがくるのかな?」
「ゆっ!きっとみんなゆっくりできるかわいいこだよ!」
小さな、とは言ってもゆっくりには十分すぎるほど大きな学校のグラウンドで人目もはばからずにいちゃいちゃする2匹。
一方は平均的な大きさのゆっくりまりさで、もう一方もこれまた平均的な大きさのゆっくりれいむだ。
「ひ、ひるまからあおかんだなんて・・・いなかものね!?」
「むきゅ~・・・なにもしてないのにあおかんとかいうのはとかいはなの?」
「ありすはへんたいなんだねー、わかるよー」
「ゆゆっ!あ、ありすはゆっくりしたとかいはなれでぃーよ!」
人目をはばからないれいむ達の横でそんなやり取りをしているのはありすにぱちゅりーにちぇん。
ここにいる5匹のゆっくりが子ども達を見守るゆっくりの学校の教師達だった。
午前9時、カリキュラムの最初のイベント『校長先生のお話』の時間。
運動場には飼い主や親に連れられてやって来た30匹あまりの子ゆっくりと先ほどの教師達。
壇上では校長先生ことゆっくりゆかり、通称ゆっかりんがふんぞり返っていた。
「いまからこうちょうせんせいのおはなしだよ!」
「みんな、ゆっくりしずかにきいてね!」
先生達は運動場で沢山の同年代に囲まれて浮かれている子ども達を諭すが、子ども達の耳には全く届いていない。
あるものは近くにいた子とおしゃべりを始め、またあるものは運動場で仲間と遊び始めてしまった。
先生達がその場を何とか収めようにも流石に子ども相手でも30匹も居るとなると一苦労。
どれだけ「ゆっくりおはなしをきいてね!」と叫んだところで一向に事態が終息する気配を見せない。
そうこうしているうちに子ども達の世話をするはずのれいむが「どほぢでいうごどぎいでぐれないのおおおお!?」と泣き出してしまった。
「ゆ っ く り し て い っ て ね !!」
運動場に響き渡るひときわ大きな声の主は校長先生。
児童達や他の先生達もゆっくりの本能に従って「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」と返す。
返事が返ってきたのを確認したところでゆっかりん校長は話を始めた。
「ここはゆっくりするばしょじゃないよ!ゆっくりしたゆっくりにゆっくりなるためのばしょだよ!ゆっくりりかいしてね!」
「「「「「そうだよ!ゆっくりりかいしてね!」」」」」
「「「「「「「「「「ゆゆっ!ゆっくちりかいちたよ!」」」」」」」」」」
本当に理解できたのかいささか怪しいところだが、とにかくこうして1週間の学校生活が始まった。
1日目はれいむ先生によるお歌の練習の日。
「みんな、おうたさんはみんながゆっくりするのにとってもだいじなんだよ!」
「だかられいむといっしょにゆっくりおうたのれんしゅうをしようね!」
「「「「「「「「「「ゆっくちれんしゅうしゅるよ!」」」」」」」」」」
子ゆっくり達の元気の良い返事を聞いたれいむ先生は早速自慢の歌声を披露し始める。
人間にしてみればリズムも音程もあったものではないような歌声なのだが、子ゆっくり達はその歌声に聴き惚れていた。
「ゆ~♪ゆ~ん、ゆ~~ゆぅ~♪ゆん~~~ぅゆ~ゆ~♪」
「ゆゆっ!せんせー、すごくゆっくちしたおうただよ!」
「ゆぅ~♪ゆ~ん・・・ゆっ!みんなもいっしょにうたってね!」
不思議なものでこの場に居るゆっくりの大半は人間に飼われており、大抵のものはゆっくりよりも人間の歌のほうが優れていることを認めている。
つまりは人間と同じ評価基準を持っていることは紛れもない事実なのだが、どうやら「ゆっくりとしての上手さ」というまったく別の評価基準を持っているらしく、
1匹たりとも「おねーさんのほうがじょうずだよ!」などと言い出すものは居なかった。もちろん、空気を読んだわけでは断じてない。
「「ゆ~ゅ~ゆぅぅぅうう~ん♪」」
「ゆ~~~~~ゆぁ~~~~~~ゆぅ~~~~♪」
「ゆっ♪ゆ~♪ゆゆゆゆゆゆゆ~♪」
「「ゆ~~♪ゆゆゆ~♪ゆ~ゆゆ~♪ゆ~ゆゆ~ゆ~♪」」
「ゆゆゆ~♪ゆゆゆ~♪ゆゆゆっゆ~♪ゆゆゆっゆ~♪ゆゆゆゆ~♪」
先生に促された子ども達も一緒に歌い始める。
一緒に、と言っても自分たちの思い思いの歌を好き勝手に謳っているだけなのだが当人らは楽しそうだ。
そうして、思い思いのメロディーを口ずさんだゆっくり達は歌い終えると満足げな笑みを浮かべた。
何かをやり遂げたもの特有のどこか誇らしげで、非常に輝かしい表情だ。
