小悪魔×ゆっくり系6 パティシエールな小悪魔2

  • この物語は、幻想郷の日常を淡々と描写したものです。過度な期待はしないでください。
  • 原作キャラ崩壊、独自設定、パロディーなどなんでもあり。
  • 良いゆっくりは食べられたゆっくりだけだ。
  • 以上に留意した上でどうぞ。





          パティシエールな小悪魔2





幻想郷の霧の湖に浮かぶ紅魔館。
そのキッチンに居るのは、メイド長の十六夜咲夜と小悪魔と呼ばれる少女だ。
今日も紅魔館は平和であり、昼食の片づけが終わってすぐ、ちょっと時間の空いた小悪魔は、レミリアお嬢様の
ためのお菓子を作る咲夜さんの手伝いをしていた。
咲夜さんのお菓子作りを見学して、参考にしたいという意図もあったのだ。
今回作るのも、当然のようにカスタードプディングらしい。

「小悪魔はカラメル作りをお願いね」

「はい」

咲夜さんは小悪魔に指示を出す。
咲夜さん自身は、里の加工所から取り寄せた粉末状のゼラチンを、水と一緒に鍋に入れ、コンロで暖めている。
小悪魔もその隣に立つと、鍋に水と砂糖を入れ、かき混ぜながらコンロで暖める。
温まるにつれ、砂糖水から水飴に変化し、更に茶色いカラメルになると芳ばしい香りを放つようになる。

「うーん、いい香りですね」

そんな事を言う小悪魔に、咲夜さんは目でOKの合図を送る。
小悪魔は火から鍋を下ろすと、テーブルに用意してある金属製のカップの中に、カラメルを少量ずつ入れた。
その数15個。
レミリアお嬢様の分にしてはずいぶん多いが、大部分は咲夜さんが部屋で飼っている“ゆっくりゃザウルス”と
中庭の“ゆっくりれみりゃ”と呼ばれる“おぜうさま”達の分だろう。
どちらがメインだか分からないな、と、小悪魔はクスリと笑ってしまうが、幸い咲夜さんには気付かれなかった
ようだ。

「♪~」

咲夜さんは、大きなボウルに入れたこれも里の加工所製のカスタードクリームに、鍋の中の溶けたゼラチンを
注ぎ、鼻歌を歌いながら混ぜ合わせている。
そして、ゼラチン入りのカスタードクリームをお玉で掬って、先ほどのカップに入れてゆく。
小悪魔は竹串を使って、カップの中に浮いてきた気泡をぷちぷちと潰していった。
これは出来上がった後の見栄えに影響するのだ。
暫くは二人で気泡潰しを行った。





「後は冷蔵庫で冷やすだけね」

咲夜さんはそう言うと、金属製のカップをトレーに載せたまま冷蔵庫に仕舞う。
冷蔵庫の最上段には、やはり寝ているチルノフがチラッと見えた。
チルノフはゆっくりの亜種だが、体から冷気を放出するため、冷蔵庫の冷却のためによく使われている。
たまに冷蔵庫の中の食材を餌として与えれば、よく働いてくれる。実際は寝ているだけだが。

「流石、手際が良いですね」

感心する小悪魔に、咲夜さんは言った。

「まあ、毎日のように作ってるからかしらね。
お嬢様と違って、あの子達は食欲旺盛だから大変よ?」

あの子達というのは、当然ゆっくりゃの事だろう。
それについて語るときの咲夜さんはニコニコとして、本当に嬉しそうだ。

そうなのだ、以前ゆっくりれみりゃなる不思議生物が現れた当初は色々あったのだが、紆余曲折の末、現在は
咲夜さんが部屋で飼えるのは一匹だけ、後は中庭で放し飼いが数匹だけというお嬢様が決めたルールがある。
紅魔館で飼っているゆっくりれみりゃは、勝手な外出が禁止され、人里に迷惑をかけたり、変なものを食べたり
しないように管理されていた。
それは、レミリアお嬢様が気まぐれで肉まんを所望されたりするからであり、中庭でれみりゃが増えすぎた場合
には、美鈴さんが適当に間引いて里の加工所に卸したりするからでもある。
そのおかげで、紅魔館産のゆっくりれみりゃは、希少な上に美味であると人里でも評判であった。
ちょっと話が逸れたが、とにかく咲夜さんは現在、中庭で突然変異として生まれた、緑色の怪獣のきぐるみを
着た様に見える、ゆっくりゃザウルスという珍種に御執心らしい。

