ある日、俺はゆっくりを放し飼いにしている庭で奇妙なゆっくりを見つけた。
「ゆっくりちからくらべしようね!そぉーれゆっくり!ゆっくり!」
そのゆっくりは額に角が生えていた。他のゆっくりを追いかけまわしている。
「ゆゆ!もっとゆっくりしてね!それじゃゆっくりできないよ!」
「なにいってるの!ちからくらべ!ちからくらべしよう!」
逃げ回るれいむに素早い動きで追いつき、激しくすーりすーりしようとする。
すりすりというよりはずりずりという感じだ。
「ゆぶっ!もっと……ゆっくり……」
「れいむはよわいね!ほらもっとゆっくりがんばってね!!」
「もうやめでええええ!!!」
「それそれ!ゆっくりゆっくりゆっくりぃぃぃ!!!」
何この新種。
「ゆぎゅぎゅぎゅぎゅぅぅぅぅ!!!」
「はーい、そこまでー」
俺は阿鼻叫喚のるつぼと化した庭へと踏み入った。
新種は今まで絡んでいたれいむを放り出しこちらを振り向く。
「ゆっ!ほねのありそうなにんげんがきたよ!ゆうぎとちからくらべしようね!」
新種は俺の足元へ跳ねてくると、足に対して攻撃してきた。
「ゆっくりゆっくりゆっくりぃぃぃ!!!」
「………」
やはり所詮はゆっくり。口で言うほどの力はないのだった。
「ていっ」
足を軽く振っただけで「ゆべふっ!!」と吹き飛ぶ新種。
「なかなかやるね!おもしろくなってきたよ!ゆっくりぃぃぃ!!!」
再度飛び掛ってくる。
「なんつうか……暑苦しい奴だな……」
* * * *
「ゆうぎのなまえはゆうぎだよ!ゆっくりちからくらべするよ!」
さっきからずっとこれだ…庭のゆっくり達はおびえて物陰に隠れてしまっている。
「おにいさん!そいつをゆっくりおいだしてね!」
「ゆっくりできないよ!」
「ゆっくりひとのはなしをきいてね!!」
それはお前らもだけどな。
「まあまあ、そんな事いわずに仲良くしてあげなさいよ」
俺は飛び掛ってきたゆうぎを手で掴むと、物陰で口を尖らせるゆっくりどもの方へ投げる。
「しょうぶ!しょうぶ!ゆっくりゆっくりゆっくりぃぃぃ!!」
「ゆあああんん!!!」
半刻ほども暴れた後、ようやくゆうぎは沈静化した。
「ゆゆゆゆゆ……」
「どぼちてゆっくりざぜてくれないのぉぉぉ……」
あたりは死屍累々たる有様だ。
「いいしょうぶして、すっきりー!!」
そりゃあお前はそうだろうがね。
「まずは、ゆうぎの鼻っ柱を折ってやることが第一と考えました」
誰に説明してるんだ?俺…
ともかく、ゆっくりれみりゃを檻から出し、ゆうぎと対面させてみた。
「うー☆めずらしいゆっくりだどぅ~♪たっべちゃうどぅ~♪」
ぎゃお~☆と威嚇するれみりゃ。しかし、相手の反応はいつもと違うのだった。
「ゆゆ!あいてにとってふそくはないよ!わくわくしてきたよ!!