「ゆ~っ!とってもゆっくちできたよ!」
「「「ゆっくちできたよ!」」」
「もっとゆっくちおうたうたうよ!」
皆で歌ったのがよほど楽しかったのか、子ゆっくり達はもっと歌いたいと主張しながら飛び跳ねている。
が、れいむ先生は「おうたはあとでもっとゆっくりうたうから、せんせーのはなしをゆっくりきいてね!」と言って子ども達を静かにさせる。
それから、ゆっくりにしては真剣な面持ちで子ども達に語りかける。
「れいむたちのゆっくりしたうたごえはね・・・てんしさんのうたごえなんだよ!」
「ゆぅ、てんししゃんの?てんししゃんってなに?ゆっくちできるもの?」
「てんしさんはね、いいこをゆっくりできるばしょにつれていってくれるゆっくりしたものだよ!」
「「とってもゆっくちできるんだね!」」
「れいむたちはね、にんげんさんのてんしなんだよ!いつもゆっくりしていないにんげんさんをゆっくりさせてあげられるんだよ!」
「ゆゆーっ!れいむたちはしゅごいんだね!」
「すごくゆっくちちてるんだね!」
妙に自信満々に「自分たちは人間をゆっくりさせてあげるために舞い降り天使だ」と力説するれいむ先生。
その意味をどれほど理解できているかは怪しいところだが、ここに居る子ゆっくりの大半は飼い主が大好きな飼いゆっくりだ。
みんな、自分が飼い主をゆっくりさせてあげられると思うと嬉しくてぴょんぴょん飛び跳ねながら微笑んでいる。
そんな子ども達を諌めながられいむ先生は更に続ける。
「でもね、にんげんさんたちだけがゆっくりするのはずるいよね?」
「ゆゆっ!まりしゃたちもゆっくちちたいよ!」
「だからね、にんげんさんにたべものかおかねさんをおねだりするんだよ!」
「おかねってなに?ゆっくちできるもの?」
「おかねさんはね、おいしいおかしをたくさんかえるんだよ!」
「ゆーっ!おかし!おかしっ!」
「れいむたちにゆっくりさせてもらったにんげんさんからはたべものかおかねをもらうんだよ!ゆっくりりかいしてね!」
「「「「「「「「「「ゆっくちりかいちたよ!」」」」」」」」」」
虐待界隈の人たちが聞いたら「ひゃあ、我慢できねェ!」を通り越して発狂しそうなれいむ先生の言葉をしっかりと心に刻む子ども達。
それから2,3度「お歌でゆっくりさせてあげたにんげんさんからおかねをもらおうね!」と復唱し、また皆で楽しくお歌を歌った。
お歌の授業は約2時間ほど続き、それが終ったところで今日の授業は終了。子ども達は仲良くなった子と一緒に遊び始めた。
昼食を食べ、遊い、お菓子を食べ、お昼寝し、お菓子を食べ、遊び、夕食を食べ、遊び、お菓子を食べ、夜更かしし、眠くなったら寝て・・・1日目が無事終了した。
2日目は朝の9時からまりさ先生によるご挨拶の練習の日。
「みんなごあいさつのしかたはしってるかな?」
「「「ゆゆっ!とうぜんだよ!」」」
「「「「「ゆっくちちていってね!」」」」」
「「「「「「ゆっくちちていってね!」」」」」」
まりさ先生の簡単すぎる質問にみんなで声を揃えて答える子ゆっくり。
元気いっぱいの子ども達の様子にまりさ先生はうんうんと頷くき、それからまじめな表情で語りだした。
「そうだね!ゆっくりしていってね、だよ!でも、みんなのそれじゃまだまだだよ!」
「ゆっ!まりさのゆっくりしていってねのどこがだめなんだぜ?」
「そーよ!ありすのゆっくりしていってねはすごくとかいはよ!」
「じゃあ、そこのありすとまりさ、まえにでてゆっくりしていってねっていってみてね!」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
2匹は意気揚々と子ゆっくり達の前、まりさ先生の隣に行くと思いっきり息を吸い・・・
「「ゆっ・・・「ゆ っ く り し て い っ て ね !!」
「「「「「「「ゆっくちちていってね!」」」」」」」
元気いっぱいに「ゆっくりしていってね!」と挨拶をしたが、まりさ先生の挨拶によってかき消されてしまった。
それだけじゃない。まりさ先生は挨拶するときに満面の笑みを浮かべて可愛らしくぴょ~ん!と跳躍した。
隣にいた子ありすと子まりさはたった1回の実演で圧倒的な実力差を思い知らされた。
子まりさも子ありすも大きな声で挨拶する事にこだわり過ぎた為に、そのときの表情がゆっくりしていなかったのだ。
それに比べてまりさ先生のはどうだろうか?
