「突然申し訳ございません、少々お時間よろしいでしょうか?」
声がしたほうを見ると
ゆっくりがいた。正確に言えばゆっくりまりさと言われる種類のゆっくりだった。
「…」
飼いゆっくりの中には知能の高いものも多く、人間と同じように挨拶できるものも少なくない。
しかしこのように流暢に言葉を話すゆっくりはいなかったはずだ。
俺は他に今の言葉を発した人間がいるのではないかと思い周囲を見渡した。
「あの、すいません。私です、今喋っているのは目の前にいるゆっくりです」
またもや目の前のまりさが話す。どうやら気のせいではなかったようだ。
「少々聞いていただきたい話があるのですが」
それから数刻後、俺とまりさは俺の部屋にいる。
「こんにちは。ゆっくりしていってくださいね!」
俺の飼いれいむが俺とまりさにお茶を持ってきた。お茶といってもインスタントなのでボタンを押すだけなのだが
それだけでもゆっくりにとってはかなり高い知能を有しなければできないことだ。とても利口で可愛い俺のれいむ…
落ち着いたところでまりさは話し始める。
まりさは自分のことを”セブン”と名乗った。セブンの話をまとめるとこうだ。
自分は人間の研究施設によって作られた”高い知能を持つゆっくり”であること。
自分の知能を悪用されることを恐れ研究所を脱走したとのことだった。
「現在、ゆっくりは完全に社会に浸透した存在となっています。
一般的にゆっくり達の知能は低いという認識があるため主要施設の周りをうろついても警戒されません。
人間達この認識を利用して開発されたのが私のように賢いゆっくりなのです。」
「知能が高いのはわかったけど所詮ゆっくりでしょ?盗聴くらいしか使い道ないんじゃないかなあ」
俺のつぶやきにセブンは答える。
「盗聴用ゆっくりは現在でも実用化されているみたいですね。ですが私は違います。」
まりさは帽子の中からおもむろに小型のパソコンとタッチペンを取り出した。
ペンを口に咥え器用にパソコンを操作する。
画面になにやら良くわからない文字の羅列やミサイルの設計図のようなものが現れる。
「これは研究所で開発を命じられた兵器の設計図です。まだ70%程度しか完成してませんが
完成すれば多くの人の命が奪われることになるでしょう。
このように私は人間を遥かに超えた知能を手に入れたのです!」
そう言って俺を見つめるセブン。なんだか急にセブンが俺を見下しているような気がしてきた。
俺の飼いれいむも最初はすぐ側で話を聞いていたが内容が理解できなかったらしく
俺の手によりそってすーりすーりしている。もちもちしたやわらかさが手に伝わる。やっぱりれいむは可愛いな。
「知能の高いゆっくりが増えれば世界は混沌としたものになったでしょう。
私はそれを防ぐため研究所を爆破し逃げることに成功しました。
しかし追っ手が迫っており一人では逃げ切ることができません。そこであなたに私をかくまって欲しいのです。」
「でもなんでセブンは研究所を爆破したんだ?そのまま研究所で働いていればゆっくりに都合のいい世界になったんじゃないのか?」
俺はふと思った疑問をセブンに問いかける。よほど研究所の人間にひどいことでもされたのだろうか?
「私が生まれたのは偶然…いや神の生み出した奇跡と呼ぶべきでしょうか。
神の奇跡は一度で十分。私以外に知能の高いゆっくりなど必要ないのです。」
要するに自分がだけが特別な存在でいたいがために他の可能性を潰したということなのだろう。
これなら復讐のための行動だったほうがまだましだ。
自分の力を悪用されたくないというのも建前で本当は人間の下につきたくないだけなんじゃないのか?