片付け終わった小悪魔と咲夜さんは、それぞれの仕事に戻る。





加工所製のカスタードクリームは品質も安定しているので、お菓子作りも簡単に失敗無く出来るようになった。
咲夜さんはメイド長として様々な仕事をこなす多忙の身だ。
お菓子作りだけにそんなに時間は割けないのだろう。

確かに、ゼラチンを混ぜてから冷やして固める製法は、滑らかな舌触りと高い弾力を両立できる。
だが、ゼリーに似てつるっとしたその食感は、とろけるようなクリーム本来の深い味わいとはちょっと違う。
そもそもプディングとは、イングランド地方伝統の、蒸したり焼き固めて作る料理の総称である。
その中身はカスタードに限らず、挽肉や野菜に塩コショウを加えて焼き固めた料理も、プディングと呼ばれる。
そういう意味では、咲夜さんの作るプリンは、本来のカスタードプディングとは別の料理といって良いだろう。

そこで小悪魔は、クリーム・ブリュレに挑戦しようと考えた。
クリーム・ブリュレとは、カスタードクリームを焼き固めたフランス菓子で、要するに焼きプリンの一種だ。
加熱によってカスタードクリーム内の蛋白質を凝固させ、適度に水分を飛ばす。
とろけるように柔らかく、コクのある、本格的な焼きカスタード・プディングを作ってみたくなったのだ。





翌日、メイド長から貰ったエプロンを身に着けると、赤いロングヘアーを後ろでまとめ、リボンで縛る。
ちょっとポニーテールっぽく見えるいでたちで、小悪魔の気分はパティシエールモードに切り替わる。

小悪魔は料理に対してポリシーがある。
それは、なるべく素材本来の風味を生かすこと。
そのためには、新鮮な素材を用意する事と、素材との対話を通じて、その持ち味を見極める事が重要だ。
素材との真剣勝負、それによって調理方法も工夫する必要がある。
料理は半分趣味とはいえ、いや、趣味だからこそ、なるべく妥協せず、丁寧な作業をする事に拘りがあるのだ。

小悪魔は、里の加工所から仕入れた箱から、ゆっくりありすを取り出すと、深めのトレーに移した。
大きさは注文どおり、直径10cm位、数は6個だ。
強制的にゆっくりさせられる箱から開放された最初のありすは、暫くすると目を覚ました。

「ゆっくりしていってね!」

その声で、他のありす達も目を覚ます。

「ゆゆっ!ゆっくりー!」
「とかいはー!」
「ゆっくりしているわ!」
「ゆぅ…ゆぅ…」

まだ寝ぼけているのも居るみたいだが、小悪魔はぱんぱんと手を叩いて言った。

「はーい、注目!
ようこそ紅魔館へ。これから皆さんには、ゆっくり美味しいお菓子になってもらいまーす!
ちょっと大変かもしれませんけど、頑張ってくださいね」

「なにいってるの?おかしはなるものじゃなくておねえさんがもってくるものよ!」
「きゅうじがかりはとかいはのありすにはやくおかしをもってきてね!」
「おかしをもってくればゆっくりしてあげてもよくってよ!」
「はやくここからだしてね!ゆっくりできないよ!」
「さっさとゆっくりさせてね!」

てんでに自分勝手な事を言い始めるありす。こちらの言う事は半分も理解していないようだ。
まだ加工所の飼育室に居るつもりなのだろう。
加工所生まれのありす達は、所定の大きさになるまで、職員によって手塩にかけられ愛情一杯で育てられる。
思うが侭ゆっくりとしていたありす達は、まさか自分達が食用として育てられていたとは思ってもいない。
牧場から出荷される家畜は、本能的に自分の運命を察して抵抗するというが、この頭の中まで全身クリームの
饅頭達には、そんな危機感は皆無らしい。
まあ、勘違いしたままならそれでも良いか、と小悪魔は考え直す。
いきなりゆっくりさせなくするのではなく、他の方法を試そうと思ったのだ。

「では皆さん、長旅でお疲れでしょうから、お菓子の前に、ゆっくりサウナに入りませんか?」

にっこり笑って提案する小悪魔。

「さうな?」

対してありす達は、げげんな顔で首、というか体全体を傾げる。

「あれ? 皆さん都会派なのに、サウナ風呂をご存知無いんですか?
とってもゆっくりしてすっきり出来るし、美容にも良いんですよ?」

「もっ、もちろんしってるわ!」
「さうなぶろはとかいはのありすにぴったりよね!」
「うつくしいありすがさらにうつくしくなっちゃうわ!」
「さすがとかいはのおねえさん、ゆっくりすっきりさせてね!」
「きがきくわね、ゆっくりはやくさうなにいれてね!」