ゆっくりぃぃぃぃ!!!!」
天敵であるはずの、自分より何倍も大きい体付きのれみりゃへ突進するゆうぎ。
「あう~?おちびちゃんのぶんざいでぐれいとなおぜうさまにたてつくなんておろかだっどぅぅ~☆
おもいしらせて……うぁ?」
あ、角が刺さった。
「う゛あ゛~!!いだいどぅ~!!」
「そぉれゆっくり!ゆっくり!ゆっくりゆっくりゆっくりぃぃぃ!!」
れみりゃはじたばたと逃げ惑う。
「い゛だい゛の゛やぁだどぅぅーー!!」
実際の痛みはそれほどでもないのだろうが、想定外の反攻に恐慌を起こし、
まるでふらんにいじめられている時のように縮こまってしまうれみりゃ。逆にゆうぎの方は気迫充分だ。
「おっきいくせにだらしないよ!もっとゆっくりちからくらべしようね!!」
「や゛へ゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛~!!」
勝負はあっけなく決した。
「う゛う゛う゛…」
「ゆうぎのかちだね!!」
「つ゛の゛つ゛の゛こ゛あ゛い゛どぅ゛……」
通常種に続いてれみりゃまでも心的外傷を負ってしまったらしい。
知り合いにはゆふらん持ちもいるが、この調子ではうっかり勝ちかねない。対面させるのはやめておこう。
「うーむ、与えられた特権的地位に安住するだけではいかんということさなぁ…」
憐れを誘うれみりゃの姿を見て、俺は無意味にそう思ったのだった。
それからどうなったのかというと。
「しょうぶ!しょうぶ!」
ゆうぎはそのまま家に定着した。
「やめてね!!ゆっくりできないよ!!」
大抵は一方的に勝負を持ちかけては周囲のゆっくりを困らせているが、
俺が相手をしてやって程よく勝負欲を発散したあとでなら、他のゆっくりとゆっくりすることもある。
俺は今まで隔離していたれみりゃも庭に放つことにした。
ゆうぎは俺に次ぐ実力者としてれみりゃを認識しているため、好んで勝負をもちかける。
そのため他のゆっくりの被害軽減に役立つのだ。
「ゆゆっ!れみりゃだ!!れみりゃしょうぶだよ!!」
「おぜうさまはいないいないだどぅぅぅ~!!」
頭をかかえて丸まり、いないふりをするれみりゃだがそんなことをしても無駄だ。
「ゆっくり!ゆっくり!」
なすすべもなくゆうぎの猛攻にさらされるれみりゃ。
「あ゛う゛ぅ゛~!!!」
「れ゛い゛む゛!!ま゛り゛さ゛ぁ゛!!た゛す゛け゛て゛ほ゛し゛い゛ん゛だどぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!」
通常種とれみりゃの間には、反ゆうぎ同盟とでも呼ぶべき協調体制が生まれていた。
「れいむのかわりにゆっくりあいてしてあげてね!!」
「まりさよりつよくておおきいれみりゃならだいじょうぶなのぜ!!
めいしょうぶをきたいしてるのぜ!!」
この程度のものだが。っていうかまりさ煽ってんじゃねえ。
「そうだどぅ!とんでにげるっどぅ~!!れみりゃあたまいいどぅ~♪」
おお、よく気づいたぞれみりゃ。かれこれ三日も前から気づくのに期待してたんだが。
「ゆゆっ!!にげるとはひきょうだよ!!ゆっくりおりてきてね!!」
しかし心配はいらない。れみりゃを放すにあたり、敷地を覆うように網を張ってある。
いつまでも逃げ続けることはかなわないのだ。
いくらもしないうちに滞空能力の限界を迎えるれみりゃ。
「う゛ぁぁ~!う゛ぁぁ~!つかれたどぅぅぅぅ~!!」
「はやくおりてきてしょうぶしようね!!ゆっくりまってるよ!!」
泣き叫びながら懸命に翼を動かすれみりゃ。ヒャァ!たまんねぇ!これが見たくて三日も仕事休んだ甲斐があったぜ!
「や゛だどぅ!や゛た゛どぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!」
だんだん高度が落ちてくる…あ、落ちた。すかさず突進するゆうぎ。
「もうやだどぅぅぅぅーーー!!!たずげでじゃぐやぁぁ~!!!!!」
「ゆっくりぃぃぃぃぃ!!!!!」
ゆうぎの勝ち鬨が、庭に響いたのだった。
おしまい。
□ ■ □ ■
このお兄さんは虐待にも飽きてしまった”観察”お兄さんです。
あまり自分では手を下さず、勝手に面白行動を取るゆっくりを眺めて楽しむ的な。
俺も庭にゆっくり飼って隠棲したいよ…
読了ありがとうございました。
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最終更新:2008年10月28日 16:47