とても聞き取りやすい元気な声に、ゆっくりした表情、とても活力に満ち溢れてゆっくりした跳躍・・・全てが完璧だった。
「ゆゆっ!せんせーしゅごいぜ!」
「とってもとかいはだわ!」
「ゆっへん!みんなもがんばればすぐにまりさみたいになれるよ!」
「「「「「ゆっくちがんばりゅよ!」」」」」
まりさ先生の言葉に元気良く返事する子ゆっくり達。
とってもゆっくりした挨拶をするかっこいいまりさ先生に皆メロメロだった。
そこにいる誰もが同じことを思っていた・・・先生みたいになりたい、と。
「まずはぴょ~んぴょ~ん、だよ!まりさといっしょにゆっくりはねてね!」
「「「「ぴょ~んぴょ~ん!」」」」
「「「ぴよ~んぴよ~ん!」」」
「「「ぴょんぴょん、だよ!」」」
先生に倣ってぽよんぽよんと跳ね回る子ゆっくり達。
その真剣な姿につられて先生の指導にも熱が入る。
「さあ、もっとだよ!ぴょ~んぴょ~んぴょ~ん!」
「「「「ぴょ~んぴょ~んぴょ~ん!」」」」
「「「ぴよ~んぴよ~んぴよ~ん!」」」
「「ぴょんぴょんぴょん、だよ!」」
「つかれたよ!ゆっくちやしゅむよ!」
ちょっと疲れた子どもは休憩したりするが、まりさ先生は自主性を尊重しているらしく何も言わない。
そうこうしているうちにまりさ先生にも疲れの色が見えてきて、彼女が飽きたタイミングで跳躍の練習が終った。
「つぎはえがおであいさつするれんしゅうだよ!みんな、ゆっくりがんばってね!」
「「「「「「「ゆっくちがんばるよ!」」」」」」」
子ゆっくりの元気の良い返事を聞いたまりさ先生はにっこりと微笑むと、元気良く声を張り上げた。
「ゆ っ く り し て い っ て ね !!」
「「「「「「ゆ っ く ち ち て い っ て ね !!」」」」」」
「ゆ、ゆっくちちていってね・・・」
「ゆゆっ!ぱちゅりー、おこえがちいさいよ!」
まりさ先生の言うことを聞かずに小さな声で挨拶をする子が1匹。
その子はゆっくりぱちゅりーで、注意された途端「むきゅ~~~ん」と泣き出してしまった。
「どうしておおきなこえをださないの?せんせーにゆっくりおしえてね!」
だが、まりさ先生は優しい先生だ。
言うことを聞かないからと、頭ごなしに怒鳴りつけたりはしない。
先生の優しさに触れたぱちゅりーはもそもそと話し始めた。
「おねーさんのおうち・・・あぱーとなの。だからね、おおきなこえをだしゅとおこられちゃうの・・・むきゅぅ」
「ゆゆっ!それはおねーさんのかんちがいだよ!」
「むきゅぅ、しょうなの?」
「きのうれいむにきいたでしょ?まりさたたいはねぇ・・・にんげんさんたちをゆっくりさせてあげるてんしさんなんだよ!」
「むきゅ~?」
「だったらまりさたちがげんきじゃなかったらぱちゅりーのおねーさんはゆっくりできないでしょ!」
「むきゅ!さすがせんせいだわ!」
「ゆっくりりかいしたら、おねーさんのためにもいっしょにごあいさつのれんしゅうだよ!ゆ っ く り し て い っ て ね !!」
「「「「「ゆ っ く ち ち て い っ て ね !!」」」」」」
まりさの言葉のおかげで元気になったぱちゅりーは皆と一緒に笑顔でご挨拶の練習を続けた。
それからもまりさ先生の授業は続き12時くらいに終了した。
それから、子ゆっくり達は昼食を食べ、遊び、お菓子を食べ、お昼寝し、お菓子を食べ、遊び、夕食を食べ、遊び、お菓子を食べ、疲れていたので早めに寝た。
3日目はぱちゅりー先生と一緒にお勉強する日。
「むきゅ~、きょうはみんなでおべんきょうよ!」
「おべんきょうなんてゆっくちできないんだぜ!」
「「「「ゆっくちできないよ!」」」」
「む、むきゅ~・・・」
マッハで出鼻をくじかれたぱちゅりー先生、しょんぼり。
彼女の話を聞こうとしているのは最前列に陣取った同じぱちゅりー種だけで、他の子ゆっくり達は近くの仲間と遊び始めてしまった。