ゆっくりすっきりという単語に食いつくありす。小悪魔はとても分かりやすい反応に思わず苦笑してしまう。
プリンは通常、容器を半分お湯につけて加熱する。いわゆる湯煎で作るのだが、ゆっくりの場合はそれでは
皮が溶けてしまう。そこで小悪魔は、蒸して調理しようと考えた。茶碗蒸しと同じ要領である。

「では皆さん、サウナにご案内しますね」

小悪魔はそう言うと、蒸し器のかごの中にありすを入れていく。
直径30cmほどの蒸しかごは、6個のありすで一杯になった。

「ちょっときついわね」
「とかいてきじゃないわ」
「ちょっと、おさないでよね!」
「ゆっくりしていってよ!」

文句を言い始めるありす達。だが小悪魔はあくまでスマイルだ。

「これは最新式のミストサウナなんですよ。
蒸気の力で汗をかいて、皆さんゆっくりすっきり出来ますよ?」

そう言いながら、蒸し器をコンロの上にセットし、蓋をかぶせた。
蒸し器の中からは、ちょっとくぐもった声が聞こえてくる。

「ゆゆっ、すのなかみたいでおちつくわ!」
「ここでゆっくりすればいいのね?」
「とかいははさいしんのさうなですっきりするのよ!」
「あったかくてきもちいい!」
「んほぉ!」

最新の都会派体験に、ちょっと興奮気味のありすたち。
小悪魔は、「頑張ってくださいね」と小声で言いながら、コンロの下の釜に薪をくべて火の勢いを増してゆく。
前回の失敗から、ありすへ与えるストレスは、なるべくあっさり目にしようと考えていた。
クリーム・ブリュレは容器に入れたまま食べるのが前提なので、柔らかめに、つまり短めに火を通せばすむが、
表面だけが硬くならないよう、中まで火が通るように、加熱時間と温度には、細心の注意を払う必要がある。

「ゆぅーっ、あついわね」
「でもおはだがしっとりしてきたようなきがするわ」
「んほぉぉぉ、きもちいいぃぃ」





暫くすると、シュウシュウと音を立てて蒸気が上がってくる。
小悪魔は水蒸気の量を一定に保つように火加減を調整しながら、中の声に耳を傾ける。

「あづい!あづい!」
「もういい!だして!」
「おねえさん!もうじゅうぶんよ!」

「・・・」

シュウシュウ…





「もうばべでず!あぢぢぢぢ!!」
「おでがいでづ!だじでぐだざいぃぃ!!」
「おでえざん、いじばるじないでぇぇ!!」

「・・」

シュウシュウ…





「じぬ!じんでじばぶぅぅぅぅ!!!」
「だぜ!ごごがらだぜぇぇぇ!!!」
「じね!いぢばるずるばばあはじねぇぇぇ!!!」

「・」

シュウシュウ…





がたがたと騒がしかったが、蒸し器の中では身動きするスペースは無い。
そのうち、騒いでいたありす達が、だんだんと静かになってきた。

「なんだが ゆ っ ぐ り じでぎだ…」

「 ゆ っ ぐ り じ で い っ で ね … 」

「 ゆ っ ぐ り … … 」

「 ゆ っ … 」

シュウシュウ…

ありす達がゆっくりしてきたのは、体内のカスタードクリームが凝固してきた証拠である。
それによって身動きはおろか、喋ることさえ困難になっているのだ。

「そろそろですね」

その声に耳を傾けていた小悪魔は、そのゆっくり具合を見極めると、蒸し器を火から下ろした。
蓋を開けると、真っ赤に蒸しあがったありす達が、ぶるぶると痙攣しているのが見える。





暫く冷ました後、小悪魔は一個のありすを手に取ると、ナイフで頭頂部をざっくりと水平に切り落とした。

「 ゆ゛べ ぇ ぇ ぇ ぇ ! 」

白目を剥き、ゆっくりとした悲鳴をあげるありす。
口は勿論、全身が思うように動かない状態では、ぶるぶると痙攣するしかないようだ。
切り取られた頭頂部の穴からは、いつものクリーム状ではなく、ナイフにくっ付かずに綺麗に平らな断面に
なったカスタード・プディングが見える。
小悪魔は本体の方ではなく、切り離した頭頂部のプディングをスプーンで掬うと味見をしてみる。

「美味しい!」

小悪魔は思わず声を上げる。
硬過ぎず軟らか過ぎず、舌の上でとろけるような、クリームが凝縮された濃厚な味わいだ。
蒸し焼きの加減は、大体狙いどおりの硬さといった所だ。だが、まだ完成ではない。
小悪魔は手早く他の5個の頭頂部も切り取ると、その穴をちょっと引っ張り、容器のふちのように整形する。
6つのカップ入りプリンが出来たが、そのカップはどれもが苦痛の表情を貼り付かせている
そこからかすかに聞こえてくるのは、苦悶と怨嗟の声。