「それに研究所の人間は人間にしては知能が高いですからね。それにゆっくりを道具としか見ていない。
私の思い通りに動かすのは難しいと思ったのですよ。
その点あなたは人間としては平均的な能力のようだし。そのれいむとの関係から察するにゆっくりに対する感情も良いようだ。
どうでしょう、私をかくまっていただけませんか?危険もありますが相当の報酬は約束しますよ。」
やはりこいつは俺を、いや人間を自分より格下の存在と見ているようだ。さてどうしてくれようか…
その時俺のれいむがまりさの前に飛び出した。
「ゆゆっ!むずかしいはなしはいいかられいむといっしょにあそぼうよ」
そんなれいむをセブンは冷ややかな目…例えるなら知能に障害のある人間を見下すような視線を送った。
「すいませんが私は大切な話をしているのです。あなたと遊んでいる暇はありません。」
「そんなこといわないでれいむとあそぼーよ。れいむおうたがうたえるんだよ。ゆーゆゆー♪」
れいむは歌を歌いだした。この気まずい雰囲気を察して和ませようとしてくれたのだろう。
れいむは歌のレッスンも受けているので天使のようにきれいな歌声を奏でる。
れいむの歌を聴いたにもかかわらず、セブンは相変わらずれいむを見下した目で見つめながら俺に言った。
「こんな歌や雑用しかできないゆっくりを飼うより私をパートナーにしてみませんか?
私の頭脳と人間の手足が合わさればこの国の経済を支配することも可能ですよ。」
俺はれいむにお茶のおかわりを頼んだ。お茶を入れに別室へ移動するれいむ。
部屋かられいむが消えたのを確認して俺はセブンの体を押さえつけ逃げられないようにする。
「決めたよセブン。どうもお前とはゆっくりできないからゆっくりしてもらうことにするよ。永遠にな。」
セブンは俺の行動と台詞から交渉が失敗したことに気づいたようだ。なんとか助かろうと俺を説得しにかかる。
「私を研究所に売り渡すつもりですか?研究所の味方についてもなんのメリットもありませんよ。
場合によっては秘密を知られたことを危惧しあなた自身の安全を消しにかかるかもしれない。」
「そういうのじゃないんだよなあ。俺はお前が気に入らない、それだけだ
死にたくないのならえらそうな御託はいいから命乞いでもしてみたらどうだ?」
俺はセブン…いやこんな奴ただのまりさでいい。まりさに最後のチャンスを与えた。
「あなたの要求を呑みましょう。ですのでこちらの安全を保障してください」
これで俺の腹は決まった。もしまりさが『ごべん゛な゛ざい゛い゛い゛い゛ま゛り゛ざがわ゛る゛がっ゛だでずう゛う゛う゛う゛う゛』
とでも言って命乞いをしたらそのまま帰してあげたかもしれない。
おれはゆっくりが好きだ。それがたとえ飼いゆっくりでなく畑を荒らすゆっくりでも。
野菜が勝手に生えてくると思う無知さも、人の言うことを簡単に信じる間抜けさも。
いや、そういう知能の低さを愛しているのかもしれない。だが目の前のこいつはどうだ。
知力だけは高いがまったく可愛げがない。
俺はまりさを電子レンジに入れるとそのままスタートボタンを押した。
レンジの中で何かを叫んでいるようだったが良く聞き取れなかった。
「ゆっっ!ごしゅじんさまおまたせ!おちゃをもってきたよ!」
お茶を入れに行っていたれいむが戻ってきた。
「あれ?まりさはどこにいったの?」
「ああ、まりさは急用ができたとかで帰ったよ」
れいむは無いはずの鼻をクンクンとさせる。
「ゆ?なんだかいいにおいがするよ。おりょうりしているの?」
「ああ今焼き饅頭を作っていたんだ。でもあまりおいしくなさそうだかられいむには別のものをあげるよ
さっきスーパーでチョコレートを買ってきたんだ。一緒に食べよう。」
「ゆーっ!れいむちょこだいすき!」
チョコが嬉しいのかれいむは俺の周りをひょこひょこ飛び回る。やっぱりれいむは可愛いな。
あのまりさ、知能は高かったかもしれないがそれだけだった。
どんなに知能が高くても所詮手足の無い身のゆっくりでは生き残れない。
生き残れるのはれいむのような利口なゆっくりだろう。俺はそう思った。
ゆっくりはバカだという固定観念を覆してみたかった。でもゆっくりは所詮ゆっくりだった。
まりさは偶然の産物だし研究所ごと資料も消えたので賢いゆっくりは以後作られることは無かったそうです。
過去作
- ゆっくり転生(fuku3037.txt~fuku3039.txt)
- ゆっくりくえすと(fuku3068.txt)
- ともだち(修正)(fuku3103.txt)
- ANCO MAX(fuku3178.txt~fuku3179.txt)
最終更新:2008年11月08日 12:47