が、まがりなりにも彼女だって先生だ。こんなことでへこたれては居られない。
「むっきゅ~!おべんきょうしないとゆっくりできなくなっちゃうわ!」
「「「ゆゆっ!?」」」
「「ゆっくちできないの!?」」
「「「ゆっぐちぢだいよぉ・・・?!」」」
機転を利かせての「ゆっくり出来なくなる」発言は子ども達の心を十分以上に捕えたらしい。
友達と遊んでいた他のゆっくり達もすぐさまぱちゅりーのほうに向き直り、話を聞く体勢になった。
「むきゅ~・・・だいじょうぶよ!せんせいのおはなしをきくこはゆっくりできるわ!」
「「「「「ゆゆっ!ゆっくりおはなちをきくよ」」」」」
「みんなとってもゆっくりしてるわ!ぱちゅりーがおしえるのはかずのかぞえかたよ!」
「ゆゆっ!かずなんてかんたんだよ!いち、にー、しゃん、たくしゃんだよ!」
別にお約束のボケをかましたわけではない。ゆっくりの知能はせいぜいこんなものなのだ。
「むきゅ~・・・もりのなかでゆっくりするならそれでもいいけど、にんげんといっしょにくらすのにそれじゃだめよ!」
「「ゆぅ?どうちて、ダメなの?」」
「「「「かずなんてかじょえなくてもゆっくちできるよ?」」」」
「むきゅ!かずをかぞえられないとおしごとやこそだてでこまるのよ!おおきくなってからゆっくりできないのよ!」
「ゆぅ、どういうことなの?ゆっくちおちえてね!」
「にんげんのなかにはゆっくりできないひとがいるから、かずをかぞえられないとだまされてゆっくりできないのよ!」
最も数を数えられたところで時蕎麦程度の引っ掛けで簡単に騙されてしまうのだが、そこまでは頭が回らないらしい。
それに数を数えられる程度では大した効果もないのだが、その辺にも頭が回っていない・・・というか人間の知能をきちんと理解出来ていないようだ。
それでもぱちゅりー先生は妙に自信満々といった風な笑みを浮かべて、ふふんと偉そうに胸を張って話を続ける。
「せんせーもだまされそうになったことがあるのよ!おかしさんをごまいくれるっていったのによんまいしかくれなかったのよ!」
「「「ゆぅ、ごまいとよんまいってどっちがおおいの?」」」
「ごまいよ!」
「「ゆゆっ!ちょっとしかくれないなんてひどいよ!?ゆっくちできないね、ぷんぷん!」」
「「かわいいまりしゃたちをだますだなんて、ちんじられないぜ!」」
「でもぱちゅりーはかずをかぞえられたからだまされなかったわ!」
おおっー!と子ゆっくり達から歓声が上がる。彼女達の目には強くて大きくて賢い人間相手に対等以上に渡り合ったぱちゅりー先生への敬意が宿っていた。
もっとも、実際のところは相手が飼い主で、たまたまぱちゅりーに数の大小が理解できるのかを調べていただけなのだが。
が、そんなことは露ほども知らない子ゆっくりとぱちゅりー先生は上機嫌で授業を続ける。
「せんせいにつづいてじゅうまでのかずをかぞえるよ!」
「「「「ゆっくちりかいちたよ!」」」」
その後、1から10までの数字の発音の練習をし、何度か暗唱して、とりあえず全員が5まで数えられるようになったところで終業の時間になった。
子ゆっくり達は昼食を食べ、遊び、お菓子を食べ、お昼寝をし、お菓子を食べ、遊び、夕食を食べ、遊び、眠くなったら眠り、3日目も無事終了した。
4日目はゆっかりん校長と一旦お休みしてゆっくりする日。
事実上、寝泊りするための場所でしかない校舎に集まった子ゆっくりと先生たちは皆ゆっくりとしていた。
「ゆぅ~ん、ゆっかりしてるわぁ~・・・」
「まりさぁ~、きょうはいっしょにゆっくりしようね!」
「ゆっくりしようね~♪」
「せっそうなくいちゃいちゃして・・・いなかものね!?」
「しっとだねー、わかるよー」
「むきゅ~・・・こどもたちもゆっくりしてるわ~」
校舎の隅っこに待機して、いつでもどこでも子ども達を見守っている先生達。
