ゆっくりいじめ系1328 日常、時々、非日常 前編_01

注意




午前二時
全ての家と商店の灯りは消え、街灯の明るさだけが残った
町は静寂に包まれ、すべてのモノが眠りについていた

時間が止まってしまったかのようにも思えるその光景の中を彼は一人歩いていた
自分の足音だけがやけに大きく聞こえる

ふと物音が聞こえて、視線をその方にやるとゆっくりまりさがごみ箱をひっくり返して中身を漁っていた
何かを咥えてそのまま建物と建物の間の隙間にもぐりこんで行った
覗き込むとそこでゆっくりまりさの個体が複数いた、大きさは大中小様々、どうやら家族のようだ
ごみを漁っていたまりさ以外は全て眠っていた
「ちびちゃんたち。これであしたのあさは、ゆっくりできるよ」
親まりさは眠る子供たちに笑いかけていた


ゆっくりは今ではすっかり町に溶け込んでいた
良い意味でも悪い意味でも


季節はまだ秋口だが、この時間帯は肌寒いため彼は長袖のシャツの上からジャンパーを羽織っていた
自動販売機から温かいコーヒーを買い、本来はバス停の待合所として使われる椅子に腰掛ける
温かさで眠くならないように無糖を選んだ
真上の街灯が彼を照らしていた

「なんだボウズぅ、おめぇこんな時間に・・・・家出かぁ?」

コーヒーを飲んでいる途中背後から突然声をかけられたため、驚き彼は咽た
気管が鎮まりようやく声がした方を向くと小汚い格好の老人がいた
髪はボサボサで白髪まみれ、髭は伸びに伸びて服もみすぼらしい。どうみてもホームレスのいでたちだった
「すまねぇなぁ。別に驚かせようとしたわけじゃぁないんだが・・・」
申し訳無さそうに後頭部をがりがりと掻いた、掻き終わるとまた間延びした声で訊いてきた
「おめぇは家出少年かぁ?」
「いえ、違います」
少年は正直に答えた
「まあ、そぉだろおなぁ・・・」
彼の返事に老人はどこか満足そうな顔をする
「おめぇもアレだろ? 学校だの親だの、社会のシガラミが嫌んなった口だろ? この時間にぶらついてるガキはみんなぁそうだ」
「・・・」
図星だった
彼は家と塾と学校を行き来する毎日に嫌気が差していた
だから週に一回、家族に黙ってこっそりと家を抜け出して夜の町を徘徊していた
『普段で優等生な自分は実は裏でこんなことをしています』という両親へのささやかな反抗のつもりで始めたこれは、何時しか彼にとって密かな楽しみになっていた
「別におめぇを悪いだなんて思わねぇよ、その年のガキはみんなぁそうだ。“非日常”っつぅヤツを求めてる。俺だってそうだった」
老人は一枚の紙切れと小さな日記帳をポケットから取り出した
紙切れには住所と地図が書かれていた
「ここに行きゃあ、今ならおめぇがお望みの“非日常”ってやつが見られるぞ」
老人がニカリと笑った、前歯が一本欠けていた
「あなた一体?」
「俺のこたぁはどうだっていいだろぉ。今はおめぇの話してんだからぁ」
上機嫌だった老人が一瞬だけ面倒くさそうな顔をする
「そもそも名乗ろうたって戸籍は御ヤクザ様に売っちまったからぁ、俺にはなぁんもねぇのよ」
言ってヒヒヒと笑うとまた一本欠けた歯並びが見えた
「戸籍? 売る?」
「ガキはまだ知らなくてぇいいんだよ、そういうこたぁ」
そう言ってふらふらと通りの向こうへ歩いていった。老人が一歩進むたびにその体が暗闇に呑まれていった



老人の姿が消えてしばらく経っても彼はまだベンチに座ったままだった
あまりにも浮世離れした出来事に、今自分は夢を見ているのではないかと混乱していた
手の中の紙切れと日記帳を握り締めると、握った感覚がはっきりと返ってきた
彼は小型のLEDライトを取り出し紙切れに光を当てた
地図の示す場所は町外れの丘にある無人の廃屋だった
あまりの不気味な風貌であるため、昼夜を問わずそこに近づこうとする者はだれもいない
【身元不明の男性が昏睡の状態で発見される】や【肝試しで入り込んだカップルが女の子のうめき声を聞いた】という噂があるなど曰く付きの場所だった
「・・・・・・・」
ここで彼の心に迷いが生じた
一人であんな所へ行くは正直心細い
それに帰るのが遅くなり家族に夜に出歩いていることがばれたらどんな罰を受けるかわからない
だから今日は止めようと思った

『今ならおめぇがお望みの“非日常”ってやつが見られるぞ』

老人の言葉が突然脳裏をかすめる
“非日常”という言葉に彼の心はなぜか惹かれた
彼は立ち上がり、家とは反対方向に足を向けた


歩きながら彼は手渡されたもう一つの方、日記帳にライトを当ててそこに書かれている文章を読み始めた



****

幼い時、虹を混ぜ合わせたらどんな色になるのか気になって試したことがある
パレットに日本における虹の色数である、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫色の絵の具を出して混ぜ合わせた
むらの無い真っ黒な色が出来上がる度に僕は歓喜していた。その色を僕は美しいと思った
理由はわからない。ただ様々なものが混ざり合い色彩が濃くなっていく様を見るのが溜まらなく好きだった