「い  だ  ぃ  ぃ  ぃ  ぃ  ぃ  」

「 ゆ゛っ  ゆ゛っ  ゆ゛っ  ゆ゛っ  ゆ゛っ 」

「う゛  あ゛  あ゛  あ゛  あ゛  あ゛  あ゛  あ゛」

「ど  ぼ  じ  で  ご  ん  な  ご  ど  ず  る  の  お  お  お  お  」

それには応じず、小悪魔は棚からリキュールのビンを取り出すと、ありすの頭頂部に薄く注いでいく。
アルコール度数と糖度が非常に高い、特製の料理酒だ。
それから小悪魔は、ありす達に語りかけるようにゆっくりと喋り始めた。

「どうして…ですか?
最初から、あなた方には美味しいお菓子になってもらいます、と言ったじゃないですか。
あなた達は生まれたときから、こうなる運命だったのですよ。
加工所で生まれたあなた達は、職員の皆さんの手によって、蝶よ花よと育てられました。
それは、こうして美味しいお菓子となり、食べてくれる人へと幸せを運ぶため。
そうです、あなた達の幸せな記憶は、食べてくれる人たちへと引き継がれ、その人たちを幸せにするのです。
さあ、今こそ思い出して下さい! あなた達は、幸せになってくれる人たちのため、食べられることこそが、
至上の幸せなんです!
あなた達は幸せを運ぶ使者、幸福と愛のキューピットなんですよ!
安心してください! あなた達は、私が責任を持って最高に美味しいお菓子にしてみせます!
そして、私の愛する人たちと、美味しく頂くことを保証します!
あなた達は生まれ変わって、全ての人たちを幸せに出来るんですよ!」

最初は告げられた真実に驚愕していたありす達だが、段々テンションが上がってきて感極まったのか、目尻に
涙を浮かべながら熱く語る小悪魔の姿に、次第に体が動かない苦痛も、頭を切り取られた痛みも忘れ、感動で
涙を流し始めた。
そして、忘れていた古の、封印されていた記憶を思い出してゆく。
そうなのだ。彼女達はカスタードクリーム饅頭。それは、人間に食べられることこそが至上の喜び。
涙を流しながら、ありすたちは原初の言葉を思い出す。

『 さ あ 、 お た べ な さ い ! 』

実際のところそれは、ありす達がストレスで甘くなり過ぎないための、小悪魔の作戦だったかもしれない。
頭にたらされたリキュールによって、酔った上で麻痺した感覚の見せた幻影だったかもしれない。
だが、そんなことはもうどうでも良くなっていた。
ありす達は、この世に生まれてきた意味を見つけたのだ。それは、悟りの境地と言ってよかった。
小悪魔の主、パチュリー・ノーレッジがこの光景を、小悪魔の説教によって解脱する饅頭達を見たならば、
思わず紅茶を噴き出していたかもしれないが、それでもいい、信じるものは救われるのだ。

小悪魔はそのありす達の様子を見ると、細い薪に火をつけ、ありすの上にかざした。
揮発したアルコールに引火し、ありすの頭に青白い炎が上がる。
6頭のありすの頭に火を灯し終えると、小悪魔はその美しい光景にちょっと見とれてしまった。
それはまるで、キャンドルライトを掲げた聖歌隊の行進のようだ。

『 ん ほ お お お お お お お ! ! ! 』

“心頭滅却すれば、火もまた涼し”という諺の通り、トランス状態に陥っているありす達は、苦痛と快感が
入り混じった感覚に、訳も分からず喜びの涙を流す。それはまさにヘブン状態!! だった。
じゅうじゅうと音がするありすの頭頂部は、リキュールの糖分と、表面のカスタードクリームが加熱され、
茶褐色のカラメルへと変化してゆく。
甘く、ちょっぴりほろ苦い、そんな芳ばしい香りが漂ってきたところで火を消すと、後には茶色くカリカリの
カラメルが乗った、ゆっくりありすのクリーム・ブリュレが完成した。

「上手に焼けましたー!」

にこにこと天使のような笑みを浮かべて喜ぶ小悪魔の歓声は、ありす達が最後に聞いた祝福の言葉だった。
幸せそうに自分を食べる人間達の暖かい団欒を夢見ながら、永遠の眠りについたその顔は、どれも達成感に溢れ
とても誇らしげだった。
小悪魔は誰にともなくつぶやく。





「最後は、どうか幸せな記憶を」










by 神父

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最終更新:2008年10月29日 08:01
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