一方、先生に見守られている子ども達は非常にゆっくりとした様子で仲間達とじゃれあっている。
「ゆゆっ!つぎはれいむがおにしゃんだよ!」
「ゆぅ~!ゆっくちつかまえるよ!」
「「ゆっくちにげるよ!」」
一番やんちゃで、活発なグループは鬼ごっこをしていた。
そのグループのリーダー格のまりさにタッチされたれいむが鬼になり、今度は仲間達を追い掛け回す。
「ゆーっ!きれいなおはなさんだ!」
「ゆふふっ!さっきおそとでみつけてきたのよ!」
「すごくとかいはね!」
「むきゅ~、とってもゆっくりできるわ!」
「ち~っんぽ!」
こっちのグループのリーダー格はありすで、皆して彼女の持ってきたお花を眺めていた。
どうやらこの集団には共通して女性的とされる気質があるらしく、子ども達の目はきらきらと輝いている。
やがて、誰とはなしに「おっはなさん♪お~は~なさんっ♪」と歌い始め、気がつけば皆で合唱していた。
「むきゅ~・・・せんせー、ぱちゅりーもっとべんきょうちたいわ」
「ちぇんもべんきょうちたいんだよー」
「ありすももっととかいはになりたいわ!」
「むきゅ~、せんせーゆっくちおべんきょうをおしえてね!」
そんな事を言いながらぱちゅりー先生に群がっているのはぱちゅりーを筆頭にしたお勉強好きのグループ。
しかし、先生は彼女達をなだめると、にっこり微笑んで諭した。
「むきゅ、ゆっくりするのもだいじなおべんきょうよ!」
「「「ゆぅ?」」」
「かしこくないとわるいにんげんさんにだまされるわ!でも、ゆっくりしてないといいにんげんさんをゆっくりさせてあげられないでしょ?」
「「ゆゆっ!」」
何も大した事は言っていないのだが、子ゆっくり達は感銘を受けたといわんばかりの表情を浮かべる。
口々に「せんせーはとってもゆっくちちてるね!」と彼女を褒め称え、それから「ゆっくりゆっくりのおべんきょうするよ」と言って仲間同士で遊び始めた。
「みんな、ゆっくりしてるかしら?」
「「「「「「「「「「とってもゆっくりしてるよ!」」」」」」」」」
「「「「「「せんせーたちもゆっくりしていってね!」」」」」」
そんな風にゆっくりしている子ども達を眺めているだけでゆっかりん校長や先生たちは幸せな気分になった。
子ども達も優しい先生たちに見守られながら思いっきり仲間達と遊んだ。
それからお菓子を食べ、遊び、昼食を食べ、遊び、お菓子を食べ、お昼寝し、お菓子を食べ、遊び、夕食を食べ、遊び、お菓子を食べてから眠りについた。
5日目はありす先生からお食事のマナーを学ぶ日。
「きょうはありすせんせいがとかいはのたべかたをおしえてあげるわ!」
「ゆゆっ!ありすはとっくにとかいはよ!」
「ゆふんっ、じゃあここでこのおかしをたべてみてね!」
先生の指示に従って、1匹のありすが他の子ゆっくり達の前で都会派の食事を実演する。
食事中は喋らないように、食べ物を撒き散らさないように、決してがっつかず落ち着いて一口一口咀嚼する。
彼女の食べ方は床を汚さない理想的な食べ方だった。が・・・
「ちがうわ!そんなのとかいはのたべかたじゃないわ!」
「ゆゆっ!?そんなことないよ!おねーしゃんがとかいはだっでいっでだもん!」
いきなり自分の食べ方を全否定されて涙目になる子ありす。
ありす先生はそんな彼女ににっこりと微笑みながら、慰めるように頬ずりをし、それから話を始めた。
「きっとみんなもこんなふうにたべろっていわれてるとおもうわ!」
「ゆかをよごすからきりぇーにたべなさいっておにーさんがいってたよ!」
「そんなんじゃだめなのよ!そんなのゆっくりしていなくていなかものなのよ!」
「「「ゆゆっ!?」」」
今までの常識を覆すような発言に驚愕する子ゆっくり達。
ありす先生は彼女達の驚きの表情を伺いながら少し得意げに話を続ける。
「だってそうでしょ?にんげんがたべものをこぼさないのはてがあるからなのよ!」