中学生に上がる頃から謎の生物(?)ゆっくりに強い興味を持っていた
ゆっくりのことが知りたくて家で何匹も飼っていた
だが別にゆっくりのことが好きだからというわけではない。ゆっくりが僕の探究心を刺激してくれる存在、ただそれだけのことだ
どういう原理で生きているのか知りたくて何匹も解剖した
親に精神鑑定を受けさせられるくらいに何十匹も(もしかしたら百匹以上いったかもしれない)

やがて科学にも興味を持ちその方面へ進んでいった

それなりの高校を出て、大学で生物学を専攻していた
ここで変わり者の教授と出会い、大学院に進んでからもずっとお世話になった
ちなみに僕以外にゆっくりに興味を持っていた者をキャンパス内で探したが居なかった

そして、研究実績が買われてゆっくりを研究する機関の一員に加わることが出来た
ゆっくりにはまだまだ謎が多い、それを解き明かしていく最前線に立つことが出来て、これほど光栄なことはないと思っていた
僕はゆっくりを社会的に有効活用することを目的とした部署に配属された
職場での働きは中々良かったと自負している。その証拠に僕はゆっくりに関連することで書いた論文はどれも高い評価を得た
全て社会の発展に貢献したものだと自信を持って言える

だが所詮は上層部から「書け」と命令されて仕事と割り切って嫌々書いたものだ、僕の望んだ研究ではない

ここまで書いておいて遅くなったが僕の研究テーマは【人工で新種のゆっくりを創る】というものだ
ゆっくりを長年研究対象として見続けた僕は何時しかそのような夢を抱くようになった。自分だけのオリジナルのゆっくりが欲しかった
しかし研究には必ず“意義”が無ければならない。“意義”とは言うなれば“見返り”だ
「この研究が成功したら何万人という人々が~~」といったものが必要になってくる
僕の研究テーマにはそれが無いと上層部に一蹴された。悔しいがその通りだった

この研究所はこれからますます発展していくだろう
優秀な研究員に高性能な装置。どれをとっても超が付く一級品だ
だが、どれだけ実績を積んでも僕にはそれを自由に使う権利は与えられないと悟った
故に研究所を辞めることを決心した
研究中に特許をいくつも獲得したため資金はあった
私は研究所を辞めるついでに、当時私に付いていた助手を引き抜いた。まだ若かったが見込みがあると感じたからだ
研究を手伝ってくれる代わりに施設を自由に使わせるという条件を提示したらあっさりと飲んだ
後に知ったことだが、彼女は私と同じ大学の出身らしくあの教授の世話にもなっていたらしい

そして遠く離れた町で廃屋を安値で買取、改装してそこを研究施設にした
これでやっと僕の望む研究が行なえる。この施設のことは教授にだけ打ち明けた

余談だが、助手の研究テーマは【ゆっくりの脳波の解明】だった
全ての生物が脳からの微細な電流で体を動かしているのと同様に、ゆっくりもあの餡子から何らかの信号が出て動いているのではないかと仮説を立てていた
その仮説は見事に的中した、その結果は私の研究にも大きな影響を与えた
彼女曰く「ゆっくりの頭に微細な電流の流れるチップを埋め込んで遠隔操作できるようにしたい」とのこと。彼女も僕や教授に負けず劣らずの変人だった



一方の僕は【人工で新種のゆっくりを創る】方法を色々と考えていた
新種を作るのは本来なら交配させるのが一番だが、ゆっくりにそれは有効ではない
例えばれいむとまりさをどれだけ交配させても「帽子を被ったれいむ」や「黒髪のまりさ」は生まれてこないからだ
よって移植による方法を試みた
ゆっくりの体は餡子と皮という至極単純なつくりをしているため、多少の無茶もまかり通った
数え切れないゆっくりを解体して、パズルの様に縫い合わせた
どれもこれも簡単に死んでしまったが、中には上手くいったものもあった
全てのパターンを試し、新しい組み合わせをどんどん発見していった
ゆっくりは地下で栽培しているため数には事欠かない

二匹を組み合わせるのが上手くいったら、今度は三匹を組み合わせることに挑戦する
三匹を組み合わせるのが上手くいったら、今度は四匹を・・・・

ゆっくり同士を混ぜ合わせると子供の頃に絵の具を混ぜ合わせて遊んでいた事を思い出す。冒頭で書いた虹の色彩の話だ
色は混ぜれば混ぜるほど濃さを増してより黒色に近づく
あの時その黒色にただ漠然とした美しさを感じていたが、今ならわかる
全てを取り込む黒色こそ僕が求めていたものなのだ
光すらも吸い取り閉じ込め、何ものにも染まらない
僕はその黒色のような究極の存在をゆっくりで作る上げてみたかった

自分の心理の根源を理解出来て研究にもさらに熱が入る
実験は最終的に七種類のゆっくりを組み合わせることに成功した
僕は大きな達成感に包まれた


しかしそれだけだった、満足感のあとは寒々しい虚しさだけが残った
振り返ればこれまで積み上げたゆっくりの死体の山が見えた
実験の過程で1000匹以上のゆっくりが犠牲になった

今更ながら自分のしたことに恐怖した

もしかしたら僕は心の病を患っているのかもしれない
多分死ななければ治らないほど重傷かもしれない

僕は逝く事に決めた。この研究に関わった全てのモノを道連れにして

彼女には悪いがこの研究所は無かったことにしてしまおう


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最終更新:2008年11月08日 07:52
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