「で、でもれいむたちもこぼさずにゆっくちたべられるよ!」
「だけど、それはほんとにゆっくりしているのかしら?」
「「「ゆゆっ!?」」」
思い当たる節があったのだろう。またしても子ども達は驚愕の表情を浮かべる。
「それにむーしゃむーしゃ、しあわせ~っていわないようにたべてしあわせなの?」
「「「「ゆゆゆっ!?」」」」
「ゆぅ・・・まりしゃほんとうはうめぇ、めっちゃうめぇっていいながらたべたいよおおおお!ゆええええん!」
「「れいむもちあわせ~したいよおおおおおお!」」
「「ありすもとかいはなちあわせ~がちたいわ!」」
今まで我慢してきた気持ちが溢れ出し、子ども達は泣き出してしまう。
そしてアリス先生は子ども達が泣き止むまで笑みをたたえながら、その様子を見守っていた。
「「「「「「ゆっぐ・・・ゆっぐ」」」」」」
「みんな、もうなきやんだね?じゃあ、せんせいといっしょにむーしゃむーしゃ、しあわせ~しようね!」
そう言いながらありす先生は子ども達にビスケットを配ってゆく。
途中、1匹のぱちゅりーが「でも、おうちじゃちあわせ~できないよぉ」というのを聞くと、子ども達にこう言ってのけた。
「にんげんさんはたべちらかすなっていうけど、そんなのむしすればいいんだよ!」
「「「「「ゆゆっ!」」」」」
「で、でもぉ・・・そんなことしたらおこられるよ!ゆっくちできないよ!?」
「ゆふふっ、だいじょうぶよ!ありすたちはとってもかわいいんだよ!」
「ゆぅ?」
「しあわせ~してるありすたちのゆっくりしたかわいいすがたをみたらにんげんさんはめろめろなんだよ!」
「「「「ゆゆっ!?」」」」
「だからおかたづけくらいよろこんでしてくれるよ!だって、にんげんさんはありすたちをゆっくりさせるためにいるんだよ!」
「「「「ゆゆゆゆゆっ!?」」」」
その言葉を聞いた子ゆっくりはにこにこと笑みを浮かべるようになり、「じゃあ、おうちでもたいわせ~できるんだね!」と大喜び。
あるものはぴょんぴょん飛び跳ね、中には「ちあわせ~できるなんてちあわせ~」と泣き出すものまでいた。
「それじゃあ、みんな!いっしょにしあわせ~しようね!・・・むーしゃむーしゃ、しあわせ~!」
「「「「「むーしゃむーしゃ、ちあわせ~!」」」」」
「「「「うっめ、これめっちゃうめぇ!」」」」
くちゃくちゃ、がつがつと音を立てながらありす先生と子ゆっくり達はゆっくりビスケットを食べた。
そうして、皆がしあわせ~な食べ方をきちんと習得した頃にちょうど就業のベルが鳴った。
それから遊び、昼食を食べ、遊び、お菓子を食べ、お昼寝し、お菓子を食べ、遊び、夕食を食べ、遊び、お菓子を食べてから眠りについた。
6日目はちぇん先生と一緒に狩りの練習をする日。
「みんなー、だんごむしさんをうんどうじょうにまいたからさがしてつかまえてみてね!」
「「「「「ゆゆっ!ゆっくりりかいしたよ!」」」」」
ちぇん先生の指示に従って元気良く運動場に飛び出す子ゆっくり達。
石をのけたり、木の裏側に回り込んだり、雑草を引き抜いたりしながら必死になってダンゴ虫を探している。
運動神経の良いまりさ種とちぇん種はあっという間にダンゴ虫を見つけては、先生に見せにやってくる。
続いてやや鈍いれいむ種と都会派意識のせいか汚れるのを嫌がるありす種がちらほら成果の報告にやってきた。
が、非常に体の弱いぱちゅりー種は途中で力尽きてしまい、先生の傍で休んでいた。
今のところダンゴ虫を捕まえたぱちゅりー種は1匹もいない。
「どうしてだれもつかまえられないの、わからないよー」
「む、むぎゅぅ・・・だんごむしさんをみつけるまでにつかれちゃうのぉ・・・」
「だんごむしさんがはやくておいつけないよぉ・・・」
「だったらおともだちにきょうりょくしてもらえばいいんだよー」
「「むきゅ!?」」
その発想はなかったわといわんばかりに目を見開いたぱちゅりー達は早速友達に声をかけてダンゴ虫狩りに再出発した。
そして、友達の協力のによってあっという間にダンゴ虫を捕まえてみせた。
それどころか、ぱちゅりーがダンゴ虫のいそうな場所を教え、あらかじめ逃げ道を塞ぐことで他の子ゆっくりも効率よくダンゴ虫を集めることが出来た。
「ゆゆっ!せんせー!いっぱいとれたよ!」
「「「ゆっくちいっぱいあつめたよ!」」」
「むきゅ~・・・みんなのおかげでむしさんをとれたわ!」
「ゆっくりありがと~」
「まりさもぱちゅりーのおかげでいっぱいとれたんだぜ!」
それからも先生の指導を受けながらダンゴ虫を集めた子ども達は達成感に包まれながら満足げな笑みを浮かべている。
予想以上の成果を上げた子ども達の笑顔を見守るちぇん先生もまた満足げな笑みを浮かべ、彼女達の話しかけた。
「おうちにかえってもむしさんをみつけたらちゃんとつかまえるんだよ!」
「「「「ゆっくちがんばるよ!」」」」
「にんげんさんはむしさんがきらいだからむしさんをつかまえてあげたらよろこぶよー!」
「「「「ゆゆっ!よろこぶの?ごほうびもらえるの!?」」」」
「ごほうびじゃないよー!みつぎものだよー!」
「「「「みつぎものぉ?」」」」
「ごほうびよりずっとゆっくりできるものだよー!」
「「「「「ゆゆっ!ごほーびーほしいよ!」」」」」
「にんげんさんがわすれないようにちゃんといってあげるんだよー!」
「「「「「ゆゆっ!ゆっくりりかいしたよ!」」」」」
そう言って帰宅後にご褒美を沢山貰う自分の姿を想像して嬉しそうに跳ねる子ども達はきっと今の言葉を忘れないだろう。
教えるべきことは教えた。しかし終業のベルまでまだ結構な時間があり、流石に今終るわけには行かない。
そこで、ちぇん先生は子ども達にこんな提案をした。
「みんなー、おにごっこをするよー!せんせーがおにだよー!」
「「「「「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」」」」」
子ども達は返事をすると元気良く運動場に散らばって行く。
終業のベルが鳴るまで、子ゆっくりとちぇん先生は時間を忘れて駆け回った。
それから昼食を食べ、遊び、お菓子を食べ、お昼寝し、お菓子を食べ、遊び、夕食を食べ、遊び、お菓子を食べてから眠りについた。
7日目はゆかりん校長のおうちを確保と防衛の練習の日。
「きょうはゆっかりんがとくべつにせんせいをしてあげるわ!」
「「「「「ゆっくちちていってね!」」」」
「ゆっくりしていってね!」
「きょうはゆっかりんがとくべつにおうちをじゅんびするほうほうをおしえてあげるわ!」
「「「ゆぅ?おうちならあるよ?」」」
「それはまだにんげんさんたちのおうちよ!ゆっくりしてないにんげんのおうちじゃゆっくりできないわ!」
「「「「「ゆーっ!ゆっくちできないのはいやだよ!?」」」」」
「だったらゆっかりんのおしえをちゃんときいてね!」
「「「「「「「ゆっくちがんばるよ!」」」」」」」
元気に飛び跳ねながら返事をする子ども達の様子に満足したゆっかりんはおもむろに近くにあった木の棒を咥えた。
そして、その場でくるりと円を描くように這いずって移動し、棒で運動場に小さな円を描いた。
「みんなもえんをかいてね!」
「「「「「「「ゆっくちかくよ!」」」」」」」
ゆっかりん校長の指示に従って小さな円を描く子ども達。
皆がんばっているものの、その円はいびつで四角に近い形になっているものまであった。
が、重要なのはサークルを描くことなので、ゆっかりんは皆がサークルを描き終えるのを待った。
「「「「「「「ゆっくちかいたよ!」」」」」」」
「それじゃあ、みんなえんのなかにはいってね!」
「「「「「「「ゆっくちはいったよ!」」」」」」」
「それじゃあ、ゆっかりんのまねをしてね!」
ゆっかりんは軽く深呼吸をしてから、元気良く大声を出した。
それに倣って子ども達も深呼吸をしてから、元気良く大声を出す。
「ゆっくりしていってね!ここはゆっかりんのおうちよ!ゆっかりんがみつけたおうちだよ!」
「「「ゆっくちしていってね!ここはれいむのおうちだよ!れいむがみつけたおうちだよ!」」」
「「「ゆっくちしていってね!ここはまりさのおうちだぜ!まりさがみtけたおうちだぜ!」」」
「「ゆっくちしていってね!ここはありすのとかいはなおうちよ!ありすがみつけたおうちよ!」」
「ゆっくちしていってね!ここはぱちゅりーのとしょかんよ!ぱちゅりーがみつけたとしょかんよ!」
「ゆっくちしていってね!ここはちぇんのおうちだよー!ちぇんがみつけたおうちだよー!」
「ちーんっぽ!!」
更に深呼吸をしたゆっかりんは再び大声で叫ぶ。
そして、子ども達もゆっかりんに倣って元気良く叫んだ。
「ゆっくりしたかったらおかしをもってきてね!ゆっくりできないおにーさんはゆっくりでていってね!」
「「「ゆっくちしたかったらおかちをもってきてね!ゆっくちできないおにーさんはゆっくちでてってね!」」」
「「「ゆっくちちたかったらおかちをもってくうんだぜ!ゆっくちできないおにーさんはゆっくちでてってね!」」」
「「ゆっくちちたかったらとかいはなおかちをもってきてね!ゆっくちできないいなかもののおにーさんはゆっくちでてってね!」」
「ゆっくちちたいならごほんをもってきて!ゆっくちできないおにーさんはとしょかんからでてってね!」
「ゆっくちしたいならおかちをもってきてねー!ゆっくちできないおにーさんはでてってねー!」
「ちーんっぽ!ちんぽーっ!」
もう一度、ゆっかりんは深呼吸をしてから大声を上げてから空気を吸って膨らむ。
子ども達もそれに合わせて大声を上げてから空気をふって膨らんだ。
「でていかないとゆっかりんおこるわよ!ぷんぷん!」
「「「でていかないとれいむおこるよ!ぷんぷん!」」」
「「「でていかないとまりさおこるぜ!ぷんぷん!」」」
「「でていかないとありすおこるわよ!ぷくぅ!」」
「「でていかないとぱちゅりーおこるわよ!ぷく・・・ゲフゲフ!?」」
「でていかないとおこるよー!ぷくぅ~!」
「ちーんっぽー!ちんちん!」
止めとばかりにすぅ~っと息を吸い込むと最後の言葉を口にした。
勿論、子ども達も彼女に続く。
「ゆっくりできるならおにーさんをおうちにおいてあげるわ!だからゆっくりしないでおかしをもってきてね!」
「「「ゆっくちできるならおにーさんをおうちにおいてあげるよ!だからゆっくちちないでおかちをもってきてね!」」」
「「「ゆっくちできるならおうちにおいてあげるぜ!だからゆっくちちないでおかぢをもってきてね!」」」
「「ゆっくちできるならおにーさんをとかいはなおうちにすませてあげるわ!だからゆっくちちないでおかちをもってきてね!」」
「「ゆっくちできるならおにーさんもとしょかんにいてもいいわ!だからゆっくちちないでごほんをもってきてね!」」
「ゆっくちできるんだねー!ならおかちをもってきてねー!」
「ちーんっぽ!ちっーんぽ!」
激しい授業だったが、やり遂げた・・・そんな満足感に浸りながら、ゆっかりんは微笑を浮かべた。
子ども達も厳しい授業に耐え切ったことで自信に満ち溢れた力強い笑みを浮かべている。
呼吸を整えたゆっかりんはそんな彼女達に優しく語りかけた。
「がっこうはきょうでおわりだけど、ここでまなんだことをいかしてゆっくりしてね!」
「「「「「「「「「ゆっくりがんばるよ!」」」」」」」」
こうして子ども達の学校生活は無事終わりを迎え、子ども達は親や飼い主に連れられて家路に着く。
1週間を共に過ごした先生たちは少し寂しそうに、しかしそれ以上に嬉しそうな笑みを浮かべて子ども達を見送っていた。
最終更新:2008年10月28日 16:46